56 自分の知らない他人や自分。
そんなものにふと気が付いてしまう時がある。
そう、例えば。
ほんの少し、自分の目線が変わるだけでも。
世界は大きく変わって見える。
Side Taisei 昨日、俺がここへ来てから何度目かになる部屋の抜き打ち検査があった。俺の部屋からはほぼ何も押収されることはなかったが、他の場所ではそうではなかった…ということが、共有地の一角―――人目につかない場所で並べられている大量の押収物を見るとよく分かる。
とはいえ、この押収物はうちの棟だけのものではない。稜海の棟、そして蒼の棟での押収物が、看守に引き渡される前にこの場所に集められている状態だ。
「今回もすげー」
大量の押収物を見て要が呟く。
確かに、本来は牢獄にあってはならないものが山のようにあるなんて…それも囚人が当たり前のように持っていたなんて。管理が杜撰なのにも程があるだろ…なんて思っていた頃が懐かしい。
「龍遠の棟は圧倒的に薬品関係」
「まぁうち、ラリってる囚人ばっかりだから」
龍遠の前には、粉の入った袋が山のように積み上がっているのが一番目立つ。それから袋詰めされた葉っぱと、ご丁寧に注射器までセットされた液体もゴロゴロ。薬品関係っつーか、明らかに麻薬だ。
そして片隅に積み上がってるのが、色的に媚薬の類いかな…って代物だ。
「稜海の棟は圧倒的に玩具の類い」
「使わないくせにほいほい貰う囚人が若干名いるからな」
稜海が視線を向けると、有里はさっと視線を逸らした。
囚人たちは使わなくなった道具を処分してもらおうと思って全部有里に預けるらしいが…
それにしたって多すぎだろ。本当にこの牢獄、飢えた獣が湧いて出てんじゃねぇかってレベルだな。
「蒼の棟は…普通にナイフとかカッターとかだな」
「うちは基本的に大人しいけど、過去に脱走しようとした囚人が多いからかもね」
蒼の棟はからくり屋敷みたいになっていて、棟から出るのも一苦労なんだそうだ。探せば出られなくなって死んじまった看守の死体が数え切れないほど転がってるなんて、冗談にしても笑えないことを有里が笑いながら言っていた。
前に1回要と行った時は普通に行けたが、あの時はシステムのメンテナンス中だったらしい。…囚人が勝手に防犯システム作り込んでるってことはもうな。言わずもがな、スルーだ。
「これ貰って…ぎゃあ!」
稜海のブルーシートに置かれてある変なものを手に取ろうとしてた要を背中から猫掴みし、引っ張りあげた後に胸ぐらを掴む。
手癖の悪いペットには、体で覚えさせないとな。どうせ覚えやしねぇんだろうけどな。
「何て?」
「な、なんでもないです。何もいらないです」
よしいい子だ。
次何か余計なもんに手出したら、今度は地面に叩き付けるからな。
「別によくね?お前こんなので遊ばれるのなんて朝飯ま…うわっ」
「チッ」
普通に避けやがって。
少しくい掠めるくらいすりゃいいものを。
「大晟くん?背後からこめかみにナイフとか、完全に殺しに来てらっしゃるのかな?」
「うるせぇ死んでろ」
まぁ、死なないって分かってるからやってんだけどな。
でもやっぱり、掠めるくらいはしてもいいよな。次はもっと気配を殺して投げることにしよう。
「いつ見ても仲良しだよねー」
「仲良くねぇよ」
真の言葉に咄嗟に返した言葉が椿と被った瞬間、これ以上ない程に虫酸が走った。
横目に見える椿も同じなのか、そりゃもう嫌そうな顔をしている。多分、俺も同じような顔をしてるに違いない。
「はいはい、仲良し仲良し。蒼くん、こっちのもう漁っていい?」
「大丈夫だよ。安全性は確認してあるから」
