Long story


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9

 愛情ほど無駄な感情はない。
 誰かを愛し愛され、そこから得られるものなど何もない。
 そんなものがあるから、人間は脆いのだ。
だから、人間は愚かなのだ。


Side Kaname


 殺風景な景色の中に、同じ服をきた人間が何人も歩いている。その中には手を繋いでいたり、腕を組んだりしている者もいた。こんな牢獄内でデート気取りか。デートなんて格好じゃないし、デートらしいことをするところもないのに。もしかしたら、お互いがお互いのものだと見せつけているのかもしれない。
 そんなことでしか所有権を示せないなんて。そうでもしていないと離れていくかもしれないとでも思っているのか。もしそうならば、なんと薄っぺらな愛情だろう。


「ばかばかしい」

 そんな愛情いらない。…いや、元より愛情なんていらない。必要ない。
 俺に必要なのは適度の睡眠と食事と、それから長く遊べる玩具。ただそれだけだ。

 長く遊べる玩具。

 人は長く何かを所持しているとその物に愛着がわくなんて言うけれど、俺は断じてそんなことはない。愛着なんて、そんなものを抱いて何になる。愛着を抱けばより長く使えるのか。壊れないのか。そんなことあるわけない。仮にあるとしても、俺はそんなことで長く使える玩具なんていらない。
 だから俺には玩具の所有権を示す行動も必要ないし、ましてや愛着を示す行動なんてもっての外だ。

 それなのに。

 それなのにどうして俺は。


「未成年の喫煙は犯罪だ」

 考え事を遮るように、頭上から声が聞こえた。同時に目の前のカップルたちが見えなくなって、代わりに囚人服が視界いっぱいに広がった。
 咥えていた煙草を手に取りながら少し顔を上げると、今度は赤色の髪が太陽に光るのが目に入った。

「ゆりちゃん…」
「よう」

 ゆりちゃんは短く挨拶をすると、俺の座っているテトラポッドの隣のそれに座った。一体何に使うのか、何でこんな形をしているのかまるで分からないこの三角のものは、腰かけて凭れるのにちょうどいい。

「お前が外で煙草吸ってるなんて珍しいな。看守に見つかったらどうするんだ?」

 犯罪だなんて言っていたくせに、俺から煙草を奪い取るような気配もない。それどころか、看守に見つかることを心配してくれるなんて、まったくなんて矛盾してるんだ。

「大晟が部屋で吸うなって怒るんだ」

 大晟は基本的に俺が煙草を吸うことをよく思っていない。
 それはもちろん、俺の体を心配してとか優しい理由でもなければ、未成年が喫煙をしてはいけないという道理的な理由でもない。ただ単に、俺の吸っている煙草の臭いが嫌いだからだ。
 いつもなら気にせず吸うところ、今日は吸おうとしたら3回も火を消された。だから1回襲ってやって、改めて吸おうと思ったらまた消された。これは無限ループになると思って、しょうがなく部屋を出てきたというわけだ。

「お前、玩具に部屋追い出されたのか」
「追い出されたんじゃねーよ。自主的に出てきてやったの」
「似たようなもんだろ」

 ゆりちゃんはそう言ってくつくつと笑った。
 どこに面白いところがあったというのだ。むしろ俺に変わって怒ってきてくれてもいいところだ。

「ゆりちゃん、大晟と話したことあるんだってな」
「話した…って言うほど大げさじゃねぇな。呼ばれてたから教えただけ」
「でも、他の奴らに大晟のこと面白いやつだって話したんだろ。そのせいでこの前、捷が大晟に奇襲かけにきた」

