Long story


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1

 被告:紫部要(しきべ かなめ)
 罪状:窃盗,暴行,恐喝,犯人隠避,公務執行妨害…etc.
 判決:終身刑

 多くの罪を被った俺の、本当の罪を知る者は誰もいない。
 ここでは罪状なんて関係ない。窃盗だろうが殺人だろうが、罪は罪。同じ犯罪者として扱われる。
 人はここを地獄の監獄とか、野獣の檻とか言うけれど、そんなことは決してない。少な くとも俺にとってここは―――楽園に他ならない。


Side Kaname


 しばらく玩具はいらないと思っていた。というか正直、飽きていた。
 毎度御馴染みのパターン展開と、毎度御馴染みの結末。俺のセンスが悪いのかと思ってその辺に歩いていたやつに適当に選んでもらったこともあるが、それでも結果は同じだった。
 1週間が大体相場、2週間もてばいい方だ。どいつもこいつも本当に犯罪者かと疑うほどの根性のなさ――というより、意志の弱さと言った方がいいのだろうか。
 とにかく、ついこの間の最短記録3日を更新して以来完全に飽きてしまっていたのだ。だから、しばらくは看守室から盗んだテレビとゲームで年相応の少年らしい生活を送ろうと思っていたのだが。
 こんなに美人な玩具が自分からやってきたとあっては、遊ばない手はない。

「まつ毛も長いなー。肌も白いし、非の打ちどころがないよ。ねぇ、大晟くん?」

 返事はない。返事をする余裕もないのだろう。
 首筋に舌を這わせると、華奢な割にしっかりと筋肉のついた体がびくんと跳ねた。

「っ…!」

 表情が歪む。それでも、綺麗な顔は多少崩れても綺麗だ。

「感度いいな」

 まぁ、当たり前だけど。でも、こんなのまだ序の口だ。
 からかうように言うと、また射殺すような視線が俺を捕えた。両手を捕えている手錠ががちゃん、と音を立てる。

「死ね」

 この状況にあって、完全に支配下にある状態で、そんな口をきくなんて。
 どいつもこいつも、「助けてくれ」だの、「許してくれ」だの、「何でもいうことを聞く」だの、その場任せの哀願しかしないのが王道だ。だが、ときどき「俺は負けない」だの「思い通りにはならない」だのいうやつもいる。
 だが――こいつはどうやら少々威勢のいいタイプらしい。

「死ぬほど気持ちよくしてやるから、覚悟しろよ」

 本当は痛みで支配してやろうかと思ったけれど、予定変更だ。この手のタイプは痛みでは支配されない。だから、快楽で支配する。
 こういう威勢のいい奴ほど、快楽に堕ちるのが早く、そして一度堕ちてしまうと溺れるのも早いのだ。どうやら、今回も短い玩具になりそうだ。せっかく滅多にお目にかかれないほどの上玉だから簡単に手放すのは惜しい気もするが、溺れてしまうものに興味はない。

「ふざけん…っ!」

 腹部に舌を這わせると、また体が跳ねた。
 いつもなら既に甘い声が聞こえるところだが、威勢がいいだけあって中々頑張っている。

「嫌がってるけど、体はそうでもないみたいだな」
「っん!」

 既に勃ちあがっているものをなでると、綺麗な顔が一層苦痛そうな表情で覆われた。
 たいていの場合ここまでの時点で諦めて快楽に溺れるか、場合によっては達してしまうやつもいるっていうのに、さすがにあれほどの悪態を吐くだけはある。

「ま、その忍耐がいつまで持つか知らないけど…せいぜい頑張って」

 どうせ、長くはもたない。
 すぐに堕ちて、溺れて、そして用済みになるだけだ。


 **


「んっ…は、…うっ…ん!」

 必死に耐えるような声が室内に響き渡る。声が出ないように力いっぱい噛んでいる唇からは、少しだけ血が滴っていた。実に色っぽい。

「血も下たるいい男ってやつだな」
「だま…れっ……」

 途切れがちな言葉とともに、睨み付けるような視線が送られてきた。
 もう完全に痺れ薬の効果は切れて媚薬の効果だけのはずなのに、結構な忍耐力だ。

「ここまできてまだ悪態吐くか。…もっかいイッとく?」
「ふざけ――――っ、んんッ!」

 言葉半ばに中をかき乱してこの数十分の間に見つけて前立腺をついてやると、熱くほてった体が強張った。ほぼ同時に、相変わらず勃起しているものを握って上下にこすると、すぐに白く濁った液体が溢れだした。さすがにもう何度も達しているので、感度に弱くなっているようだ。

「気持ちとは裏腹に体は正直だな」
「はぁ…はぁ……」

 俺の言葉に返事はなく、射殺されそうなくらいの視線だけが返ってきた。
 手錠を掛けられていなくてかつその辺に包丁でもあったら、十中八九刺されていたに違いない。

「そろそろ挿れてくださいって言いたくなってきた?」
「死んでも、言うか」

 即答。
 プライドなんて捨てて、快楽に身を任せたほうがいいことは本人だって分かっているだろう。それ以前に、今達したばかりなのにもうゆるゆると勃ちあがっているところを見る辺り、体は嫌というほど快楽を求めているはずなのに。普通なら、プライドなんかに構っていられないほど熱を欲しているだろう。それなのに、この男は全く堕ちる気配がない。

