隠して恋情
想う理由(side:神崎)
1/1
 俺の好きな人、寺崎愛弥先輩。初めて会ったのは体験入学。もともと料理好きな俺は、お菓子を作る体験をした。男子は俺一人だったからけっこうひそひそとされていたが、そこで話しかけてきたのが寺崎先輩だ。


「男の子がこれを選ぶなんて思わなかったよ。楽しんでいってね」


 笑顔で話しかけられて、俺はたぶん、顔を赤くした。よく女子と間違われることの多い俺だけど、寺崎先輩は俺を男だと気付いた。洞察力が高いのか。友人と話す彼女を見てそう思った。けれど、彼女にも弱点はあったようで、卵白を泡立てるのがとても下手だ。電動泡だて器は数が少ないらしく、寺崎先輩が手伝った班を見ると、全然泡立たない。ちょっと恥ずかしそうに、泣きそうにしていた先輩がかわいかった。普段、そんなことを思わない俺が、そんなことを考えたことに驚いたが、一向に泡立つ気配もない卵白の入ったボウルを貸してもらう。泡立つ卵白に子供のように笑う彼女は本当にかわいい。名前を訊かれて、苗字応えると、「ありがとう、神崎君」と笑顔付き。感情表現ができるのかと思えばそうではないらしい。面倒見は良いがあまり話さない。聞かれたら応える程度。いったい、どういう人なんだろう。そんなことを考えて、腐れ縁にばれたらからかわれるのがオチだ。秘密にして、「さすが料理部」と言われたのを聞いた。だから、彼女について知りたいから、料理部に入ることにした。この高校を受験するつもりでいたし、料理は嫌いじゃないからいいだろう。これくらい、許してほしい。腐れ縁がいるのは少々面倒くさいが、まあ、仕方ないことだ。
 入学して、部活の体験入部期間。俺は料理部を見学するために向かった。彼女がいて、ほっとした。見学だけのつもりが体験入部になったが、それはそれで楽しかった。本入部が決まり、一年は俺の他に女子二名。圧倒的な女子部員率に呆れた。友達になった男子にハーレムなんて言われたが、俺自身は寺崎先輩以外興味がないので意味のないことだ。
 そんな日常の中、興味が好意に代わるのは早かった、彼女に新しい一面を知るたびに、どきどきした。
 体育祭で妹弟と名乗る男女に「お姉ちゃんの恋人はお姉ちゃんが決める、けど、渡しませんよ」「姉さんを泣かせたら許しませんから」と言われたときにはびっくりたした。どこでばれたのかわからないから気にはなる。しかし、しかし、墓穴を掘りそうだから訊かなかった。
 文化祭の準備で二人行動できたのは素直にうれしい。試食会で腐れ縁が乱入した時はどうしようかと思った。けれど、パンケーキのかすをとって口に含んだ時の先輩の反応からして、好意があるのはわかる。本番では、先輩の友人と同級生のおかげで二人で回れることになった。俺の気持ちに気付いてないのは寺崎先輩だけだ。文化祭中、写真を撮る約束をしたり、俺なりに攻めたりした。反応が弟に向ける物ではなくて満足した。初めて愛弥先輩、と呼んで、逆に名前で返されて驚いた。いつもは「神崎君」と呼ぶから新鮮で、でもこれきりと考えたら無性に苛立つ。それを隠して、その日は終わった。二日目はやらかした。たちの悪い来場者に捕まった先輩を無理やり引っ張って壁に押し付けて抱きしめるのはいけなかった。でもあれは、先輩が悪い。男に無理やり連れて行かれそうになったのに、俺に抱き着いてくるのがいけなんだ。なのに先輩は「安心する」なんて言うし、俺だって男なんだよ。首筋にキスをしたことは反省してるけど後悔はしてない。これで男として見られるなら、利用してやる。
 先輩に先に戻って、と言われて先に戻ると女子生徒に「着いてきて」と腕を引っ張られて連れていかれた場所は『告白大会』会場。女子生徒はどうやら俺に告白をするつもりらしい。そりゃこんなイベント、なかなか断りないもんな。冷めためになりながら、俺は彼女からの告白を断った。寺崎先輩が好き。そういって、舞台から降りて先輩を捜した。情報が腐れ縁からリークされたのは、先輩のクラスに向かったときだ。放送室にいる。足止めするから来い。そんな内容。入れ違うように放送室に入ると、少し下がった先輩が見えた。告白すると、好きだと返される。どういう意味か問う前に、口の端に感じる体温に焦る。先輩が逃げようとするから、距離を詰めて抱きしめる。すると、ぎゅっとメイド服を掴まれた。強く握ってくるから赤面した、これ以上はだめだと思って、何度目かの告白をした。


「先輩が好きです。俺と付き合ってください」


先輩は破顔して


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 受け入れてくれた。


戻る
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -