Long story


Top  newinfomainclap*res




6

 この世に完璧なんてない。
 どんな万能な機械だって、永遠に使えることはない。
 どんなに優れた人間だって、永遠に生き続けることはできない。
 この世にはびこるすべてのものは、いつか壊れてしまう。
 それはきっと、この地球も同じことだろう。
 全てのものは、壊れるために生まれてくるのだ。


Side Kaname


 眠い。目の前のスクリーンがかすんで見える。
 やっぱりいくら若いからといって、労働して帰ってヤって飯も食わずに夜遊びはハードスケジュールすぎた。いやでも、今思い返してもどこに落ち度があるとも思えない。どう上手くやってもあのスケジュールになっていた。労働は強制だし、飯は食いたかったけど1日1セックスって言うじゃん。毎日の恒例行事じゃん。…実際のところ、ヤったの3回くらいだけど。一番いらないとすれば夜遊びだったが、ああいうのは記憶が鮮明のうちに片をつけておくべきだ。…やっぱり、どこにも落ち度なんてない。

「ふぁ…」

 欠伸は眠くて出るんじゃなくて、脳の空気が足りなくて出るというのが本当らしい。
 そんなの絶対に迷信だと思う。だって、欠伸は眠い時にばかり出る。


「随分と眠そうだな」

 隣でキーボードを叩いていた手が止まり、視線が向けられた。
 別に睨んでいるわけでもないのに、毎度毎度ちょっと体が強張ってしまう。ただ目を開いているだけでここまで目つきが悪くなれるのは、正直才能だと思う。

「寝ても寝ても眠い年頃なんだよ。育ち盛り」
「よく言う。夜襲なんかしてるからだろ」

 知ってるなら最初からそう言えよ。まどろっこしい。

「夜襲って…そんな物騒じゃないから。ちょっと威嚇しに行っただけだから。そこんとこ勘違いしちゃだめですよ、稜海(いずみ)さん」

 そう言うと、俺の数少ない友人は顔を顰めた。
 ほらみろ大晟。俺にだって友達はいるんだからな。ちゃんといるんだからな。
 と、こんなところで主張しても、作業場が違う大晟に届かないのが悲しい現実だ。

「棟ごとぶっ壊して何が威嚇だよ」

 そう言われると元も子もないけど。
 でも、前の48棟とは違って今回は故意に壊そうとしたわけじゃない。不可抗力というやつだ。人が住む場所にあんな耐震強度の弱い素材を使っている方が悪い。おまけに正々堂々って言葉も知らずに一斉にかかってきた奴らが悪い。そもそも、俺の玩具に手を出した馬鹿が一番悪い。だから決して俺のせいじゃない。

「でも、今回は流石に独房に送られるかと思った」

 ついこの間も48棟を大破させたばかりだ。ひと月の間に2棟も壊すなんて、不可抗力だったとしてもやりすぎたと思う。いくらロイヤルだから多少大目にみられるからといっても、限度ってもんがある。今回は流石にその限度を超えたと思ったが。

「何で免れた」
「月1の検体を今月だけ月2にするって条件で無事解放」

 隣に向かってピースをして見せると、稜海は露骨に顔を顰めた。
 ちょっとお兄さん怖いって。目からビーム出るんじゃないの。

「お前……馬鹿だろ。早死にしたいのか」
「いつ訪れるか分からない先ことよりも、目の前の快楽の方が先決なんだよ」

 多分、あのまま独房に放り込まれていたら3日は出られなかった。
 3日も大晟の喘ぎ声が聞けないなんて、独房で何もしないよりもそっちの方がよほど拷問だ。
 せっかく久々にそんな風に思えるくらいの玩具を見つけたのだから、それで遊べるうちは遊んでおきたい。どうせ、いつかは壊れてしまうのだから。

「万年欲求不満のど変態だな」
「褒めてる?ありがとう」

 礼を述べると、顰められた顔があきれ顔になって溜息が漏れた。

「有里がキレる」
「言うなよ。まじで言うなよ」

 稜海の口から別の友人の名前が出てきた途端、寒気がした。
 そんな、ゆりちゃんにバレた時のことなんて、考えただけでぞっとする。
 その悪寒を掻き消すがてら、「俺には稜海以外にも友達がいるんだからな!」と大晟に向かって届かない思いを叫んでおこう。

