Long story


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25

 自分だけのものであると主張する。
 自分だけのものであってほしい。
 それが独占欲であることに間違いはない。
 誰かのものであることに喜びを感じる。
 誰かだけのものになりたい。
 それを独占欲というのかは定かではない。

Side Kaname


 何であんなことを言ってしまったのか。
 最近分からないことだらけの俺は、やっぱりそれも分かっていなかった。
 あんなの、自分に不利になることばっかりなのに。

「お前言ったよな?他の約束なんてどうでもいいって」

 今だってほら、押し倒したら全力で蹴り飛ばされて。
 それでも押し倒したら、思いっきり睨まれてこの様だ。

「破棄するって言ったわけじゃない」
「似たようなもんだろ」

 大晟は俺を睨み付けたまま、俺を足で押しのけようとする。
 しかし俺の怪力にかかれば、それを制するのも簡単なことだ。
 だとしても、あんなこと言わなければこんなことにはならなかった。

「全然違う。もういいからヤらせろ!」
「うあっ、こっ、の…エロウサギが……ッ!!」

 だけど、どうしてか後悔はしていない。
 無理矢理押し倒して、首筋に顔を埋めると大晟はそう言ったきり大人しくなった。

「っ…」

 首に吸い付くと、大晟の肩がビクッと跳ねた。
 今まではキスマークなんて付ける奴の気が知れなかったけど、今は何となく分かるような気がする。

「俺のもの」

 誰かにそう主張したいのか。
 本人に分かって欲しいのか。
 自分に言い聞かせてるのか。

「要」

 名前を呼ばれて顔を上げる。
 大晟は俺を見上げながら、俺の髪に触れてそれから頬にキスをした。

「なっ…何すんだよっ」
「何と聞かれればここにキスしただけだ」

 指が頬に触れる。
 指先で触られただけでも、その体温を感じる。

「もし何故と聞きたいなら、され慣れてないお前の反応が面白いからだ」

 大晟は俺を見上げたまま楽しそうに笑う。
 頬を撫でられるとくすぐったい。

「馬鹿にしやがって……」
「馬鹿にしてるんじゃねぇよ。まぁ言い方を変えるなら可愛いって表現もある」

 か……かわ……。
 ……かわ…いい……?

「はぁ!?冗談じゃねぇ!!」
「そういう反応も、面白い」
「てめぇ…!」

 完全に俺を使って遊んでいる。
 何だ、朝から俺に無理矢理襲われた腹いせのつもりか。
 朝食に間に合わせねぇぞ。


「要」


 どうしてか。
 名前を呼ばれると、怒っていても黙ってしまう。
 これじゃあまるで俺が飼い慣らされているみたいだ。



「お前の、この髪は割と好きだ」
「……は?」


 人の髪を弄んで、急に何を言い出すかと思えば。
 脈絡がないどころの話しではない。


「透き通って綺麗だし、触り心地も悪くない」
「っ…」

 大晟の顔が俺の耳元に近寄る。
 耳に熱い息がかかって、ぞくっとした。

「その紫色は、人の眼の色にしちゃあ趣味が悪いが…まぁ悪くない」
「……褒めてんのか貶してんのかどっちだ」
「褒めてんだよ」

 俺の質問に即答して、大晟は俺の首に腕を回す。
 ゆっくりと体温が伝わってくる。


「一番好きなのは、この体温だ」

 誰も自ら触れようとはしなかったこの冷たさに、自分から触れてくる。
 冷たい身体が、大晟の熱で少しだけ温かくなる。それが心地よく、全身に広がっていく。



「だけど約束は破らない。だからお前のことは大嫌いだ」

 「好き」と言われたことは沢山ある。それはいつも、終わりを示す言葉だった。
 それが終わりの合図だと最初から伝えてあって、それでもそれを口にする意味も分からなかった。終わりたいからそんなことを言うのかとも思ったけど、いざ終わりとなると嫌だと縋るのだから尚のこと意味が分からなかった。

 俺は、そんな言葉を望んだことはない。
 いつも、その言葉が出て来るとうんざりした。

 その言葉を聞いた瞬間に、すべてが冷めきってしまう。
 だから、自分好みに作り替えた玩具を手放すことに抵抗はなかった。その後にその玩具がどう壊れようと、俺には関係のないことだった。
 中には自分好みにする前に壊れてしまうこともあったけど、それでも何とも思わなかった。


