53 これまでのこと全てが。
今のこの一瞬の為と言うのなら。
そしてこれからもそうであると言うのなら。
たったそれだけで、全てを受け入れられる。
例えそれが、どれだけ理不尽な過去であっても。
Side Kaname しんどい。
久々のハード検体だったからか。いつもよりも体が動かない。吐き気とか目眩とかはむしろいつもより少ない気もするけど、寒気と頭痛が酷い。頭が首から転げ落ちるんじゃないかと思うくらいぐらぐらする。
それだけじゃない。検体が始まってしばらくしてから…体の中でずっと、ぐるぐると何かが掻き混ざっているような感覚がしていた。それが、終わってからも抜けない。
こんなの感じたことない。
気持ち悪い。
「凄い汗だな」
自分の汗ばんだ髪が、額からかきあげられるのが分かった。ベッドに沈んでから全く動かしていない顔をあげようとすると「動くな」と制止された。
でも、俺はその言葉を無視して顔をあげた。視界に入った大晟の顔がゆらゆら揺れていて、美人がよく見えない。
「…大晟」
抱き締めて。
そこまで言葉を出す前に、手を伸ばすとすぐに大晟の指が絡まった。そしてそのまま、体温をすぐ側に感じた。
見えないけど、分かる。
安心する。
「お前、何でそんなに辛いのにすぐ検体入れられるようなことするんだよ」
「それは…」
「別に今答えなくていい」
「…いや、大丈夫」
今日は吐き気があんまないから声を出すのは苦にならないし、俺としては話をしていた方が気が紛れる。
大晟は気を遣ってくれたんだろうけど、俺はそのまま話をすることにした。
「出たり入ったりの時から、独房に入れられるようなことをよくしてたのはまぁ…言わなくても分かってると思うけど」
「ああ、だろうな」
外でも喧嘩ばかりしてたから、ちょっとムカつくとすぐ喧嘩を売る癖が直らなかった。出たりは入ったりしてると尚のことそうで、あの頃は毎日のように看守に喧嘩売ってたと思う。
一度、目が合っただけで殴りかかった時には流石に龍遠に怒られて、稜海に痛い目に遭わされて…それ以降は、ちょっとマシになったけど。それでも、今よりもずっと短気だった。
「それで…ロイヤルになってからは、独房じゃなくて検体に入れられることも多くなって…最初はそれが嫌で大人しくしてたんだけど」
俺にとって検体は地獄だった。
だから俺はその地獄から逃げ出そうと、大人しくしていた。少しでもあの苦しみから遠ざかりたかった。
だから看守に虚仮にされて、何を言われても言い返さず。子供だからって他の囚人たちから甘く見られて、馬鹿にされても我慢して。毎日が苦痛で仕方がなかった。
それでも、検体を受けるよりはマシだと思っていた。でも、そんなことをしても無駄だと気が付いた。
「いい子にしてても検体がなくなるわけじゃないし…何より、これ以上奪われたくなくて」
検体を受ける度に、自分から何かを奪われる。髪の色も、目の色も、体温も。俺の持っていた俺が、奪われていく。
このままじゃ、全部奪われる。自分自身が、俺が俺じゃなくなっていく。
咲哉に全部奪われる。
それが嫌だった。本当に嫌だった。
あいつのせいで俺はこんなことになったのに。またあいつのせいで、自分自身まで無くしてしまうなんて。
「苦しいのよりも、そっちの方が嫌だった。それに…少しだけ、期待してた」
検体を受けていれば、いつか終わるのかもしれない。俺はいつも、そんなことを考えていた。
苦しみの中で、この苦しみが、何かの拍子に…ふっと。永遠に途切れることがあるかもしれない。そうなればいいのに、と。
だから、検体が終わった時に自分の意識があることに、いつも、ちょっとだけがっかりしていた。
そして後遺症を感じながら、やっぱりもう嫌だと思うのもいつものことだった。こんなに苦しい思いはもうしたくないと。
けれど…自分を奪われたくない気持ちと、少しの期待を持って。俺は自分のしたいように生活することを、決してやめなかった。
―――大晟に会うまでは。
「…今は、大晟がいるから」
ハードでも、グレートでも。その検体がどれだけ苦しくても…終わればそこに、大晟がいるから。
何も期待はしていないし、がっかりすることもなくて。どんなに苦しくても、大晟が待ってくれてる…って思うと、それだけで気持ちが軽くなる。