「まぁ、俺はお前が明日死のうが知ったことじゃないから、どうでもいいが」

 …ちょっと待って。この人俺の友達だよな。本当に友達だよな。
 友人に対してその言い草はどうよ。

「ひっでぇ。もう少し心配してくれてもいいじゃん。葬式では泣いてくれよな」
「爆笑しながら拍手して送ってやるから、楽しみにしておけ」

 あれ?本当に友達?
 冗談じゃないよこれ、絶対にまじで爆笑しながら拍手するよこれ。
 今思ったけど、稜海は大晟と気が合うと思う。絶対に会わせたくない。

「稜海より長生きして笑ってやるから、覚えとけ」
「お前みたいな欠陥品より早く死んでたまるか」

 酷いなんてもんじゃない。もう少しオブラートに包んで話ができないのか。
 何度も言うけど、本当に友達?え、もしかして俺の思い込み?そんなこと言わないで。

「俺って本当に友達いるのなか…マジで全員思い込みなんかじゃないよな……」
「何だ藪から棒に」
「この前大晟が…いや…何でもない」

 大晟が俺のことを友達がいない寂しい人間だと思っているなんて。
 こんな話稜海にしたって、いいようにネタにされるだけに違いない。他の連中に話して爆笑されて終わるのが落ちだ。
 そんな不審そうな顔したって、話してやらないからな。

「そいつ、お前の新しい玩具だろ。囚人番号2052番」
「そうだけど…」

 何で囚人番号まで知ってるんだ。
 収監前に張り出されていたけど、稜海はそんなものを見るタイプじゃないし、仮に何かの拍子で目にしたとしても覚えているわけない。興味がないことには、とことんまで興味がない。そして、新しい囚人なんて稜海の興味を引くようなことではない。それが例え、どれほど美人で魅力的な新入りだったとしても。

「有里がこの間会ったって言ってた」
「えっ」

 大晟がゆりちゃんに?
 一体どこで会ったのだろう。俺が大勢と一緒にいない時だから、食堂で飯食ってるときか、作業場が別の時しか心当たりはない。
 というか、会ったというのは見かけただけなのか。それとも会話したのか。それによって事の重大さが大きく変わってくる。

「ゆりちゃん、なんて?」
「面白い奴だった…だと」

 ということは会話したということか。
 なんだそれ、最悪だ。事の重大さがより重大な方への傾いてしまった。
 なるほど稜海が興味を示すわけだ。

「一体何話したんだ…」

 これは帰ってから大晟に問い詰めないといけない。
 変なこと吹き込まれてなきゃいいけど。
 ていうか大晟。俺の友達に会ってんじゃん。いつ会ったのかしらねぇけど、会ってんじゃん。

「何を話したのかは知らないが、珍しく有里が好評価を出したことで他の奴が期待してるのは確かだ」

 他の奴。具体的な名前は出て来ないが、何人か顔が浮かぶ。
 稜海やゆりちゃんと同じように、俺の友達(であるはず)の面々だ。

「また何か仕掛ける気じゃないだろうな」
「さあな」
「さあなじゃねーて!まじさ、毎度毎度俺の楽しみの邪魔すんなよな!」
「恒例行事らしいからな。…釘を刺した方がいいのか」
「当たり前だ!そんな恒例行事あってたまるか!」

 一体何が悲しくて、俺のささやかな楽しみを邪魔されきゃいけないんだ。
 俺がおまえらに何をしたって言うんだ。
 もう一度確認するけど、本当に、友達だよな?


