お嬢様なんて柄じゃない | ナノ さようなら、エリカちゃん。ごきげんよう、新しい人生。

クリスマスパーティーは波乱の予感。私? ボッチ最高ですよ。



 テストが全て返却されて、上位50位が載っている順位表が掲示板に張り出された。順位はいつものように幹さんが首席でその後はいつものメンバーだった…あ、今回慎悟が次席だったけど。ほんとに上杉と次席争いしてんだね。僅差だったよ。
 私はいつものように50位以内には入っていないが、順位は着実に上昇を見せている。次席の慎悟はいつもどんな勉強方法をしているんだろう。塾には通っておらず、家庭教師を頼んでるとかいうのは聞いたことあるけど…。一番すごいのは塾とか家庭教師を利用せず、授業と独学で首席維持している幹さんだけどさ。どういう頭をしてるんだろうか。わりかしマジで。

 テストが返却されたら後は冬休みを待つだけだ。私は部活に専念するけども。
 その辺りになると、女子たちの話題はクリスマスパーティ当日のドレスアップについての話題が増えた。

「エリカは何色のドレスなの?」
「シャーベットオレンジ」

 今年は参加ということで、その話題に入らざるを得ない。…皆の女子力の高さよ…。時折耳に流れてくる耳慣れない単語の数々に私は相槌を打って聞き流していた。だってわかんないから話に乗れないのだもの。

「幹さんは?」
「私は母の会社の人の娘さんのものを譲っていただきました。とても綺麗なミントブルーのドレスです」
「いいなぁ。あたしなんかレンタルだよ。先輩が赤のドレス姿を見たいって言うから…派手だと思うんだけど…挑戦するんだ」
「へーそうなん」

 突然惚気けだしたぴかりん。彼氏のリクエストに応えるなんて健気だねー。私はそれを軽く流すと、素知らぬ顔をして、おやつの小魚アーモンドをひょいパクひょいパクしていた。

「そういえば阿南さん戻ってくるのが遅いね?」
「多分クリスマスパーティのお誘いを断るのに手間取っているんでしょ」

 阿南さんは従兄さんとパートナーになったらしい。阿南さんには現在大学生の婚約者がいるそうだ。誤解を招かないように、パートナーは当たり障りのない相手と組んでいるってさ。

「…阿南さんモテるなぁ」
「……あんたって自分のこと客観視出来ないの?」
上杉 あいつ のことを言っているならやめて? アレは嫌がらせの域に入っているから」

 断っても断っても誘い続ける上杉のことはモテるとカウントしたくないの! あれはただの執着、コレクター魂みたいなもんよ! ぴかりんにあの恐怖がわかるかね!? 

「…まぁ他の男も、あんなにいちゃついているのを見たら…誘うのをためらっちゃうよねぇ?」
「ですね」
「やめて!? 私がいつあの男といちゃついていた!?」

 幹さんまで納得しないでよ! 私が上杉のことを嫌がってるの知っているでしょ!? もしかして喜んでいるように見えるの!? 私が思わせぶりな悪女に見えるというの?

「ていうかあんた本当にパートナー作らずに参加するつもりなの?」
「…そうだけど…?」

 前にも言ったはずだ。ダンスパーティというものが性に合わないと。ボッチ参加の生徒なんてあちこちにいるぞ。私だけではない。

「エリカから誘ったら良いのに。きっと喜ぶと思うな」
「何故私が上杉を誘わねばならん!? そんな事するくらいならパーティ不参加でいいよ!」

 ぴかりんが恐ろしいことを言ってくるので、私は耳を塞いだ。これ以上恐ろしいことを言って私を追い詰めないで…!
 耳を塞いでいる私を呆れた目で見てくるぴかりんが口を動かしてなにか喋っているが、私は「あー」と声を出して、一切聞き入れなかった。


■□■


 12月のクリスマスイブがとうとうやってきた。その日は朝から学校中がソワソワした雰囲気でいっぱいになっていた。本日体育館は使用できなくなっており、現在外注の業者さんが出入りしてパーティ会場を作り上げている最中だという。

「ドレスが入らなくなっちゃうからお昼は抜こうと思って…」

 とか話している乙女たちをよそに、私はしっかりお昼をとった。今日は奮発して牛タン定食にしたの。美味しかった。
 あーぁ、今日はクリスマスパーティがあるせいで部活ナシだし、テンション下がるわぁ。ご馳走食べられるからいいけど、バレーできないのは虚しい。
 
 教室に戻る前に食後の牛乳を買っていこうと思って、私は売店に寄って牛乳をゲットした。そしていつもどおり教室に戻ろうと思っていたのだが、私は足をピタリと止めた。何処からか、くすんくすんと女の子がすすり泣く声が聞こえてきたのだ。
 英学院の七不思議かと一瞬思ったけど、こんな真っ昼間から七不思議もクソもないな。
 その音源の元を探していると、女子更衣室に辿り着いた。特に何の躊躇いもなくカードキーで解錠して扉を開けると、荷物で一杯状態の更衣室が目に飛び込んできた。今日のパーティのために、女子生徒たちが更衣室に自前のドレスを持ち込んでいるため、荷物で溢れかえっているのだが…。
 ──その荷物達に囲まれて1人の少女が泣いていた。

