17 人は自分にないものを求める。
自分にないものを、できないことを求めて文明を進化させてきた。
だから人は、自分の持っているものを持っている他人に惹かれるのだろう。
その結果の感情が憎と出るか愛と出るか、はたまた他の何かになるのか、それは人それぞれだ。
Side Kaname 久々に労働に復帰すると、だれる。
体力仕事ならまだしも、それがコンピュータ相手の仕事となると尚のことだれる。
そもそも俺はこういう頭使う感じのことが大嫌いだってのに、こんな仕事に回すんじゃねぇよ。
力仕事なら他の奴の3倍は働けるってのに、頭の悪い看守共が。
「だぁ――、やる気おきねぇ―――」
キーボードに倒れ込むと、勝手に画面に沢山の文字が勝手に打ち込まれた。
もうこのまま提出してやろうか。
「後ろから看守に睨まれてるよ」
画面を見ることもなければキーボードを見ることもなく、紙媒体に視線を落としたまま驚く速さでキーボードを叩いていく龍遠は、あまり心配している様子なく呟いた。
その状態で後ろまで見えるなんて、一体どういう体のつくりしてんだ。後ろに目でも付いてるのか、この腹黒王子は。
「どーでもいい――。ヤりて―――」
2時間に及ぶコンピュータとの格闘で非常にストレスが溜まっている。
今すぐ大晟をとっ捕まえて、がんがんに突き上げたい。
「今日の朝はご無沙汰だったの?」
「ううん。3回ヤッた」
「うわぁ……」
龍遠の手が止まった。
俺に向けられる視線はあからさまに引いていて、尚且つあからさまに軽蔑しているものだ。
「大晟がエロいのが悪い」
「そんなの理由にならないでしょ」
「龍遠だって似たようなもんだろ。被害者の声は絶えない」
この腹黒王子は意外と容赦ないからな。
被害者が休日に部屋で死んだように寝てるか唸ってるってことがしばしばあるのを俺は知ってる。遊ぼうと思って行って追い返されたことが何度となくあるからだ。
「俺と要とでは根本的に違うでしょ?俺の場合相手は常に一人だし、少なくとも時と場合は弁えるよ」
「俺だって相手は一人だよ」
時と場合は弁えてねぇかもしんねーけど。
「相手の人数とか魅力がどうとかじゃなくて、要は恋愛感情があるかないかって話」
それを言われるとぐうの音も出ませんが。
しかし、龍遠があの被害者に恋愛感情があるのかと聞かれればそれも疑問だ。好きならそれこそもう少し優しくするもんじゃないのか?それこそ、有里ちゃんなんて目に見えて溺愛すぎてあれはあれでどうなのって感じだけど、少なくとも龍遠よりは恋愛って感じがする。まあ、本人が恋愛だと称して相手がそれを了承して出来てる関係なんだろうし、それでバランスが取れてるなら俺が口出すことじゃない。
どっちにしても俺には恋愛感情なんて皆無だから、その時点で龍遠との違いは明白になってしまったということだ。
ただ、それで納得してしまうのも何だか悔しい気がするけど。
「いやでもな。この間のチョコの時も……これ以上言うとまた殴られるからやめとこ」
チョコの時もそれはもうエロくって仕方がなかったんだけど。
あー、思い出したら余計にヤりたくなってきた。
「要が大晟さんのこと喋ってるの、捷が言っちゃったんだっけ?」
「よく知ってんな」
「週末に稜海の制裁が待ってるからね。みものだよ」
まじかよ。
この腹黒王子が楽しそうに笑うってことは、それなりの制裁が待っているに違いない。
これは絶対に見逃せない。早起きしないと。
「でも、だからって素直に言うこと聞くなんて珍しいね」
「だって殴ってくんだもん」
「それを力でねじ伏せないところが珍しいって言ってるんでしょ?そのために人間捨てたんじゃないの?」
何この人。稜海より酷い。
棟の責任者っていうのは冷血人間しかなれないようになってんのか。
まぁ、変に気を遣われるよりはいいけど。
「だって大晟、意味分かんねーんだもん」
「頭撫でてくれるから?」
龍遠はキーボードに倒れ込んでいる俺を見下ろして、クスリと笑う。
先ほど止まった手はもう再起動していた。今は俺を見下ろしているって言うのに、本当に一体どうなってるんだ。
「……何でそれ、知ってんの?」
「ゆりちゃんが教えてくれた」