「素直になってよ。俺もそろそろ限界なんだけど」
「ならお前が素直になればいいだろ」

 そう言って、大晟は薄ら笑いを浮かべた。

「……喰えないやつ」

 一体どこから、そんな笑いを浮かべられる余裕が出て来るのだろう。
 これほどまでに虐げられた状況の中で、まるで勝ち誇ったような笑みを浮かべられる余裕が。

「喰われたくなんかないからな」

 また余裕の表情で悪態を吐く。
 ここまでくると、是が非でも落としたくなる半面、簡単に落してしまうのがもったいなく思えてきた。せっかく手に入れた上玉だ、時間をかけて遊ぶのも悪くはない。
 またしても、予定変更だ。

「今日は俺の負けってことにしてやるよ」
「は?―――っ、ん!」

 さきほどから指を出し入れしていたおかげで、後ろの準備は万端だ。そしてこっちも、その色っぽい顔と必死に耐えるように洩れる声を聞いていれば、おのず準備は整ってくる。
 既に十分濡れた場所に自身のものをあてがうと、それだけで達したのではないかというくらい体が跳ね、そして震えた。

「そんなんで耐えられんの?」
「うるさ…―――っあ!」

 どうせ悪態しか吐かないのだから、それを最後まで聞いてやる義理はない。先端を押し付けると、まるでつい先ほどまで咥え込んでいたのかというくらい簡単に中に挿れることができた。

「あ…、あ…あっ」

 さすがの衝撃に、到頭唇を噛む余裕がなくなってしまったようだ。
 奥に進むたびに、洩れる声は先ほどとは比べものにならないくらいそそられる。

「もっと欲しい?」

 さすがに堕ちてしまうだろうか。
 せっかく長く遊ぼうと思ったのに、その矢先に堕ちられるのは些か残念だ。
 とはいっても、堕ちて溺れてしまったやつを相手にする気はないので、そうなったらすぐに本来予定していたテレビとゲームの生活に移行するまでだが。

「いら、…ねぇよ!」

 どうやら、その心配はなさそうだった。

「そうこなくちゃ」
「ひっ…ああ!」

 一度突き上げると、途端に甘い声が漏れるが、一瞬で口が噤まれる。どうせ無駄だと分かっていても、そうせずにはいられないのだろう。その視線はとても快感に呑まれている風ではなく、生理的な涙を浮かべながらもいつまでも俺を睨み付けていた。ここで俺が話蹴れば、また悪態を吐くに違いない。

「全部、逆効果だ」

 そんな目で見られると、逆にそそられる。
 悪態を吐ける思考回路を、俺のことしか考えられなくしてやりたい。
 今にも噛みついてきそうなその瞳を、俺のことしか映せなくしてやりたい。
 必死に耐えるようなその声を、俺を求めるだけのものにしてやりたい。
 こんな風に思ったのは――――…2度目だ。

「チッ」

 一瞬、嫌な記憶が頭をよぎった。

「あっ…ひあ!」

 指で弄っていた時に見つけた前立腺を突いてやると、今までにないくらい体が跳ねた。 体が小刻みに震え、拘束されている手の拳がぎゅっと握られる。ただでさえ辛そうだった表情が、より辛そうなものに変わった。

「簡単に堕ちてもらっても困るから、そろそろ終わりにしとこうか」

 というより、このまま焦らしてばっかりいると俺の方がもたなさそうだし。

「お前が……もたなくなった、だけだろっ」
「……本当に喰えないやつ」

 だが、こうでなくては面白くない。
 この頑なに揺るがない心が堕ちたら、一体どんな風になるのだろうか。
 全く想像もつかない。しかし、それがとてつもなく楽しくてたまらない。

「ひっ、あっ……あっ」
「イきそう?」

 聞かなくても、見てれば分かる。
 何度も突き上げると、綺麗な顔がどんどん歪んでいく。体が強張って、小刻みに震えて、握っている拳の力が強められているのが分かる。

「うる、せぇ…死ね…!」
「はいはい、黙ります、よ」

 素直にイきそうなんて言わないとは思っていたけど、死ねはないでしょうよ。ムードもへったくれもあったもんじゃない。
 流石に少しだけむっとしたので、思いきり突いてやることにした。

「っひあ、ッ―――あああ!」
「っ…!」

 減らない悪態を吐いていた口が、これまでにない喘ぎ声を上げながら果てたのは突きはじめてすぎのことだった。それとほぼ同時に、中の締め付けが強くなった衝撃に耐えられなくなった俺も、自分の欲を中に吐きだした。




新しい玩具の完成だ
(今度はどらくらい、楽しむことができるだろう?)


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