ぼくとスカウト エキセントリック 3 





星の形をした『星砂糖』に夏目くんの魔法がかかっていて、口にした回りの者に『忘却』を与える。口にして強く念じることが必要だと言う。説明を頭のなかで再度復唱しつつ、本題はどうも、『忘れてほしいこと』を主題としたとっかかりになりそうだ、と思いながらどうするかとぼくは思案する。恥ずかしいこと、失敗談、些細な告白。色々あるが、本気で忘れたいのは家、養子縁組、朔間零についてだが、まぁここで出す話でもないのでため息として吐き出す。

「はいはい!私からいいですか!『みんなに忘れてほしいこと』発表しま〜す」
「渉が先にやるとあとがめんd……いいえ、ハードルが上がりますから、渉は最後にしましょう。」

あなたなら、いくらでも出てくるでしょう。とぼくが言えば人形遣いが加勢して渉の出番を一番最後に押し込むことに成功する。こんな光景を見ながら朔間さんは笑いながら、奏汰が妥当ではないかと提案する。ルール制定前からぼりぼりと食べてたので、奏汰が頭を抱えて何を言うかと視線が注がれる。奇人たちもきょうみがあるようで、めいめいが口にしている。

「奏汰はぜんぜん、わりと何にも頓着しないタイプですもんね。」
「マイペースだよね、僕たちの中でも断トツに。いつでも自分だけの世界で生きている。そんな奏汰のなめんを知れるなら僕も嬉しい。」

カカカと笑うので、どうも今日は人形遣いの様子も平常運転らしい。奇人たちの戯れを眺めていると、そうですね。と手をうった。にっこりわらって、彼は言う。お金を持ち合わせがありません。のみもののだいきんはみんなに払ってもらったんですけどその借りを忘れてほしい。慎ましい申し出に渉がせこい!と声をあげるが、それはそれでいいんじゃないかとぼくは思う。唐突に言われてもそこまで出てこないものでしょうし、ぼくも今現在思い付いてないのだから、かわいい忘れてほしいことではないんでしょうかね。

「ん〜?びみょうにおきにめしませんか?じゃあ、ぼくの『おうち』のことを『わすれて』ほしいです。」
「重い!話題のチョイスが極端ですよ奏汰。読めない人ですね!」
「よろしいじゃありませんか、奏汰にはそこまで忘れてほしいことがない。という証明みたいなものなんですから。」
「ほんとに『わすれて』ほしいんです。おうちとは『かんけい』がない、『しんかいかなた』として『おともだち』になりいたいんです。ずうっと、そう『ねがって』いましたから」
「えぇ、きみは昔から誰でもないただの深海奏汰ですよ。そうでしたよね?」

ぼくがそう口を開くと、回りも賛同し口々に忘れた。と告げていく。渉に至っては不思議生物とか言い出して、そこから設定を膨らましている。竜宮城っや、実家が海の底だと言いつつ、彼らの悪癖が遺憾無く発揮されてるのを見て、ぼくは頬を緩ませる。みんなが忘れたことにホッとした様子で、嬉しそうに彼は喋っている。こういう展開か、と俯瞰しつつ改めてぼくは脳内でシュミレートする。これぐらいのレベルならば、と思うが心当たりがあまりない。どうしたものかと考える。

「次、、僕が発表していいかね。みんなと話していたら不意に僕の恥を思い出したのだよ。」
「えっ、何ですか?夢ノ咲学院の『帝王』と『魔王』が糸電話で会話してたことですかっ、あれ傍らから見ると爆笑でしたけどっ」
「人形遣いそんなことをいていたのですか?」

初耳な行動にぼくは無意識に眉をひそめる。朔間さんと人形遣いの糸電話での交信というのが想像しにくく、じろりと人形遣いを見るとすこし怒りぎみにそれも忘れたまえ。といいきった。そこは恥ではないらしく、アナクロな方法の方が登頂の危険が低いからとったといっているが、ちょっとムキになっている様子もうかがえて、ぼくはクスクス笑うと人形遣いに睨まれた。おそらく、朔間さんもデジタルが苦手なので、そういうことであろう。察し。というやつ。夏目くんにそそのかされつつ人形遣いは言葉を選びながらぽつりぽつりと話し出した。

「恥ずかしいかどうかは、個々人の主観によるけれど、昔。僕がつくった『ある衣装』のことを」忘れてほしい。」
「まだ未熟なな時代に作った作品とかかの、そうおいうのを見られると恥ずかしい〜という意見に同意できるわい。」

人形遣いの話に耳を傾けていると、ふと過去を思い出した。脳内検索一件ヒット。これだ、と思うととりあえずぼくはほっと胸を撫で下ろして、このあとに僕が口を開くのもなあと思いつつ、嫌なことはさっさとしてしまうが良いだろうと判断し人形遣いが終われば喋ろうと心に決めて、意識を話を聞くほうに向ける。朔間本宅で嫌がらせ上映会の話やら渉のショーの話を展開していたが、ごほんと、咳をしてから人形遣いは若気の至りで作った衣装について話し出した。