うんまぁ、それしかないだろうな。
ゆりちゃんもなんだって、わざわざこの腹黒王子に喋ってんの。
余計以外の何者でもない。
「ゆりちゃんの馬鹿野郎」
「それから、キスしたことで悩んでたらしいね。これは稜海情報」
「どいつもこいつもプライバシーってもんを知らねーのか!」
「大晟さんのことあれだけ吹聴しておいて言えたことじゃないでしょ」
それを言われると、返す言葉はない。
大晟だけでなく、これまでの玩具のことだって洗いざらい話しまくってきた。
ただ、俺が思っているのは。
頭撫でられたことでもなければ、キスしちゃったことでもない。
いやまぁ、それはそれで確かに理解不能だけど。
「今の意味分かんねーのは、そうじゃなくて」
俺が切り出すと、龍遠は再び手を止めた。
今度は引いているわけでも軽蔑しているわけでもなくて、俺の話をちゃんと聞く気でいるからだ。
「大晟は俺のこと殺したいくらいに嫌いなんだって」
まぁ、それは仕方がないというか。当たり前のことだと思う。
21歳の成人男性が、14歳の子どもに組み敷かれて反抗すらできないんだから。
本当に意味が分からないのは、その次だ。
「それなのに、俺の体温は嫌いじゃないって」
まるで血が通っていないかのような、冷たい身体。
それは季節なんて関係なくいつもそうで。
それどころか、シャワーを浴びていようがどんなに暖かい場所にいようが変わらない。
俺はこの体温が嫌いだ。
まるでロボットのように、冷たい温度が嫌いだ。
大晟は、それを嫌いじゃないと言った。
俺のことは大嫌いなのに、この体温は嫌いじゃないと、そう言った。
「どうして冷たいか話したの?」
「ううん、話してねーよ」
大晟は俺のことを何も知らない。
もしも知っていたなら、多少なりと気を遣ったのだろうと推測もできる。
そうじゃないから、余計に意味が分からないんだ。
いやまぁ、大晟は俺に気なんか遣わないかもしんないけど。
でも、大晟は確かに言った。
俺のことは大嫌いだけど。
俺の体温は嫌いじゃない。
「嬉しかった?」
机に頬杖を付いた龍遠が、少しだけ笑う。
「まさか」
大晟はただ俺の体温が嫌じゃないと言っただけだ。
ただそれだけのことだ。
たったそれだけのことが、嬉しかった?
「本当に?」
「ちょっと…、悪くないかなって思った……」
問い詰められて咄嗟に口に出た言葉は自分でも意外だった。
口にしてから初めて、自分がそんなこと思ってたんだって知った。
嬉しいかと聞かれたら、まさかそんなわけって思う。
悪くないと思ったって言われたら…そうなのかなって思う。
自分で言ったんだから、そんなの当たり前だけど。
**
「ということで、今日はこんな小説を持ってきました」
「面白いタイトルだな」
龍遠が差し出した一冊の本を、大晟は興味深げに受け取った。
残念ながら、ひらがなが辛うじて読めるだけの俺には「の」と「い」しか分からない。他は全部漢字だった。
え?そんなんでどうやって漫画読むのかって?
漫画の中身は全部振り仮名振ってっから大丈夫なんだよ。たまに読者に優しくないやつは、諦めて燃やす。
…うん、そうじゃなくて。
「内容もなかなか面白いよ。昔は学校の教科書にも載ってたんだって」
「ほー、さんきゅ。俺はこれ」
「物騒なタイトルだね」
これまた、間にある「の」しか読めない。
だから、どこら辺が物騒なのかさっぱり分からない。
…うんだからさ、そうじゃねぇんだって。
「お前にぴったりだと思うぞ」
「その言葉にどう返すかは読んでから考えるよ。ありがとう」
いやいやいや。
何なのこの人たち。何してんの?
「ちょっとお前ら!なに人の部屋で交換日記みてーなことしてんだよ!」
ていうか龍遠は何でここにいんの?さっき階段で俺と別れたよな。
本持ってきてるってことは一旦自分の部屋に戻って来てるはずだよな?
ここよりも上の階に部屋があるはずなのに、どうして俺より先にここにいんの?
「俺の部屋だ」
おっと待ちなさいよ大晟君。
君がどいう立場でここにいるのか分かってんのかな?
「お前玩具、俺所有者!はい誰の部屋!?」
「俺の」
おいこら。即答してんな。
「お前、後で覚えとけよ」
「ん?もう忘れた」
こいつ…ッ!
