逃げろ!ヴィラン!!
終業式。
まさか相澤先生率いる1年A組が、そのまま式にだけ出席をして終わるだろうか。
あるはずがないのだ。そんなことは。
式典も終え、教室へと集められた僕らは教壇で名簿をパタンと閉じた相澤先生の言葉を待っていた。

「あー……特にすることも無いんだが、……そうだな。13時まで運動場γで個性使用でのヒーロー&ヴィラン。以上だ」
「ヒーロー&ヴィラン??」

相澤先生の言葉に、上鳴君の声が上がる。

「ハッ!聞いたことがある!確か海外で主流の鬼ごっこのような遊びだったはずだ!ヒーローはヴィランを捕まえ、ヴィランは逃げ、捕まったヴィランを救出し、といった具合の遊びだったように思う!
幼児期の遊びの一環とはいえ、追う・追われる、守備・攻撃。ヒーローの訓練に必要な要素がすべて組み込まれている!だからこそ締めくくりとして俺たちの成長具合を見るのに最適と言う訳か!!なるほど、理にかなっている!」
「……」

飯田君の解説に、先生は小さく頷き「体操服に着替えたら集合」と言い残して教室を去っていく。
その姿を見送り、帰宅用意をすべて終えていた僕らは、体操服を取り出し、更衣室へと向かうことになった。
雄英に来てからは、驚くことばかりだ。
最初から、最後まで。気を抜ける瞬間なんて無い。
ただそれが、前に進んでいる!って感じで、高揚していた。

「聞いたかぁ、緑谷ぁ!!……鬼ごっこだってよぉ……先生も罪なお人だよなぁ!……俺たち男子に、女子と触れ合う最後の行事を残してくれている。
どう思う?タッチの際に胸部および臀部に触れるのは仕方ねぇ事だ。そう、おもうよなぁ?!」

相変わらず血走った眼を僕にもギラギラと見せつける峰田君に、僕は首を横に振る事しかできない。あと、鬼ごっことは少し違うと思う。

「君が触れるのはアウトだよ、峰田君」
「なんでだぁぁ!!!」

峰田君は絶叫した。

「トれぇんだよ!前歩くなや!!クソナード!!!」
「わ!!ご、ごめ!!!」

背中側から聞こえてきたかっちゃんの怒声に思わず肩を跳ね上げ、足を速める。

「なんっで俺の!前を!歩こうと!!しとんだ!!ぁあ゛?!」
「ご!ごめんんん!!!!」

いや、僕は何がどうして早歩きなんかしちゃったんだ!!と、心中で自分を罵った。ピタッ!とその場に足をつけ、僕に負けず、いや、僕よりももう少し早歩きになっていたかっちゃんの背中を見送っていく。
何人か抜かしていくかっちゃんに、そのうち切島君が声をかけ、切島君の向こうで八百万さんと話しをしていた肉倉さんと轟君がかっちゃんに何言かを話しかけていて、そのうち怒り始めてしまったかっちゃんを宥める切島君の姿を僕は目におさめた。

「まぁそう怒んなって爆豪!」
「そうよ、カリカリしないで頂戴……ホルモンバランスのせいかしら。思春期だものね。そうだわ、煮干しがいいと思うのよ」
「喧嘩売っとんのか!てめぇは!!」
「まぁ、爆豪さん……!もしそうなら辛いときはいつでも仰ってくださいな!神経系に効くレシピを考案いたしますわ!!」
「爆豪、蕎麦食うか?」
「なんでだァ!!!」

あんなに怖い、中学でもどちらかと言うと遠巻きに見られていたかっちゃんが、この教室ではただの男子高校生然とした姿に見えてしまうのだから、僕は思わず唾を飲み込んだ。
そうしたら、隣から同じように喉を鳴らす音が響いた。

「緑谷……お前も肉倉と八百万狙いか……?」
「……峰田君はそろそろみんなから本当に怒られると思うよ?」

□□□□■

運動場γに着くと、いつか見た工場地帯のような出で立ちが、体操着に着替えた僕らを出迎えた。

「でもこれ、鬼ごっこをするには広すぎねぇ?」そう言ったのは切島君。
「……広かねぇわ」かっちゃんはそう答え、
「いーや、区画が区切られると見たね」瀬呂君はそう笑った。
「マジ?ラッキー」