 この間のことを伝えると、ゆりちゃんは一瞬驚いた顔をして、そしてすぐに顔を顰めた。
 どうやら知らなかったようだ。

「あのバカ…こりゃ告げ口だな……」

 少し怒ったように呟いたゆりちゃんの手から、一瞬バチッと静電気が起こった。
 捷め、自分で素直に言っておかなかったのが仇となったな。ざまあみろ。


「大丈夫だったのか、お前の玩具」

 どこか心配そうなゆりちゃんの視線が俺を見る。
 その顔に俺は苦笑いを返した。

「大丈夫もなにも、俺が帰った時に既に捷をねじ伏せて正座させてた」
「うそだろ…あの美人が?」
「俺もびっくりした。まぁでも、そういうギャップもそそられるけど」

 ちょーつえーのに、俺の下では何もできずにただ言われるがままに喘ぐだけって。
 それもあんなえろい顔して、おねだりまでして。思い出すだけでぞくぞくする。

「今回は随分と入れ込んでるじゃねぇか」
「別に。これまでと違うタイプだから、新鮮ってだけ」

 これまではいつも、玩具になったやつは俺に従順だった。それなのに、必ず約束を破った。
 大晟は全く俺に従わない。それどころか、俺が主だって分かっているのか疑うほどに俺の扱いが雑だ。そして何より、今のところ約束を破る気配が微塵もない。
 他に理由なんかない。

「じゃあ、一体何に悩んでたんだ?」
「え?」
「俺が話しかけるまで、何か悩んでただろ」

 この人、一体いつから見ていたんだ。いや、それよりも。

 俺は……悩んでいたのか。


 何をばかな。

 そんなことは。玩具のことで悩むなんて、そんなこと。

 そんなことはない…と言いたいのに、言い切れない自分がいた。
 俺ですら気づいていなかったことを見透かしているなんて。ゆりちゃんにはかなわない。

「キスって、何でするんだと思う?」
「はぁ?」

 俺の唐突な質問に、ゆりちゃんは素っ頓狂な声をあげた。
 まぁ、それもそうか。

「するだろ、キス」
「するけど…」
「何ですんの?」
「そりゃ…したいからだろ」

 実に単純で、明快な答えが返ってきた。
 俺は、キスをしたかったのだろうか。

 でも、どうして?


「何で?別に気持ちよくもなんともねーじゃん」
「いや、気持ちいいだろ。それに…気分もいいぞ」

 …確かに、そう言われたら気分はよかったかもしれない。
 だとするならば、俺はその快楽を求めていたのか?毎日、何回も大晟を抱くみたいに?


 違う、そうじゃない。


「まぁ…一種の愛情表現だな」

 もんもんと考えていると、一番聞きたくない答えが返ってきた。
 愛情表現?なにそれ、超うける。何で俺が玩具に愛情を表現しなきゃいけねーんだよ。

 ばかげてる。

「他になんかないの。キスする理由」
「他にって…あ」

 ゆりちゃんは俺の言葉に困ったような顔をしたかと思うと、突然立ち上がった。
 視線が少し遠くの方に向けられている。

「稜海――!ちょっと来てくれ!」


 ゆりちゃんが視線を向ける先に、目からビームを出しそうな男…稜海が歩いていた。
 稜海はゆりちゃんの声に気付いて一瞬こっちを向いたが、嫌そうな顔をしてすぐに目を逸らして向きを変えてしまった。

「あっ…あいつ!おい稜海てめぇ、無視すんな!来ない限りずっと呼び続けるからな!」

 ゆりちゃんがそう声をあげると、稜海はさっきよりも更に嫌そうな顔で振り返った。ああ、そろそろ本当にビームが出るぞ。
 だが、幸いなことにビームが飛んでくることはなく、稜海はすこぶる嫌そうな表情をそのままに俺たちの方にやってきた。



「でかい声で呼びやがって。何の用だ」

 まぁ、あんな叫び声あげられると迷惑だよな。
 俺だって修羅みたいな顔になると思う。…目からビームは出ないけど。

「お前、何でキスする?」
「はあ?」

 そうだろう。それはそうだろう。
 突然でかい声で呼び出されていきなりこんなことを聞かれたらそんな反応にもなるだろう。
 ゆりちゃん、もう少し事の経緯を――経緯なんてなかった。俺も同じように唐突に同じ質問をしたんだった。