「……うるさい」


 それは、本来なら終わりを意味する言葉なのに。
 好きだと言われて、うんざりしなかったのは初めてだ。

 それが、本来ならまだ終わらないと分かる言葉なのに。大嫌いだと言われて、もやっとしたのも初めてだ。


「ほんと、うるさい」


 俺がどうして、自分に不利になるようなことを口にしたのか。
 なんとなく分かったような気がした。


 **


 大晟が変なことを言ったせいですっかり気分が萎えてしまった。
 しかし、そんな萎えた気分をも持ち直すことができるのだからこの美人は本当に凄い。いくら萎えていても、ひとたび喘ぎ声を聞けばそんなもの一瞬で忘れてしまう。


「っ、…んっ」

 手錠で拘束してバイブを突っ込む。
 振動の段階を一気に一番上まで上げて喘ぎ声を聞きながら、ベッドの下で道具を探る。
 どれもこれも仕様済みばっかりだが、別の箱を探っていると面白い物を発見した。

「大晟、みてみてー」
「…なっ…おま……それっ!」

 バイブの振動に全身を震わせていた大晟がさぁっと青ざめる。
 気持ちは分からなくもない。

「猫耳とー、尻尾と、首輪でーす」

 ふらふらと揺らすと、大晟の表情が更に強張った。
 白い猫耳と白い尻尾。いつ使ったのかも覚えていないくらいずっと奥に閉まっていたけど、真っ白のままだ。説明書も綺麗なままで保存されている。
 まぁ、看守室から持って来たっきり一回も使ってないから当たり前だけど。あれだけ神経連動式の話を聞いたのに、見つけるまで存在すら忘れていた。

「そんなに青ざめなくても大丈夫だって。神経連動式じゃない」
「……本当だろうな?」
「本当。感覚連動式ではあるけど」

 まぁいわゆる、神経連動式の劣化バージョン。
 製造元も機能的にも似てるけど、こっちは販売中止になってないから大丈夫。

「この後飯食って、それから労働だって分かってんだろうな?」
「俺に文句言う前に従順になれば、朝食は抜きにならないかもな?」

 そう言って笑うと大晟は押し黙った。
 まぁ、大晟は肉体労働が多いから朝食抜きになると厳しいだろう。
 それが分かっててこんなことしてる俺は大概鬼畜だ。

「んっ…あ、うあっ」

 説明書を見ながら(有難いことに振り仮名が振ってあった)尻尾を設置する。てっきりアナルプラグみたいになっているのかと思ったがそうではないらしい。「臀部の上の尾てい骨に貼り付けてください」って書かれてるけど、残念ながら臀部も尾てい骨もどこか分からないから、図を見ながら適当に貼り付けることにした。
 粘着強度はそれなりに強いようだが、本当にこれで感覚連動なんてするんだろうか。疑わしい。

「っ…なんだ、これ」
「なんかの物質が皮膚に密着して感覚が連動するんだってさ」
「なんかって…それが一番重要だろ。気持ち悪ぃ……」

 白い耳を頭にセットしながら答えると、大晟が少しだけ表情を歪めた。
 何の物質なのか詳しく説明書を見れば分かるんだろうけど、面倒くさいから却下。

「最後に首輪を嵌めれば――…はい、完成」
「うあっ!?」

 鈴の付いた首輪を嵌めてから尻尾を撫でると、大晟の体がビクッと跳ねた。
 首輪が感覚連動の制御装置。これを嵌めた瞬間に、感覚が連動を開始する。

「どう?尻尾を撫でられた感覚は?」
「やめっ…やば…っ、ぅああっ!」

 もう一度尻尾を撫でると、先ほどよりもぶるっと震えた。
 多分、あと数回くらい尻尾を撫でるとイってしまうだろう。

「イっちゃダメだぜ」
「ばかっ…つかっ…つかむなぁ……!」

 余程刺激が強いのか、抵抗している足に全然力が入っていない。
 勝手にイかないように、尻尾を掴んで大晟のものに巻き付ける。余った尻尾がびくびくと震えて、これまたエロい。

「触っただけでこんなになるって、バイブ当てたらどうなるかな?」
「は…あっ……ひああッ、あっああッ――――!!」

 イった。
 後ろに銜え込んでいたバイブを抜き取って、びくびくと震えていた尻尾にあてた途端に、ガクガクと足を震わせてビクンッと体が跳ねた。
 いくら出さずにイくことに慣れてるっていっても、前立腺を刺激したわけでもない。変な物質でくっつけた尻尾にバイブあてがっただけでこうも簡単に達してしまうとは。

「じゃあ、今度はこっちと同時に責めてやるよ…っ」
「ふああ!…やめっ…馬鹿……あっ、あ、うあッ―――!」

 またイった。
 バイブがなくなって引くついていたところに自身を押し込みながら尻尾を撫でると、まだ奥まで入っていない段階でまた体が跳ねあがった。
 身体を震わせ、荒い息を口から洩らす。そんな余韻に浸る間もなく奥まで押し込むと、まるでイき続けているかのように、先ほどよりは小さいながらも身体がまた何度か跳ねた。