 **


 労働が終わって帰ったらまず煙草を吸うのが俺の日課だ。しかし、今日は流石に眠気に耐えられなくて、一度手に取った煙草に火をつける前にソファに投げ捨ててからベッドに倒れ込んだ。そのまま数秒も数えないうちに眠りについて、目が覚めたら辺りは真っ暗になっていた。

「……大晟まで寝てるし」

 俺の隣で、大晟が規則正しい寝息を立てていた。そう言えば、昨日空腹で寝られないって言ってたっけ。
 枕元にあるタブレットに手を伸ばして時計のアイコンに触れると、時間が浮き出てきた。時刻は6時50分。このままでは、また今日も夕飯を食べそびれてしまう。

「大晟…、起きろ」
「…ん―――……」

 俺が声を掛けると、大晟は寝返りを打ちながら目をこすり、小さく声を出した。
 しかし、目を開らかれることはなく、すぐに再び規則正しい寝息が聞こえる。
 寝返りを打ったことでよく見えるようになった頬には、うっすらと布団の跡がついていた。

「大晟」
「ん……」

 跡の付いた頬を撫でると、くすぐったそうに身を縮める。

 なんだこいつ。誘ってんのか。

 人が珍しく食欲を優先しようとしているのに、何なんだ。
 せっかく勝っている食欲が、着々と性欲に押されているではないか。

「大晟、起きろよ。もう6時50分だぞ」
「………じゃあ、あと5ふん」

 はい、俺の食欲は今完全に性欲に打ち負かされました。

「今日はお前の自業自得だからな」
「ん?…っ!?」

 首筋に舌を這わすと、まるで起きる気配のなかった目が一瞬で見開かれた。
 これくらいで簡単に目を覚ますなら、最初からこうしておけばよかった。そうすれば、今頃は無事食堂に足が向いていただろうに。

「ちょ、要…何……」
「人がせっかく飯に行こうって言ってんのに、誘うお前が悪い」
「はぁ?俺がいつさそ…ん!」

 服を捲り上げて胸の突起を口に含むと、大晟は途端に体を躍らせた。
 寝起きでも感度は抜群なんて、とんだ淫乱だ。…そうしたのは俺だけど。

「でも、さすがに飯は食いたいから10分で済ます」

 性欲が勝ったといっても、食欲がなくなったわけじゃない。
 できることなら性欲も食欲も満たしてしまいたい。

「飯食った後でいいだろ…」
「やだ。今したい、我慢できない。今したい」
「ガキかてめぇは!」

 ガキでも構わない。
 きっとすぐに壊れてしまう玩具だ。
 今のうちに、後で後悔しないように、遊びつくしておかなければならない。

「だから俺は、目先の今しか見てないんだ」
「は?…っあ!」

 本当に、そうだろうか。
 本当に、だから目の前しか見ていないのだろうか。
 後に後悔するのは、本当に、玩具が壊れたときなのか?
 なんだか、分からなくなってきた。稜海と変な話をしたせいだ。



「あ……そう言えば。大晟、ゆりちゃんに会ったんだって?」

 稜海のことを思い出して、ゆりちゃんのことも思出した。
 余計なことを考えるのはやめだ。

「んっ…誰だ、それ」

 俺の愛撫に表情を曇らせながら、大晟は首を傾げた。

「名乗らなかったのか?赤い髪で赤い目のやつだよ」
「あ……あの戦隊レッド」
「は?」

 戦隊レッド?
 まぁ確かに、赤いけど。でも、あれはレッドって柄じゃないだろ。
 どっちかっていうと敵の幹部だ。ていうか、俺からしてみればラスボスだ。

「いや…こっちの話」

 一体どっちの話だ。
 まぁ、別にその辺はどうでもいい。

「ゆりちゃんとなんか話した?」

 手を止めて聞くと、大晟は小さく首を振った。

「何も。俺が呼ばれてたのを、教えてくれただけだ」
「ふうん…」

 ならどうして、ゆりちゃんは大晟を面白いなんて言ったんだろう。
 大晟は俺みたいに冗談言うタイプじゃないし、ギャグをかましたわけでもないだろうに。

「そいつが…どうかしたのか?」
「聞いて驚け、なんとそのゆりちゃんは俺の友達です!」

 ちょっと自慢げに言ってやると、大晟は思いきり顔を顰めた。
 なんだその反応は。どういうことだ。

「お前の思い込みじゃなくて…?」
「なっ…失礼なこと言うな!」

 ちょっとそうかもしれないって、不安になってるところなんだから。
 そんな真剣な顔で突っ込んでくるんじゃねーよ。もっと不安になるだろうが。

「あ、ごめん」
「素直に謝るな!」
「ああっ!」

 少し胸を弄っただけなのに既に大きくなっていた大晟のものを思いきり握ってやると、華奢な体がビクンと跳ねた。
 まったく、どうして友達の話になると途端に可哀想な子ども扱いなんだ。お前、今その可哀想な子どもに組み敷かれてるって分かってるのか。


