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どこから見ても綺麗な大晟の顔は、下から見上げられても変わらず綺麗だ。
何もしていなくても綺麗なその顔がやらしく棒を咥えているとあっては、エロさも加わってその魅力は倍増する。
「ん…はっ、ふ…んん」
大晟が漏らす声と、じゅぷじゅぷという音が室内に響き渡る。
ただくわえて動かすだけじゃなく器用に舌を使って先端をいじってきたりする辺り、この行為が初めてではないことが分かる。まぁ、エネマグラで調教されているくらいだから、これくらい当たり前と言えば当たり前だ。
「随分と教え込まれてるんだな?」
「ん…んんっ」
大晟の頭を掴んで自身を喉の奥に突っ込むと、苦しそうな表情が俺を見上げた。
そう、この顔が見たかったんだ。
見たかったはずなのに、この顔を教え込んだのが違う誰かだと思うと無性に苛立った。
「他にはどんなことを教わったんだ?」
「ん、ふ…はう…」
俺の言葉に大晟は首を振る。
何も教わっていないと言いたいのだろうか。そんな馬鹿な話、誰が信じるというのか。
「そんなことないだろ。どんな玩具を使われたんだ?玩具だけじゃなくて、媚薬も浴びるほど使ったのか?何時間もイきっぱなしにされたことだってあるだろ?その逆も。ああ、痛いのも好きだったよな。人間だけじゃ飽き足らなくなって、動物に犯されたこともあるんじゃねーの?」
そう言って髪をかきあげると、大晟は少しだけ怯えたような表情を浮かべた。
俺が今挙げた中のどこに恐怖を感じたのか分からないが、少なくともどれかは経験があるということだ。
「やっぱり、あるんじゃねーか」
「んんんっ、おえっ…」
喉の奥に当たって尚、自身を押し付けた。すると大晟は今までにないくらいに苦痛の表情を浮かべて嗚咽を漏らす。
「ほら、休んでないでちゃんと舌動かせよ」
「んんっ、はぁ…はふ…んむ…っ」
苦しそうな大晟の頭を更に押し付けて促すと、再び舌が動き出した。
普通なら耐えられなくなって吐いていてもおかしくないのに、随分と調教されている。
自分が何かするたびに他の誰かの躾が垣間見えて苛々する。
苛々する気持ちを紛らわせることが目的だったのに、これではまるっきり逆効果だ。
「大晟…」
名前を呼ぶと、辛そうな表情が俺を見上げた。
本当は咥えさせるだけで終わりにしようかと思っていたが、予定変更だ。
このままでは、苛立ちが治まらない。
「これ挿れろよ。自分で」
ベッドの脇から御馴染みのバイブと取りだすと、大晟の表情が歪んだ。
嫌そうな顔だ。
「どうせ、やったことあるんだろ?」
言いながら空いている方の手にバイブを握らせると、大晟は嫌そうな顔をしながらもそれを自分の後孔にあてがった。
「ん…ふ、……んうう…!」
慣らしてもいないのに、バイブはあっさりと大晟の中に入って行った。
さすが、よく調教された体だけはある。
それがまた、腹立たしいんだけど。
「咥えながらそんなに興奮してたのか?淫乱」
質問と共に、大晟が咥えこんだばかりのバイブの電源を入れた。
バイブが機械音を発した瞬間、大晟がびくりと体を跳ねた。
「あ―――んん!!」
大晟はどうにか俺の熱を咥えたままでいるものの、口や手を動かすどころか後ろの刺激に耐えるのに精いっぱいという表情だ。
「ほら、初めてじゃないだろ?もたもたしてないで口動かせよ」
大晟は辛そうな顔をしてから再び舌を動かし始めた。先ほどまでのような、手慣れた感じがなくなった。
それでいい。俺は慣れたテクなんかに興味はない。
「はっ…んん、…ん…」
集中していないと気が散ってしまうのか、さきほどまでよりも全体的な力が強くなったような気がした。
ずっと見ていた大晟の顔から視線を逸らすと、バイブを咥えこんだ後孔がひくひくと動いている。足は少しだけ震えていて、快楽に飢えているようだ。
「自分でバイブ動かせよ?」
そう言うと、大晟はどこか睨むような表情で俺を見上げた。
いつもの大晟らいい表情だ。そうだ、それでいいんだ。いい感じになってきた。
「んむ…ふ、は…んんっ、ああっ」
大晟は俺に言われた通り、俺のものを握っていない方の手をバイブに伸ばした。少し動かしただけで、甘い声が漏れだす。
バイブの強度を上げると、大晟の体が再び跳ねた。
「はあっ…あ、んっ…んん…ぁっ」
大晟は快感に耐えるように目を閉じるが、それでもバイブを動かす手は止まらない。
一度刺激を与えてしまったために、我慢できなくなったのだろうか。
「自分が気持ちよくなるのに必死でこっちを忘れてるぞ」
