コーラス☆始まりのオペレッタ 2
凛月さんから連絡が来て、メールで淡々とお話したりはしましたけれど。何かを探っていられる様子なので、ボクも時間を作って凛月さんにタイミングを合わせて、お話しましょうかね。と言うのをとりつけられたのですけれど、別件で聞きたいことが有ると言われたので、ぼくはそっちに裂かれてしまってちょっとだけ残念に思ってました。
零から、この間のフィレンツェでの話をしたいとの連絡も受けて、泣く泣く凛月さんを後回しにして、ぼくは指定された喫茶店に入ってしばらくの楽譜の下読みを行っていると凛月さんがやってきてぼくは驚きを隠せない。
「兄上?」
「……えぇ、はい。あなたの兄上ですよ?」
「どうしてここに?」
どうして、と言われても。ぼくは衣更くんから連絡をうけたので。と言うしかないんですけども。首を傾けていると、俺よりもま〜くんを選んだんだ。とジト目で訴えられてぼくはぐっと黙る。いや、だって。ねぇ。零から連絡を受けたんですけども。ぼくも詳細を知らないので、何とも言えない。終わったら、この間の話の続きをしましょうね。と言うと、素直に頷いてくれるので、良い子といいつつぼくは手近な店員に、凛月さんの飲み物もお願いしておく。この間のフィレンツェはどうだったのかと話をしていると、衣更くんと、朔間さんの子飼いがやってきた。
「演奏の先輩じゃね〜か。なんでリッチ〜と?」
子飼いが困惑してぼくと凛月さんを指差す。うん、年上を指差しちゃいけませんよ。というか人を指差してはいけませんよ。窘めると頭を下げるので、彼は根っこがちゃんと指導されて育ってきたのでしょうね。うらやましい限りですね。
「おい〜っす、悪い悪い。待たせたな凛月。晦先輩。」
「…ま〜くん。この間も言ったけど。俺の兄上。」
「あぁ…そうだった…朔間先輩。」
「この間、朔間になりましたけど、まぁそこまで大体的に公言してないですから。大丈夫ですよ。衣更くん。」
どういうことだ?と子飼いが、ぼくと凛月さんの顔を交互に見る。あんまりよく状況がわかってないだろう朔間さんの子飼いに、ざっくりとぼくは事情を説明する。ぼくは、朔間さんと凛月さんと養子入りして兄弟になったんです。いろいろとややこしい話になるので、割愛しますけど。まぁ、そういうものだとおもってください。と流せば、彼はすんなり受け入れました。……そんなにすんなり納得されるのも……ま、いいですけど。
「うん。もっと謝って。これで待ち合わせしてる相手がま〜くんじゃなくて、もしもデートとかだったら帰ってたから。それで、次の日からは他人。」
「悪かったってば。ほんと忙しいんだよ最近〜。昨年度の時点ですでにキャパ超えてたのに、それが二倍になったぐらいの感じでさ。」
「自分で選んだ立場でしょ〜、文句を言うなら全部やめちゃえば?」
さくまさ…零に言われて来たんですけど、同じ用件だったのですかね。…よく解りませんけれど、なんだかなぁ。と思いつつ、様子を伺う。子飼いの存在を思い出したようで、視線がそっちに向かう。ようと片手をあげて改めて挨拶するので、とりあえず座りなさい。と促せば、子飼いはちょっと逡巡してから座った。
「おやコーギー、なんでいるの?せっかく久しぶりに、ま〜くんと兄上で『さんにんきり』だと思ったのに〜」
…ぼくも混ざっているんですか。ちょっと、君たちに混ざるのはちょっと遠慮したいですよね。ぼくは零と約束してるので、と席を立とうと思ったのですが零とも約束をしてるらしいので、ぼくはここにいてよかったらしい。学生に囲まれるのはちょっと居心地悪い気がしますね。
「とりあえず、全員注文しましょうか。店員さん呼びますよ。」