「それで…検体そのものが割と平気だから、つい調子に乗ってる」
しんどいんだけど。
今もめちゃくちゃしんどいんだけど。
でも…大丈夫。
隣に大晟がいるから。
「……あっそ」
そう素っ気ない返事とは裏腹に、抱き締められる力が強まった。
酷く頭も痛いし、身体中が掻き回される感じも治まらない。けど、それ以上に大晟の体温を感じて安心しているから。目を閉じると、眠気がすぐそこまできていた。
**
「久々に激しいのいっとく?」
今回の後遺症はかなりキツかったけど、寝て起きたらもうすっかり治ってた――ってこともなくて。
頭痛と変な感覚だけはなかなか取れなくて、結局2日も労働を休んだ。久々だったからなのか分からないけど、大晟と一緒にいてここまで長引いたのは初めてだった。
そんで、やっと全快…とまではいかないけど。もう労働に出られるくらい回復した今日。肉体労働をさくさくこなして、大晟が約束してくれた通り…いっぱいセックスをしようと思って、さっさと帰ってきたわけです。
「……聞くな」
自分で言った手前、大晟は俺の問いかけにいつもみたいに怒ったような返しはしてこなかった。そういう、男に二言はないって所は本当に男前だと思う。顔はそこらの女顔負けの美人だけど。
さて、その目の前の美人をどう頂くか。最近は普通にセックスしてばっかだから、久々に玩具のひとつでも使ってみますかね。
「んー、じゃあ全部いっとく?」
「……全部?」
「そ、全部。…はい、まず猫耳な」
感覚連動式の猫耳を付けて…うん。美人に猫耳。最高。
壊れてるから本来の使い方は出来ねーけど、付けてるだけで性欲が増す気がする。やっぱ美人んは何でも特だな。
「壊れてんだろ、これ」
「うん…でも、もしかして動いたりしねーかな?一応スイッチ入れてみっか」
1回壊して以来、ずっと放置だったけど。
あれから色々あって…何かの拍子に直ってるとか、そんなことあったりして。
…流石にそれはねーだろうけど。とりあえず、スイッチオン。
「そんな都合のいい……っ!」
「え、何?」
俺が電源をオンにするボタンを押した瞬間、大晟の体がビクッと跳ねた。
びっくしりて顔を見ると、大晟も凄くびっくりした顔をしてる。
「………おい、静電気みてぇの来たぞ」
「マジで直った?耳触ってい?」
「やめ……んっ!」
「え?」
何その、明らかに感じた声は。
これはもしかして…もしかするやつ?
「………直ってるじゃねぇか…」
「尻尾も付けねぇと…!」
大晟は嫌そうな顔をしつつも、抵抗しない。検体に行く前、いっぱいセックスしたいって言っといて本当によかった。
なんて思いながら。すぐさま玩具の山の中から尻尾を取り出して、いざ装着。
「うああ!バカ…っ、思いきり握ったまま付ける奴があるか…っ」
「あ、そうか。擦るだけでも感じんだよな」
「あっ…ああ……ッ!」
えっろ……!
「……楽しくなってきた」
最近は玩具なんてなくても気持ちいいし、凄く満たされるから気にもしてなかったけど。
やっぱり、これはこれで凄く楽しい。
「ちょ…待……」
「待たない。次はエネマグラと尿道バイブな」
「ぁっ…ふ、んん!」
尻尾にローション塗りたくって、大晟の後孔にゆっくりと挿し込む。すると、枕に顔を押し付けてビクビクと震え、耐えるような声を漏れる。
たまらなくエロい。
「慣らすだけだからイくなよ」
「んっ…無理…あ、あぁっ、無理…もう…っ」
尻尾を何度か抜き差ししただけで、もう限界が見える。
枕の隙間から見える顔は火照っていて、目には涙が溜まっている。この感じは、久々に堕ちるかな。
「じゃあ先にこっち」
「っ、痛―――!!」
尿道バイブと挿すと、苦痛の声が漏れる。垣間見える顔が、快楽に苦しむ顔から痛みに苦しむ顔に変わる。
少しだけ可哀想な気もするけど…でも、そんなのは一瞬のことだ。尻尾と同じリズムで何度か上下に動かすと、痛みはあっという間に快楽へと戻る。
「これで出せないな。尻尾抜くぞ」
「ぁ、あっ…ふ、ぁああっ!」
尻尾をゆっくりと引くと、大晟の体がビクビクと震える。半分ぐらいのところから一気に引き抜くと、高い声と共に体が一段と大きく揺れた。