真に問われて蒼が答えると、少し離れた場所にあるブルーシートでその他の面々がすでに物色を始めた。 転がってるのは同じ玩具でも、ジェンガとか人生ゲームとか、いわゆる子供用のおもちゃ。ゲームやなんかもある。そしてペットボトルに入った液体は普通のジュース、酒。スナック菓子等々…言葉通り本当に安全な、というか健全なものばかりだった。
これまでの検査の時はまだ要の知り合いともそれほど親しくなかったから、その後にこんな闇市みたいなのが開催されてるなんて…考えもしていなかったが。今となっては、それを目の当たりにしても何とも思わない。
マジで、慣れってのは恐ろしいもんだな。
ちなみに、こっち側にある明らかに健全性を疑うものは看守に差し出す(もしくは自らで回収する)いくつかを残してから、龍遠が全部燃やすらしい。そうしないと結局巡り巡って戻ってくるので意味がないというのは、大いに頷ける。
「お、蒼の所にこんなもんがあるなんて珍しいな」
物騒な武器系統ものばかりが転がっている中から、椿が何やら瓶を取り出してきた。
中身がピンク色の液体という時点で、媚薬の類いにしか見えない。どうしてああいうのは総じてピンク系統の色なんだろうな…ってのはどうでもいいが。確かに、ナイフとかカッターの中にそんなもんがあると違和感がある。
「ああ、それね。本来の用途は見た目通りだけど…没収した囚人は、それを脱走に使おうとしてたみたい」
「看守を誘惑するとか?」
「違う違う。その薬品名称、よく見て」
「薬品名称?……少年愛好家のための究極の一品?」
何だその名前は。
「まぁ名前だけじゃ分かり辛いかもしれないけど。大人を子供に出来る薬…らしいよ」
成る程。それで少年愛好家のための究極の一品…って、何だそれは。
大人を子供に出来る?
そんな馬鹿な。漫画の世界じゃあるまいし……いやでも、すぐそこに人間が猫になってゴロゴロしてる時代だからな。そんくらいあっても不思議じゃねぇか?
「え、こんな液体で?まじで?」
「まじかどうかは分からないよ。使う前に没収してそこにあるんだし。ラベルに試薬…って書いてあるから、本当に新しい薬なんだと思う。多分、まだ発売はしてないんじゃないかな」
発売されてない試薬って。もう大概のことは驚かなくなっても、流石に驚くレベルのやつだな。
そんなもんまで囚人に流通してるって、明らかに外の世界よりもこっちの方が色々と充実してんじゃねぇか。本当にどうなってんだ、この牢獄は。
「つまり信憑性がねぇ?」
「そこら辺は何とも。一応、成分は調べて身体に害のあるものではないことは分かったけど。製造工程や試験の記録がないとハッキリしたことは言えないね」
「ふぅん……でも、もし本当なら面白ぇな」
あ、こいつ何か企んでんな。
まぁ…確かにもし本当なら面白そうではある。そして、製造工程や試験の記録は、製薬会社にデータとして残っているだろう。とはいえ、薬品系の会社はセキュリティがかなり固い。ここのノロマな回線からいけるか…いやまぁ、いけることにはいけるだろうが。
開いて、出して、閉じて…それをバレないように1人でやるのは厳しいか。
「大晟」
「……ああ」
そうか。
1人では無理でも、2人いればなんとかなる。
「じゃあ、ほら」
そしてお前はノートPC常備なのかよ。しかも当たり前のように2台が、今一瞬でどっかから出てきたよな?お前、四次元ポケットでもぶらさげてんのか。
……まぁいい。それは後でいい。
「まずはあれだな」
「そんであれしてあれをする」
「完璧だ」
「よし、始めんぞ」
椿からノートPCを受け取って、電源を入れた辺りからちょっと楽しくなってきた。
最近はここのクソセキュリティを相手にしてばっかだったからな。久々に手応えがありそうなのを前にすると、心なしかわくわくしてしまう。
