お嬢様なんて柄じゃない | ナノ さようなら、エリカちゃん。ごきげんよう、新しい人生。

豪華賞品もあるよ! ていうか私が欲しいわ。



 クラスが分裂してどうなることやらとは思ったけど、クラスの三分の一の人数でもなんとか準備は完了できそうだ。これは英学院だから出来たことである。一般の学校では全て生徒達の力で準備するので、その場合だったらこうは行かなかっただろう。
 うちのクラスの出し物は校舎全体を使った逃走ゲーム。なのでクラスの飾り付けはそんな華美にする必要はなく、業者さんとの打ち合わせもすでに終わった。後は当日を待つだけである。
 
「ねぇねぇ景品にさぁ、未使用のヘアオイル出品しても良い?」
「…ヘアオイル? 自分で使ったら良いじゃないか」
「…だって、上杉に押し付けられたものなんだもん…」

 逃走ゲームの景品リストを確認している慎悟に提案してみたが、彼は難しい顔をしていた。
 劇物指定していたからか、エリカちゃんも使用しなかった芸能人御用達ヘアオイル。私はそれを持て余していた。丸山さんのところのオークションに出すのも考えたけど、クラスの出し物の景品にしたらどうかと思ったんだ。
 
「…後が面倒だ。やめておけば」
「えー」
「…あいつに知られたら何言ってくるかわからないだろ」

 …それもそうだな。

「え、じゃあ慎悟使わない? あげるよ」
「要らない」
「えぇ〜…」
「…俺には必要ないよ。だから要らない」

 今の時代男も化粧品使っているから恥ずかしくないよ。ていうか貰ってよ。ほら慎悟の髪の毛キレイだしさ、もっとツヤツヤになれるし、美少年さUPするよ!
 ぴかりんには外国の人工的な香りが苦手って断られて、阿南さんは愛用のものがあると、幹さんは恐縮するから良いですと遠慮されちゃったんだ…

「品には問題ないんだろ? あんたが使えばいいじゃないか」
「……」

 物には罪がない。それはわかっている。
 …ただねぇ…うーん。

 話は終わりとばかりに慎悟は視線を景品と手元の書類に戻した。 
 逃走ゲームで用意された景品は予算の範囲で購入したものだ。クイズに5問以上正解した成績優秀者にはマイ…なんたらっていう高級なティーカップセットor某ゲーム機を選択できる。4問正解なら某有名高級果物屋のフルーツタルト引換券。で、1問正解の人は某高級アイスのギフト券だ。
 金額の幅が広すぎるよ。予算高すぎない? …この学校で庶民の常識を語っても無駄なのは分かっているけどさ…私もゲーム機が欲しいわ! 

 …でも5問も正解する人いるかなぁ? クイズの問題難しいものばかりだもん。幹さんバリの頭脳があれば達成できるのかな。
 ゲームで逃走するメンバーは毎時10人はいる。だけどこの広い学校の敷地内のアチコチに散らばっているので見つけるのに骨が折れるはずだ。しかも追跡者には参加申込みをしてから60分という時間制限があるのだ。まずは逃走者を捕まえてカードを貰わないと話にならない。そしてそのカードに書かれたクイズをうちのクラスで解答するという次なる課題があるのだ。全問不正解だと何ももらえない。
 その制限時間後に再びゲーム参加しても、前のゲームでゲットしたクイズ正解回数はカウントされない。

「…そういえば笑さん、今年はバレー部の試合はないのか?」
「招待試合? 今年はもう済ませたよ。今月末に春高予選ならあるけど」

 ちなみに今年は私が現世にいなかった9月の間に行われていたりする。エリカちゃんはバレーしないし、心臓や肋骨骨折の事もあって不参加だったようだ。
 今年も姉妹校と対戦したかったけど仕方がないか。春高予選には絶対に出てやるけど。

「…大丈夫なのか本当に…」
「じゃあ観に来たら良いじゃん。私の華麗なスパイクアタックに魅了されたら良い」

 目の前で死ぬ姿を見せたからトラウマを与えている感否めないけど、もう大丈夫だって言っているのに、慎悟はすごく心配そうだ。
 応援はしてくれているけど、やはり不安なのかな。

「大丈夫大丈夫。再検査に再検査を重ねて、健康だと太鼓判押されたんだしさ!」

 あれはこの身体の魂を正しく戻すために、地獄の住人が強硬手段に出ただけだ。今となってはそんな事が起きる理由がないのだ。
 ドンッと心臓のある辺りを拳で叩いて自信満々に答えたけど、慎悟は表情を曇らせたままであった。

「…もしも、また苦しくなったら…すぐにプレイを止めてくれ」 
「わかってる。それはパパママにも言われているし、コーチや顧問にも釘刺されているから、何かあればすぐに止める」

