48Side Kaname 労働を休んで2週間も経つと、いい加減暇になってくる。傷が治るまでは夜勤とかも全部免除なんて言われて浮かれてたけど、流石にもうやることがない。労働が恋しいと思う…程じゃねぇけど、明日辺りにはいよいよそうなってくるかもしれない。
本当ならもっと早く治ってるはずだったのに、大晟がエロいせいで…いえごめんなさい。俺の性欲が毎度の如く止めれられないせいです。毎日大晟に言われるけどどうしてもヤりたくなって、結局傷が開きます。
それでもまぁ、少しずつはよくなってっからそのうち治るんだろうけど。でも、既に漫画も読み尽くしてゲームも飽きるほどやってすることがないわけですね。
そうなると、普段はあまり気にしないものが気になってみたりして…そうしたら、使ってみようかなとか、思っちゃったりして。
「何してんだてめぇは」
「げっ…大晟っ」
「何してんだって聞いてんだよ」
普段は気にしないものの中でも、どうしてチョコフォンデュの機械になんて目をつけたのだろう…と、俺はいま猛烈に後悔しています。
だって、大晟にチョコぶっかけて食べたこと思い出して食べたくなったんだもん!でも大晟がいないから、普通にチョコフォンデュしようかなって思っただけだもん!
なんてことは口にせず。
「…チョコフォンデュ、作ろうと思って」
「で?」
「……これは…失敗したの、かな?」
説明書どっかやっちゃってさ?
この間やった時のことを思い出しながら適当にやってみたんだけど。
「かな?じゃねぇよ!どういう使い方したら部屋中チョコまみれになんだこの馬鹿が!」
「痛ぇッ!」
けっ…怪我人にゲンコツって。
未だに傷が治んなのに脇腹だから関係ねーのかもしんねーけど。でもゲンコツはちょっと酷くない?
「ベッドもソファもチョコでベトベトじゃねぇか。ふざけんじゃねぇぞ」
「ちゃんと片付けるから…そんな怒んなよ…」
「あ!てめぇちょっと待て!」
「はいッ」
手に付いたチョコを拭き取ろうとしたら、凄い剣幕で腕を捕まれた。ビックリしてビックリするくらい元気な返事しちまったじゃねーか。
ていうか何。何なの。そんな、殺すぞみたいな顔で睨まれると凄く怖いんですが。
「俺のチョコが勿体ねぇ」
「っ!」
不満げにそう溢した次の瞬間、大晟の舌が俺の指を這った。
背筋がゾクッとした。
「マジで勿体ねぇ」
指のチョコを舐め取った大晟が、顔をしかめたまま別の場所を見る。そしてその視線の先…俺の首に顔を埋めた瞬間、また背筋がゾクゾクとした。
やばい、ちょっと。これは。
「大晟…ちょ……ッッ!!」
冷たい首元に大晟の熱い舌が這う。
感じたことのない感覚が背筋を駆け抜けて、思わず大晟の体を掴んでしまった。
「……お前、首弱かったっけか」
え?
「え?なにっ…ッ!」
「ふぅん…」
俺の首にちゅっとキスをして俺の反応を見た大晟が、ニヤリと笑う。
何だ…この展開は。
ちょっと待って。やっぱりなんか凄く怖いんだけど。
「た…大晟さん……?」
「悪いペットにはお仕置きしねぇとな?」
は?
と、また大晟の顔が近づいてくる。
「んんっ!」
へっ…変な声出た!
……何これ。ちょっとマジで待って。
お前がペットだとか、そんなこと言ってる場合じゃない気がするのは気のせい?