「あれで会話してる…」
「ね?言ったでしょ?テレパシーで会話出来るって」
「ああ、なるほど…」
真の戯れ言に反応してる暇はない。
サクサクと製薬会社のネットワークに侵入して、入り口を覗く。やはりかなり高度なセキュリティになっていて、また少しわくわくした。
「こじ開けた」
「ん」
パズルを組み替えるようにセキュリティを解除する。その強制解除が分からないように、比較的システムの緩い別の場所でバグを起こして紛らわせる。そしてその間に、目的のデータの場所まで辿り着く。
時間があればデータを一括ダウンロードすればいいが、そんな暇はないので目的のファイルを探し出す。こんな見つけやすい、アホみたいな商品名にしたのは失敗だったな。
「……あった」
「よし、閉める」
データをノートPCにダウンロードして抜け出すと同時に、こじ開けた入り口を再度閉める。入り口が開いていた時間はほんの十数秒。微かな異変は検出されるかもしれないが、それは誤差の範囲として処理されるレベルだ。痕跡は一切残さず、念のためありとあらゆるネットワークを経由して戻る。
楽しい時間というのは思いの外あっという間に終わる。そして、絶対に誰にも気付かれることもない。
「蒼、ほら」
「え?…えっ、データ盗んできたの!?」
「ちょっと貸してもらっと言いたまえ、君」
「えぇ……」
椿の言葉に少し引きながら、蒼は俺が差し出したノートPCを覗き込んだ。
論文のような構成で、文章といくつかのデータやグラフが連なっている。間には謎の挿し絵もあった。
読めばそれなりと理解できるのかもしれないが、こういうのは専門に任せるに限る。蒼が専門なのかは知らないが…薬品の成分を分析するくらいだから、多分そういう知識に長けているのだろう。
「どうよ?使えそう?」
蒼がじっと文章を読み進めていく横で、椿が顔を覗かせる。まるで、おやつを待てないで台所までやってくる子供みてぇだ。
まぁ、多少なりと気持ちは分かるが。
「……200回の試験は全部成功してるみたいだから、効力は本物だよ」
「まじでか」
「うん。でも、小さくなる年齢は個人差があるのかな。被験者20歳から80歳まで…どの年齢層も10歳から14際程度の年齢に若返るけど、この中でどの年齢になるかは完全にランダムっぽいね」
つまり、効果はあるけどかなり中途半端な薬ってわけか。
試験の最低年齢は20歳からだから、14だったとしてもそれなりに効果が見られるだろうが。もしかすると、要や真には全く意味がねぇかもしれねぇってこったな。
「ふむ、では試してみようか大晟くん」
「ふざけんな何で俺が」
何を当たり前のように差し出してんだよ。
確かに気にならないって言ったら嘘になるけど、だからっ何で俺なんだよ。こんな販売もされてないような中途半端もん、誰が試すか。
「いや、この場合大きな変化があるのは一番年上の俺かお前だろ?」
「だったらてめぇでやれ」
「いやいや、どう考えてもお前一択だろ。ねぇまこちゃん」
「まぁ、ちっちゃいたいちゃんなんて想像するだけできゅんきゅんするからね。それに引き換えちっちゃい椿くんなんて誰も喜ばないし、せっかくの薬が勿体ない」
「つまりそういうことなんだけど、ど直球で言われると傷付くよね」
真はいつでも、椿に対して投げ掛ける言葉をオブラートに包むということをしない。しかも真顔で言ってるところがまた辛辣だ。
とはいえ、そんなことで椿に同情したりなんかしねぇけど。
「知るか。誰にも喜ばれずに体育座りでもしてろ」
「やれやれ。需要のねぇことしたくねぇんだけどなー」
でもやるんだな。
