お嬢様なんて柄じゃない | ナノ さようなら、エリカちゃん。ごきげんよう、新しい人生。

色々と面倒くさいよセレブ…




「二階堂さん、これやるよ」
「あっキャベツ○郎だ! もらっていいの?」

 以前ロリ巨乳にアタックして破れて、慎悟を逆恨みしていたあの3年男子…斎藤君というのだが、彼が最近よく私に駄菓子をくれる。
 私は別に駄菓子が超好きというわけではない。しかしエリカちゃんになってから駄菓子を食べる機会が減っているせいか、懐かしさもあって私は人から貰うたびに喜んでいたのだ。
 二階堂家でもこの学校でもお菓子を食べる機会はあるけど、高いものとか珍しいものが多くてね。それはそれで楽しいし美味しいけど、慣れた味が恋しくなるのよ。味覚も私の感覚を引き継いでいるせいかな?

 うーん、しかしなんでお菓子をくれるんだろうか…

「…餌付けされて恥ずかしくないのかあんたは…」
「なに羨ましいの慎悟」
「違う。…あんたは今二階堂家の娘なんだ。行動には気をつけてもらわないと困る」
「あ、それ私にも適用されるやつなんだ」
「当たり前だろ」

 慎悟は不機嫌そうに私を見下ろしてきた。うーん、不本意だけど私はエリカちゃんとして生きなくてはならなくなったからその義務が発生することになるのか…。
 でもそんな事言われてもTHE庶民の私には何がお嬢様らしいのか…傍に阿南さんといういい見本がいるけど……それを見習ってお嬢様らしくなれるかと言われたら…ねぇ? 所詮付け焼き刃でしょ。
 二階堂家の娘として。そう言われてしまったらわからんでもないのよ。でも、急にそれらしく振る舞えと言われても難しいと言うか。
 行動ねぇ……

「行動に気をつけるったって…何に気をつけるのさ。わかりやすくお願いします」
「…男から貰い物して無邪気に喜ぶとか、無駄なスキンシップをするとか…あんたは仮にも女性だろ。そういった行動を取ったらそんな目で見られるか分かっているだろう」
「…どんな目?」
「…男たらしとして見られる」
「はっ…!」

 目からウロコである。
 そうだったのか…周りから見たら私のさっきの行動は男をたらしているように見えていたのか。別に思わせぶりな態度をとったつもりはなかったのだけど…
 斎藤君がお菓子をくれるのだって相手はきっと善意という歩み寄りを見せてくれているのだと感じたから、ありがたく受け取っていたのだけども…駄目なの?

 だめだ、エリカちゃんの名誉は守らないといけないから…

「わ、分かった…今度から気をつける…」
「…そうしてくれ」

 あれ、でも私には婚約者がいないし、一般生の斎藤君には婚約者どころか彼女もいないみたいだし…親しくする分には問題はないのでは?

「でもさ、私も斎藤君もフリーなんだけど…」

 ちょっとした疑問を投げかけると、慎悟に睨まれた。その冷たく突き刺さるような視線はマゾにはたまらない一品だろう。私は睨まれても困るが。
 なんで睨んでくる? 私はただ素朴な疑問を投げかけただけでしょ?

「二階堂家がどれだけの規模の会社を抱えているのか分かっていないのか? 益にならない相手との交際を認めてもらえるとも?」
「いや別に交際したいとか言ってないじゃない…」

 慎悟すっげーイライラしてる。私が理解しないからイライラしているのだろう。
 しゃーないじゃん、今でもよくわからない点があるんだもん。私が庶民であると大目に見て話して欲しい。

「思ったんだけど、二階堂のお祖父さんは望んだ相手と結婚できるよう協力してくれるって言ってくれたから、望んだら私と同じような家庭の人と結婚できるってことだよね」
「…あんた、それが通用すると思っているのか?」
「え、駄目なの?」

 だって結婚だよ? いくらお嬢様ぶっても、私絶対ボロ出して相手に幻滅される自信しかない。
 …私がこれから好きになった相手がもしも一般の家庭の出身だとして、すごく優秀な人だったら、認めてもらえる可能性があるってことだよね。仕事ができる人なら会社に利益をもたらしてくれるってことだし。
 ……でも、私恋愛できるのかな?
 だって今の私はエリカちゃんの姿をした松戸笑だもん。エリカちゃんの身体で恋愛とか…そんな……ねぇ?