「ぜってー泣かせる」
俺にそんな態度を取ったことを心底後悔させてやる。
甘い顔でおねだりくらいじゃ終わらねぇからな。
「お取込み中悪いけど、そういうことは俺がいなくなってからにしてね」
ああ、そうだった。
そういえば龍遠がいたのを忘れて…って。
「だから何でいんの!?」
大晟の発言に気を取られて指摘し忘れちゃってたじゃん。
てか、一応責任者なのに、前より悪化してるこの部屋の状況について何かコメントはねーの?その点についてはもう処理済みなの?
抜き打ち点検の時に根こそぎ持って行くために今は放置とか?…有り得すぎてぞっとするんだけど、それ。
「交換日記ならぬ、交換小説を渡しに来たんだよ」
そう言えば、前にも大晟が龍遠から借りたって小説読んでたな。
あれは確か――タイトルは忘れた。でも、約束がうんたらとかいう小説だった。
「何でどいつもこいつも好き勝手に……」
俺の玩具に接触してんじゃねーよ。
これまでは捷が襲撃してくる以外はまるで無関心だったくせに。
今回はゆりちゃんも稜海も、龍遠までが首を突っ込んでくるなんて。
一体どうなってるんだ。
「じゃ、俺はそろそろ帰るから」
「さっさと帰ればーか」
「ん?」
ひっ。
「どうかお帰り下さい……」
一体どうやったら笑顔がそんなに怖く見せられるんだよ。
何だそのブラックオーラ。どっから湧いて来てんの?
「大晟さん、要のこと可愛がってやってね」
は?
何言ってんだこのクソ腹黒王子。
「俺が…可愛がんのか…?」
大晟が首を傾げる。
それに対して、龍遠はうんと言わんばかりに頷いて見せた。
「生意気だけど、躾けるときっと可愛いよ」
マジで何言ってんの?
龍遠ってば、俺と大晟と関係性を忘れちゃいました?
まさか、そんな馬鹿じゃないことは分かってる。
けど、そんな馬鹿にしか思えないような発言だ。
「まぁ、まだ誰も躾けれたことないんだけどね」
龍遠はそう言って楽しそうに笑う。
そしてらひらひらと手を振りながら、さっそうと部屋から出て行った。
本当に一体なんだったんだ。
「どういう見方をしたら、こんな生意気なクソガキを可愛いと思えるんだ?」
「一応言うけど、真顔で本人に聞くことじゃねぇからなそれ」
腕まで組んでちょっと真剣に考えてんじゃねぇよ。
綺麗な顔でじっと見つめてくんな。…ムカついてても綺麗だなちくしょー。
「やっぱりただただ腹立たしいだけのクソガキだ」
誰がクソガキだ。納得したように頷くな。
「ベッド直行!俺への数多の無礼を後悔させてやる!」
**
そう言っていつものように手錠で拘束してみたものの。
「さてどうしよう?」
後悔させるっていっても、いつかの時みたいに痛みで泣かせるのは俺の好みじゃない。
道具を使うにしても大体経験済みだし、またエネマグラっていうのもなー。あれなんか、見てる俺の方が苛々するし。
放置プレイも見慣れたもんだし、バイブなんてもうお馴染みすぎて楽しさのかけらもねぇや。
「そういうことは手錠をかける前に考えとけ」
「―――!!」
もんもんと考えていると、苛立ちの混じった声と共に足がこっちを向いていた。
そして迷うことなく急所を捕えた。
「おお、ナイスヒット」
「なっ…てめっ……ふざけ……!!」
痛すぎてろくに声もでねぇ。
何しちゃってくれてんのこの玩具。暴れ馬どころの話じゃねぇ。
「つっ…使い物にならなくなったらどうしてくれんだよ!!」
「それ以上に嬉しいことはない」
俺の急所を思いきり蹴り上げた大晟はそう言って、さも楽しそうに笑った。
手錠かけられて今から好き勝手されようっていうのに、どうしてこの男はここまで余裕をかましてられるのか。
「大晟さ…それが後々自分の首を絞めるってことが分かんねーの?」
そう言うと、大晟は少しだけ驚いたような表情を浮かべた。
一体どこに驚くところがあったんだ?
まさか、こんなことしておいて普通にしてもらえるなんて思ってたわけじゃねーよな?
