ぼくとスカウト エキセントリック 2 





ふふっと笑ってやると、カランカランというよりも賑やかな音がやって来た。ふと音の方を見ると、渉奏汰人形遣いと見なれた懐かしい面々が勢揃い。というか、なぜ渉は、奏汰を横抱きにして入ってきてるのでしょうか。ぼくは、彼らと目が合うとひらひら手を振る。おやおや、と渉がこちらに気づいたようで、大股でこちらに歩いてきて、珍しいですねぇ。なんて笑うから、ぼくは同じように笑い返して、奥につめる。

「なにか飲み物を奏汰に!」
「取り急ぎご入り用でしたら、こちらをどうぞ。飲み差しですが」

そっと差し出すと、奏汰は水分が足りていなかった様子で、ぼくの飲みかけクリームソーダを飲んでいく。まぁ、温くなってしまったものを差し出してしまったのは申し訳ないと思ったが、人形遣いの表情があわててるようだったので、もしかすると正解だったのかもしれない。とぼくは思った。なんとなく、だけれど。奏汰がゆっくり飲んでいく間に、渉と人形遣いがどういう経緯でなにがあったかと順番を並べていくのを聞いていると、ぼくのクリームソーダをすべて飲みきったようだ。

「おいしいです〜。あぁ、いきかえりました」
「それは重畳、深海くんは不死者を名乗る我が輩よりも、よっぽど死にかけたり生き返ったりするのう。」

体を大事に。と朔間さんがいうが、ぼくも耳が痛いので聞かなかったことにしよう。渉がそんなにつまんない事を言うので、奏汰ものって笑っている。オーバー気味に渉が反応して、呆れたように人形遣いが溢す。こんな学院近くの喫茶店の一角に偶然集まった五奇人。というのが珍しいなぁ。と感慨深く眺める。

「奏汰は今も昔も我らのなかでも一番浮世離れしてますからねぇ?」
「いちばんは『わたる』ですよ〜、ぼくは『ふつう』です」

君たち、五十歩百歩という言葉を知っていますか?と思ったが、水を指すのも悪い気がして笑顔を張り付けて視線を窓の外に投げる。聴覚が『普通』ってなんじゃろな、と朔間さんの声を拾ったが、そのまま夏目くんに飲み物を督促する。改めてぼくは新しい飲み物を追加で頼んでおく。炭酸は先程飲んだので、眠気覚ますように珈琲を一つ頼むか考える。今日はそこまで買い物をしてないので、財布には余裕があったはずだ、と思い出していると、調整役が席を立った。

「あ、逆先くん、手伝うよ。」
「子猫ちゃん、手伝ってくれル?にいさんたちは遠慮を知らないから、見た目以上にばかすか飲み食いするヨ。」
「央は必要以上に食べるからね。これでその体型だから恐ろしい。」
「人形遣いは食べなさすぎですよ。夏目くん、人形遣い用にクロワッサンはありますか?」
「そこの棚に入ってるから食べテ。」

夏目くんの指差した先のバスケットに、クロワッサンが入ってる。調整役が配膳するのを見ていると、晦先輩もご入り用ですか?と差し出されそうだったのを、朔間さんが手にして食い気ないと口を開いて、人形遣いに話を投げ掛けるのを聞く。審美眼がどうこうと言い出す。こうなると人形遣いは話が長い、聞きあきてる部分もあるので人形遣い、斎宮宗の芸術論を極力聞かないようにする。

「なっちゃん、『おひや』をくれますか?まだ、『おはだ』がひりひりするので、『うるおい』がほしいです〜」
「お冷やは普通に飲んでヨ、体にぶっかけないでね。掃除するのは大変だかラ。渉にいさんと央にいさんは何か注文すル?」

ぼくはメニューをかりて悩んでいると、渉が我らに饗したいメニューとか言い出すので、そこにもう二品ほど足してぼくは珈琲。と尻に乗っておく。夏目くんがは責任重大だなぁ、と考えるようにはけていった。ぼくの分は軽食からケーキまでなんでも構いませんよ。と念を押す。大の男六人居るのだ、入るだろう。と楽観視。夏目くんも入ればいいのに、なんて奏汰が言えば、飛び火がこちらにやって来た。ぼくが年上なのは放っておいてほしい。

「年上らしくないですよね。央」
「朔間さんが年上風吹かしてるので、バランスですよ。できる人がいるのですからしません。」
「斎宮くんにはわからんよ〜留年して、年下の子達を肩を並べて青春を生きる気持ちは、これはこれで気を遣うんじゃよ〜、のう央くんや」

基本授業は全部去年受けてるので内容は覚えてますし、クラスは基本寝てるだけですし。それは朔間さんだけでは?そう言いつつぼくは朔間さんが逃げるように視線を反らす。ちょっと寂しそうな顔をして、朔間さんは進級したほうがいいと進言するのを聞きつつ間に合わせのお冷やで喉を潤す。

「ともあれ、合縁奇縁というべきかのう。まさかこんななんでもない日に我らが勢揃いするとは。神の遊びか、悪魔の罠か、何はともあれ、興味深い展開じゃのう。」
「単なる偶然だろう。零と小僧と小鳥が偶然同じ店で遭遇。僕と渉は趣味の博物館巡りを共にしていて帰り道で偶然奏汰を拾った。」
「偶然は必然ですよ。物事のすべては代替えが可能であるのですから。」
「小鳥も零も浪漫に偏重した物言いをするのが鼻につくね」
「それは我らが『五奇人』に共通する愛すべき悪癖でしょう。」