「嫌なら力ずくで払い退ければいいだろ?」
「な…っ、――ッ!」
大晟の舌が俺の首を這う。駆け抜けるゾクゾクとした感覚が止まらない。
か、体に力が入らない。
大晟これ、絶対に分かってて言ってる。
「押し倒される気分はどうだ?」
そう言われて初めて、いつの間にかソファの上に横になっていたことに気が付いた。俺を見下ろしながら口許に付いたチョコをを舐めとる大晟に、不覚にもドキッとしてしまった。
いつもと真逆の体勢。そして、いつもと真逆のシチュエーション。
「……何…企んで…っ!」
下腹部に刺激を感じて、言葉が止まる。
またいつの間にか、大晟が俺のものを手にして撫でていた。
「悪いペットにお仕置きだって言ってんだろ?」
「何言…んっ」
また変な声が出そうになって、思わず口を両手で塞ぐ。
首に軽く息を吹かれただけなのに。まだ背中辺りに、ゾクっとした感覚が残っている。
マジでどうなってんだ。
「口塞ぐの禁止」
「なっ…」
両腕を捕まれ、ガチャンと手錠が掛けられる。
俺がいつも、大晟にそうするように。最高に楽しそうな顔をして。
「しっかり鳴けよ?」
「―――っ!!」
やばい。
なんだこれ、何だこれ。何だこれ。
大晟の舌が俺の首筋を伝う感覚に合わせて、頭の中を電気が駆け抜ける。ゆりちゃんの雷とは全然違う、全身がゾクゾクする電気が止まらない。
初めての感覚なのに、刺激が強すぎて頭も体も追い付かない。
「っ…あっ、た…やめ…っ!」
「ああ?てめぇ俺がやめろって言ってやめたことあんのか?」
「んっ…!」
ちゅうと首に吸い付かれ駆け抜ける電流に、全身が震える。
起こる刺激をどうすることも出来ない。身体中を止めどなくビリビリと駆け抜けるこの感覚は何なんだ。
「気持ちいいなら気持ちいいって言えよ」
……気持ちいい?
これが?……気持ちいい?
「ふっ、っ…あっ!」
――――これは。
これは決して、俺の知っている気持ちよさじゃない。
でも…そう言われた瞬間に、これが「気持ちいい」という感覚の一種なんだと頭が認識してしまった。そうすると、意識も体も…全身が、それを受け入れる。
「あーあ、我慢汁でダラダラだな」
「っ…そこ、擦んな……っ」
亀頭を擦られ、ビクビクと体が跳ねる。
いつもの大晟みたいに、自分が弄ばれている。
「だから、てめぇ俺がやめろっつってやめたことねぇだろ」
「んん……っ!」
舌が首筋を伝う。手が先端を擦る。
両方の刺激が繋がって、全身を突き刺すような衝撃が抜ける。
「唇噛むな」
「んぅっ…!」
大晟の言葉を聞いて、声を抑えるために無意識に自分の唇を噛んでいたことを知った。
いつも、大晟もこんな感じなんだろう…と思うのは一瞬のことで。大晟に舌を捩じ込まれ固く閉じていた口が無理矢理開く。
「っ…ん、ふ……っ」
―――キス、やべぇ。
「……いい顔するじゃねぇか」
ブロンズの髪揺れる。
最高の美人が俺を見下ろして、笑う。
ゾクゾクする。
「たい――っ!」
「っ…」
突然の刺激に、名前を呼ぼうとした声が詰まる。駆け上がってくる何かに、息も詰まる。
熱が、俺を覆うのを感じる。いつもは俺が押し込むものが、俺を飲み込んでいく。
いつもと同じはずなのに、いつもと全く違う。その感覚に、その刺激に、体が震えた。
「……や…ばっ」
大晟の中に、入ってる。
「挿れただけでイくのか?」
わざとだ。俺がいつも使う言葉を、わざと使って遊んでいる。
それがすごく悔しい筈なのに、俺を見下ろす大晟の少し苦しそうな表情が最高にエロい。興奮する。
「…それとも、声でイくのか?」
「―――っ!!」
耳から息が吹き込まれ、頭の芯に届く。
これも気持ちよさなのだと、脳が瞬時に理解した。
「…最高だな」
「っ…んっ、く……っ」
再び耳元で小さくそう呟いた大晟が、静かに上下に動き始めた。
大晟の内壁に擦られる。その快感は、理解するまでもなくよく知っている。まさか俺が…歯を食いしばって声を抑え、耐える時が来るなんて。
ガチャガチャと手錠が音をたてる。俺の力なら簡単に壊せる筈なのに、まるで力が入らない。
されるがまま…とは、正にこの事だ。
