ぼくと復活祭イースターナイト 2 





ぼくが手芸部部室に入ると、人形遣いがお茶の準備をしていた。
入口を見て、お嬢さんが口を開く。ぼくに用件を聞くので、ぼくは来た目的を口にしようとしたら、ぼくの背後。閉めたドアの向こうでにぎわう声を聴いた。

『いらっしゃ〜い。つむぎちゃん。そこに座って。今お茶を入れたげる。とっておきのお茶菓子もあるのよ。央ちゃんも召し上がれ〜』
「そうですか。ならご一緒しましょうかね。お手伝いしましょうか?人形遣い?」
「いや、いい。きみの手はひどく繊細なのだからね。」

では僕は座っておきましょうかね。おかえりなさい、みか。ようこそ。青葉くん。お嬢さんもそうおっしゃてますし。
ぼくはさっさと定位置について、入り口を開ける。みかと青葉くんが不思議そうな顔をしてこちらを見ているので、早く座りなさいと指示を出すと、二人は顔を見合わせて空いてる席に座る。

「これはどうもご丁寧に……?えっと、宗くん。俺を呼び出したのって【イースターナイト】の衣装についてですよね。とりあえず日数もないので、徹夜してでも仕上げたいんですよ。」
「意欲だけは一丁前だね。無から有を生み出す苦労を知らないわけでもないだろうに」
「ある程度座標は必要ですよ。ざる換算でもいいのであると進む方向に迷いませんから」
「僕より君のほうが『Switch』の衣装に詳しいだろうと余計な口出しは控えていたがあまりにも悠長すぎる。」

どうも、人形遣いのほうが癇癪を起してしまいそうだ。と傍目で見る。同じ部員であり、過去『fine』と『Valkyrie』で対立したこともありますけども、どうも人形遣いと青葉くんは相性が合いませんねぇ。ため息交じりに二人を見て茶をすする。冷めた体に温まりますねぇ…。

「外部の仕事でもあるしね。『Valkyrie』の戦歴に傷つく恐れもない。小鳥と影片の二人なら参加しても構わないよ。」
「ほんまに?なっくんにも『Switch』にまざったらどうやって言われたし、ひとりでステージにたつわけやない。央兄ィもおるしなぁ。」
「…はて、話が見えないのですけど?説明をしていただいてもいいですか?」

投げかけてみると、そうやった。なぁなぁこれみて。なんて一枚チラシが手渡される。あぁ。これですか。とごちるとしっとったん?とか言われて、えぇ、調整役が奏者の募集もあると聞いてたので、アルバイトがてらにと打診があったんですよね。あれ以来まともに楽器を持ってないんですけどねぇ。

「この間のアルバイトで行ったフラワーフェスで感化されてこれに出たいと?」
「せやねん。で、今お師さん口説いててん」
「それで、ぼくにもですか。」
「演者も募集してるなら一石二鳥やん。それでも、おれはお師さんと央兄ィと一緒にライブがしたいねん。お師さんは完璧をよしとするから日数が足り貧って断られてしもたけど。央兄ィがいるなら!うれしい」
「…演者ですから、『Valikyrie』で出れないですけど…まぁ一回問い合わせて見ますけど。」

嬉しいと言っていたみかを地獄の底に突き落とす用で悲しいですけど、これはこれで仕方ないというか。演者で出ている以上。『Valkyrie』で歌い始めては音がなくなるのだから。どうしようもないでしょうに。

「えぇっ!?…なぁ、お師さん。どうしても駄目やろか……?」
「これは人形遣いが折れるに一票」
「小鳥、僕で遊ぶな。」
「どこのユニットもそうですよ。自分のところの子には甘いものですし、ぼくもきみには甘いのですよ?」
「【フラワーフェス】に感化されてライブがしとぉなったのはほんまやけど、いちばんは推しさんと一緒にステージに立つことや。」

情熱的な言葉で、投げられてるのが羨ましいですね。誰かに求められるなんていうのはぼくにはほぼほぼなかったものですし、求めてくれたのは、唯一あなただけなんですよ。人形遣い。縋るように言うみかに人形遣いは拒否を貫く。が、衣装は完璧に仕上げるから安心したまえ。というけれども。

「親の心子知らず。ってまさにこうなんですねぇ。」
「何か言われましたか?晦くん。」
「なんでもないですよ。ただの所感ですから。」

ぴらりと突き出されたデザイン画には二人分の衣装ラフ。…この人形遣いはなからぼくだけを差し出そうとしてる魂胆はよくわかったので、机の下で思いっきりヒールで踏んづけておく。一瞬痛みで顔が引きつっていますけど、なんでもないふうを装うのでなおもぐりぐりとして気を晴らさせてもらおう。