「検体になりすぎてついに頭までイカれたか」

 稜海の発言は相変わらず容赦がない。
 俺に対してもそうだが、まじでもっとオブラートに包めよ。
 まぁでも今のは多少、ゆりちゃんの聞きも悪かったと思うけど。

「ちっげーよ。こいつが俺に聞いてきてんだ。で、俺は愛情表現って答えたんだけど、それじゃあ不満だって言うから」

 不満とは言ってない。ただ、他に答えがないかと聞いただけだ。

 ああ。不満だから、他の答えを求めたのか。
 じゃあやっぱり、ゆりちゃんの表現の仕方は正しい。


「ふうん。要お前、新しい玩具にキスしたのか」

 何なのこの人。エスパー?
 そのビームが出そうな目は実は千里眼?
 やめて。こっち見ないで。

「な…なんで、そういう話になるんだよ」
「まじ?図星かよ」

 俺の反応を見たゆりちゃんが少し驚いた表情を浮かべた。
 それに対して稜海は全く表情を変えない。それが逆に、怖い。

「玩具相手に愛情表現なんて馬鹿げてるか?愛着を抱いたなんて思いたくないんだろう」
「…俺は…愛着なんか…っ」

 稜海の視線が痛い。ビームは出ないけど、突き刺されてしまいそうだ。
 まるで何もかも見透かされたような目から視線を逸らすが、稜海の言葉は止まらない。

「じゃあどうしてキスをした理由を探す?いつものお前ならきっと簡単答えを出している。お前が快楽を求めて玩具で遊ぶのと同じ、キスも快楽を助長させる手段に過ぎない。そうだろ?」
「…俺は……」

 聞きたくない言葉が頭の中に貼り付いて行く。
 それを止めようと俺が口を開いても、稜海はまるで口を閉じる様子がない。
 俺の言葉を遮って、鋭い視線を向けたまま更に捲し立てていく。

「お前はそうじゃないことに気付いた。だが、そうじゃないなら有里の言うように愛情表現ということになる。だがお前はそれを認めない。玩具に愛着なんかわかない。ましてや愛情表現なんて馬鹿げてる。だから、他に理由を探してる」

 違う。

 違う。


 違う違う違う。



「違う!!」



 立ちあがると、手から煙草が滑り落ちた。
 ようやく稜海の言葉が止まる。しかし、俺を見る視線は相変わらず鋭く、そして俺の感情をかき乱す。



「理由なんかない。そんなものいらない」

 そう、理由なんかいらない。
 手にした玩具をどう扱おうと、何をしようと。そこに理由なんて必要ない。

 理由を探すから、こんなにも頭の中が混乱してしまうのだ。
 理由なんて求めるから、感情がかき乱されてわけが分からなくなってしまうのだ。


 だったら、そんなこと考えなければいい。

「お前が出した答えがそれなら、それでいいんじゃないか」

 あれだけまくし立てたくせに、稜海はあっさりと引き下がった。
 相変わらずビームが出そうなほぼ目つきは悪いが、もう心を見透かされそうではない。


「稜海、言い過ぎ。要が泣きそうになってるだろ」
「なってねーよ!」

 どこをどう見たらそういう判断になるんだ。俺は全然泣きそうじゃない。
 ただ、稜海が言い過ぎだということには賛成だ。

「悪い。ほら、煙草落ちたぞ」
「今更優しくしたって、稜海なんか嫌いだからな!」
「はいはい。俺は割と好きだぞ」
「なっ…!」
「葬式で爆笑するくらいには」
「やっぱり嫌いだ!!」

 稜海が差し出した煙草をひったくって、俺はテトラポットに座り直した。
 まったく、どうしてこんな奴が数少ない友達なんだ。
 いや、もう友達じゃない。こんな奴が友達でたまるか、ちくしょう。

「あんまり苛めるなよ。可哀想だろ」

 ゆりちゃんは俺と稜海が言い合っている(決して俺が一方的に言いくるめられているわけではない)のを見て、面白そうにケラケラと笑う。
 一体どこにそんな笑いの要素があるか分からない上に、その苛められて可哀想っていうのはもしかして俺のことじゃないだろうな。俺は苛められてもなければ可哀想でもない。

「笑うな!そんなでかい声出してっと近所迷惑だぞ!」

 別にそんなに大きい声ではなかったが、他に罵倒の方法が見つからなかった。
 だからとりあえず、それっぽいことを言ってみた。



「近所迷惑はてめぇだ!!」

 それっぽく言ってみた俺の言葉に対して、怒りに満ちた声が頭上から降ってきた。もちろん、ゆりちゃんではない。
 そして俺が上に視線を向けるために顔を上げようとした瞬間、今度は声ではなく物理的な何かが降ってきた。