「…どうしたの?」
「……にかいどうさぁん…」

 この中で泣いていたのは瑞沢嬢であった。
 彼女はピンクの布を抱きしめてシクシク泣いているではないか。どうしたんだ? と不思議に思って、更衣室に入ると彼女の持つドレスを見せてもらった。
 それはチェリーピンクの裾広がりフレアードレスだったが、フレアーでふわふわしているスカート部分が引き裂かれていた。しかも一部分でなく、複数箇所に渡って。何を使ったのかは知らないが、無理やり破いた形跡がある。

「…なにこれ…」
「これじゃ…倫也君と踊れない……」

 この間廊下で宝生氏とぶつかった時に一緒に歩いていたからもしかしてと思ったけど、どうやら宝生氏は瑞沢嬢と仲直りできたようだ。
 しかし今は仲直りを祝っている場合ではない。こんな事を誰がやったのかとか問い詰めて探し当てることは出来るが…今はもうそんな事している暇はない。
 私はそのドレスを脇に抱えると、瑞沢嬢にこれを借りてもいいか質問した。その問いに対して、瑞沢嬢は涙に濡れた瞳を丸くして首を傾げていた。

「…でもそれをどうするの…?」
「待ってて。ちゃんとパーティ前にはなんとかしてあげるから」

 パーティを楽しみにしている女の子のドレスになんてことを! せっかくのパーティでウキウキしている所でこんなベタな嫌がらせをかますとは…。
 犯人は婚約者を奪われて逆恨みしている礒川さんか? はたまた宝生氏を慕っている赤城さんか? 誰でもいいけど、気に入らないからって何でもしていいわけじゃないだろうが全く!
 今はとりあえずこのドレスをどうにかしよう。私は更衣室を飛び出すと、自分のクラスの隣の2−2に顔を出して、とある人を呼んだ。

「井口さん! ちょっといいかな?」
「あら、二階堂様。いかがなさいました?」
「井口さんのセンスと手先の器用さで、私にアドバイスしてほしいの」

 彼女は去年同じクラスで、文化祭の時に私の衣装を手作りしてくれた人である。その手先の器用さはピカイチで、縫製技術は高いと思われる。
 私がドレスを広げて問題の箇所を見せると、井口さんは「まぁ」と驚いた様子で口元を抑えていた。破かれた箇所を手にとって開いてみせたり、破け口をくっつけてみたりして何かを考えている様子。

「お裁縫セットは私が持っているのでそこは大丈夫なのですが…縫い跡が目立つ可能性があります。同系色のレースやフリルもしくは隠せる量の造花などがあれば、その場しのぎで誤魔化せるんですけど…」

 ハンカチじゃダメだよね、今日のハンカチは白のハンカチだし。レースなんて洒落たものはない。
 …造花…造花…

「…今日は業者さんが来てて、会場を彩るために沢山の花を仕入れてきているよね?」
「…そういえば…」
「縫ったあとが目立つ場所は生花を飾ってごまかせないかな?」

 ウェディングドレスに生花つける花嫁さんがたまにいるじゃない。あんな感じで破けた箇所をごまかせないかな?

「…そうですね…生花の茎を紐か、リボンで縛り付けて縫い付けるか…安全ピンで止めてしまうか…間に合わせなので取れてしまう可能性もありますけど」
「やってみなきゃわからないよ! そうと決まれば私、業者さんにお花譲ってもらえないか頼んでみる!」

 井口さんは破けている部分をできるだけ目立たないように縫ってくれるそうだ。彼女の厚意に感謝して、私は2組の教室を飛び出した。


■□■


 授業をサボるわけにはいかず、授業にはちゃんと参加した。放課後になってから譲ってもらった花を加工して、縫い付けてドレスに飾る作業をしていたが、結構時間がかかる…私が不器用だからだろうか…

「エリカー…あんたそろそろ着替えないと…パーティ始まっちゃうよ?」
「んー…先に行っててぇ」

 あの後パーティ会場となる体育館まで出向いてドレスの事情を話したところ、同情した業者さんが余っていたバラを分けてくれた。それを試行錯誤しながら加工して、縫い跡の目立つ部分につける。
 チェリーピンクのドレスには赤も白もピンクのどのバラもきれいに映えている。

「よしっ! 出来た!」

 上から見ても下から見ても横から見ても…遠くから見たら全然わからない!
 私は席を立って瑞沢嬢のクラスに突撃すると、彼女は3人の御曹司ハーレムを形成した状態で席について暗く沈み込んでいた。
 私が入ってきたことに真っ先に気づいたのは宝生氏であった。宝生氏は瑞沢嬢の肩を叩いて教えると、瑞沢嬢は泣き腫らした目で私を見てきた。

「瑞沢さん! 出来たから早く着替えておいで!」
「二階堂さん…これ…」
「2組の井口さんが縫ってくれたんだよ。あとでちゃんとお礼を言っておくんだよ。じゃあ私も準備があるから行くね!」

 私はこれからパーティだと言うのに糸くずまみれだ。煤まみれではないが、どんなシンデレラ状態だというのか。

「それ生花だから、あまり乱暴に扱ったら取れるからね!」

 そう言い残すと、私は自分の準備に向かった。慌ただしくドレスに着替えて外注の業者さんにヘアメイクと化粧を施してもらっている間に開催時間を迎えてしまった。
 1人なのでいつ参加しても特に問題はないし、相手に申し訳ないと思うこともない。パートナーがいないのが功を奏したな。

 さて、ご馳走を求め、クリスマスパーティにいざ出陣である。



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mokuji
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