「んん――!」
自分の快楽をむさぼるのに必死になっていた大晟の頭を掴んで、口から離れかかっていた自身を喉に突き付ける。すると、大晟は苦しそうに表情を歪めて目から涙をこぼした。
「舌も動かせ」
「んっ…ふっ、ぁ…ああっ、んうっ」
大晟の頭を強制的に前後させると、それに合わせるように舌が絡んできた。
ねっとりと絡んでくる熱が、先ほどよりも気持ちいい。
「自分も挿れられてノってきたのか?」
「はっ…ん、んう…んんっ」
大晟は俺の質問には答えない。
舌を動かすのと、バイブで自分の快感をむさぼるのに必死のようだ。
涙を流しながら快感を求めるその姿は、淫乱以外のなにものでもない。
「気持ちいいのかって聞いてんだ。答えろよ」
バイブの強度を最大まで上げた。
「ん―――!!」
大晟の体が一瞬硬直し、何かに耐えるように目を閉じると溜まっていた涙が一気に流れた。
そして次に目を開けた大晟は先ほどまでとはまるで別人のように、甘ったるい表情を浮かべていた。
今日は随分と早くに堕ちた。
「自分で動かすのがそんなに気持ちよかったのか?そんな顔して」
「んっ…は、んむ…んんっ」
「っ!」
大晟は俺の質問には答えず、まるで何かに覚醒したように俺の熱にしゃぶりついてきた。
今とは違う刺激に思わず顔を顰めるが、今の大晟にそんなことは見えていない。
「はっ…ん、うっ…はぁ…んん」
顔を前後に揺らし、巧みに舌をからめ、そして空いている手でバイブを動かす。
教えてもないのに手慣れた様子でそれらをこなす大晟は、俺の苛立ちを助長するものでしかない。
はずなのだが。
やはりこの甘い表情は中毒性が高い。
さきほどまで苛立っていたのがどうでもよくなってしまうくらいに、そそられる。
「大晟…もう、やばい」
さきほどまで全く射精欲なんてなかったのに、大晟のこの顔を見ただけでこれだ。
この間だってそうだった。
他の誰かに開発されている体を見て散々苛々したが、この顔を見た瞬間に全部吹っ飛んでしまった。全く進歩のない自分が嫌になる。
そう言うと大晟は一度俺を見上げて、舌を絡めながら先端を吸ってきた。言い知れぬ快感に、思わず表情が歪んでしまう。
本当に、どこでこんなことを覚えてきたのだろう。これを教え込んだのが自分じゃないということがこんなにも腹立たしく感じるのは初めてだった。
俺はそんな腹立たしさを投げ捨てるように、大晟の口の中に射精した。
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結局…それなりに体力を消耗してしまった。そもそも、自分で動く動かない関係なしに射精というのは体力消耗が激しい行為なんだ。それくらい分かっていたはずなのに。
これからハードだというのに、なんという失態だ。俺はベッドに横たわりながら、心底後悔して溜息を吐いた。
「もう10時だぞ」
俺が落ち込んでいようと後悔していようと関係なく、容赦ない現実が俺を襲う。
先ほどまで俺のものを咥えていたとは想像もつかない様子で、大晟は再び小説に目を落していた。
どこからどう見てもクールなこの男は、俺以外の奴に多くのことを教え込まれ、体に覚えさせられている。タガが外れた時に見せるあの甘い顔も、誰かに調教された末に生まれたものなのだろう。
……何で俺は、終わって尚わざわざ自分を苛立たせることばかり考えてるんだ。
「大晟さぁ、経験ないこととかねーの?」
「は?」
大晟が小説から顔を上げる。
一体何を聞いているのかというような表情だ。
「玩具も大概経験済み…ってか、調教済みだろ?咥えたこともあって、ドライもあって…俺別に調教マニアじゃねーけど、1から10まで経験済みだとつまんねーんだよな」
「知るか」
大晟は俺の心情なんてどうでもいいと言うように吐き捨てると、小説に視線を落とした。
一瞬、思い出したくないことなのかと思ったが、その考えはすぐに掻き消された。思い出したくないことにしては、それにしては甘い顔で喘ぐように調教されている。
「いや、自分の経験値くらい知っとこうぜ」
「んなこと言われても、経験してないことなんて知ら―――あ」
何か思いついたらしい大晟が言葉を止める。
途中まで言おうとしていたことは、経験がないことは分からないと言いたかったのだろう。確かに、その通りだ。
だが、経験がなくても知っていることもあったようだ。
「何?なんかあったの?」
ずいっと顔を近づけると、大晟は俺から視線を逸らした。
なんだ。
いつもなら睨み付けて来るのに、どうして目を逸らすんだ。
「………す」
「え」
なんて?
