夏空*駆けるシュヴァルライブと俺。-5e

そしてしばらくして、セナがしびれを切らしてか口を開いた。…こっちの台詞なんだけどさ。

「文哉。」

乗馬教えて。俺の耳にこっそり打つ。それが少しくすぐったくて、俺はクスクス笑っていると、セナの服の裾を食んでいた馬が、またすり寄ったらしく。セナが呆れて怒っていた。

「あぁ、もうすり寄ってくんなって言ってるでしょ!」
「うひゃっ!?」
「セナ。馬は繊細だからもうちょっとボリューム落としたほうがいいよ?」

セナにすり寄る馬へ鳴上くんが人懐っこい子よねぇ。邪険にされても泉ちゃんに近づきたいのねぇ。わかるわァ。それが愛よね。愛してるからって愛されてるとは限らない。それdめおいつかあいされるんじゃないかって相手を追い求めてしまうのよねぇ。
一人で勝手に世界に入ってるので俺は鳴上くんとセナに視線をさまよわせる。

「どうでもいいから、さっさと助けて。」
「あ…はい。」

馬に語りかけてセナを解放するように説得を始めると、後ろから声がかかった。大丈夫ですか〜何か問題が発生したのなら対処しますよ?なんて声だった。うん、メンバーの機嫌が悪いの治して、って言いたいが言ったら夜中までセナの説教コースなので黙っておく。

「んん?あら、ゆうたちゃん!」
「鳴上先輩?うわぁ、こんなところで奇遇ですね〜」

話を聞いてると彼はここでバイトをしているらしい。へぇ。とか思っていると隣のセナの声色が急激に変わった。これでもかというぐらいの豹変ぶりなので俺の表情が一瞬強張った。

「あらやだ、ご機嫌になっちゃって……文哉ちゃん?」
「あ…うん。なんでもないよ。ちょっと驚いただけ。」
「瀬名先輩たちがここにいるってことは、宣伝ライブを引き受けてくれたのは『Knights』のみなさんなんですよね?」

その後何か言ってたけれどアイドル科の生徒に興味はないので、そのまままともに聞いてない。鳴上くんもセナも頷いている。

「ちょっ、やめてよなるくん!俺の方が先に唾をつけたんだからね!」
「唾て…」
「心配しなくても泉ちゃんから取ったりしないわよォ。まァ、そもそもゆうたちゃんは誰のものでもないけどね。」

話し込みだしているので俺は意識を切り替えて、セナに執着してた馬のほうに寄る。いやーセナは上げれません。俺のだから。っていうか俺の主人だからお前にやれねえよ。とか喋れば馬は俺に歯を見せた。…もしかして馬に喧嘩売られてる?。まさか?そんなことねえよな?馬とにらみ合いを続けてたら一日が終わったことをここに記しておく。



ライブ当日。衣装に身を包んだ俺は、そわそわしていた。ユニット衣装の紐がいつもと左右逆なのが違和感でしかないのだ。変な感じがして、きもちわるい。問ってやろうかと思ったのだが、いつのまにか参加を決めた斎宮によって否定される。なんかいつもと違う方に気を使わないといけないの気持ち悪いじゃん。手袋ないし!!レオ成分やっぱり足りてない!!レオ!!はやく!!俺が死ぬ!!とか思いつつそわそわしていると、朱桜くんに声をかけられた。

「保村先輩?」
「なに?」
「いいえ、お顔が険しいようでしたので。」
「うるさいよ。末っ子。」

なに、ふ〜ちゃんカルシウムたりてないの?と言われたが。俺はそのまま適当に返事をする。今日は暑くなるかなぁ。とか取り留めのないことを考えながら、衣装のチェックをかける。

「文哉。」
「なにー?セナ。」
「リボン曲がってる。」

なおしてー。とセナの前に立つと、ちょっと元気ないんじゃない?と言われてぎくりと肩を震わせる。セナ成分でむりやりレオの分も補充してるところもある。適当にへらりと笑うと、無理するんじゃない。と頬っぺたを押される。うるへー。と声を上げる。

「保村先輩と瀬名先輩は仲がよろしいですね。」
「大事なご主人だからね。」
「得意げに言うなっての。」
「てっ。」

デコピンひとつ喰らったが、これぐらい全然痛くない。なれたものだ。こうした些細なやり取りがうれしいんだけれどなぁ。と俺は思うのだが、セナの思考はよく解らない。なんだか思考をトレースするのが悪い気がしてする回数を減らしてるのはある。まああんまり話してないんだけれどね。気持ち悪いじゃん、相手の気持ちになって思考をトレースして、行動するなんてさ。俺の芝居論みたいなものの応用だからできるところではあるんだけれど。

「で、かさくんは何で戻ってきたの?」
「そろそろLiveが始まるので最終確認をしたいとお姉さまが言ってらっしゃって。私が着替え中の先輩方を呼びに。」
「そう。ありがとう。」
「あ、こら。あんたまだリボンずれたままだって。」

そうだった。セナ結んで―。とセナのところに来たのに忘れてたわ。ぽんと掌を打って、すぐ追いつくから鳴上くんとかに声かけといで。そういえば、了承して朱桜くんは扉の向こうに消えて行った。部屋には俺のセナだけだ。遠くで蝉の声がするけれどそれぐらいしか聞こえない部屋で、俺は小さく音を出す。

「セナ。手。」
「あんたはたまにこうしないと調子でないのなんとかなんないの?」
「んー。なんか調子でないし、迷惑かけてるよね。ごめん。」

視線を落とすと、俺の手をセナが掴む。夏なのにちょっと冷たいセナの指が俺の指に絡む。絡んだ指の付け根が脈打ってるの気にづく。力強い脈動に俺は救われてるんだな、って思うとちょっと口角が緩んだ。

「なにニヤニヤしてるの?気持ち悪いんだけどォ」
「この間の馬のことを思い出して笑ってた。」
「はぁ?」
「セナからパワーもらってライブできる元気貰ったし、レオの事考えたらもっと頑張らなきゃって思った!俺先に行くね。あの馬と喧嘩してこなきゃ!」
「文哉!」

セナの怒声をものともせず、へらりと笑ってから先に降りていく。あのセナを意識している馬と戦わねば。イケメンに弱いとか、なんだよあの馬。と思い出しながら歩く俺の脚はひどく軽い。セナのパワーっていうか、気持的な燃料貰ったし、何とかなるだろう。
とりあえず、この間の馬なんとかしてやろうとか思ったんだけれど、俺には別の馬があてられたし、セナを手放さない馬はセナにとても従順に動くのだから理不尽。犬の俺の方がいい仕事しますよ!そりゃあ畑耕すとかそんなパワーないけどさ!うちのユニット畑はやらないじゃん!だから平気だよね。このライブが終わればきっと、あの馬だってセナの事を忘れるだろう。独占欲強い犬だなと一人俺は笑いながらとりあえず周辺を一周してこの跡始まるライブに胸を躍らせる。
レオはいないけれど、きっと素敵なライブになるんだろう。俺はそうなるための補助に徹する。それが番犬で忠犬の俺の仕事だから。ソロなんていらない、万が一のバックアップでいい。今はレオが居ないからレオに当てられるパートを俺が浚っていく。帰ってきたらハモリやユニゾンを主に担当することになるだろう。一年二年のあの頃と似たような動きにはなるけれど、それはそれでいい。ここでは搾取されてるとも思わないのだから。
斎宮のところのがきんちょが最後まで馬に乗れなくて鳴上くんに助けてもらうのを見て、俺は今度から仕事する相手にはもっと厳しく仕込もうと心に決めたのはここの話。

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