隠して恋情
けっきょくは
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 考えても遠ざける方法が思いつかない。それは単に思いつかないだけか、遠ざけたくないからか。私のことなのに私はわかっていない。逃げているから、と友人から言われそうだ。でも、言えるわけない。あんな場面を見られたら、同情されてると思う。恋愛してくれるなんて思えない。
 前に、一度だけあった。同じ部活の先輩として好きだった男子生徒に、親といるところを見られて、神崎君たちと同様、平手打ちをされているところを見られたのだ。それ以来、その先輩は気にかけてくれたんだけど、先輩を好きな人から嫌がらせに遭った。言いふらしたわけでもないのに知っていて、きっと先輩が言ったのだろうと想像はついた。それを聞いた教員から親が呼び出されて、家はひどい有様になった。それ以来、私は人付き合いは希薄になった。
 神崎君のことだから穂積君ほど追及してくるとは思わないけど、気まずいのは変わらない。それなら関わらなければいい。安直で、安易で、軽率な行動だ。自分勝手で相手の気持ちを考えない行動しか、私は思いつかなかった。
 三人だった家庭科室も、すぐに全員が集まる。今日はシフトを決めて終わりだそうだから、帰り着くのにちょっとだけ余裕があるだろう。


「シフトだけど、二人ずつ休憩に行くことに異論はある? もちろん、希望は聞きたいけど、人数が少ないから調理班と接客班で休憩に行ってもらうわ」

「休憩中に宣伝してるんですか?」


 一年女子が訊いた。毎年、休憩中に宣伝はしないが、訊ねられたら答えるようにしている。今年は違うが、エプロンをつけたまま移動していたから、どんな催し物か訊いてくる外部の人がいるからだ。今年はエプロンではなくメイド服――ただし寺崎はバトラー服――だから、よけいに訊かれそうだ。部長も似たような言葉で伝えている。後輩はちょっと面倒くさそうに「そうですか」と言っていた。
 融通の利く一年は後に訊いた結果、またもや神崎君とになってしまった。だからこのゲームのような展開はなんなんですか。と言うのも、私と神崎君のクラスのシフトが午後で、そのあとが空いているから同じになっただけだ。偶然被った、とも言う。後輩には「寺崎先輩だけずるいです」と言われたが、あまり本気で言っていないのがわかっている。神崎君の方を見てにやにやとしているからだ。なぜにやにやしているのかわからないが、神崎君は辟易としているから、本人は分かっているみたい。


「神崎先輩。クラスのほう、どうしてごごになったんですか?」

「運動部の子が多くて、午前に集中しちゃって。友人もちゃっかり午前だし」

「へえ。よかったね、神崎君」

「……うるさい」


 神崎君を見ると、ちょっと顔が赤い。熱……なわけないから照れているのかな。でも何に? 後輩に話しかけられて? もしかして神崎君、後輩のことが好きなのかな。だったら残念なことをした。


「ごめんね、神崎君。休憩の相手、私で」

「は? いや、寺崎先輩が謝ることじゃないですって。こいつがかってに絡んできただけですから」

「情報に感謝しなさい」


「感謝はすしてもにやにやされるのは嫌に決まってるだろ」


 実は神崎君口悪い? 初めて知ったことに私は笑う。神崎君は何を思ったのか、「先輩と一緒で嬉しいですよ」と微笑んだ。その笑みに私はずるい、と思う。好きって認めたせいか、私はその笑顔ひとつで嬉しくなるんだ。
 シフトも決まり、あとは帰るだけ。今日の晩御飯は生姜焼きだ。時間的にもそんなに遅くないし、妹弟が帰ってくる頃にはできあがっているだろう。
 左に友人、右に神崎君と並んで一緒に帰る。今日はいとこの家に行くという友人は早々に分かれ、今は神崎君と二人きりだ。ドキドキして、何を話していいのかわからなくなって無言になる。今までは何を話していただろう、と考えると、だいたい部活か学校のことだった。もう学校のことを訊くには遅いだろう。なら部活か、と思うがそれは話したばかりだ。では何を話そうか、と考えてふいに兄弟はいるのかな、と思った。
 元々、私は母と父の三人家族だった。名家らしい家の跡取りの長子。長子ということを除いても、まず一人っ子だから私がすべてを受け継ぐことになっている。先祖代々、本家が途絶えるまでそうらしい。数年前、私たち家族は交通事故に遭った。そして私を引き取ったのは今の家だ。引き取られる前から双子は私を姉のように慕ってくれていたから問題は無かった。ただ、叔母はそうでもなかった。私も死ねば愛衣か愛樹が受け継ぐから、私も一緒に死んでほしいかったみたい。それでも私を殺さないにはひとえに犯罪はしたくないからだろう。名家と言っても、企業を営んでるわけじゃない。よくは知らないけど、それだけは知っている。けれど、叔母は当主の座が欲しいようだ。だから私につらくあたるらしい。妹弟から聞いたことだから、事実は知らない。
 神崎君との分かれ道までもう少し。訊いてみようか。


「――神崎君」

「はい?」

「神崎君はきょうだいとかいる?」

「え? あ、弟が一人……」

「だから面倒見良いんだね。私とか、後輩ちゃんとか」

「……ええ、まあ」


 落胆したような神崎君に首をかしげながら分かれ道に着いた。ここでお別れだもう少し話していたいと思ったから残念だけど。


「……また明日ね、神崎君」

「はい。また明日」


 なんか微妙な空気が流れ始めた。別れがたいと思っているのは私だけではないのがいい。神崎君も思ってくれているならとても嬉しい。自然と頬が緩む。


「どうしたんですか」

「ううん。なんでもない」

「そうですか。じゃあ、俺はこっちなんで、失礼します」

「うん。ごめんね。ばいばい」


 怪訝な神崎君だけど、私が何も言いそうにないのに気付いて溜め息を吐いて別れた。
 今日はいろいろと感情に起伏が激しい一日だっと思う。


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