「いだっ!!」

 俺の頭に激突したそれは、ごとん、と音を立てて地面に転がった。


 え、これ。俺のタブレットじゃん。

 それを手にしてから上を向くと、今にもブチ切れそうな(もう切れてるかもしれない)くらい修羅の顔をした大晟が俺を見下ろしていた。


「何すんだよ!いてーな!」
「出て行っても部屋の下で吸ってたら意味ねぇだろ。馬鹿か!」
「あ、ほんとだ」

 確かに、部屋の下で吸ってたんじゃ何ら意味ない。
 窓を閉めていてもあの立てつけの悪さじゃ、簡単に臭いは室内に入っていくだろう。

 え、でもそれ、もう少し早く言ってくれてもよくなかった?
 そうしてくれれば、こんなところで散々稜海に罵倒され尽くされなくて済んだのに。

「ほんとだじゃねぇ!いい加減にしろよ!」
「いや、加減を気にすべきは大晟だろ!タブレット落すのは酷い!」

 地味に今も痛いし。
 ていうか、打ち所が悪かったら死んでたよな、これ。


「いっそ死んでいればよかったものを…」

 え?マジで殺す気だったの?
 多分…、冗談なんだろうけど。トーンの低い声と深い溜息。これでもかというくらいに顰められた表情。とても冗談には聞こえない。



「あはは!超おもしれー!」

 ふと、隣から聞こえてくる笑い声。
 大晟に気を取られてしまったせいで、ゆりちゃんたちの存在をすっかり忘れていた。

 しまったと思っても、もう遅い。
 ゆっくりと視線を下ろすと、ゆりちゃんが腹を抱えて笑っていて、稜海は声こそ出していなかったがその顔は笑いを必死に堪えていた。

「まじうける!最高!」
「有里…笑うな……要が可哀想だろ……」
「稜海だって笑ってんじゃん!つーか、笑うなっつー方が無理!死ねばよかったのにって、死ねばよかったのにって…!!」
「玩具(笑)…」
「ぶは!おもちゃかっこわらい!いやこの際、玩具(爆笑)にしようぜ!」

 ゆりちゃんはこれでもかというくらい声をあげて笑い、稜海も等々笑いを堪えらなくなったようだ。クスクスと声が漏れ出している。

 何度も聞くけど、こいつら本当に俺の友達だよな?
 何で俺が“死んでいればよかった”って言われて喜んでんの?爆笑してんの?

「笑うな!つーか、かっこわらいでもかっこばくしょうでもねーんだよ!」

 それもこれも、全部大晟が顔を出したせいだ。
 そう思うと大晟に一言なにか言ってやらないと気が済まなくなって、顔を上に向ける。

「大晟の馬鹿野郎!どうしてくれんだ!」
「いや俺、玩具(爆笑)だからちょっと分からねぇ」
「便乗してんじゃねー!!」

 どいつもこいつもいい加減にしろよ!
 何さらっと「玩具(爆笑)」とか言っちゃってんだよ。爆笑とかつけなくていいから。ていうか、自分でいうことじゃねーから!
 まじでどうすんだよ。隣の2人が更に爆笑してんじゃねーか。

「あー、おもしろ。…いいセンスしてんな、お兄さん」

 ゆりちゃんは目をこすりながら大晟の方を見上げた。
 泣くほど爆笑するって。俺が死ねばいいのにいって言われてんの聞いて泣くほど爆笑するって。
 これは大問題です。実に忌々しき問題です。友情に大きな亀裂が入りますよ。

「誰がお兄さんだ」

 いや実際お兄さんだろ。ゆりちゃんより3つも年上だぞ、お前。
 いやまぁ、お兄さんって柄じゃないけど。どっちかってーと、お姉さんだけど。

「じゃあ、大晟さん?…この前は名乗らなかったけど、佐藤有里だ」
「ゆうり?ゆりじゃなくて?」
「それはこいつらが勝手に言ってるだけだから」
「ふうん…。この前は助かった。ありがとう」


 あ……、ありがとう?

 大晟の口から「ありがとう」だって?
 大晟って、お礼なんて言えたんだ。意外。

「いいえー。…おい稜海、お前は謝罪しとけよ」
「は?何でだよ」

 稜海の顔が顰められる。
 俺にも、どうしてゆりちゃんがそんなことを言うのか全く分からない。
 たしか、稜海は大晟とは接点がなかったはずだけど。

「捷の馬鹿が奇襲しかけたからだ」

 うん、なるほど。そういうことか。

「奇襲?…あのバカ…やめておけと言ったのに…」

 稜海の眉間に皺が寄る。どうやら、一応本当に止めてくれてたらしい。
 捷め、いよいよざまあみろだな。

「あー、えっと。すいませんした」

 謝る気な!全く謝る気ねぇじゃん!
 そんな適当な謝り方なら、いっそ謝らない方がいいわ。明らかに逆効果だわ。
 当の本人は、何のこと言われてるのかさっぱり分からないって顔で首傾げてる。ちょっと、何その小動物みたいな仕草。超可愛いんですけど。一緒の部屋にいたら十中八九襲ってる。


「は?」
「捷が奇襲かけたって。あいつ、うちの棟の奴だから代わりに謝っとく。ごめん」

 今度は割とちゃんと謝ってたけど、ちょっと説明不足だと思う。

「はぁ…」

 案の定、大晟は未だに何で稜海に謝られているのか分からないといった表情を浮かべている。
 気乗りはしないけど、ここは俺が説明するべきなのだろう。


「稜海は67棟の責任者なんだよ。この前大晟がぶっ飛ばしちゃった572番と同じ」

 あいつは俺が棟ごとぶっ壊したことで既に責任者じゃなくなったけど。
 まぁでも、あれだけ派手にやられたんじゃ、俺が壊さなくても責任者の座を下ろされてたに違いない。

「ああ…なるほど。別に、謝らなくても…要の友達って言う割にやけに礼儀正しかったし。教育がなってるんだな」

 大晟はようやく納得したように頷いてから、余計なひと言を付け加えた。
 俺の友達の割にってどういうこと?俺の礼儀がなってないって言ってる?言ってるよな。確実にそう言ったよな。

「要は前まで俺の棟だったけど、頭が貧相すぎて努力の甲斐なくしつけに及ばなかった。すまない」
「いいや、それはしょうがない。要の頭が貧相なのは救いようがないからな。むしろ努力したことが偉い」

 ちょっと。何通じ合っちゃってんの。

 ていうか俺の頭が貧相って!
 さっきの礼儀の話は若干のカーブだったけど、直球ストレートできたんですけど。思いっきり名指しで俺の頭が貧相って言ったんですけど。酷いとかいうレベルじゃないだろ。
 だから稜海には会わせたくなかったんだ。俺の思った通りの状況になっちまったじゃねーか。

「2人してあんま苛めるなよ。貧相な頭でも、多少は悩んだりできるんだから…」

 ゆりちゃんそれ、全然フォローになってないから。

「悩む?要が?…何を?」

 おいこら。何を有り得ないみたいな顔して首を傾げてるんだ。
 一体誰のせいで俺が悩む羽目になったか分かってるのか。

「お前のせいだよ!ばーか!」
「はぁ?」

 俺の言葉に大晟は思いきり首を傾げた。

 こんな。
 当たり前のような顔で俺の頭にタブレット落すし。
 冗談とは聞こえない声で「死ねばよかったのに」なんて平気で言うし。

 挙句の果てには稜海と一緒になって俺のことを馬鹿にして。
 何で俺、こんなやつのために悩んでたんだろう。


 まったく、悩んでたのが馬鹿みたいだ。


「まぁとにかく、多分また会うこともあると思うんで、今後ともよろしく」
「全然よろしくしなくていいから!」

 出来ることなら、もう二度と会わせたくない。
 ゆりちゃんの言葉に返した俺の言葉は、悲痛の叫びとなって周辺に響き渡った。




考えるのはやめた
(悩むなんて柄じゃないし、答えなんて出さなくていい)


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