「……パパママが言うならそのうち結婚するだろうけど…私自身…恋とか愛とかそういうのは無理かなぁ」

 もう恋はしたことあるし、あんな苦しい感情はもう要らないや。ようやく吹っ切れたばかりだし。
 
「……え?」
「大丈夫、私そういうのは関心ないし。尻軽に見られないように行動には気をつけるから安心してよ」

 そのタイミングで予鈴が鳴り、昼休みが終わった。私は慎悟を安心させるために肩をポンポンと叩く。
 あ、言われたそばから無駄なスキンシップを取ってしまった。慎悟から怒られそうなので、急いで自分の席に戻っていったのである。

 思ったんだけど私もお嬢様教育受けないといけないのかな? 私ああいうの絶対向いてないんだけど…やれと言われたら…やるしか…ないんだろうけども…
 やっぱり家同士の結婚は避けられないのかな。せめてエセお嬢様な私がボロを出しても笑って許してくれる相手ならいいな。






「…え? …お見合い?」
「二階堂のお祖父様がね、気を遣って縁談を用意してくれたのよ。強制ではないけれど、お祖父様の顔を立てる意味で一度お相手と会ってほしいの」
「…構わないけど…私、お嬢様のフリをする自信がないよ…」

 タイムリーなことに、慎悟とそんなやり取りをした日の夜、いつもよりも早く帰宅してきたママにお見合いの話を持ちかけられた。そのうちそんな話が来るだろうなとは思っていたけど、すぐに来た。
 エリカちゃんとして生きるとなると、今までの常識とは正反対の暮らしになるんだな…肉体年齢17歳でお見合いか…流石セレブ。

「…そうねぇ…えっちゃん、習い事を始めたほうが良いかもしれないわね」
「やっぱり?」

 でもお花とか琴とか芸術系は絶対ムリよ。前衛的な出来栄えにしかならないと思う…私がそれを言うとママは苦笑いしていた。

「行儀作法マナーに、語学辺りは最初に手を付けてほしいのだけど…」
「うっ、うーん…」

 私の苦手な勉強系がキタ。
 二階堂パパママさり気なく多国語話せるからそれと同レベルを求められちゃうわけ?
 
「あと茶道は習っておいたほうが良いかも」

 エリカちゃんとして一生を送らないといけなくなった私の「バレーのことだけを考えておきたい」というワガママはもう通用しないらしい。
 私はハリボテでもお嬢様にならなきゃならないようである。なんとか見えるようになるためにお嬢様教育は不可避と。

「あとえっちゃん、勉強が嫌いかもしれないけど…もうちょっと頑張ってほしいわ」
「うぅっ!」

 トドメに私の成績のことをちくりと言われてしまった。…こう言われたら中間テストはガチで頑張んなきゃ…ていうか私の場合基礎からちゃんと勉強したほうがいいのかも…
 神様仏様幹様に賄賂を渡して頼み込んでみようかな…

 その後、私は以前幹さんに作ってもらった問題集を机の引き出しから取り出して広げて解き始めたが……答えがわからなくて頭を抱えたのであった。



■□■


「クラスマッチ楽しんでいこうね!」
「エリカあんた目の下すごいクマだけどどうしたの?」
「勉強しようとして眠れなくなったの」
「…あんたが? …勉強…?」

 ぴかりんが信じられないものを見るかのような目を向けてきたが、本当のことだよ? 仕方ないじゃないの、ああ言われたら…やるしか。
 でも取り敢えず今日はバレーだ。
 クラスマッチ楽しんでいこうではないか。



「いたーい! 二階堂さんひどぉい!」

 去年同様瑞沢嬢はバレーを専攻しており、うちのクラスと一回戦でぶつかったのだが、私のジャンプサーブを喰らってキャンキャンと喚いていた。
 一応手は抜いたよ? …バレーってこんなものだからさ。それが嫌ならソフトボールとかサッカーを選ぶべきよ。
 私は彼女からのクレームをスルーして、情け容赦なく相手コートに攻撃を放つ。初戦は余裕で勝ち進んだ。


 うちの女子バレーチームは順調に勝ち進んでいた。もしかしたら今年はもしかするかもしれない。
 …でもレギュラー陣のいるクラスと当たったらわかんないね。同じ攻撃専門の平井さんも強いし、セッターの桐堂さんも強いスパイク打てる人だし。勝てるかなぁ…
 でも取り敢えずクラスマッチだし、最後まで楽しめたらいい。


「きゃあああ! 慎悟様ぁぁ!」
「頑張ってー!」
「慎悟様ぁ!」

 部活にも力を入れている英学院は部活動がしやすいようにいくつか体育館が完備されてある。なのでこういったクラスマッチなどで試合場所に困らない。
 女子バレーの試合が行われている隣の体育館では男子の試合が行われているのだけど、外のウォーターサーバーで水分補給していた私の耳に加納ガールズの悲鳴が突き刺さって来た。

「…声大きいなぁ…」
「櫻木様達はご自分のクラスの試合は終わったのでしょうか?」
「あの人達運動系にはあまり本気出さなそうだよね」
「次の試合まで時間がありますし、観に行きますか?」

 幹さんの提案に私は頷いた。
 男子達のバレー指導をしたこともあって、彼らのことは気になっていた。次の試合までのちょっとの合間だけ様子を見に行くことにした私達は、体育館に足を踏み入れたのだった。


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mokuji
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