翔ちゃん中編 | ナノ










あれから
2人は少しずつ大きくなって
あっというまに、10歳。

小学4年生だ。



薫くんは、とっても優しい翔ちゃん大好きっ子になって、
翔くんより、少しだけ大きくなった。

翔くんは、負けず嫌いの元気なお兄ちゃんになった。
…ただ、心臓に欠陥を抱えている。





私はというと、20歳になった。

なにも才能はないから、
普通の会社で、普通に働いている。






隣の来栖さん宅はというと、
ご夫妻は音楽活動に熱心で、
今はおじいちゃんおばあちゃんが
2人を面倒見てる。










それはともかくとして、
今日会社で、ある手紙を貰ってしまった。



「お母さん。ただいま」

「愁?おかえりなさい。早かったわね?」

「あのね…あの…」

「どうしたのよ、」

「転勤、決まっちゃった。東京。」



そう
私は東京に転勤しなければならないのです。

3日後に。



実は前々から言われていたんだけど、
なかなか家族にいいだせなかった。






あのあと、散々お母さんやお父さんに怒られたけど、
なんとか収集がついて、
東京に私だけ行くことになった。
住む所は会社がなんとかしてくれるし。











次の日、私は来栖さん宅にお邪魔した。

今日は一週間に一度、双子と遊ぶ日だから。





「愁ちゃん!何して遊ぶ?!」

「俺はサッカーしたい!」

「だめだよ翔ちゃんはサッカー。」

「なんでだよ!」


「あぁ、あの2人とも。よーく聞いて欲しいんだけど。」

「どうかしたの?」

「?」


「今日で、私と遊べるのは、最後、なんだ…」

「どういう、意味だよ…?」






私は、
できるだけわかりやすく
東京に転勤することを2人にはなした。


すると薫くんは泣き出した、



「嫌だ!まだ僕、愁ちゃんと一緒にいたい!離れたくないよっ!」



泣きながら抱きつく薫くんに、
私は ごめん としか言えなかった。




「認めねぇ、俺様は認めねぇぞ!」




翔は、家から飛び出していってしまった




「し、翔!!薫くん、待っててね!」





薫くんを、家に待たせ、
私は翔を追って家を飛び出した。












とりあえず、翔の行く場所はわかっていた。




いつも、一緒に遊んでいた、公園。



案の定、翔はブランコに座っていた。






「翔、」

「わがままだってわかってるんだ。」

「…」

「でも、俺は離れるの嫌だから、」

「…うん」

「もっと、沢山遊びたい、俺のヴァイオリンだって、もっと上手くなっていく所を見ていて欲しい。」

「…うん、う、んっ」

「俺は、愁が大好きだからっ、だからっ…」




強がりで、涙をあまり見せない翔は
うつむいて、静かに静かに泣いていた。

渇いた土に、ポツポツと、
翔の流した涙が、こぼれていった。





「私も、翔が大好きだよ。」

「ぇっ…」

「皆好きだから、私だって皆と離れたくない。でも、大人にはやらなきゃならないことがあるの、わかってほしい。」

「……」

「少し、遠いけど、会えないことはないんだよ?」

「…うん」

「翔が大きくなって、立派になったらまた会おう?」



そして、翔の小指と自分の小指をからめた、





「やくそく。ね?」



「ん…わかった。」






「さぁ、帰ろう?薫くんも待ってる」

「あ、愁!」

「どうしたの?」

「かがんで、目つぶって!」

「?」




言われるままに、
目をつむってかがむと、

唇に、暖かい何かが触れて、
目を開けた、




「え、ちょ、え!翔?!///」

「へへ、やくそくの印!」



キスはかがんで
約束の印は、
まだあどけない少年からの
小さな小さなキスでした。











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