□冬の侵略 2011/11/04 18:08

二周年企画の没バージョン。


「へっくし」
「だからそれじゃ寒いだろ、って言ったのに」
「まだ冬じゃねえんだからそんな厚着しねえよ」
「暦の上ではとっくに冬だって知ってるか?」
「俺の暦では秋だ」
「あっそ」
もこもこのコートにマフラーと、完全防備の佐竹からさっきよりもいくらか低い声が返ってくる。ぴゅう、と吹いた白い北風が銀杏の葉を舞いあげると、それにつられてまたくしゃみをした。佐竹の溜息が聞こえてたような気がしなくもない。
11月はまだ秋だと俺は信じている。因みに夏は8月31日まで。9月1日から11月30日が秋。12月1日から冬だ。どんなに暑くても寒くても、季節はそう決まっているのだ。
「お前も頑固って言うか、馬鹿だよなあ」
「馬鹿じゃねえ。そしてこだわりが強いと言え」
「なんでそんなメンドクサイことになっちゃったわけ」
「夏休みが終わったら夏も終わるだろ」
「あー・・・まあ、分からなくもない。秋の終わりは?」
「俺の誕生日」
「それは知ってるけど、その心は」
「俺は秋生まれなんだ。つまり俺の誕生日までは少なくとも秋だ。しかし12月を秋と呼ぶには寒すぎる」
「――聞いた俺が馬鹿だった」
佐竹は呆れたようにそう言った。俺は11月に、秋に誇りを持っているんだ。4月のど真ん中春真っ盛りに生まれて頭のてっぺんから爪先まではんなりしているようなこいつとは違う。なにが11月は影が薄いだ。秋は中途半端だ。ハロウィンが終わった途端、どこもかしこも赤と緑でまみれやがって。文化の日を忘れたか。勤労感謝の日を敬え。
「そういえば、もうすぐクリスマスだよな」
「出たなはんなり野郎」
「はあ?」
小声で呟いたつもりが、佐竹には聞こえていたらしい。
「なんでもねえよ」
じっとりとした視線を、風に舞ったあの黄色い葉よりも華麗に無視すれば、佐竹がほんっと訳わかんねえよなお前、とまた溜息を吐いた。余計なお世話だ。
「で、お前はどうすんの?」
「なにが?」
「いや、クリスマス」
「・・・いや、どうするもなにも」
答えながらも言葉が頭の外側をふわふわと漂って落ち着かない。クリスマス? どうする? どうするって、なにをだ。
「だいたい気が早すぎるも早すぎるだろ、11月をないがしろにするな」
「別にそういうわけじゃねえって、めんどくせえなあ」
「めんどくせえとか言うなよ!」
「そんなんだからクリスマスも一人寂しく過ごすことになるんだろ」
「うるせえ、お前だって人のこと言えないだろ」
突然、佐竹が立ち止まる。
「なん、」
こちらを向いた顔はにやにやと笑っていた。
「・・・なんだよ、気持ちわりい」
「いやー? なんでもー?」
より一層口角を上げた佐竹がスキップでもしそうな勢いで歩き出す。呆気に取られた俺は少しの間その場で立ち尽くしていた。
「あ、そうだ、お前の誕生日にでも会わせてやるから、楽しみにしてろよ」
ひゅう、とまた華麗に銀杏の葉が舞う。
「はああああああ!?」
俺の声を聞いて本当にスキップを始めた佐竹の後頭部に一撃を食らわせるべく、俺は冷たい追い風と一緒に駆け出した。


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