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六月中旬

 僕はまだ、真実を伝えるタイミングを待ち続けていた。そしてそれは恐らく、すべてが終わった後――行く大学が決まった後なのだろうと、薄々感じ始めていた。
 実のところ、僕は今回のやり直しでは、前回のこの時期ほど勉強はしていなかった。まともにしているのは、学校や塾から出された宿題と、定期テスト前後の勉強、そして模擬試験の後の復習。前には、学校指定以外のレベルの高い単語帳や参考書をも買い込んで、それらも熱心にこなしていた記憶があるが、今回の僕は、その必要性を感じていなかった。
 むしろ、志望校合格のためだけに、勉強ばかりをするよりは、前にできなかったことをやろうと思っていた。そう、前回は受験勉強のために読み切れず、大学以降もすっかり忘れていた大長編ファンタジー小説を、今度こそ読破しようと試みていたのだ。
 そのために、僕は暇さえあれば、知り合いの多い学校のではなく、地域の図書館に通うようになっていた。もちろん、勉強のためではなく。
 今日は梅雨の晴れ間で、朝に家のテレビで見た天気予報では、夜まで天気は崩れないとの予報が出ていた。そのため、学校帰り、制服の学ランのまま、図書館に向かう。
 駐輪場に自転車を停めて、まず受付で借りていた分厚い文庫本を返す。それから、すっかり通い慣れたコーナーに向かい、返した本の続きを一冊、手に取った。それを自分で貸し出し処理できる機械にかけ、処理の終わったその一冊を持って外に出て、まっすぐ家に帰った。 一冊ずつしか借りないのは、空き時間に少しずつ読むので、読むのに時間がかかるから。借りてすぐに家に帰ってしまうのは、下手に図書館で受験勉強以外で長居したり、街をふらついている間に、先生に見つかる危険があったりするからだ。受験を控えた三年生でそんなことをしていたら、生徒指導の対象になってしまう。
 そして理由は、もう一つ。
「おっせーぞ」
「はいはい」
 塾の授業やテストがない日には、蓮が相変わらず、僕の家に訪れて一緒に勉強や食事をしていくからだった。部活動を引退してから、その頻度は格段に増えた。まだ家は無人だったらしい、鍵を開けて彼を上げる。
「君は図書館とかに行ったりしないの? よく本を読んでいるのに」
「オレは家にあるのを虱潰しに読んでんだよ。オヤジがビブリオ・フィリアだからな」
「何それ」
「本集めが趣味だってことだ。家全体が書斎みたいな感じでな。でも実際には、あまり読んでねえみてえだ。それじゃもったいねえから、オレが読んでる、ってところもあるかもな。まだオヤジのコレクションの半分も読めてねえよ」
 そう、彼はケラケラと笑う。両親への不満もよく口にする彼だが、このことについては、読書好きの彼には喜ばしいことなのかもしれない。前回も同じ家庭状況だったはずだと考えると、その時の彼は、父親のコレクションを満足に消化できなかったに違いない。
――でも今度は、そんな不幸に遭わせやしない。
 そう、やり直し始めてから何度もした決意は表に出すことなく、僕は勉強道具をダイニングテーブルに広げる。今日は宿題が多い、本を読む時間はなさそうだ。


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