「僕たちが『五奇人』や『一隠』となどと呼ばれてどんどん仲良くなって、僕、せっかくだからみんなでお揃いの衣装と着たいな〜などと思ってしまってね。」

つくっただろう、そういうのを。当時の自分の浮かれっぷりがまったく隠せてなくて悔いが残っているというか、思い出すだけで赤面してしまうのだよ。だから忘れてほしい。まっだ持っているなら、燃えるゴミの日にだすか、永遠に発掘されない深い地層に埋めてくれたまえ。そう言われてぼくにはどの衣装のことかよくわかった。家においてあるのだが、気に入ってるので近いところにおいてあったはずだ。家のクローゼットには今までの衣装がたくさん入ってるのでぼくの私物は私服はそこまでない。むしろ制服の方が多いかもしれない。物持ちがいいというか成長率が低いというか。消費が薄いというか、基本寝てるのでそこまでというか。自分でこう喋っていて並みの高校生より衣類は少ないと自負する自信はある。
回りは人形遣いの衣装に納得がいっているしその写真を未だに持っているという。そのうちみんなで『五奇人』と『一隠』で秘密のゲリラライブなどと朔間さんがいうが、ぼくはまだシンセ系の楽器を本番で使うのは怖いので丁寧にご遠慮したいが、事情をしっている朔間さんが央くんのドラム一個でやってみたいの。と笑っている。

「楽しそうですね、賛成です私!専用曲とかつくりませんか、央。我ら『五奇人』『一隠』にしか見せられない最高のショウタイムを繰り広げましょう!」
「ぼくはその歴史を忘れ去ってほしいと思っているのだけれどね。月永くんがいるでしょうに。畑違いですから、そちらに。」
「え〜、しゅうがよくうたってましたよ?『ことり』がつくった『うた』だと。」

奏汰の声にぼくは人形遣いを見ると、サッと視線を反らされた。じっと人形遣いを見るが視線が重なる事はない。とりあえずぼくは話の腰を折るのも嫌だったので、あとで話があります。じっくり腰を据えて話をしましょうね、人形遣い。と言い切る。ついでに圧もかけておくことを忘れない。一瞬たじろいでから、人形遣いは、前提を忘れていないか規則を遵守したまえ、と怒り始めるので、ぼくはその口が言うんですか。と密封させる。ぼくが昔、そうきみの若気の至りというのと一緒で作曲やらしていたが、それはきみにしか公表してなかったし、口外するなと言っていた約束事だ。

「珍しく尻に敷かれておるわいの。」
「みんなが忘れてくれないってことハ、きっと宗にいさんも覚えていてほしいって思ってるのサ。心から強く念じていないかラ、魔法が発動しなかったんダ。」

まぁいいんじゃないノ、いつか、ほんとに央にいさんの音楽で『五奇人』と『一隠』がライブ出来たら最高に幸せだよネ。苦しいことや哀しいこと、痛みや憎悪は一旦忘れちゃってサ。駄目だ、ぼくもこれは封殺されてる感じがする。好きを煮詰め昇華させたものを日の目にまたあてるわけにもいかないので、黙っておこう。唄って知られてるが、ぼくの本業は演奏家であって作曲家や音楽家でない。あるもので作る。材料が決まっている料理人のようなものだ。作ったのは燃やしてなにももう残ってないので、現存するのは人形遣いやその回りの記憶だけだ。

「忘れるなら、『それ』じゃのう。人間は苦痛や重荷をすべて捨て去って愛だけを抱えて生きていくことはできんのじゃけど。我ら『五奇人』は怪物のように呼ばれた。人間を超越した神か悪魔のように。だからこそ、その程度の奇跡はきっと赤子の手を捻るよりも簡単に起こせるじゃろう。音以外は……」

ぼくに頼むんじゃありません。ぼくは演奏家であって、音楽家ではありませんから。餅は餅屋。と朔間さんを嗜めていると、スマホが鳴った。確認をすると家からみたいで、とりあえず一旦断りを入れて席を立った。店の外に立って電話に出ると、年始に行われる朔間本宅親戚類の集まりの参加についての話らしく、末端である晦の家は早くから出て覚えてもらわないとなんて。昔から大人たちにはくどくど言われてるので、内容だって諳じて言えるぐらい自信はある。年回りの近いぼくは、から始まってのご高説お疲れさまです。要約すると大人の事情は子どものぼくたちだって暗黙の了解である。
ぼくは心のスイッチを切って淡々と返事をしていく。10分したら朔間さんをダシにして通話を切ろう。そんなことを考えながら、ぼくは淡々と返事をする。



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