出させずに、それも道具でイかせるのは久々だ。枕に沈んだ顔を無理矢理こっちに向けると、とろとろになった視線とかち合った。
「気持ちよかった?」
「……よか、った」
甘い声が漏れる。
やっぱり、久々に…この感じ。悪くない。
「堕ちたな」
最近、すっかり堕ちなくなった大晟に特に不満があったわけじゃない。というより、意識がある中でも俺に手を伸ばして、求められるのは凄く気持ちが良いから…むしろ前よりも満足していた気さえする。
でも、こんな風に堕ちる姿を見るのも、やっぱり悪くない。何も考えられなくなるくらい快楽に溺れさせて、ぐちゃぐちゃにしてやりたくなる。
そして、俺のことだけ見ていればいいと思う。俺以外の全てを忘れてしまうくらい、何も見えなくなってしまえばいいと思う。
「あ、んっ…!」
バイブのスイッチを入れると、一度果ててへたっていた体がぶるっと震えた。刺激に反応して、尻尾がピンと伸びる。
あの尻尾もまだまだ遊び甲斐があるけど、そのまえに空っぽになった後ろを埋めないとな。
「大晟、深呼吸して…つってもまぁ、無理か」
エネマグラを取り出して後ろに当てると、ステンレスの冷たさに緩んでいた後孔が少しだけ絞まった。しかしそのまま押し込むと、まるでそれを待っていたかのようにするすると呑み込んでいく。
そして、新しい快楽を予期した大晟は再び枕に顔を埋める。
「ちゃんとこっち向け」
「あぁ、ん、ふっ、んん――ッ」
枕から顔を上げさせてキスをすると、大晟は二度目の絶頂を迎えたらしい。抱き寄せる体が、また大きく震えたのを感じた。
まぁ、全てを教え込まれた大晟の体が、エネマグラの刺激と尿道バイブの刺激とに早々耐えられるはずもねーしな。
「しばらく1人で遊んどく?」
「ぁっ、やめっ―――」
あ、そうだった。
声でもイくの忘れてた。
「どこもかしこも性感帯だな」
耳元で囁いて、猫耳に舌を這わせる。
そして尻尾を手に取り擦ると、イッたばかりの体がまた激しく揺れる。そしてその揺れが、エネマグラの刺激への着火材となる。
上から下まで、余すことなく快楽を引きずり起こす。
「あぁっ、あ、らめ…ふ、はぁっ、あああ!」
生理的な涙が溢れる。それを舌で掬い上げるだけでも、小さく震える。
治まらない快感の波に、ビクビクと体を震わせて必死に耐えようとしてるけど。でも、耐えられるはずもなく。
果てる。何度となく果てる。
そうして全身がどろどろになっていく姿が、最高にエロい。
「…大晟、俺も気持ちよくして?」
「んむっ…」
我慢できなくなってすっかり大きくなった俺のモノを大晟の口に突っ込むと、すぐに舌が絡んできた。
そして躊躇なく、そればかりか…まるで求めるように、吸い付いてくる。
「そんなに欲しかったのか?」
「ん、んんっ…ふっ…」
「っ……」
……やばい。
上から見る大晟の顔はエロすぎだし。そもそも、上手すぎだし。余裕ぶっこいて調子のいいこと言ってる場合じゃない。
「ん、ふっ…」
「……やば、気持ちい…」
このままじゃ、早々にイかされる。
あまりやったことないのに、それでもこんなに上手い理由は分かりきっている。俺じゃない誰かが、それを教え込んだからだ。
大晟の場合、殆ど…ってかほぼ全部?のことがそうなんだけど。でも、それは大晟の快楽を呼び起こすものばかりだ。
だから、誰かに仕込まれたことで俺がイかされるってのは。それはなんか、ちょっと…癪かも。
「大晟、もう離せ」
「…っ…ん、やら…んん…っ」
「いや、やだじゃねーから…はな、せっ」
―――やばい。
「ッ!!」
「んんっ……!」
痺れるような感覚と共に、喉の奥に熱が広がっていくのを感じる。同時に、大晟の体も何度目かの絶頂に跳ねた。
ああもう……結局イかされたし。
「……言うこと聞けよな」
「はぁ…はぁ…んっ」
口を解放すると、殆ど飲み干してはいたものの少しだけ残っていた精液が垂れる。それを指で掬って口の中に押し込むと、指に舌が吸い付いてきた。
まるで、物足りないと主張しているみたいに。指に舌が絡み付く。
「そんなにイきまくってて、まだ足りねーの?」
「ふああ!」
尻尾を擦り猫耳を舐めると、指が解放されると同時に甲高い声が響く。絶頂が大晟を休ませることはない。
汗で額に張り付いた髪を退けると、虚ろな目が俺を見上げた。そして…また押し寄せるの波に身悶えながら、口を開く。
「あ、ぁっ…たり、ない…!」
「これ以上何が欲しいんだよ?」
上から下まで、余すことなく快感を貪っているというのに。熱を持った体は、ただ呼吸をするだけで絶頂を迎える程に、快楽に溺れているというのに。
これでもまだ、快楽が足りないのか。
「かな、め…っが、いい」
―――ああ。
「……もっと」
俺の首に腕が回る。
熱い体温が、俺の冷たい体に伝わってくる。
「もっと、ちょうだい…っ」
ああ、本当に。
「……何たって、俺専用だもんな」
「ぁあッ!」
ずるとっエネマグラを引き抜くと、何度目かになる絶頂を迎えた。その体に自身を押し当てると、早く欲しいと言わんばかりに入り口が引くつくのを感じる。
すぐにでもぶち込みたいけど。
「これが欲しい?」
「ほ、しい…」
「そう?でもまだダメ」
「ぅ、あ―――っ!」
まだ、全部遊んでないからな。
バイブを取り出して一気に押し込むと、一瞬の息の詰まりを経てからガクガクと震える。
挿れただけでこの反応。こんなんで、スイッチ入れたらどうなるんだろ。
「いきなり強にしたらぶっ飛ぶかな?」
もうぶっ飛んでるみないもんだけど。
せっかくだから、とことんまでに尽き果てさせてやりたい。
「ぁっ、ああっ…らめ、やめ――っああ!!」
カチッという音がして数秒もしないうちに大晟は一度体を縮めるような体制を取って、でもやっぱり耐えられなくて――呂律も回らないまま、大きく体を震わせた。
大きく息を吐く。そしてまた、止まらない振動に身悶える。もう枕に顔を埋める余裕もなく、布団を握り締めている手もすっかり緩んでいる。
「ほら、もっと気持ちよくしてやるから」
尿道バイブと、後ろのバイブ。
ゆっくりと引き、そしたまたゆっくりと挿す。同じリズムでそれを繰り返す。
「っあ!ぁ、ああッ…や……ぁあっ」
快楽を抗う術がなく、ただ喘ぐ他ない。
それでもどうにかしてそれを止めたいのか――力なく伸ばされた手が、尿道バイブを動かす俺の手に重なる。その手ですら、小刻みに震えている。
「そんなに気持ちよさそうなのに嫌なのか?」
「…いっ…ぁ、ああっ」
俺の問いに答えようとするけど、快楽がそれを許さない。
仕方なく手を止めて、耳元に顔を寄せる。密着させなくても、大晟の中に渦巻いている熱を感じた。
「本当はもっと欲しいんだろ?」
「あっ―――…!」
耳許で囁くと、また少し体が跳ねた。
「……いや、…だ」
「何が嫌なんだよ?」
「ふぁっ!……や、だ…」
バイブをグッと押し込むと、目をぎゅっと閉じてぶるっと震える。
そして、首を横に振る。
「……かな、め…が、いい」
―――ああ、もう。
「本当に欲しい?」
問いかけると。
震える手が、俺の頬に触れる。
俺にはもうなくなってしまった、熱い体温。
「ほし、い…ッあっ!」
大晟の返答を最後まで聞かずに、バイブを引き抜いた。
どろどろになったバイブを投げ捨てる。そして、先程と同じように自身を押し当て、同じ質問をする。
「これが欲しい?」
「はやく…おねがい、かなめ……っ」
懇願するような目が俺を見上げる。
声を荒らげ、唇を押し当てられ―――我慢なんて出来るはずもない。
「そんなに言うなら。思う存分、な」
「…あッ、ああ!!」
きゅうっと絞まる。
無理矢理押し込むと、待ち望んでいたかのように吸い付いてくる。
「……ほら、こっち向け」
「っ――んん、ふ…っ」
キスをすると、自分から舌を絡めてくる。抱き寄せると、腕が絡み付いてくる。突き上げると、締め付ける刺激が体全体に広がっていく。
熱い舌が…密着した体温が、その全てが。俺の冷たい体も熱くする。
これ以上ない程に、大晟を感じてる。
そして、思う。
今までの辛さも、これからのしんどさも、この一瞬のためだと言うなら。大晟と過ごす、その一瞬一瞬のためだと言うのなら。
どんな辛さもしんどさも全部、何でもないことのように思えてしまう。
過ごす時間の全てが(俺にとっては、それ以上ないご褒美だから)
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