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 結局、その日の午前中に行われた準々決勝では何とか勝ったものの、午後の準決勝では優勝した相手に敗れたと、本人から連絡があった。記憶の通りだ。
 学校は携帯電話の持ち込みが禁止されていたが、僕はこっそり持ち込んでいたそれで、彼が帰りのバスの中で打ったらしい言葉を、下校前、文芸部の部室――他の教室からは離れていて、人通りが関係者以外ないことから「隠れ家」と呼ばれているそこで見た。
『レン:すまねえ! 準決勝で負けちまった』
『レン:明日は学校行くからな』
 部屋の鍵を内側から閉めたことを確認して、僕は暑さのこもる部屋で返信を書いた。
『Shinji.N.:お疲れさま。明日、学校で待ってるよ』
 それ以上の気取った言葉は、僕達には必要なかった。彼からも返信はなく、翌朝、彼は普通に登校してきていた。
「よ、おはよう」
「おはよう」
 黒板近くで他の友人らと話していた彼はしかし、その日は僕がその側を通り過ぎても、僕に付いてくることはなかった。そして、チャイムが鳴り、僕のところに戻ってくるとき、今年は受験に向けて一切席替えはしないと担任が言ったので、今年一年変わらない自分の席に座りながら、その人は僕に向かってニカッと笑いながら、こんなメッセージを伝えてきたのだ。
『聞こえてるか?』
 なんと、向こうからテレパシーを行使してきたのだ。そのことに一瞬驚きながらも、僕は一息ついて、適当に返しておいた。
『聞こえてるよ』
 すると、今日はこのあと、英語の小テストがあるからか、参考書を広げながら、こう返してきた。
『だろうな。あ、昨日までのことは、特に気にするなよ。もう終わったことだ、いつまでもグチグチと引きずっても仕方ねえからな』
 そうすることができる点は、僕は彼を羨ましいと思っていた。終わったことを終わったことだと、すぐに気持ちを切り替えられる。前に彼のことをずっと引きずっていた僕とは大違いだ。
『はいはい、承知しました』
 それで会話は終わった。本当はこの能力についてちゃんと話したいという気持ちもあったが、ここは勉強が優先だ。
 十分が経ち、前半期の学級委員長による号令で挨拶をした後の小テストが配られている間、彼はまた、その『能力』を行使して言うのだ。
『これでテストの時、分からないところがあっても教え合えるよな』
 それは『能力』の悪用ではないのか。しかし、それができるのは事実だし、一緒にいい成績で大学に合格して、卒業したい気持ちもある。
『まあ、いいんじゃないの』
 だが、自分で言うのもあれだが、頭のいい人同士だ、あまり教え合うこともないだろう……そう思って、開始の合図の後、名前を書いて、簡単な問題だったのでさっさと十問全問に解答をした後に、いきなりヘルプを飛ばしてきたのだ。
『ごめん、三番の問題、選択肢二と四で迷うんだけど!』
『これは二だよ』
 別に一問ぐらい間違えたって、追試験がある訳ではないが(追試験は四問以上不正解からだ)、多少ズルをしても満点を目指したいらしい。その後に、どうしてそうなるかを説明するかも忘れずに。これは自分の理解の確認でもある。
 そして、担任による終了の合図と共に、隣の蓮とテスト用紙を交換し、担任が言う正答の番号との一致を確認し、赤いボールペンで丸とバツをつけていく。蓮のそれは、僕が教えた問題は正解だったものの、他に一問だけ間違いがあった。僕のものは満点で返ってきた。
『わ、そこ違うのかよ』
『ちゃんと復習しなよ』
『言われなくても分かってるっての』
 用紙は回収されていく。今日、二時間目にこのテストを担当している先生の授業があるから、そのときには返ってくるだろう。
 その後、明日の全校集会についてのお知らせがあった後、清掃の時間となって一旦解散となった。三年生になってからも、出席番号順で清掃場所は自動的に割り振られ、僕は引き続き教室掃除、蓮は教室前の廊下の掃除の担当となった。
 ずっと箒担当でいるのも悪いので、上半期はモップ担当を引き受けた僕は、モップ専用のバケツに水を汲みに行きながら、早速廊下を箒で掃き始めた蓮の後ろ姿を見て思う。
――テレパシー能力、ねえ。
 これは、お互いを双子の兄弟だと認識していなかった前回にはなかったことだ。もっと言うと、これは僕の中身の変化や、それに伴う行動の変化以外では、初めて前回とは異なるポイントだった。
 自分以外の「他者」との間に起きた変更。でもまあ、そんなに重大なことではないだろう、その時の僕は、そう楽観視していたのだった。


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