上鳴君がそう言うのと同時、女子も集合して全員が揃う。
相澤先生の号令と一緒に、今度の鬼ごっこのルールが説明された。

「今度はチームに分かれて行うこととする。
チームはお前らの個性を鑑みて、予め決めてある。まずはそれを発表する。覚えろよ。
ヒーローは、飯田、障子、耳郎、瀬呂、葉隠、爆豪、それから八百万、最後に肉倉。以上八名。
他はヴィランとする。
ルールを説明するぞ。この手錠はサポート科の発目さんの案が採用されている、対敵用手錠だ。つけている間は個性を使えない、自分で外すのは出来ないようになっている。
よって、ヒーローは各自これで敵を捕縛、その後、所定位置まで護送。敵は敵らしく、護送中に襲うも良し、牢へと投獄後に解放してやるも良し。この手錠を外せば良い。勿論、自力での逃亡も許可する。
ヒーローは時間内に過半数のヴィランを投獄していたら、もしくは10名以上のヴィランを投獄確認をすれば勝ち。ヴィランは時間いっぱい逃げ切れば勝ち。
勝った方には後々褒美がある。以上だ」

質問は?と言いながら、先の期末試験の時に見たものとは違い、鎖のついていない手枷を見せつける先生に、飯田君が手を上げた。
どこからか「ドロケイやん」と言う麗かな声もしている。

「明らかにヒーローが少ないようですが!!」
「メンバーを考えろ。敵はまぁ、頑張れ。他は」
「なるほど、予め決めてある……このメンバーからは確かに、逃げるというのも難しそうだ。……つくづく奥が深いな!!」

飯田君が隣で納得しているのを横目で見ながら、先生の始めるぞ、と言う号令を僕は聞いた。

「開始後5分は各々逃げるも作戦を立てるも自由。移動可能範囲にテープを巻いている。そこを越えなければ、逃げるも隠れるも好きにしろ。
5分後。ヒーローチームは活動を開始する。始めるぞ」

やる気の感じられない相澤先生の「スタート」と言う掛け声とともに僕らは一斉に駆けだした。
ただ、僕はずっと考えていた。恐らくこの『ゲーム』ヒーローチームにはかなり利がある。僕らはばらばらに逃げていたら、恐らく勝ち目はない。
なぜならあのチームには、八百万さんと葉隠さん、肉倉さんや耳郎さんに障子君、飯田君に瀬呂君も。何よりも、かっちゃんが、いる!!

「轟君!!常闇君!!聞いて!」

僕は目の前の背中へと声を張り上げる。

「このゲーム、僕らはチームで行動するべきだ!!」
「……お」轟君は常闇君を見た。
「俺も、そう思っていた」
「まずは、集められるだけ、皆を集めよう!」

僕の言葉に頷いてくれた二人に協力を仰ぎ、口田君、砂藤君、轟君、切島君と上鳴君、青山君と梅雨ちゃん、それから麗日さんになんとか集まってもらうことが出来た。
そして僕と轟君、常闇君で皆に話し始める。

「葉隠さんの能力はこのゲームに於いて、チートと言っても良いほどの脅威だと思う。それと、肉倉さんの能力。肉倉さんも決して油断ならない。索敵に長けた耳郎さんと障子君に指令塔としての八百万さん。サポートに特化した瀬呂君、純粋に速すぎる飯田君。何より、かっちゃんもいる。ある意味、最強の布陣だと思う。」
「……隠れて居られそうにはねぇな」

僕の言葉に轟君は頷き、梅雨ちゃんは顎に指を当てて僕を見た。

「それで、そこをどう攻略するの、緑谷ちゃん」
「……ごめん、正直まだちゃんとは浮かんでいないんだ……ただ、轟君の氷壁に、口田君と常闇君の個性で目眩まし、峰田君の個性で足留めも出来る。こっちのメンバーだって、……最強だよ……!」
「峰田君を、探さな!!」麗日さんは両拳を握り、
「行こう!」僕は頷く。
「うん!」麗日さんも頷き返し、
「オウ」切島君は拳をガツンと弾き合わせた。
「いいわ」梅雨ちゃんは構え、
「行くか」轟君が前を見据える。
「ウィ」青山君はウィンクを飛ばし、
「御意」常闇君は頷く。
「やるか!」上鳴君がそう言ったところで、コクコクと頷いてくれる口田君を筆頭に、皆の目標が峰田君へと向く。
それと同時に、あたり一帯に轟くほどの空砲が青青とした空の下、合図として響き渡った。


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