促せば、学生たちはにぎやかに注文をきめ出す。まぁ、同じ話になるのならぼくが会計持ちましょうかね。寝ないようにするために追加のカフェインを頼んでおく。多分今の体調を考えると後で寝そうな気がしてきました。いったん机の上に広げた楽譜を鞄の中に回収して、衣更くんに他は誰がくるのかと問いかけようと思ったら、学生たちは話を始めた。どうも、凛月さんと同じで、【オペレッタ】なるものを調べたらしい。そういうことか、とぼくは解って彼らの話を聞く。
事務所案件で、企画が動いてると話をしている。蓮巳くんがいろいろと調べて問題ない範囲で仄めかしてくれたとのことだ。……ぼくは当事者なんですけど。まぁ、ぼくもある程度箝口令敷かれてるのでね。大きく出れませんよね。朔間さんが言えば問題ないんですけど。
「俺様がほぼ部外者だからよくわかんね〜んだけど、むしろ何であのクソ眼鏡が【オペレッタ】とやらについて知ってんだ?卒業後、朔間先輩と仲直りでもしたのかよ。そうだったらまぁ……普通に、俺様としても『よかったな』としか思えね〜けどさ。」
「いやいや、今でも四人での『UNDEAD』としても働いてるならわかるだろ。」
「『紅月』と『UNDEAD』は同じところで働いてますし、情報は入りますからねぇ。」
呆れてると、彼らはあれやこれやと思考を考えて散らしている。ぼくにも聞かない当たり、あんまりちゃんと気づいてないんでしょうね……あぁいえ、さみしいとか何も思ってませんよ。ずずっとコーヒーを飲みながら、学生たちが思考するのを眺める。いや、若いって良いですねぇ。ってぼくは感慨深く見物をしてしまう。
「【オペレッタ】っていうのは、兄者が全世界に俺という『かわいい弟』がいるってことを宣伝するためのライブ……だってきいたんだけど。だから、何を考えてるんだ。あのクソ兄貴。って怒ってたんだけど。」
「……まぁやっぱり怒りますよねぇ。そっちは安心してくださいよ。ぼくが止めますから。」
「そうだよね。よく考えてみたら、俺に迷惑や心理的苦痛が与えられるのを知ってて、兄者が兄上がそんな企画をひきうけるわけがないよねぇ。」
それもそうだと凛月さんが納得してる。そうでしょうそうでしょう。ぼくがそうしませんし、させませんよ。凛月が望むのならばね。ちゃんとしかるべき手段で全部片づけちゃいますよ。ぼくが。それに、凛月さんのことを内緒にしてましたし、先日のフィレンツェで露見したからと開き直ってぼくたちを紹介するにはなりませんよ。…ぼくはなっちゃいましたけど。あれは仕方ないですよ。
「話戻すぞ、結局何なんだよ。【オペレッタ】ってのは?」
「うん、そこがいまいち『はっきり』しないよな。」
「とはいえ、あれこれ外から調べて推測しても限界があるし、話題の中心に居る本人に聞いた方が速いと思ってさ。朔間先輩、呼び出しといた。」
「……あぁ、それでぼくも呼び出されたわけなんですね。」
合点がいった。というかなっとくしたというか。まぁ、【オペレッタ】って言い出してるので、薄々は理解してたんですけどねぇ。零の呼び出しで、なのでそっちと合流した方がよかったのでしょうね。頬杖しながらため息を吐く。…まだ女装しているころの癖は治らない。ヘアバンドもそろそろとろうかとは思うんですけどね。ずっとしてるので、慣れてしまったというか。ねぇ。もったいないというか。
「兄上も呼ばれてたの?」
「えぇ。」
「あのひとも卒業した手で大事な時期だし、忙しそうだからさ。あの人が暮らしている寮の近くのこの喫茶店を待ち合わせ場所にしたってわけ。」
「兄上が居る疑問が解消できた。そっか、だから喫茶店だったんだ?」