「もうこのまま突っ込んでやる」

 ちょうど時間もないことだし、たまには痛い目を見ろ。
 そして、どっちが主なのかよく考えてからその態度を改めろ。

「はっ!?…ッ…い――――!!!」

 大晟のズボンを引き下げ、慣らしもせずに自身を無理矢理突っ込むと、いつもの声とは違った痛みからなる苦痛の声が漏れだした。まだ全部入っていないが、既に目には涙が溜まり始めている。

「痛みに支配されるっていうのも、たまにはいいだろ」
「い…たい……ッ…は」

 いつもとは違う表情に、いつもとは違う涙。
 痛みに顔をゆがめていても色っぽいなんて、もうどうしようもないな。
 もって生まれたM属性というか、レイプ体質というか。

「淫乱だから、すぐに気持ちよくなる」
「はあっ…嫌……痛っ…嫌……っあ、ああ!」

 半分くらいまでしか入っていなかった自身を押し込むと、さらに表情が苦痛にゆがんだ。声もいつも聞いている、よがるような喘ぎ声ではなく、例えるなら悲痛な叫びと言うのがいいかもしれない。いくら慣らしてないからといって、毎日いやと言うほどヤっているのだから、ここまで痛みを感じるものだろうか。
 それだけじゃない。更に奥に挿れた途端に、体が小刻みに震えだした。これは明らかに、痛みによるものではない。


「大晟……?」
「は…う…っ……あ…うう…」

 両腕で覆われた顔から漏れる声は、俺の予想外のそれだった。

 泣いている。


「おい、大晟…どうしたんだよ」


 そんなに痛かったのか。
 いや、これまでの玩具でも何度か同じことを試したが、痛みに顔を顰めてもなくことなどまずなかった。大晟はこれまでの玩具の中でも特に感度がいいから、余計に痛みに泣くなんて考えられない。

「な…何でも……何でもない……」

 そんなに涙を流して、体を震わせて、何でもないわけないだろう。
 一体どうして大晟が突然こんな状態になったのか皆目見当もつかないが、口ぶりからして本人も言いたくないのだろう。ならば、あえて散策する必要はない。

「やめる……?」

 聞いてから、何を聞いてるんだろうと思った。
 他に選択肢などない。どう考えたって、この状態で続けられるわけがない。

「…やめない……」

 腕の間から垣間見えたその眼は、まるで縋るように俺を見ていた。
 相変わらず溢れている涙と、震えている体は、少し触れただけで今にも壊れてしまいそうだ。

 違う。

 俺はこんな壊し方をしたかったんじゃない。



「やめない……」

 その声は、いつかの甘い喘ぎ声に似ていた。
 ただ、あの時とは違いそこから快楽の色は全くなく、まるで何かに怯えているような、それを思い出したくないというような、そんな淡い懇願のような気持ちが見て取れた。


「ちゃんと気持ちよくしてやるから、いつもみたいに喘げよ」

 玩具はいつか壊れるものだ。だから、壊れてしまう前に十分に遊んでおかなきゃいけない。
 俺もいつか壊れるだろう。だから、いつ訪れるか分からないその時に後悔しないように、今目の前にある快楽を堪能しなければならない。

 でも、どうしてだろう。

 俺は今、この目の前の玩具を壊したくないと思った。
 目の前にある自分の快楽よりも、玩具が壊れないことを優先していた。




どちらが壊れるのが先か
(俺とお前と、本当に脆いのはどっちだ?)


[ 1/1 ]
prev | next | mokuji

[しおりを挟む]


[Top]
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -