Long story


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35

 まるで歯車が噛み合うように、物事は進んでいく。しかし、噛み合うことがいいことであるとは限らない。
 世の中には、知らない方がよかったと思うことが山ほどある。一番厄介なことは、その事実について知るべきか否かが、知らなければ分かり得ないということだ。

Side Kaname

 まこは俯いた顔をあげることなく、何度か「ごめんなさい」と呟き、最終的に泣き出してしまった。
 まさか泣き出すなんて予想外の展開すぎてなにも言えずにいる中、大晟が小さく「やれやれ」と呟いてため息を吐いた。

「謝ってばっかいねぇで、説明しろよ。でないと、怒ることかどうかも分からないだろ」

 そう言って近寄った大晟が、まこの頭をいつも俺にするみたいに撫でる。それを見てるのは、なんだか自分の特権を奪われたみたいで、あまりいい気分じゃない。
 けど、今はそんな不満を口にする時じゃないことは分かってる。
 大人しくその光景を見ていると、しばらくしてまこはぼろぼろと涙を流したまま顔を上げた。

「短い話じゃないよ。それに、全部話したら怒るどころか、僕を殺したくなるかも」
「ならとりあえず、話ができる所まで案内しろよ。茶があればなおよし」

 まこの口から「殺す」なんて物騒な言葉が出てきたことに少なからず驚いた。そして、それを冗談で言っているのではないということにも。
 しかし、大晟はそんなこと全く聞いていなかったかのように、軽い口調で返す。

「………分かった。…みんなは?」

 まこの視線が俺たちに向いた。
 そういえば、大晟を送ってからどうするかなんて考えてなかったな。

「長くなるなら、帰りの足がいるでしょ?適当な所で待っとくから」
「別に一緒に来てもいいんだぜ」
「いや、やめとくよ」

 大晟の誘いを断った蒼は、そのままその辺に転がっている誰かの上に腰を下ろした。適当な所とは言っても、さすがにそれはないんじゃないかと思わなくもない。 

「ならお前らは俺とさっきの続きだ」
「えっ」
「まじすか」
「サンドバッグくらいにはなれよ」

 亮と彪牙の表情が一瞬で強張った。
 こりゃ、ご愁傷さまとしか言いようがないな。

「かっちゃんはどうする?」
「こいつは連れていく」

 俺の意見は聞くきもないご様子で。まぁ、いっつも俺が大晟の意見なんて全く聞いてないからな。
 それに、気にならないって言ったら嘘になるし。大晟がどういう心境なのかは分かんねーけど、連れてってくれるならそれに越したことはない。

「じゃあ、行こう」

 まこはそう言うと涙をぬぐって歩きだした。俺と大晟もその後に続き、プリンセスの城の中に足を踏み入れた。


 **


 本当にここは牢獄の中かと、来る度に疑ってしまう。
 真っ白に塗られた壁が建物の新しさを物語っていて、そこに辿り着くまでのいわゆる庭というやつも緑が青々と生い茂っていてまるで牢獄感を感じない。
 それは建物の中も同じで、見渡す限り真っ白なんてのは序の口。他にも色々牢獄離れしてるところはあるけど、考え出したら切りがないからもういい。

「すげぇな」

 さすがの大晟も驚きを隠せないようで、辺りをきょろきょろと見回して何度か同じ言葉を繰り返していた。
 俺も何度来ても慣れないからな。気持ちは分からなくもない。

「どうぞ」

 案内されたまこの部屋というのがこれまた物凄くて、その部屋の中は正にプリンセスという感じだ。
 一人部屋なのにアホみたいに広いし、冷暖房の完備は当たり前。俺が苦労しててに入れるテレビだって普通にあるし、ベッドは俺たちの3倍はあるし、そして当たり前のようにお茶が出てくるのだ。

「いい生活してるな」
「………ごめん」
「嫌みで言ったんじゃねぇよ。言っただろ、俺はそれなりに楽しんでる」

 そう言って大晟は俺の頭をかき回す。
 さっきのまこと全然違う。

「まこには優しいくせに、俺には雑だな」
「何だ、優しくして欲しいのか?」
「ちげぇし」

 ぶっちゃけそうだけど、誰がそうだなんて言うか。
 ばーか。
 


「…かっちゃんは、もう大丈夫なの?」

 まこが少し不思議そうに俺を見た。
 何が大丈夫なのか、それは聞かなくても分かってる。

「大丈夫も何も、俺は何も変わってない。今はたまたま大晟と遊んでるだけで、飽きればやめるし」
「そりゃ願ったり叶ったりだな」
「…この減らず口がムカつくから、当分飽きないと思うけど」

 もう随分前に、遊んでるなんて気持ちはなくなってしまった気がするけど。そんなことは考えたくないんだ。
 だから本当はまだ、大丈夫じゃない。それは自分がよく分かってる。


「俺の話はいいから、さっさとまこと大晟の話をしろよ」

 考えたくないことから意識を遠ざけるために、話を逸らした。
 かなり強引に話を持っていったから、Sっ気の強いまこはもっと突っ込んで来るかと思たけど。意外なことに何の指摘もなく「そうだね」と言ってからお茶をすすり、そして静かに話し始めた。


**



「そもそも、僕と椿君がたいちゃんの話をしてたのを聞かれたのが最初だったの」

 まこと先生は、ここに入ってからも時々大晟の話をしていたという。そして、その日もいつもと同じように、食堂で大晟について話していたということだった。

「俺の何を話すってんだよ」
「今どうしてるかな、とか。本当の恋人はできたかな、とか。色々だよ」
「どんだけ話題に乏しいだ」

 大晟は顔をしかめながらそう吐き捨てた。
 確かに、色々話すにしても1人の人物についてならそのうち話題もなくなりそうなもんだけど。まこの口ぶりからするに、話すことはいくらでもあったと言う風だ。

「その時も似たような内容だったけど、違ったことはあの人が僕たちの話に食いついてきたこと。僕は特に思わなかったけど、椿君は何か思うところがあったんだろうね。あの人にたいちゃんの話はしなかったよ」

 当時からスペードのAは悪い意味で有名人だった。だから、自分達から関わろうなんて思ってもいなかった。ただ、まこはともかくとして先生はハートのAだったこともあり、いつか何かしら接触があることは予測はしたいた。
 けれど、なんの前触れもなく突然自分達の話に食いついてきたことを疑問に思って、先生はすぐにその素性をを調べたらしい。そして、その男が大晟の兄だということが分かった。
 
「それ以来、椿君はすごく周りを警戒してた。もちろん僕も気を付けてたけど」


 それでも、この状況になることを回避することはできなかった。


「都合よくたまたま椿君が犯人にされたんじゃない。最初から椿君を狙って、犯人にするために圧死なんて方法で何人も殺したんだよ」

 それは想像ではなく、確信を得ているような口ぶりだった。

「椿がそう言ったのか?」
「ううん。でも、ヤバいかもって言って色々調べ回ってたから。それも無駄だったけどね」

 あの事件のあった頃、共有地に遊びに行ってもあまり先生がいなかったのはそのせいだったのか。
 けど、手を回す間もなく捕まってたしまった。先生が犯人にされるまでの時間が、思ったよりも随分と早かったからだろう。

「つか、何で俺と知り合いってだけで椿を狙うんだ?別に俺と連絡取り合ってたわけでもねぇのに」

 確かに、大晟の言うとおりだ。
 知り合いというだけで先生を犯人にしたって、何のメリットにもならない。それどころか、大晟に繋がる手段がひとつ減るんだから、むしろマイナスのはずだ。


「たいちゃん、自分がどうして捕まったか真面目に考えたことはある?」

 それは唐突な質問だった。


「一国ぶっ潰した奴なんて手に余るだろうからな。適当な罪で擦り付けて有罪にされただけだろ」

 突然の質問にまるで動じることなく、冷静な返答だった。
 大晟がスパイだってことは前にも聞いた。国を潰す手伝いをしてたことも。けど、どうしてここに収監になったのかは詳しく知らない。

「その国が失脚してるのは目に見えて判ってたんだよ。そんな、衰退が分かりきってる国の軍事システムなんて壊させて、なんの意味があるっていうの?」

 まこの言いたいことは俺にはよく理解できない。
 てか、この話はまこがここに入ってからのことのはずなのに、妙に詳しいな。
 まこは問うような口調なのにも関わらず、誰にも口出しをさせない勢いで喋り続けていく。

「それはね、僕が看守を通じて偉い人に言ったから。あの国はそのうち持ち返すかもしれないから、そうなる前にせめて軍司システムだげても潰した方がいいんじゃないか?…って。もちろん、持ち返すことなんてないって分かってたかどね。そして、その任務は菅大晟が適任だ。長く一緒にいたから違いないって、教えてあげたんだよ」

 まこは顔をぐしゃぐしゃにして泣いていた。
 けれど、先程までとは違い、真っ直ぐに大晟を見ていた。


「たいちゃんは国を壊したから有罪になったじゃない」


 何かに追いたてられるように、まこは一気に捲し立てる。


「たいちゃんを有罪にするために国を壊させたんだよ」



 そして、言葉は続く。



「僕がね」




 まこははっきりと、そう言った。


 **


 どうしてまこがそんなことを?
 大晟とは、俺なんかよりもずっと一緒にいて、ずっと信頼しているように見えた。それなのに、どうして大晟を地獄に突き落とすようなことをしたんだろう。
 まこはドSだけど、俺みたいにバカじゃい。もちろん、龍遠みたいな外道でもない。
 そんなまこが、一体どうして。
 その答えを想像するのは、俺でも簡単なことだった。


「……何が、条件だったんだ?」

 大晟が静かに問う。
 俺と同じように分かってるんだろう。当たり前だ。大晟は俺なんかとは比べ物にならないくらい、頭がいい。

「重罰独房から、特別独房への減刑」
「重罰独房…?」

 大晟が聞き返すその言葉を、俺は一度だけ聞いたことある。
 あれは確か、検体が辛くてゆりちゃんに泣きついたときだ。

「特別独房については知ってる?」
「ああ」
「重罰独房は、それに更に実験がプラスされた独房だよ。毎日8時間みっちり、様々な実験台に使われる。実験というより、拷問って言った方が早いかな」

 もう嫌だと泣き言を言う俺に、ゆりちゃんはその独房の話をしたんだ。
 重罰独房での実験は、マスタークラスの検体なんて可愛いもんだと言われるほどの苦痛らしい。更に、重罰独房に入った人間は誰一人として帰って来ず、3ヵ月以内死んでいるとも。
 だから、そんなのに比べたら俺たちは楽勝だろ。って、慰められたことがある。

「なるほど、まぁ妥当か」

 話を聞いた大晟は、妙に納得したように頷いていた。
 まこは話をする前、話を聞けば自分を殺したくなるかもしれないと言っていた。しかし、大晟はまるでそんなこと考えていないと言わんばかりに、落ち着き払っている。


「妥当……?」


 大晟の言葉を聞いて、まこが涙でぐしゃぐしゃになった顔を歪めた。
 その表情から、大晟が何を言っているのかまるで理解できないという思いがひしひしと伝わってくる。


「どうして…?」
「何が?」

 まこの問いかけに、大晟は問い返す。
 「何がじゃないよ」と、呟いたまこは、どうしてか少しだけ怒っているようにも見えた。

「僕は椿君のためにたいちゃんを売ったんだよ?あの人から、たいちゃんがどんな仕打ちを受けたかも全部聞いたんだよ?それなのに僕はたいちゃんをここに入れた。そうすればいずれどういうことになるか、それだって分かってたのに……」

 また一気に捲し立てて、拳をぎゅっと握って俯いた。
 ぼたぼたと、大粒の涙が床に滴る。


「それがどうして、妥当になるの…?何でそんなに飄々としてるの…?どうして、何でもっと、もっと僕を責めないの…!?」


 最後は叫ぶようにそう言い、また真っ直ぐに大晟を見た。
 それはまるで、自分を責め立ててくれと懇願しているようにも見えた。

「どうしてって、言われてもな…」

 温度差が激しいとは正にこのことだ。
 感情が高ぶっているまことは正反対に、大晟はどこか困ったように呟く。
 そしてなぜか俺の方にちらりと視線を向けてきた。


「俺にはこいつがいるからな」

「……は?」


 全然意味わかんねぇし。
 こんな重苦しい話に、俺を引っ張り出してくんな。
 あまりの無茶ぶりに(実際に話を振られたわけじゃねーけど)、思わず変な声を出しちゃったじゃねーか。



「結果論だけどよ」

 大晟はそう切り出して、話し始めた。

「確かに、スペードのAは俺にとって恐怖の対象でしかねぇし、この間会った時もちょっと色々ヤバかった」

 いや、あれはちょっとの話じゃないだろ。
 俺がどんだけ心配したと思ってんだ。

「でも、結果的に大丈夫だったのは、忌々しいことにこいつのおかげだ」

 大晟はそう言って、俺の頭をかき回す。
 どうせやるなら、まこの時みたいにもっと優しくしろってんだよ。
 やっぱりさっき、素直に優しくしてくれって言うべきだったか?…いや、ぜってー言わねぇし。



「かっちゃんの…おかげ?」


 まこが視線がちらりと俺に向く。
 仕方ない、俺の勇姿を教えてやろう。


「大晟は俺んだから、あんたにはやらないって追い返したんだよ」

 ………いや、本当はまじビビってたけどな。
 でも立ち向かったのは本当だから。
 結果的に大晟に助けられたけど、立ち向かったのは俺だから。


「……本当に?」


 まこの視線が俺から大晟に戻る。
 何だその、丸っきり信じてないみたいな顔は。

「色々と語弊があるが、まぁそういうことにしといてやる」

 信じられないという風に目を見開いているまこは、大晟の言葉を聞いて更に驚きを増しているように見えた。


「で、だ」

 どうやら、ここからは再び大晟のターンのようだ。

「真が何もしなくても、いずれ俺は捕まってた。自分で言うのも何だが、世界中探しても俺ほどの密偵はまずいないからな。けど、その分リスクも大きい。いつどこの国に寝返るか、もう寝返っているのか、考え出したら不安要素は山ほどある。だから、その不安が現実になる前に、いつか牢屋にぶち込まれてたはずだ。真のやったことは、それをほんの少し早めただけに過ぎない。だから別にその点に関して特に言うことはないし…どのみち、毎日似たようなことして生活するのにも飽きてたしな」

 大晟の言ってることが俺にはほとんど分からない。
 ただ、自分で自分のことを誉めちぎってるってことは凄く分かった。

「例えそうだとしても、投獄されるのはここじゃなかったかもしれないよ。もう分かってると思うけど、たいちゃんがここに入れられたのも僕が助言したからだよ?ここは他のどの牢獄よりも設備が古いから、いくらたいちゃんの能力をもってしても、脱獄も不可能だって」
「お前それ本気で言ってんのか?」
「まさか。こんなガバガバのセキュリティ、たいちゃんがその気になれば3日で脱獄できるだろうって、椿君と話したことある」
「2日だ」

 別に日にちなんてどっちでもいい。
 そんなことより、そんな簡単に脱獄できちゃダメだろ。

「とにかく、僕は口から出任せでたいちゃんをここに連れてきた。あの人がいるここに、たいちゃんを閉じ込めた」
「確かに、来て早々直面してたらどうにかして自殺しようとしたかもしんねぇな」
「だったら…!」
「だから、結果論だって言ってるだろ」

 声を荒げる真を遮って、大晟は強い口調で言う。


「俺をあいつと違う地区に入れるように計らったか?」
「………うん」
「要のいる地区を指定したのか?」
「……あの人の地区からいちばん遠かったからだよ。でも、まさかかっちゃんと同部屋になって、あまつさえオモチャになるなんて思ってなくて…!たいちゃんのことだから、誰ともつるまず一匹狼すると……」

 オモチャじゃなくてペットなんだけど、それを指摘するような雰囲気でもなさそうだ。

「オモチャじゃなくてペットな。要が、俺の」
「それは逆だろ」

 俺の言いたいことを大晟が言ってくれたかと思ったら、最後に余計な一言が追加されて思わず突っ込んでしまった。
 もう何回このやり取りをしたと思ってんだ。何度言わせれば分かるんだよ。

「話を逸らすな」
「それは大晟だ!」

 何俺のせいみたいに言ってんだよ。
 俺の言葉に、大晟は面倒臭そうに「うるせぇ」と呟いた。

「とにかく、俺が今の場所にいるのもまこが計らったっていうならよ。尚更恨んだり、殺したいなんて思わねぇよ」

 大晟はそう言うけど、それなら俺だってそうだ。
 まこが大晟をこの地区に置いてくれたお陰で、空きのあった俺の部屋と同部屋になった。だから俺は、大晟と出会うことができた。
 もしも大晟がこの地区に来なかったら、なんてことは考えたこともない。それどころか、今はもう大晟のいない生活なんて考えられない。


「…どうして、そこまで?」


 いつの間にか、滝のように流れていたまこの涙が止まっていた。そればかりか、さきほどまでは罪の意識に潰されてしまいそうになっていたのに、今は心底不思議そうな表情で大晟を見ている。

「真の差し金じゃなくて俺が捕まってたら、もしかしたら違う牢獄だったかもしれない。けど、もしかしたらこの牢獄で、それも最初からスペードのAのいる地域だったかもしれない。同じ棟だったかもしれないし、そうじゃなくても同じ地域ならすぐに見つかってただろうな」

 それが一体どれくらいの確率なのかは分からない。
 けど、大晟にはそれも分かっているのだろう。


「どっちにしても、俺は一生怯えて生きていたと思う。普段は考えないようにしてても、頭のどっかに恐怖がずっと消えずにあった」


 ずっと前。
 大晟が初めて泣いた時のことを思い出した。

 あの時はまだスペードのAの存在なんてまるで知る由もなかった大晟が、その存在を思い出して恐怖していた。



「でも、今は違う」


 大晟はそう言いながら、俺の頭を撫でた。
 今度はちゃんと、優しかった。


「怖くないってのは嘘になるけど、でも大丈夫じゃないわけじゃない。それは憎たらしいことにこいつがいるからだ」
「憎たらしいは余計だろ」
「そうだな、お前は俺の可愛いペットだよ」

 うさちゃん。って、誰がうさちゃんだ。
 お前だって俺のにゃんこのくせに調子に乗んなよ。

「とにかく、こいつが俺のペットになったのも、元を辿れば真のお陰だろ。だから、結果論として俺はここに入れてもらって感謝してる」

 だからさっきから逆だっつってんだろ、逆だって。
 もう訂正すんのも面倒臭いからしねぇけど。心の中でだけ訂正しとくけど。



「…たいちゃんは今、幸せなの?」


 大晟の結果論を聞いたまこは、少し間を開けてからそう聞いた。

 幸せか。

 それは、とても極端な質問だ。
 そして、俺にとってはどこか怖くもある質問だった。


「んー、そうだな。遠くはねぇけど、そこまでじゃねぇな」
「…違うの?」
「俺が本当に満足するのは、こいつが完全に俺のものになった時だからな」

 大晟の言う満足とは、まこの言う幸せということなのだろうか。


「かっちゃん…」

 ずっと、大晟しか見えていない様子だったまこが、俺の方に視線を向けた。しかし、名前を呼んで、それ以上は何も口にはせず、ただ俺をじっと見ていた。
 まるで、俺に大晟を満足させる気があるのかと聞かれているように思えた。



「……いつか、な」



 まこの無言の問いに、俺はそう答えることが精一杯だった。
 俺はいつまで、こうして自分をはぐらかすのだろうか。いつまでこうして、ぐらぐらと揺れているのだろうか。
 何度問われても、まだ答えはでない。

夜明けは近い
(無数にあった星たちが、姿を消し始めている)


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