校内に入りにくいですから、まぁ。こっちで指定してくれるのはよかったな。とは思いますよ。ぼくもしっかり時間が取れたので。助かってはいますよ。いろいろと。凛月さ…凛月の話もできますし。ぼくは万々歳ですよ。結果論ですけど。
「吸血鬼は招かれないとどこにも入れないしね。そんなルールを律儀に守ってるのは、この現代じゃうちの一族でも少数派だけど。」
「……あの人、招いてなくてもうちの家着てましたけど……。ついでにぼくを何度も連れ出して……迷惑かぶってましたけども。」
「色々あるんだな晦先輩も…。だから、朔間先輩は全然夢ノ咲学院に遊びに来てくれね〜のか。双子が淋しがってんだよなぁ。俺様だけじゃ不満なのかも。」
凛月が、子飼いの子をからかってましたけど。そのまま流しておきましょうかね。そうこう話をしていると、羽風君がやってきた。久しぶりに会いましたけど、相変わらず元気そうですねぇ。
「はろ〜はろ〜、みんな元気ぃ?薫お兄さんだよ〜?」
「なんでテメ〜が?呼び出したのは朔間先輩じゃなかったのかよ。デコ助?」
「あれれ?お呼びじゃない感じ?寂しい〜。わんちゃんの意地悪!つれないぁ。俺はこんなに愛してるのに〜」
しくしくと泣いて、座っているぼくたちのメンツを一度確認する。その中にぼくが居たので、不思議そうな顔をしている。あれ?晦くんじゃん?と不思議そうな顔をするので、ぼくはひらひらと手を振ってみる。だいぶ変わった?と言われたので、色々事情がありまして。と濁しておく。
「あぁ。クソッ、鬱陶しい!いちいち会うたびに抱きついてくんじゃね〜よ!懐かしがるほど時間は経ってね〜だろうが!『例の事務所』の仕事でしょっちゅう顔を合わせてるしさっ?」
カラカラ笑って流してるのは、本当に羽や風の様ですよね。名前のごとくと言うべきなのか。楽しそうにしているので、ぼくは羽風くんを自由にさせておく。どうやら、朔間さんと二人でやってきたらしく、最近は彼が零を見張っているという。…まぁ、いいコンビになりそうですよね。2枚看板とかって言ってますし。
「テメ〜、何時の間にか朔間先輩への呼び方が変わってやがるな。オメェも、」
「…ぼくも……まぁ、兄弟になったんですし、いつまでも『朔間さん』じゃ駄目ですしね。」
「アイドル業界は実力社会だしね〜。年上も年下もないでしょ。」
本人は呼び捨てでいいといったけど、慣れないからと暫定的に『くん』をつけて呼んでいるという。仲がいいですよねぇ、子飼いの子と会話をしているのを聞いていると、凛月がおずおずとぼくの後ろに隠れて、伺うように羽風くんに零はどうしたのかと言う。
「テメ〜なんで羽風センパイにはそんな丁寧なんだよ。一瞬誰の台詞かわかんなかったぜ。」
「このひとは俺にできなかったことをしてくれたので、かなりのリスペクトをしているし、やる気なさそうな普段の言動とか、俺に似てて好きだし。」
……ねぇ、衣更くん。お兄ちゃんってどうしたらいいんですかね。とそっとぼくは振ってみたけれど、彼は苦笑いしてた。そうですよねぇ。いいお兄ちゃんになるのってむずかしいですねぇ。ほんと、良いお兄ちゃんって何なんでしょうね?よくわかりませんね。まぁ、とりあえず、零が泣きそうだなって思いました。ぼくはね。とりあえず、今帰ってこないことを祈ってますよ。ちらりと入り口の方を見ると、まだ電話でなにかしている様子。まぁ、もうすぐで来るでしょう。泣きそうになりながらこっち見てるんですから。視線が怖いんですよ。零。
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