隠して恋情
嫉妬心
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たこ焼き屋。積極的な女子や男子に受け渡しを頼み、料理班は二人くらい。結局、やったことある子と料理をできる子が少なかった結果、一日目と二日目に分かけ一日四人、午前と午後に分けることになった。一日目の今日、私ともう一人は午前中ずっと空きで、神崎君と回ることになっている。
神崎君とは本部で待ち合わせをしている。一番わかりやすい場所がそこだった。神崎君は見当たらないが、軽く人だかりができている。神崎君はどこだろう、と見渡すと「神崎のやつ、すっげー化けたよな」という言葉にハッとする。そうだ。神崎君は少女のような外見をしているのだ。その神崎君が女装しているのだから人だかりができてもおかしくはない。恐る恐る人だかりに近づくと「人を待ってるんで」と神崎君の声が聞こえた。ほっとして、どうしよう。この人だかりに近づいたが、声をかけるほど私に度胸はない。じっと神崎君を見ていると「先輩!」と聞こえる。どうやら私を見つけたようだ。「神崎君、お待たせ」言って、困った。普段、人を待たせたらお待たせ、と言うのが私だ。しかし、今は文化祭。周囲に人に勘違いをさせてしまうんじゃないの? 神崎君は「待ってませんよ」と言って「でも、声をかけてほしかったです」と笑って続けた。
「行きましょう」
手を繋いで、神崎君は歩く。掴まれた手は温かく優しくて、離しがたい。私の心を満たす温もりがじんわり広がっていく。それだけのことなに、幸せだと思う。先輩でもいい。神崎君が話してくれるなら、なんだっていい。恋愛に対しても淡白だと自分で思っていたから、それほどまでに好いていることにびっくりした。
考え事をしていたせいで神崎君と私の腕が伸びる。このままでいたら神崎君やほ他の子に迷惑がかかる。距離ができていて、急いで横に並ぶ。
「すみません、早かったですか?」
「ううん。ちょっと考え事しただけ。神崎君は何か食べたいのとかみたいものある?」
「特には何も。楽しみではあったんですけど、何も考えてなかったんですよね」
恥ずかしそうに言う神崎君を周囲の人たちは見る。ああ、嫌だ。見ないで。嫉妬する。認めてから、顕著ではないにしろ、現れ始めた嫉妬心を抑える。それが嫌で、「私もだよ」と笑ってごまかす。考えて、適当に回ることにした。疲れたらどこか飲食の催し物の所で休ませてもらう。それでもそわそわしてしまうのは、見られているからだろう。部活の人はだいたいユニホームだけど、コスプレみたいな恰好をしているのは軽音部と演劇部と調理部だけ。軽音部や演劇部は見ただけで何をするのかわかりやすいが、私たち調理部はわかりにくい。給仕をしそう、というくらいかな。
「それ、どこの催し物ですか?」
女の子二人組が訪ねてきた。たぶん、緊張するだろう。こんな格好の人に話しかけるとか勇気あるな。私には無い。
「調理部です。よかったら来てくださいね」
一瞬にして笑顔を作る神崎君はすごいと思う。私だったら固まってしどろもどろになっている。確実に。
神崎君の笑顔にやられた女の子たちは「はい!」とハートが付きそうな声で離れていった。
「こういう、ことですか」
「まあ、そうだね。ありがとう、対応してくれて」
「いえ。先輩、苦手そうですし」
「うん、苦手。だから、お願いできる?」
神崎君はなぜか顔を逸らして、「はい」と言った。ありがとう、と言ってまた歩く。手はつないだままだ。