いつもは全てを与える側なのに。今はただ俺の意思とは無関係に、強制的に与えられている。
「っ…んっ、は…ぁ」
俺の上で大晟が喘いでる。
騎乗位初だってめてのことじゃないのに、これまでとは全然違う。
景色も、感じると感覚も。
「…っ、ん…っ」
なすがままに、与えられる。
俺にその主導権はなく、全てが大晟によってコントロールされている。
これじゃあまるで。
俺が、抱かれてるみたいだ。
「っ…たぃ、せ…もう、ヤバ…っ」
上下に動く度に全体が擦れて、その刺激が腰から全身に流れる。亀頭が大晟の奥に触れると、きゅうっと締まる感覚が堪らない。
見上げた先にある大晟が、気持ち良さそうに俺を見下ろしている。揺れるブロンズが、少しだけ蕩けそうなその瞳が俺を捉えて離さない。
与えらるもの全てが、快楽となって俺を襲う。止まらない。
―――イかされる。
「っ…勝手に、イく…ん、じゃねぇ」
「っう!」
ぎゅっと、大晟が俺の根本を掴んだことで俺の絶頂は阻止される。
痛くはない。けど、何なんだ…この、とてつもなく苦しい…のだろうか。分からない。
「イかせて下さい、だろ」
とことんまでに、徹底的だ。
「っ…」
……有り得ない。
これまで散々、数え切れないほどの玩具で遊んできた。その全てを組み敷いて、喘がせて、泣かせて、そして懇願させた。
その台詞を、自分が口にするなんて。
絶対に有り得ない。
「どうする?」
「く……っ」
ゆっくりと、微弱な刺激が体を抜ける。
イきそうでイけない、ギリギリの刺激がもどかしくて仕方がない。
気持ちいい。苦しい、イきたい。
でも…。
「なぁ、要?」
「――――…」
そう囁され、耳たぶを甘噛みされた瞬間。
今、たった今まであった「でも」という思いがふっ飛んで行った。
「……いかせて、ください」
プライド…なのかどうかは定かじゃないけど。俺の中にあった何かのストッパーのようなものが、多分、外れた。
残ったのは、これ以上ない程に満足そうな大晟の顔を前に。その中でイきたいと――それだけだった。
「良くできました」
「っ、…ぅあっ!」
ちゅっと額にキスをされ、刺激が再び動き出す。
首筋を吸われ、頭に熱が籠る。それを処理する間もなく下から激しく揺さぶられ、籠った熱が吹き出すような衝撃が下から上へと。そして全身の細部へと突き抜けた。
「ッ――!!」
そんな衝撃に、耐えられるわけがない。
「ぁ、んっ――…」
「…っ」
動きが再開して間もなく欲を吐き出すと、きゅうっと締め付けが強まると同時に大晟の声が微かに聞こえた。
見上げた先に、いつも見下ろしている顔がある。いつもみたいに甘い表情だけど、いつもみたいに虚ろじゃない。
「……たいせい」
名前を呼ぶとすぐにその顔が近寄ってきた。抱き寄せられ、そして、唇が重なる。
俺にはない唇の熱、そして密着した体から感じる大晟の体温。それが俺の体に伝わると同時に、まだ中に有るままの自身が再び熱を持つのを感じた。
「何だお前、意外と乗り気じゃねぇか」
「いやっ…ちが……」
「違わねぇだろ」
「っ!」
汗ばんだ額から髪をかきあげる美人に魅了され、俺は思わず息を飲む。
そして、再び突き抜ける刺激になすすべなく――ただ、体を委ねる他なかった。
**
「まさか、かっちゃんが抱かれる日が来るとはねー」
まこはそう言ってケラケラ笑った。
今日も助っ人でこの地区にやって来たらしかく、目にも止まらぬ速さでキーボードを叩いている。労働開始1時間足らずで自分のノルのみならず俺のノルマまで終らせてくれるなんて、神様意外の何者でもない。
ようやく傷も回復して出てきた久々の労働でまこに出くわしたのは、非常のラッキーだった。だったけども、今の発言は聞き捨てならない。
「抱かれた訳じゃねーかんな」
確かに構図的にはそうだったけど。
あくまでも、挿れてたのは俺だから。大事な所はそこだから。
誰が何と言おうとそこだから。
「手錠されて喘がされておねだりさせられてイかされたんでしょ?」
「……まぁ、そうですね」
「それもう、抱かれたも同然じゃない?」
た…確かに俺も思ったよ?実際問題、抱かれるみたいだって思ったよ?
―――でも、誰がなんと言おうと。例え俺自身が、何と思おうと。
大事な所は挿れてたのは俺って所だから。そこは絶対に譲らないから!
「断固として認めません」
「そう?じゃあそれでもいいけど」
じゃあって何だよ。
そんな口では納得したふりしてるけど心の内では納得してませんみたいな顔してもダメだからな。俺は絶対に、主張は変えないからな。
「チョコフォンデュなんか作ろうとするからこんなことになったんだ…」
もう二度と。決して二度と、チョコフォンデュなんか作らねーぞ。
あの後きっちり掃除もさせられて、5時間も固まったチョコと格闘してたんだからな。もうしばらく、あの甘い臭いは嗅ぎたくない。
「本当にそれだけなのかな?」
「何が?」
「本当に、チョコぶちまけられて怒って…かっちゃんで遊ぼうと思っただけなのかな?」
「かな…って、どうして?」
「……だって、ほら」
まこの手が止まる。
ほの歯切れの悪い言い方から、ハッキリと言われなくても言いたいことは分かった。
「まぁ、そう言われると」
「…思い当たることがあるの?」
思い当たること――というか。
俺は大晟が大丈夫って言ったその言葉を信じてる。その言葉は嘘じゃなくて、本当に大丈夫なんだと思う。
ただ、何となく。
「この前は煙草吸ってても怒られなかったし…なんかちょっと、引っ掛かるっていうか」
いつもならすぐに殴られて、それから捨てられるのに。あの時は奪い取られたのは同じだったけど、それから殴られることもなく…なぜかキスされた。
俺としてはそりゃ願ったり叶ったりだけど、なんか変に引っ掛かったんだよな。
「かっちゃんがそう思うなら、何かあるんじゃない?いっそ聞いてみれば?」
「よく分かんないけど、なんか引っ掛かるって?…ハッキリしてから聞けって怒られそう」
「でも、ずっと引っ掛けたままにもしておけないでしょ?」
「…そう…だな。………まぁ、考えとく」
どうせ考えたところで、いい案なんて出やしねぇけど。考えてることで大晟に不思議がられて、結局そのまま口にして…やっぱり、ハッキリしてから聞けって怒られる展開がもう見えてる。
考えるだけ無駄だな。
うん。もうこの話はこれで終わり。違う話に切り替えて、どうぞ。
「話は変わるけど、煙草と言えばさ」
「…何?」
まるで俺の頭の中での呟きを聞いていたみたいに、まこは話の内容を変えてきた。俺の顔見て察したとかだったらすげーけど。流石にたまたまだろうな、多分。
大晟なんて当たり前みたいに察するから、皆そうなんじゃないかと錯覚しそうになる。それとも、俺が分かりやす過ぎんのか?
……まぁ、どっちでもいいか。
「椿君の煙草の銘柄が変わってたんだけど、何か知ってる?」
「いや、知らねーけど。…どんなの?」
「なんかミントみたいなスッキリしたやつになってた…って、にゃんこちゃん情報だけど」
「猫情報って、まだ口利いてねーの?」
あれからもう2週間も経つってのに。
「もちろん」
と、まこは真っ白いスカートのポケットから何かを取り出して口に装着した。でかでかと「Don't speak 椿くん」と書かれたマスクだ。
残念なから英語の部分の意味は分からないけど多分、先生とは喋らないとかそんな意味合いだろう。
「徹底してんな。何にそんなに怒ってんの?まんまと出し抜かれたこと?」
「いや、それに関しては…それが椿くんの思惑通りだったとしても、たいちゃんを巻き込んだのは僕の意思だからね」
そう言って苦笑いを浮かべるまこは、吹っ切れた中にもまだほんの少しだけ負い目を感じているようだった。
大晟が見たら、きっとまた気にするなって怒られるに違いない。
「じゃあ、何で?」
「僕に何も教えてくれなかったから」
まこはまたキーボードを叩き始める。
心なしか、先程よりも力強くキーボードがカタカタと音を立てているように思えた。
「何も言わずに、特別独房に入ったから?」
「その通り。僕ってそんなに信用ない?」
「…信用してないとかじゃないだろ」
何も言わずに、全てが自分の頭の中で完成されている。そして、誰にも告げることなくそれを実行する。先生はいつもそうだ。言葉ではなく、自分の行動で周りを自分の思う通りに動かす。
でもそれは、決して誰も信用していないからじゃない。そういう性分なんだ。
「うん、知ってる。でも、なんかちょっと悔しいでしょ?」
「悔しい?」
信用されてない気がして、悲しいとか。ムカつくとか。
そうじゃなくて、悔しい…って、何でだ。
「だって、僕は椿くんの恋人なんだから」
ああ。
何となく、納得した。
「特別でありたい?」
俺の問いかけに、まこはにこりと笑う。
「ふふ、椿くんよりよっぽど僕のこと分かってるね。いっそのこと、かっちゃんが恋人だったらよかったのに」
「何を心にもないことを」
もう1年以上見てないけど、俺はまこと先生のラブラブっぷりを忘れちゃないぞ。
まこがどれくらい粘るのか知んけねーけど、そのマスクが終わったらどうせ腹立つくらいラブラブすんだろ。絶対にあっち行けってなるやつな。
「ちょっとだけ本気だよ。まぁでも、かっちゃんはたいちゃんしか興味ないか」
「別にそんなことねーよ」
……そんなことなくねーけど。
「うそばっかし」
「………そうですね」
まぁ、見抜かれるよな。
そりゃそうだわ。
「それはかっちゃんだけじゃなくて、たいちゃんも同じだけど…」
「…けど?」
「椿くんが出てきたからには覚悟しといた方がいいよ」
「……何を?」
と、聞くと。
まこの顔が凄い顔になった。例えるなら、今から飯だぞって時にヤりたくなって、それを言った時の大晟の顔にそっくりだった。
まぁつまり…それはもう、めちゃくちゃ嫌そうな顔ってこと。
「あの2人、テレパシーで会話できるレベルだから」
「……は?」
「それくらい仲良しなの。引くほど仲良しなの」
「ああ…」
まぁ。仲がいいんだろうな…っていうのは、この前ちょっとだけ話してるの見て何となく分かったけど。
でもそんな、血相変えて言うほどに?この前の時は…大晟が先生に凶器を投げつけてたことが一番印象的で、会話の内容はあんま覚えてねーな。
「何よりネックなのは、本人たちがそれを気付いてないこと」
「テレパシーで会話出きるほど仲がいいことに?」
流石に、本当にテレパシーで会話出きる訳じゃないと思うけど。
「ずっと一緒だったから2人にとっては当たり前のことなんだろうけど。……ちなみに、僕が人生で一番ビックリしたことは、あの2人が付き合ってないって知った時」
「そんなに?」
俺らの人生なんて、まだほんの14年とかそこらだけど。
まこも俺も、そこらの14歳よりは数多くの経験をしてる。だからこそ、14で永久的にこんなとこにぶちこまれることになったんだし。
「だって、いっつも一緒にいてテレパシーで会話してセックスするんだよ?恋人じゃなくてなんなの?」
「は?」
ちょっと待て、今なんて?
「……もしかしてかっちゃん、あの2人がヤり友だって知らなかった?」
いや、知らなかった?って…。
「……知ってるわけないだろ」
大晟とそんなに先生のこと話したわけじゃないし。つーか、話したとしてもきっと大晟はそういう余計なことは自分から言わないだろうし。
でもなんか、妙に納得した。そんで、今凄く…なんつーか、変な気分。
「言わない方がよかったかな…ごめんね、落ち込まないで」
「いや、落ち込んではねーけど」
なんか、変な気分。
「落ち込ませといてなんだけど、心配しなくても椿くんは僕しか眼中にないから」
「それは知ってる」
先生がまこしか眼中にないのなんて、誰が見ても一目瞭然だ。言われるまでもない。だから別に、何かを心配してるわけじゃない。
てか、落ち込んでないって言ったよな?全然聞いてねーじゃん。
「…じゃあ、劣等感?」
劣等感。
なんだか、すとんと落ちてたような気がした。
「……そうかも」
大晟と先生との関係に落ち込んでるわけでもない。嫉妬してるわけでもない。
ただ、俺には先生に勝るものは何もない。別に勝ち負けじゃないんだろうけど。でも、何となくそれが引っ掛かる。
これが、きっと劣等感。変な気分だ。
「僕と同じだね」
「…まこと?」
「僕も、たいちゃんに勝ってることなんて何もない…って、思ってたから」
確かに…大晟は非の打ち所がない。
でも、大晟とまこはそもそも土俵が違う気がする。それに、仮に同じだったとしてもまこは大晟に負けないくらい十二分に可愛い。
だけど俺は…同じ土俵に立つこともない。多分本当に、何もない。
「でもね、1つだけ見つけたんだよね」
「どんなこと?」
やっぱり自分には、大晟とは違う可愛さがあるって分かったとか?もしくは、足がめっちゃ速いとか?