だってさ、人形遣い。渉の言葉をまんま借りれば、君は五奇人だ。そこに入っている以上の悪癖は、君のものであり、僕のものではないのだよ。そう言ってやれば、奏汰は去年は舞台にいるみたいでと言い出すので、ぼくも複雑な気持ちだ。結論的にぼくは五奇人には慣れず、別の箱に入れられ崇められてそして今も奉られているのだから。

「今年一年で各々それぞれの人生も様変わりしたようじゃがのう。それを語り合おうぞ、偶さか巡り逢えた旧い友よ。」
「では、ぼくはこの辺でお暇でもいただきましょうかね。旧い友ではありますが、ぼくには君たちの劣化品であり。類似品なのですから。」
「君も残りたまえ、小鳥。きみも奇人ではあるだろうに。」
「そうですね、人形遣いが言うなら残りましょうか。」

仕方ない。のポーズを取り続ける必要はありますし、朔間さんが正面にいるのは不服ですが、仕方ありません。ここで言質をひっくり返すのも野暮でしょう。そうぼくは判断して、ひっそり息づく。ちょうど忘年会という愛すべき習慣が盛んな時期だから一年を回想しようと朔間さんが言い出して、細々しく働いている夏目くんや調整役に声をかけた。夏目くんは解ったヨ。子猫ちゃんは先に座っているといいサ。と返事をしてるが、絶対に君は逃げたいだけだろう。とぼくは思いつつ、回りを観察する。
しばらくして夏目くんが両手一杯に飲み物や食べ物を運んでくる。運び終わって朔間さんが座れと指示をだすと、三奇人がおいでおいでと手招く。その姿は妙に歩き出した子どもの手を引くような印象を受けた。ぼくは呆れながら食事を進めていると、夏目くんは人形遣いを選んだようで、僕の隣にはと文句を言いながらも、人形遣いは場所を開ける。選ばれなかった三奇人は面白くなさそうな顔をしている。これが反抗期でしょうかね?とか言い出すので、夏目くんは順番に言っていく。そして朔間さんはつまらないのかさっきからぼくには机の下で足を踏むちょっかいを出している。

「朔間さん?先程からぼくの足を踏んでませんか?」
「逆先くんが選んでくれないから、ちょっかいをかけているのじゃが、央くんは反応が鈍いのう。」
「先程か、身内に手を出さないという言葉撤回した方がよろしいのでは?」

親戚どころか二親等のぼくたちだけれども、とは喉が裂けても言うつもりはないけれど朔間さんの近隣のクレームが入って、ぼくの足は平和に解放される。五奇人が三奇人になったのに、ボクが三奇人を選ぶと人形遣いが一人になる。という言葉を聞いてか、人形遣いは苦言を呈しているけれども、その表情にはうれしい。と書いていて、朔間さんに指摘を受けて人形遣いは不機嫌そうに顔を歪めて首を振る。

「おや、頼んだ覚えのないものがあるね。」

店内でも手袋を脱がない男人形遣いが、なにかに気がついて小さなガラスの器を開く。蓋を開き固形乾物の物体であるこを確認してから一つ掴む。星形に形を作られた落雁のような物体だった。人形遣いが一つ手に取ると、朔間さんが興味深そうに一つをつまみ目の高さまであげる。角砂糖の定義を疑問視して渉に問いかけている。渉は零が知らないものを知っているわけがない。とキッパリ言い切る。奏汰はそれをつまみ上げて口の中に納めて、『あまい』ですね。と溢す。塩だったらどうするつもりだったのでしょうね。

「人数分配置されてますね。これは何なのですかる夏目くん。渉にいさんに教えてください」
「渉、溢れるから暴れないでくださいな」
「子猫ちゃんとカ、マドモアゼルこお洋服が汚れたら大変だヨ」

渉の前から飲み物をそっとどかして、被害がないかを確認する。朔間さんが渉についてああだこうだというのを聞き流して奏汰が砂糖を完食するまえに隔離をしておく。そもそもどうして、なにもないのに角砂糖というべきか星砂糖を食べれるのか疑問だが。今はとりあえずそれどころではないだろう。

「食べ過ぎると胸焼けを起こしますよ。」
「『あまい』の、すきです〜『うみ』にはあんまりない『みかく』なので」
「これ以上食べると体に悪そうですし、これ以上食べないでくださいね。」

話を戻すけド、と夏目くんが切り出すので、ぼくらの聴覚をそっちに傾ける。駄弁るだけで退屈だろうから、余興として砂糖を持ってきたようで、余興という単語に反応して渉が薔薇を撒き散らしたりしたが、それもぼくはさっさと片付ける。紙ナプキンを広げてその上にすべて乗せて机の端に置く。人形遣いは服につくと汚れのもとだと怒っているので、ぼくが無理やり宥め夏目くんの話を促す。

「王さまゲームみたいなものですか?『魔王』さまの命令は〜、絶対」
「命令なんかせんよ、『魔王』は引退しておる。おぬしらは、首輪をつけずに野放しにしておいたほうが見ていて愉快ではあるしのう、央くんや。」
「ぼくにふられてもこまるんですけどね。」

『五奇人』でもないですし、眼前の魔王様なら番号操作して俺を兄弟と呼べ。なんてやりかねない。いや、むこうは知らないのだろうけれどもだ。ややこしい話は極力ご遠慮したい。と心の底から思いつつ、ひっそりため息つきながら、夏目くんのルール説明に耳を傾けるのであった。



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