声が小さすぎて、上手く聞き取れなかった。
「キスは…初めてだった」
「はぁ…?」
それは予想外の返答だった。
だから思わず、近づけていた顔を引いてしまった。
キスが初めて?
あんな…いやらしい顔で喘いで、甘い顔でおねだりして、エネマグラで調教済みなのに?
キスが初めてだって?何を馬鹿なことを言っているのだろう。
「うそだろ」
「…嘘じゃねぇよ」
大晟はそう言って俺を睨み付けた。その表情からは、俺をからかっている様子はうかがえない。
本当のことなのか。でも…もし、本当に嘘じゃないとしたら。
大晟は一体、どんな状況下でこんな淫乱になるまで調教されたというんだ。
いや、今そんなことはどうでもいい。
大事なのは、俺の知らない他人の調教で埋め尽くされた体に、一つだけ触れられていないとろを見つけたということだ。そして既にそこは、俺の支配下にある。
「てっきり…使用済みかと……」
俺が驚きを隠せないままにそう言うと、大晟は顔を顰めた。
「俺はむしろ、お前がしてきたことの方に驚いた」
「え?」
「お前もそういうことはしない奴だと思ったから」
“も”、という表現が一瞬引っかかったが、それよりも核心を突かれてどきりとした。
大晟の言う通りだ。今まで、そんなことはしたことがない。
「別に、したくてしたんじゃねーけど」
あれは、無意識だった。一度目も二度目も、勝手に体が動いていたのだ。
だが、それを後悔はしていない。よく分かんねーけど、気分はよかったし。
それに散々開発されている体の中で唯一、俺だけが支配した場所だ。そう思うと、悪い気はしない。
「大晟は嫌だ?」
だが…唯一誰にも触れられていなかった場所だからこそ、大晟はショックだったかもしれない。
ふとそんな思いが脳裏に浮かび聞いてみると、大晟はあからさまに俺から逸らした視線を小説に落とした。
「………別に…嫌じゃない」
その言葉は大晟にしては珍しく、妙に歯切れが悪かった。
全然、説得力がない。
もしかして、何かから必死に死守してきた場所だったのだろうか。それにしては、ガードが甘かった…というか、まるでガードなんてなかったが。
「んだよ、らしくない。嫌なら嫌って言えばいいじゃん」
「嫌じゃねぇよ」
先ほどの歯切れの悪さが嘘のように、今度はハッキリとした声だった。
一度小説に落とされた視線が、俺の方を真っ直ぐ見ている。言葉を発した唇が、実に色っぽい。
今、その話をしたばかりだからかもしれない。なんだか無性に、キスしたくなった。
「要」
俺が顔を近づけると、大晟がどこか心配そうに俺を見上げた。
「何?」
問うと、大晟の指がテレビ画面を指さす。
ほぼ同時に、バチンという音と共にテレビの電源が入った。
「もう…10時過ぎてる」
「え!?」
テレビの下の時計に目をやると、そこには「10:05」という表示があった。
「うそだろ!?」
俺は慌ててベッドから飛び降りた。
ただでさえ今日はハードだというのに。おまけに朝から煙草もなくて最悪の1日だったのいうのに。
ここへきて尚、その最悪を加速させようというのか。
「走って躓いてこけて頭撃って死んでこい」
「うっさいわ!!」
大晟の悪態を背中に受けながら、俺は振り返ることなくそう叫んで部屋を飛び出した。
遅れていくなんて、その後のことを考えるのも嫌気がさすくらい最悪の状況だが。だが、どうしてか俺はそれほど気分が悪くはなかった。
最悪の日(最悪を目前にして、不思議とそうでもないかと思えてきた)
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