「ははぁ、イースターバニーをイメージしてデザインしたんですね〜」
「おや、人形遣いどうなさいました?」
「貴様……!」

ぼくに癇癪を起こしかけているが、そんなのさえも気にせず、青葉くんはデザイン画を見てうれしそうに頬を緩めて賛美の言葉を重ねる。痛みよりもそちらに気を持っていかれたのか人形遣いは上機嫌になった。

「影平はデザイン画どおりに仕上げるのは苦手なようだが、手芸部の部員でありながら裁縫一つできないようではでくの坊以下だよ。」
「……血染めの衣装を出来上がるのですから、ぼくはどうなんですかね。」
「貴様のはただの血染め衣装だ。デザイン画通りでも色が一緒でないとナンセンスだね!」
「さいですか。」

人形遣いはぼくとみかのぶんをやるから、みかは青葉くんとやるといいと言い出すので、ぼくは結局お払い箱でした。むくれてませんよ。えぇ。ぼくは淡々と楽器のトラウマを戻さないといけないんですから。決してむくれてません。
みかと青葉くんがやりとりをしてるのを見ていると、人形遣いがぼくの名を呼ぶ。

「小鳥、手伝いたまえ」
「ぼくが作れば血まみれですからね。そういった言質をすぐにひっくり返すんですか?」
「影片の代わりに掃除や片づけを頼む。茶道具の。」
「…それぐらいなら、仕方ないですねぇ。」

ここで演奏しますけど、問題ないでしょう。と投げかけたら返答がない。肯定と判断してぼくはさっさと片づけをしてやることをしましょうかね。
片づけをしてから、【イースターナイト】の演者募集に電話を掛けたりするために外に出る。録音室まで戻って、連絡を入れて詳細を聞いてみると自分のユニットだけは出ていいと言われたので、明日打ち合わせのだんどりをつけて、そのまま楽器を一つ二つ持ちだして手芸部に戻るとみかが机で眠ろうとしていたので、ぼくの寝床に入れてしまおうと青葉くんと一緒にみかを寝床に押し込む。

「晦くんはまだ起きられますか?俺はまだ眠くないのでもうしばらく作業しますし。」
「飲み物でも入れましょうか。先ほど紅茶でしたし、珈琲のほうがいいんですかね。」

人形遣いにどうするかと問い合わせてみるが手芸部部室に珈琲をおいてないのを思い出した。紅茶にしましょう。とそっと誘導して話を紅茶にしておこうと結論付ける。

「人形遣い?ご入用ですよね?無視決め込んでたら、紅茶をぶっかけますよ?」
「宗く〜ん?そうやって無視するのはよくないですよ。才能が有っても愛想笑いの一つもできないようでは、社会に出てもやっていけません。」
「まぁ、芸術肌ですから、何を考えてるのかよくわかりませんけど。」
「晦くんがそれを言うんですね」

しれっと代弁してみたけれども、この青葉くんには通用しないようだ。きみはさっさと戻りなさいといえども、俺もやりますよというのだけれども、そうじゃなあない。役割の問題なのだが。ぼくたちがうるさくしすぎたのか、人形遣いがちらりとみて口を動かしだした。青葉くんも元に戻して、ぼくは人数分の飲み物と軽い食べ物を用意しだす。二人とも平常運転のやり取りに胸を撫で下ろしていると、きみはいつもの城に戻って練習をしたまえ。音が少しくるってないか?と言われて、ここ数か月ほど楽器を持ってなかったので。と言い返す。ぼくと人形遣いのやりとりが不安になるのでしょうけれど、これも僕らのいつものやり取りなので問題はない。ぼくは二人の前に軽食とのみものを置いてからいつもの定位置でみかが起きないように基礎トレーニングを行う。眠気を誘うようなメトロノームを鳴らしながらもぼくはまっすぐに息を吹き込む。まっすぐな音の近くで、人形遣いと青葉くんの語り声が聞こえる。
音の合間を縫って聞こえてくるのは、人形遣いがやっぱり万が一の時に対して動いてるという話で、ぼくは二人に背を向けながらくつくつと笑ったら音に影響されたので、後ろからひしひしと鋭い目線を感じるのでぼくは気づかぬようにして淡々とロングブレスを続けた。…振り返るのが怖いわけではない。
二人がまた話し出して、人形遣いが勝手に自分自身で火をつけて怒り出す。まぁ、暴行しない限りはぼくは静観しますよ。ぼくに飛び火が飛んでこないことを祈りながらただただ楽器に息を吹き込み。明日の打ち合わせで、何でも対応できるように準備をしておくことにする。



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