「やべ、ちょー気持ちい」
「あっ…あ、うああっ……やめっ…イくの…止まらっ……」

 何度も体が跳ねるもんだから、もうどのタイミングでイっているのか分からない。それどころか、猫耳と尻尾を付けてまだ数分も経っていないというのに、いつの間にか堕ちてしまっている。
 本人もどうにもならないのだろう。耐えることもままならないようで、涙をぼろぼろと流しながらただひたすらに快感を呑みこんでいるという様子だった。

「イくの止まんないくらい気持ちいい?」
「あっ、んんっ…きもひ…きもち…っ、けどぉ……ああ、あぅっ」

 もう自分でもいつイっているのか分かっていないのかもしれない。
 奥を突かなくても、少し腰を動かしただけで吸いつくように締め付けてくる。

「何、これだけ気持ちよくてまだ足りねぇの?」
「ひゃあっ、みっ……耳だめっ、あああっ」

 猫耳に舌を這わすと、また一段と体が跳ねた。
 イき続けるのはそれほどまでに辛いのか、快感に呑まれながらも辛そうな表情が俺を見上げる。

「足りねぇんじゃねーの?」
「ああッあん、ぅうっ!ん――――…!」

 猫耳と普通の耳を同時に責めたらどうなるかと思って、猫耳に噛みつきながら耳を指先で撫でると、ガクガクと足を震わせる。押し寄せる快感に耐えるように身を縮ませ、しかし耐えうることなく達してしまったようだ。
 そのまま再び快感に身をゆだねるかと思えば、大晟の身体は余韻に震えながらも何かがこと切れてしまったかのように動きが鈍くなる。それとほぼ同時に、涙でぐしゃぐしゃになった瞼がゆっくりと落ちて行く。

「寝ちゃだめだ、ろっ」
「っ、あ―――!!」

 奥を突きあげ、意識を飛ばしそうになった大晟を再び引き戻す。
 落ちそうになった瞼が再び持ち上がり、動きの鈍くなった体も再び跳ねた。

「寝てる暇があったら質問にちゃんと答えろよ。まだ足りねぇの?」
「っ…あ、ああっ…ぁあっ」

 意識を飛ばしそうになっているのだから、足りないどころかもういっぱいいっぱいなのは一目瞭然だ。
 分かっていながらも無理矢理現実に引き戻して、更に快楽を与えると甘い表情が苦しそうに喘ぐ。この表情がたまらない。

「うあっ…あっ、はぁっ…か、なっ…つめた…の…がっ、ああっ」
「…なんて?」

 快楽に耐えるのに意識を取られているからか、言葉がちゃんと繋げていない。
 仕方なく動きを緩めると、大晟は深く息を吐いた。

「はぁっ、ぁ……たいお、んっ…要の、っ…つめた…の、ほし……っ!」

 覗き込んでいる顔に、ぎこちない動きで頬を寄せてくる。
 それから涙で滲んだ瞳が俺を捕え、大晟の唇が一俺のそれ瞬だけ触れる。
ガチャッと、手錠が揺れた。

「―――――やば…っ」
「ふあっ…あ、うああ……ッ」

 やばい、と思った時にはもう遅かった。
 触れるだけのキスで体の中が沸騰したみたいに熱くなって、そうこうしているうちに大晟の中に熱を吐きだしていた。


「くそ…不意打ちなんて卑怯だな……」

 まさか俺がキスだけでイかされるなんて、冗談じゃない。いや、俺は別にキスでイったわけではなくて、その他もろもろの要因が…もういい。何でもいい。
 大体何で俺はこんな不意打ちかまされたにもかかわらず、手錠を外そうとしてる?馬鹿なのか俺は。…いや馬鹿だけど。
 そんないかにも馬鹿っぽい自問自答を終えると同時に、ガシャンと音を立てて手錠が外れる。すると、自由になった大晟の腕がすぐさま俺に伸びてきた。

「ん……つめた…」

 ぎゅっと、首に回された腕に力が込められる。
 満足そうに呟く声が、背筋にぞくぞくとした感覚を走らせた。


「はぁ――――…もう。朝飯行けないの、お前のせいだかんな」


 変なこと言って萎えさせたと思ったら、変なことして人を興奮させる。
 まったく、一体どれだけ人を翻弄すれば気が済むんだ。


 **


「あっれー?」
「痛っ…髪引っ張んな!」
「あ、ごめん。もうこれ取れねーや、お手上げっ」
「取れねぇわけねぇだろ!冗談じゃねぇ!」

 大晟はいかにも苛立った様子で声を上げると、俺の持っていた説明書をひったくった。
 俺だって冗談で言ったんじゃねーっつの。

「耳と尻尾は簡単に取れたのになー」

 現在午前6時半。
 5時に起きてから朝食抜きで1時間弱ヤって、うなだれる大晟を引っ張ってシャワー浴びて戻ってきて現在。
 シャワーに行く前に取った耳と尻尾は綺麗に洗って窓際に干してある。首輪は目立たないからシャワーの後でいいやって思ったんだけど、それが悪かったのかな。

「耳と尻尾は洗えるように防水加工してありますが、首輪に防水加工はほどこされておりません。装着したまま水などに濡れて機械が故障した場合、外せなくなる可能性もあります」
「え」
「その場合……何らかの影響で自然に外れるか……特殊な…手術でしか……取り外しが不可能と…なります……」
「えっ」
「無理に外そうとすると…身体に影響を及ぼす可能性がありますので……取扱いには…十分に注意し……くれぐれも…水などに晒さないように…して………」

 止まった。
 説明書を読み終わる前に大晟の思考が停止した。

「た……大晟…?」

 大晟の体が震えているのは、決して快楽にとかそういうじゃない。
 俺が声をかけると、説明書がぐしゃっと音を立てて大晟の手の中で潰れた。

「要てめぇ…ッ!!」
「うわ―――!落ち着け、落ち着いて!!」
「これが落ちついてられるか!!手術しねぇと外れねぇだと!?冗談じゃねぇ!!」

 原型のない説明書を投げ捨てた大晟が、今度は俺に掴みかかってきた。
 今度は俺が潰される。

「だって耳と尻尾が防水だったらこれも防水だと思うじゃん!?」
「思い込みで判断するじゃねぇ!ちゃんと読んでから使え!」
「ごめんなさい――うん?」

 何だこの凹み。
 鈴の下に、よく見ないと分からないくらいの凹みがあった。

「何だよ」
「いや…鈴の下に…なんだこれ、ボタン?」

 小さすぎて指では押せない。
 首を傾げている大晟を押しのけて、引き出しの中に仕えそうなものを探す。
 確か前に、ほっそい木の棒が沢山入ったケースを看守室から盗んで放置していたような気が…あった。
 ケースには「つまようじ」と書かれてあった。ひらがなで書かれた字が読めたことが嬉しくて持って帰ったものの、用途が全くもって不明で引き出しに押し込んでいたものだ。

「おい…何してんだよ」
「このボタン押したら取れるかもしんねー…よしっ、押した」

 つまようじ使ってボタンお押して、今一度チャレンジだ。
 これで取れたら俺はヒーローになれる。

 チリン。

「あれ?」

 取れない。だけじゃない。
 今なんか、音しなかったか?

「おい」
「…えーと」


 チリン。首輪にくっ付いている鈴をつついてみると、また音がした。
 それはつまり、さっきまで「形だけ鈴」だったそれが「本物の鈴」となって機能しているということだった。

「要くん?」
「せっ…説明書!」

 要くんなんて!要くんなんてこれ絶対ヤバイやつだ!!
 どんどん青筋を立てる大晟を横目に、原型のない説明書を急いで広げる。
 先ほど大晟が読み上げた更に下へと視線を向けた。

 飾りの鈴は、底のボタンを押すことで本物の鈴のように音が出る機能つきです。
 一度ボタンを押すと機能の電源が入り、もう一度押すと電源が切れます。光で充電する仕組みになっているので、電池はいりません。

「大丈夫!切れる!これは切れる!」

 もう一度つまようじでボタンを押して、鈴を揺らす。
 音はならないはずだ。

「―――よし、鳴らない」
「全然よくねぇよ!」


 大晟はそういって俺の胸倉を掴む。
 確かに根本的な解決にはなってねぇけど。

 胸倉を掴まれながら、改めてその容姿を見る。
 首輪が紫色なのは、いくつかあった中で俺が自分の眼の色を選んだからだ。
 それが、大晟の首に巻き付いている。その中心で、金色の鈴が揺れる。

「割といいかも」
「だからよくねぇって、うわっ…」

 大晟の言葉を遮るように首に抱き付くと、驚いた声と共に体が布団に倒れ込んだ。
 また一段と怒らせたかなと思って顔を覗くと、やっぱり怒ったような視線が俺を見上げていた。

「いいじゃん、よく似合ってるし」
「お前…他人事だと思って…」
「紫に、金の鈴。俺の飼い猫ってすぐわかる」

 キスマークは消えちまうけど、これは消えない。
 誰に付けられたか分からないけど、これは一目瞭然だ。


「いい迷惑だ」


 そう言いながらも、大晟は俺の背中に手を回してきた。
 ぎゅっと抱きしめられると、どうしてかすごく安心した。




独占欲
(まるで、俺が大晟のものみたいだって思った)



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