 医者に太鼓判押されたとはいえ、周りは心配のようだ。まぁ、仕方ないよね…でも私はバレーをやめることが出来ないのだ。泳ぎ続けないと死ぬマグロのようにね…

「あの…」

 心配なら脈を測っておく? と手首を差し出していると、どこからか声を掛けられた。

「ん? あれ、どうしたの?」
「その…」

 後ろを振り返ると一般生のクラスメイトがいた。先日過激派セレブ生に対して怒りを爆発させたクラスメイトだ。彼らは揃って何やらモジモジしていた。

「この間は、すみませんでした…私達八つ当たりしてしまって…」
「あぁ…もう大丈夫だよ。準備はだいたい終わったし」

 心配しなくとも準備は出来ていますよと言う意味で返事をしたのだが、彼らはぐっと口ごもり、気まずそうな顔をしていた。
 なんだろう、準備のことが心配になって声を掛けてきたんじゃないのだろうか。もう文化祭3日前なんだ。準備がほぼ終わっていてもおかしくはないでしょう。

「…あの、僕達も準備に入ってもよろしいでしょうか」
「え……することあったっけ?」

 どういった心境の変化なんだ。てっきり最後まで準備に加わらないと思ったのにここに来て何故。大分準備終わっているし、特にすることがない気がするんだけど…
 何も思いつかなかった私は慎悟に助けを求めた。慎悟は数秒間考え込むような表情をしていたけど、すぐに彼らに指示を下した。

「…じゃあ、クイズのカード作りをしてくれるか。もしかしたら数が足りなくなるかもしれない。各自アイディアを出して50枚ほど増産して欲しい」
「分かりました!」
 
 カードねぇ。十分な数を大量生産したのに…慎悟ったら彼らの気持ちを汲み取って無理やり仕事作ったんじゃないの?
 慎悟の指示を受けて即作業に入った彼らを見送ると、私は慎悟を見上げてニコニコ笑った。

「…なんだよにやけた顔して」
「慎悟は優しいなーって思って。カードなんて充分に作ったっていうのに…」
「…多くて損はしないだろ」
「照れるな照れるな」

 奴の頭を撫でてやろうと思ったけど、逆に慎悟から頭をガシッと手のひらで掴まれた。
 ワシャワシャワシャ…
 …何故撫でる。私が頭を撫でられる理由がないんだけど。やめなさい。髪がボサボサになるでしょうが。
 髪といえば上杉のヘアオイルの事を思い出した。…ちょうどエリカちゃん愛用のヘアオイルがもうすぐ無くなる。すごくすごく気が引けるけど…仕方がないから使うか。物には罪がないもんね。そう自分に言い聞かせるしかない。

 文化祭の準備をする人数が増えたお陰で残りの仕事もあっという間に完了した。
 結局過激派セレブ生達は最後まで準備に関わること無く、セレブ生と一般生の溝は埋まらないまま、文化祭の日を迎えたのである。


■□■


 不思議の国のアリスをテーマにした我がクラスの逃走ゲームは逃走者がアリス以外のキャラクターに扮している。
 時計うさぎ(白うさぎ)担当の私は赤い燕尾服風ジャケットに黒の蝶ネクタイ、黄色のベストに灰色の短パンにニーハイにショートブーツという……そこはスラックスでよくないか? と思ったけど、短パンを履かされた。
 それでもエリカちゃんは美少女だもん。こんな奇抜な衣装でも可愛いけどさ!
 衣装を身に着けた私は鏡の前でうさ耳ポジションを調節して、おかしいところはないか角度を変えて確認する。

「…これ絶対に走れないって…」
「おぉぴかりん綺麗!」

 ぴかりんは赤の女王役なのだが、背が高いのもあって衣装が映える。ただその衣装が重く、動きにくいようだ。
 逃走ゲームというくらいだから、簡単にアリス役の追跡者に捕まってはいけないのだが…慌てたらその衣装の裾踏みそうだね。

「おい、そろそろ始まるぞ」

 ぴかりんの美しさに見惚れていると、慎悟から開始時間が近づいていることを指摘された。

「おぉ…実写版を再現したのか…」

 変な形のシルクハットから覗く赤毛のモジャモジャカツラ、白塗りした顔に目元を赤く彩ったメイクと派手な衣装。
 初日は同じ早番の慎悟はマッドハッター役なのだが、実写版アリスのメイクを再現していた。プロのメイクアップアーティストが派遣されているのだが、彼らにおまかせしたらこうなったと慎悟は言っていた。でもさ、私も同じくプロにお化粧してもらったけど…薄化粧だよ?
 体育祭といい、慎悟は変な衣装に当たるくじ運でも持っているのかね? 加納ガールズたちならそんな慎悟様も素敵とか言いそうだけど…この白塗り化粧しないほうが美少年だと思うんだけどなぁ。バ○殿に見えるって言ったら怒るかな。

 文化祭当日は流石に過激派セレブ生も文化祭に参加するために準備している。思うところは色々あるけど、慎悟も放っておけと言っているし、自分がどうこう言っても反感買うだけだからもう何も言わずに放置している。
 向こうはちょびっとだけ気まずそうな顔をしているけど、気にしているなら今日明日の自分の任務を遂行してくれたまえ。
  

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mokuji
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