どうしてもやらなきゃ気がすまないんだな。気持ちは分かるけど。
「あー、でもちょっと待って。やっぱりあまりよくないかも」
「どうして?体に害はないんだろ?」
「そうだけど。被験者の何人かに異常なデータが……これ多分、記憶の錯綜かな」
「記憶の錯綜?」
「えっと…なんか記述が……ああ、これかな」
手際よくPCのデータを進めていく蒼は、どこか渋い表情をしていた。そして、目的の記述を見つけてそれを読み進めると…その表情が更に渋くなった。
「殆んどの場合は記憶はそのままに体が小さくなるだけだけど…ごく稀に、当時の自分に戻ったみたいに錯覚しちゃう人がいるみたい。それもすぐに戻るけど……記憶が戻っも当時の感覚を引きずる傾向が強い」
「引きずるって…何だよ?」
「自分がもうその年齢じゃないことは分かってるけど、その当時のままような気がする…って感じだと思うよ。憶測だけど」
自分がその当時とは違う人間だと知りながらも。まるで自分が本当にその年齢かのように思う。そして、その当時に起こったことを再び体験しているかのような…きっと、そんな気がするのだろう。
だから、記憶の錯綜。
そりゃあ、人の記憶を混乱させるようなもんなんて、発売なんて出来るわけねぇわな。
「ふぅん。じゃあ、どのみち大晟は却下だな」
「……何でだよ」
最初から試す気なんて毛頭なかったけど。ついさっきまでゴリ押ししようとしてたくせに、何で突然あっさり引き下がるんだよ。
「14歳くらいならまぁ、俺らと馬鹿みてーなことばっかしてた時期だからいいけどよ。10歳なんて、イカれブリザード君の全盛期だろ」
10歳。
自分がいつ年を重ねたのかすら知りもせず生きていた―――生かされていた、あの頃。確かに、全盛期だ。
俺がこの試薬を試して10歳になった時、もしも記憶の錯綜が起こったら…俺はあの頃に舞い戻るかもしれない。そうではないと知りつつも、あの閉鎖された世界にいることを錯覚する。
恐怖し、絶望する。
……ゾッとした。
「…………」
何で。……何で俺が。
そんなことに恐れ戦かなきゃいけねぇんだよ。乗り越えたはずのものに、ひれ伏さなきゃいけねぇんだよ。
どうして、もう存在しない恐怖に。いつまでもいつまでも、縛られたままで━━そんなままで、いてたまるか。
「……貸せ」
「は?」
だから、要に聞かれた時にハッキリと答えられなかったんだ。
もう終わったのか?という問いに。
自分では乗り越えたつもりでも、心のどこかにあの頃の恐怖が残っていたってのか。あの真っ暗な世界にいるような気持ちから、まだ抜け出せていないと。
だから未だにハッキリと、青空を見ることが出来ないってのか。俺には一生、出来ないとでも言うのか。
ふざけんな。くそ忌々しい。
「貸せって言ってんだよ」
「馬鹿っ、お前何……あっ!」
椿の手から瓶を引ったくって、取り返される前に蓋を開けて流し込む。
上等だクソが。10歳だろうが、全盛期だろうが。記憶でも何でもかかってこい。
「……まっず…!」
なんだこれくそ不味いじゃねぇか!
勢いで全部流し込むんじゃなかった…。いやでも、躊躇して中途半端になるよりはマシか。
絶対に失敗させねぇ。
「何考えてんだお前はよ!頭沸いてんのか!?」
「うるせぇ黙……っ!!」
何だ……この、感じ。
何かに押し潰されるような…痛みではない奇妙な感覚。全身が何かを感じている。体の中で何かが起こっている。
しかし、それを言葉では表せない━━何か、とてつもなく、奇妙な…感覚。
「ああ…もう」
溜め息混じりに呟く、椿を見上げる。
奇妙な感覚が 、徐々に薄れる。
「た……大晟っ!」
今度は要を見上げる。
凄く不安そうな顔で、俺を見下ろして━━━…見下ろして?
俺は、見上げるばかりだ。
椿や要だけではない。
誰も彼も、突然背が高くなってしまったみたいに…見上げなければその顔が見えない。あの真でさえも。
「………まじかよ」
確かに自分の口から出た声が、自分のものではないみたいだった…いや、自分の声であることに間違いはない。
しかし、今の自分ではない。
いつか…泣き叫んで、死を懇願してばかりいた……あの頃の、自分。
「錯綜してねぇだろうな」
「……別に何ともねぇ」
本当に、あの当時の自分になるとは…驚きは隠せないが。
しかし、記憶は今の今までと何ら変わりはない。あの頃にいるような気分もしない。自分の年齢は分かっているし、ここがどこかも…どの顔を見ても、誰が誰かはすぐに分かる。
ただ、声変わりする前で何か喋ってて気持ち悪いのと、服がぶかぶかだからどうにかしてぇなってくらいで。
……何だか、拍子抜けしてしまう。
**
龍遠は思い出を取っておくタイプの親で、要が出入りしていた頃に着ていた囚人服を捨てずに保管していたらしい。そんな龍遠を横目に、稜海はそんなことだから部屋がいくらあっても足りないんだ…と小言を言っていたことは、余談だが。
10歳頃の要の服を着てまだちょっと大きいってのは納得いかねぇ。いやまぁ、あの頃はろくな飯も食ってなかったから、俺が標準よりもかなり小さいんだろうけど。仕方ねぇけど、なんか納得いかねぇ。
「やっぱりなんか、気が引ける」
いつもと同じ体勢━━例によって押し倒されてる訳だが。見上げる先にいる要が、いつもよりも随分と大きく見えた。
それでもっと凄んでりゃ迫力もあるんだろうが…複雑そうな顔をしているせいか。迫力のはの字も感じられないどころか、いつもの無駄な強気すら感じられない。
「だったらやめろ」
「でも、せっかくの機会ですし…」
「別にお前、子供犯す趣味ねぇだろ」
「まぁそうだけど…やっぱせっかくだし、ヤっとこ」
別に趣味でもねぇのに、どこら辺がせっかくなのか。「せっかく」って言葉の意味を分かってんのか、こいつは。
まぁ、それが分かってようがいまいが…こいつの性欲を抑えることは無理ってことは分かりきってるからな。結果的にこうなることは目に見えていた。
「これってさ、このまま指突っ込んでも大丈夫なのか?」
「っう!」
まじでこいつ、頭沸いてんのか。
聞きながらやったんじゃ、聞いてねぇのと同じだろうが。質問には返答があるってことすらも知らねぇのか。
「うわ、キッツ……」
「っ…」
指が。いつも感じているはずの指が。
太さも長さもいつもとは全然違う。何だか、全く別のもののように感じる。
指なのに、圧迫感がすごい。内壁が、押し広げられていく。
「ああでも、奥まで届く」
「━━ふぁあ!」
要の指が内部のどこかに触れた瞬間。
頭の奥まで電気が駆け抜けたような衝撃を受けた。いつもは指を入れられただけでそうなる…快楽の回線が繋がった合図だ。
「やっぱり、ちっちゃいだけでいつものままなんだな」
要の顔から、遠慮が消えた。
「あっ…ん、ぁっ」
喉から競り出す自分の声が、自分のものではないみたいに高い。変な感じだ。
「どんどん広がってく」
「んんっ…ふぁ、あぁ…っ」
たった指1本を掻き回されるだけで、太いバイブでも入れられているような感覚だ。指の腹が内部を擦れる旅に、ビリビリと背筋に快楽が突き抜ける。
止まらない。
「もしかして、いつもより感じてる?」
「あっ…みみっ、もと…でっ」
喋るんじゃ、ねぇ。
「耳元で?」
やばい。
「━━━っ!!」
耳から脳に届いた瞬間。
体が反応する。要の声が…それを快楽だと、認識してしまっている。それが指から感じる刺激と重なって、堪らなくなる。
止まらない。
「感じやすいのはいいけど、流石に早すぎね?」
「うるっせ…ああっ!」
圧迫感が増す。
更に広げられる感覚が、また快楽を呼び起こす。
「なぁ、いつもは届かないところに指が届くのってどんな感じ?」
「あっ、ぁ…そこ、やめ……っ」
いつもは押し付けられ突き上げられることで快楽を助長する場所。そこを指で撫でられると、別の感覚が全身を駆ける。
いつもよりも一点に集中した強い刺激が、広がっていく。その強さを残したまま広がる刺激に、全身が痺れていく。
「やめろって反応じゃねーけど」
「ああっ!」
3本目。確かに指だと分かっているのに…感じる圧は、いつも要が入ってきた時と同じくらいだ。
それだけで達してしまいそうな程の感覚だ。そう思うとそれを求めて、擦れる内壁が吸い付いていく。
「イくなよ」
達しそうになった根本を握られ、上り詰めたものが塞き止められる。
その状態で、中で指がそれぞれに動く。あちこちに散らばる刺激の、そのどれをも抗う術がない。けれど、そのすべてを受け止めても…吐き出す術もない。
でも、それでも…快楽は突き抜ける。
「ぁ、ああ…っ!」
吐き出すことなく、そのまま、達す。
意識が飛びそうな程の感覚を感じて、体が大きく震える。それでも、熱はどこにも逃げない。
苦しい、気持ちいい。苦しい…そんな気持ちが渦巻いて、またどんどん熱が溜まる。
「イくなって言ったのに」
「そんな、の…」
出来たらやってる。
でも無理だから…こんなに、気持ちよくて…苦しい。そして、気持ちいい。
頭がおかしくなる。
「…あー、やっぱなんかいつも違う」
「ん…っ」
冷たいキスなのに、熱が高まる。
けれど落ち着く。
「何て言うんだっけ、こういうの」
「━━ッッ!!」
唐突に、比べ物にならない程の圧迫感。
体が強張る。
「まじ、きっつ…」
「あ、っ…あ、ぁ…あっ」
隙間なく広がる。凄まじい圧迫感に息が詰まり、とてつもなく苦しく感じる。しかしそれをどうすることも出来ず、ただ受け止めるしかない。
息が、出来ない。苦しい。
痛みではない。けれど、内蔵が押し潰されそうな苦しさに、涙が溢れる。
「大晟、ちゃんと息しろ」
「はっ…ふ、ん、んぅぅ…っ」
無理矢理舌をねじ込まれ、隙間から空気が体内に入る。絡まる舌から感じる微量の刺激に体の力が抜け、少しだけ苦しみが緩和された。
その間も動きは止まらない。ゆっくりと、ゆっくりと、内壁を擦りながら押し進んでくる。緩和された圧迫感が、また増していく。
しかし、抱き締められ、キスをされ。そんな風に、僅かながらも別の快楽を与えられていると。苦しい程の圧迫感が…やがて、堪らない快楽となる。
「全部、入った…」
「はっ…ぁ…」
離れた唇から糸が伝う。
冷たさが名残惜しくて、無意識にそれを目で追っていた。
「…分かった、何て言うか」
要と、視線がかち合う。
いつものように俺を挑発するでもなく、動き始めるわけでもなく、じっと見つめられ…何だか変な気分になった。
「食べちゃいたいくらい、可愛い」
要は俺を見下ろしながら、そう言って。
俺の目元にキスをした。
「━━━っ」
……何で、俺が。
「っ!…おい、急に締めんなって」
「あっ、ぁあっ!」
動き始める。快楽が、頭を揺さぶる。
全身を突き抜ける。
鼓動が早い。
それは、感じている快楽とは別のものだ。
何で、俺が…要なんかに。
「キツいけど、これはこれで…いいかも」
「あ、ああっ…ぁっ!」
要の動きを、いつもよりも敏感に感じる。内壁を抉られるような感覚が、堪らなく気持ちいい。
奥を突かれる度に、意識が飛んでしまいそうな程の衝撃がくる。けれど、押し寄せる快楽がそれを許さない。
何より、この高鳴る鼓動が。
俺の意識をよりはっきりとさせている。
「大晟」
「は、ぁっ……んっ」
名前を呼ばれ、触れるだけのキスをされる。
また、目が合う。
金色の髪が肌に貼り付いている。汗が滲んでいる肌に、思わず手を伸ばした。
紫色の目は俺を捉えたまま、微かに笑う。
「……可愛い、大晟」
そう、囁かれる声と。
とても、年下とは思えないその表情に。
「…っ」
まただ。
また、鼓動が速くなる。
何で。俺が、要なんかに。
こんなに。
ドキドキさせられないといけねぇんだ。
止まらない(鼓動の高鳴りは、増すばかりだ)
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