それくらい俺でも分かるし、俺が分かるなら大晟が分からないはずがない。
「お前…自分の首を絞めるなんて言葉知ってたのか……」
そこかよ。驚いたところそこかよ。
なにちょっと感動したみたいな表情してんだよ。
どこまで人を虚仮にしたら気が済むんだ。
「俺のこと馬鹿にしすぎじゃない?」
「カタカナも書けないような馬鹿に馬鹿と言って何が悪い」
「カタカナくらい書けるわ!アルファベットだってちゃんと覚えてるもんね!」
「それは労働に必要だからだろ」
ええそうですとも。
体力面でも点で使い物にならなかったからって無理矢理覚えさせられましたとも。
ロイヤルになる前だったから、看守の態度も最悪だった。
「言っとくけど、そうやって生意気言うたびに首がどんどん締まっていってんだからな」
「はっ、お前相手に首絞めたくらい何だってんだよ」
大晟はそう言って、どこか嘲笑するような表情を浮かべた。
「何それ、俺がザコだって言ってる?」
だとしたらちょっと本当にムカツクんだけど。
「ちげーよ」
その嘲笑は、俺に向けてのそれか。
それとも、自分自身に向けたものなのか。
「ここでは片方が労働を休むと、もう片方に負担がかかる。ルームメイトは一緒に食事に行かなきゃならない」
それは、確かにそうだけど。
それと今の話と、一体何の関係があるというんだ。
「1週間。俺に与えられるのは目の前にいる奴の性欲だけだ」
「は…?」
「食べ物も、水も、何も与えられない。そんな中で、飢えをしのぐ方法は何だかわかるか?」
与えられるのは、性欲だけ。
俺は漢字も読めない馬鹿だけど、大晟の言いたいことは何となくわかった。
「1週間。1日置いてまた1週間。…いくらお前が鬼畜でも、ここじゃあそんなことできねーだろ」
そんなことが、一体どれくらい続いたというんだろう。
どれくらい続いたら。
それほどまでに無機質な表情で、まるで他人事のように話せるようになるのだろう。
「そーだな」
ここに居る限り、長く拘束できたとしても週に1日の休みの日の24時間くらいだ。
自分の食事のことなんかを考えると、それすらも難しいかもしれない。
俺は大晟の腕を拘束している手錠に手を伸ばして、その鍵を外した。
カシャン、と言う音が妙に耳に残った。
「…何だよ、同情でもしたのか」
「ばーか。締まらねぇ首絞めたって楽しくねーんだよ」
大晟はいつも余裕でいる。
それは今の俺をなめているとか、そういうことじゃない。これから先に俺が今以上に鬼畜で下衆になったとしても。
俺のできることには限界があると分かっているからだ。
そして。
その限界以上のことを、既に知っているからだ。
「じゃあ、どうするんだよ。スクラップにでもしてくれるのか」
何でちょっと嬉しそうな顔してんだよ。
限界以上のこと知ってるからって、スクラップになんてしねーっつの。
「むしろ、遠慮せず限界までトライしていいってことだろ」
少なくとも、珍しい道具使って病院送りなんてことにはならないだろう。
1週間も誰かの精液だけで生かされるなんて生活してたくらいだから、道具や薬の類の耐性も並大抵じゃないと判断しても大丈夫なはずだ。
だけど、今はそんなことはどうでもいい。
「締まらない首絞めても楽しくねぇんじゃなかったのか」
「今はな。だから今日は普通にヤるだけにする」
とはいえ俺は馬鹿なので。
明日になったらそんなこと忘れて、その反面で何しても大丈夫ってことだけはしっかり覚えてるから。覚悟しとけよな。
覆いかぶさるように体重をかけると、綺麗な瞳が睨み付けるように見上げてきた。
そのまま放っておくと、そのうち悪態と一緒に拳が飛んでくるのが推測できる。
「そいつもそんな風に睨んでた?」
「あ?」
「お前のこと調教した奴」
大晟の表情が少しだけ歪む。
「いいや…」
その表情は、予期せず泣かせた時に見せた表情と少しだけ似ていた。
あの時泣いたのは、そいつに何かされた時のことを思い出したからなのかもしれない。
ここで出来る限界の、どれほど上を知っているのか。
それがどれくらい上だとしても、俺がその限界以上の大晟を知ることはできない。
でも、こうやって睨んできて、容赦なく拳向けてきて、悪態を吐いて、反抗的な態度で向かってくる。
そんな大晟を知っているのは俺だけってことだ。
**
そう言えば、今までこんな風に普通にヤったことってあったっけ?
普通にヤるってのが何の道具もなくただヤるだけのことをいうなら、ないと言わざるを得ない。
大晟はすぐに殴りかかってくるから手錠は必須。その時点で普通じゃない。
そういえばこの前咥えさせたときは手錠つけなかったけど、あん時もバイブ使ったしな。
「あっ、あ……ふあっ、かなっ…耳、やめ…!」
「もっとしての間違いだろ」
あれ以来試してなかったけど。
どうやら耳が弱いのは堕ちているから敏感になっていたとか、そういうわけではないらしい。
舌を這わすと、俺の下の動きに答えるようにビクビクと体が震えた。
乳首を責めるよりもよほど効果がありそうだ。エロい顔も間近で見れるし、責め甲斐がある。
「はぁっ…あ、あ…」
「これだけでイきそうだな?」
「んっ、じょ…だん、じゃ……」
息を吹きかけただけで震えるくせに。
美人に涙目で睨みつけられてもそそるだけだ。
「冗談?」
「ひあ…っ」
耳たぶを噛むと、身体が一際ビクンと跳ねた。
顔から口を離して、下の口に指を伸ばす。
「あっ、んッ―――ぅあっ――!!」
すでにぐずぐずになっていた後孔に思いきり指を突っ込むと、大晟は俺の腕を掴んで耐えるように目を閉じる。
追い打ちをかけるように中をかき回すと、耐えきることが出来ずに果てた。
「冗談じゃなかったな?」
「はぁ……るせぇ…」
うっすと目を開けた大晟はまた睨むように俺を見上げる。
余韻が残っているのか、微かに震えているのが掴まれている腕から感じ取れる。
こんな風に、見るだけじゃなくて体から相手の情動を感じるのも悪くはない。
かもしれない。
「飯までに終わらせないとな」
腰を持ち上げて、自身をあてがう。入口の皮膚がひくつく。
それと同時に、大晟はまた目を閉じた。
「そそられる顔」
「だま―――ああっ、あ…!」
また悪態を吐こうとしたので、何か言う前にあてがっていた自身を押し込んだ。
耐えるように険しい表情を浮かべる大晟が、俺の腕を掴む力を強めた。爪が立って痛い。
「いてぇんだけど」
「ざま、ぁ…みろ…あぅ……はあ、んっ」
俺を見上げて少しだけ笑った顔が、最高にエロかった。
「たく…本当に美人は得だな」
「っ…んっ、ああ…!」
「痛っ…大晟、腕掴むの禁止」
それが単純に快感に耐えるためなのか、俺への殺意なのかと聞かれたら。
迷わず殺意と答えるくらいには痛い。
無理矢理腕を離させると、今度は首に向かって手が伸びてきた。
「何?今度は首でも絞める気?」
突き上げると体が跳ねる。
それでも手は伸びてきて、問うと大晟はふるふると首を振った。
「ちが…、……んっ」
耳元に、大晟の息がかかる。
密着した肌から、大晟の体温を直に感じる。
熱くて、ぞくぞくした。
「何してんの」
「てめ、が…ぁ…つかむな、って、んあっ……たん、だろ…あっ」
だからって、どうして抱き付いてくんだ?
そんなことしたら、冷たさで興が冷めるだろう?
「くそ、つめてぇ……」
ほらみろ。
喧嘩売ってんのか。……売ってんのか?
「きもち、い……」
きゅうっと、締め付けが強くなる。
ぴりぴりと背筋に電流が駆け抜けるような感覚が走った。
「――――どういう感性してんだよ」
「ふああっ!」
思いきり突き上げると、首に絡みついている腕に力が入った。
また体が密着する。
大晟の体温は俺とは正反対に熱くて、気持ちいい。
「変なこと言うから、堕ちるまで待ってらんない」
「はぁ?…ああっ、あ、はあっ……んあ!」
堕ちてとろとろになった顔見ながらっていうのは最高だけど。
「大晟、イく…」
「ん…っ、あ、ふぁっ……あ、あ、ああッ―――!!!」
顔が見えなくても、こうやって密着しながらっていうのも。
癖になりそうだ。
それは、まるで普通にヤった記憶がないからか。
それとも、大晟が変なことを言ったからなのか。
少しだけ考えてみたけど。
感じている大晟の体温がとても心地よくて、すぐにどうでもよくなった。
正反対の体温(だから、こんなにも心地よく感じるのだろうか)
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mokuji
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