「僕はこの世界の誰よりも椿くんのことが好き。それだけは誰にも負けない」
まこはそう言って、胸を張った。
「……この世界の誰よりも」
好き。
……確かに、と。思った。
「かっちゃんにはこの解決方法は難しいかもしれないけど…これひとつあれば、他の何にも対抗できるよ」
「……これひとつ」
「そ。この世界の誰よりも、好き」
この世界の誰よりも、大晟が好き。
「…割りとそうかも」
この世界の誰よりも…なんて、凄くスケールのでかい話に聞こえるけど。
何でだろ。そうなんじゃないかと思えてくる。
「えっ…かっちゃん、たいちゃんのこと好きななの?」
「……好きだけど」
そんなこと、とっくの昔にバレてると思ってたけど。
何だそんなにビックリした顔したんだ。
まさかバレてなかった?…いや、そんなことねーだろ。多分。
「いやそれは知ってるんだけどっ。見れば分かるんだけどっ」
「……何なんだよ…」
「好きでいいの?」
ああ、そういうことか。
「……この前JOKERに会って色々と吹っ切れたから、もう大丈夫」
まだ吹っ切れてないこともあるけど。
だから、龍遠に渡したUSBはそのままなんだけど…てかあれ、もうあってないようなもんじゃね?大晟、あれの存在覚えてのかな。
「JOKERに会った!?……いや、それはいいや、また今度にしよう。そんなことよりもう大丈夫って…そんなの、割りとそうかもどころの話じゃないでしょっ」
「…そうなのか?」
「そうでしょ!だってあれが……あのことが、もう大丈夫なくらいに好きなんだよ?この世界でどころじゃないよ、宇宙規模だよ!」
「まこっ、声がでけーって」
ちょっと注目浴びてるから。
まこは可愛くて仕事も出来るから看守からも一目置かれてるし、既にノルマの数倍をこなしてるから何も言われてないけど。
俺は常に喧嘩売ってて嫌われてるし、後から俺だけ残業のパターンあるから。ていうか確実にそんな気がするから。
「あ、ごめん。…でもかっちゃん、もっと自覚しようよ」
いや…そんなこと言われても。
宇宙規模とか。
世界でもスケールでかいなって思ってたとのに、宇宙とか言われたらもう俺の馬鹿な頭では処理が出来なさそう。
ちなみに、宇宙が何かくらいは知ってるからな?龍遠が嘘教えてなければなの話だけど……いや、今はそうじゃなくて。
この宇宙の誰よりも 、大晟が好き。
っていうのは。
いくらなんでもスケールが大きすぎて…処理が出来なさそうでも、ないぞ?んん?
「……意外と、いけるかも」
わりとすんなり、頭の中に入ってきた。
「いけるって何が?」
「…この宇宙の誰よりも、大晟が好き」
声に出して、やっぱり思う。
そうかもしれない…じゃなくて、そうなんだって。
「……やば。ときめいちゃった」
まこは胸にてを当てる。
その様子はどうも、からかっている風じゃない。
「何でまこがときめくんだよ」
てか、そんな要素なかったくね?
「かっちゃんってさ。そういう、何気ない感じにカッコよさ乗っけてくるよね」
「はい?」
「僕今、すっごくかっちゃんに抱かれたいってこと」
「なんだそりゃ」
ちっとも意味分かんねーし。
ていうか、そんなの先生にまじで聞かれたら殺されちゃうから。いないって分かってるけど、周りを確認してしまう。…うん、いないな。大丈夫。
「たいちゃんにも言いなよ」
「やだよ」
「何でよ」
「……何ででもだよ」
好きだって言っちゃったから別に言って悪いこともないけど。何か、恥ずかしいし。
ていうか、変にそんなこと言ったら忘れてるっぽいUSBのこと思い出されるかもしんねーし。
「ちゃんと言うんだからね」
まこはビシッと俺を指差して力強くそう言った。そんなに凄まれると…まこだから怖くはないけど、ちょっと言わないといけないような気分になる。
でも、やっぱり恥ずかしいから。
「……気が向いたらな」
多分、言わないだろうけど。
**
案の定残業を入れられそうになったけど、まこの上目使いのお願いで神回避できた。正に労働の神様だ。その後結局1時間くらい話し込んでたから実質残業したみたなもんだったけど、俺が部屋に戻った時にはまだ大晟は帰ってなかった。
それから30分。休みの間に散々遊び尽くしてやることがなく煙草をすって大人しくしてると、ようやく部屋の扉が開いた。
……俺は飼い主の帰りを待ちわびてる犬か。
「またてめぇは…どこの火事場だ。何も見えねぇじゃねぇか」
「あ、ごめん」
入ってきた大晟の顔が見えなくて、部屋に煙が充満してることに気がついた。
大晟がバタバタと何度か扉を開けたり閉めたりすると、その煙が一気に晴れる。しかめ面の美人がお出ましだ。
「いつか学ぶ日が…来ねぇな。一生来ねぇだろうよ」
またスルーだ。
文句…というか、ディスり?は口にしつつも煙草を引ったくられもせず、そして殴られもしない。
そしてどうやら、またアメを咥えているようでだ。口から白い棒がはみ出してる。…てことは、今日も先生と一緒の労働場所だったってことかな。
「遅かったな」
「椿ん所に行ってたからな」
これは微妙な線だな。
労働場所も一緒でその後に寄ったのか、違うけどわざわざ会いに行ったのか。大晟はついでじゃなきゃあんま部屋の外うろつくことないけど、まこは引くほど仲良しって言ってたし。後者もあり得なくはない。
それにどっちにしても、労働終わって1時間以上一緒に過ごしてんだから…その経緯はどうあれ、仲がいいことに変わりはない。
そんで明らかに先生からもらったっぽい、なんかでっかい袋下げてるし。
「なにそれ?」
「これ」
「これ?……うわ、大量じゃん」
これっていうのは、つまり大晟が咥えてるアメだ。それが袋の中にぎゅうぎゅう詰めに入ってる。
多分、100本以上はある。
「全然少ねぇよ。1日5本計算で20日くらいしか持たねぇし」
まるで煙草の計算してるみてーだな。
つーか1日5本も食うの?これ?
「そんなに気に入ったのか?」
「チョコ程じゃねぇけどな」
「じゃあ何でこんなに」
「…………あいつんとこにあったから」
大晟はソファにアメの袋を投げ捨てると、そのままベッドに腰を下ろした。
今のは明らかに何かはぐらかした感じだったけど…それが先生に関係あるのか、それとも何か別のことなのか。俺には話したくないことなんだろうけど、入手先が先生ってことは先生は知ってるんだろうな。
「ま、別にいいけど」
いつもならなんかムカつくってなるとこだけど、今はそうでもない。
俺にはないものだらけだけど、ひとつだけあることに気が付いたから。それだけあれば、何にも対抗出来る…っていうのは、気持ち的にも余裕が出来るもんだな。
「…大晟、キスしよ」
ベッドに上がる。
既に小説を読み始めていた大晟の視線が、俺を捉えた。
「断る」
「即答かよ。でもそれを断っちゃう」
「おい、…っ!」
大晟の口からアメを引き抜き、代わりに唇を押し当てる。
この宇宙の誰よりも、大晟が好き。
そう思うと、大晟が欲しくて欲しくてたまらない。まぁ、もう俺のものなんだけど。
だけど、もっともっと欲しくなる。…これはまた、歯止めが効かなくなって大晟に怒られるやつだな。
でも、仕方ない。
満たされて(そして、溢れだす)
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