-番犬は番犬であるが所以。

【DDD】が終わって翌日。ここしばらくっていうか【DDD】発表日からの長期撮影がやっと終わった俺は、学院に入るといろんな情報が入り乱れてた。
明日が抜き打ちテストだとか、革命が成功しただとか、天祥院生徒会が負けたとか。セナがお熱のがきんちょがどうこうとか。食堂のランチが新しくなるだの。どうでもいいものから拾っておくべきものも。さまざまな情報が煩雑とするなかで見逃せないものが二つあった。『Knights』の活動停止処分。と鳴上くんへのリーダー代理権限の移行。と。…いったいどういうことだ?俺は首を傾げる。とりあえず情報収集は昇降口近くにある掲示板に情報が転がってるかもしれない。薄い希望程度はあるだろうかと判断して足を向けつつ携帯を触る。
校内SNSを見てもそんなに書いてないし、なんだ?情報が足りてないのか。鳴上くんの性格上そんなことはないとはおもうのだけれど、とか考えながら鳴上くんの連絡先を呼び起こしていると、保村くんおはようございます〜。なんてのんびりとした声を出して青葉が俺の横に立った。俺は青葉を一瞥して視線をスマホに戻すのだが、青葉は気付いてか気付かずかそのまま話を続けている。勝手にしゃべってるので俺はほったらかしにして鳴上くんに連絡を入れるためにアプリを立ち上げていると、俺の聴覚に青葉の声が入る。

「昨日はお疲れ様でした。『Knights』は大変だったみたいですね。」

大変?何が?ぴくり、とそこで動きを止めてニコニコ笑ってる青葉を睨む。俺の動きが止まったことに不安を感じてか首を傾げながら青葉は「昨日の話をしらないかんじですか?」なんて言われたから、俺は「この【DDD】開始の宣言から撮影で学校自体に寄れてないんだけど?」と言い返す。対外的に塩ばかり投げてる俺にも笑って話をしてるのだから、こいつの魂胆が読めない。ただのお人好しなのか行き過ぎた奴なのか、計算してるのか打算的なのか、いまいちよく解らない。
昨日はすごかったんですよ。と少し興奮気味に青葉が言うので適当に聞き流そうと思ったが、それなりの事情を知っているのならば情報収集がかなり楽になると思って話を聞いたのだが。衝撃で頭がやられそうだった。
セナの暴走、と書けばまだ…そう、まだ。聞こえがいいが実質やってることは拉致監禁だという。そういうことをやって『Trickstar』がその事実を公表し同情票を得るように動いて、印象操作によって『Knights』が負けたという。初戦敗退。まったくもって意味がわかんない。レオとセナの『Knights』が負けるだなんて。どういう意味か思考のトレースというか推測もまったく役に立たないぐらい意味が解らない。
ぺらぺら青葉はそのまま喋ってるので俺はもういい、と一言放ってから早足で校内の一番大きな掲示板に向かう。青葉はあぁ。とまだ何か言いたそうだったけれど、俺は聞きたくないのでそのまま人で撒くようにちぎって置いてきた。しらね。うちのメンバーでもないし、隣にいて談笑する義理もない。情報は得たし、とりあえず事実確認を優先するべきだ。
真っ直ぐ人ごみを掻き分けながら、校内アルバイトの掲示板の前を通って大きな連絡が入るたびに書きこまれる掲示板に二枚の張り紙。短いながらも簡単で分かりやすい内容がそこにあった。
『Knights』の当分の間活動禁止と、リーダーが鳴上くんへの権限が移行する。その二点、それぞれの紙に生徒会の掲示許可スタンプが押されているので、この二つは生徒会が認める事実なのだろう。奇しくも青葉の言っていたことがどうも事実のようだ。コピー用紙に印刷された二枚を見つめながら、俺は思考を深める。期限も不確定だし、そもそもリーダー権限は俺じゃなくてなぜ鳴上くんなのか。意味がいまいち解らない。加入巡とかならば納得がいくが、俺も一時はなんちゃってリーダーをしてたこともあるのだけれども。どうも、天祥院かどこかの思惑の匂いも感じる気がする。…はて、この妙な苛立ちはどこにぶつければいいのだろうか。レオの帰ってくる場所のために俺はここにいるわけだが、俺の恩人であるセナに当たるわけにもいかないのでどうするか。根本的に俺の思考の根底にレオとセナがいればいい。なのだが、活動停止で帰る場所すらないというのは大問題なわけで。
まとまらない思考をたたむこともできずに。ぼうぜんと掲示板を見ていると、ふ〜ちゃん。と後ろから声がかった。振り変えれば欠伸をこぼす朔間の弟くんがそこで壁にもたれるように立ってた。 俺の視線をたどってか、ふーん。と言葉を出してから、じとりと視線を紙に固定させている。

「見たんだ?」
「……まぁ。どうして俺に連絡がこなかったの?」
「セッちゃんがふ〜ちゃんには連絡するなって言ってたから連絡入れなかったんだけど。」

見つかったなら俺知〜らない。なんて言うのが聞こえた。近くの窓から入ってくる風に吹かれて紙の下の方が揺れている。まるで俺の心みたいにひらひらしてて、なんだかおれが宙ぶらりんになってる気がしてきた。今回の件について参加してない俺が口出す権利もないと思っているが。連絡がないのはちょっとさみしい。いや、かなり淋しいし、がっつり淋しい。今はレオが不在で、ただでさえメンタル不安定なのにそれに輪をかけて不安にさせてるし、活動停止だなんてただでさえ集まりにくいメンバーが瀬名が尚も来る理由にならないっていうことでしょうにねぇ?。

「……朔間くん。」
「もう、苗字で呼ばれるの嫌いだって言ってるじゃん……」
「……今からセナのところ行ってくるけど。たまには飼い犬が手を噛んだっていいよね?」
「ふ〜ちゃんもしかしてキれてる?」

切れてないよ?なんて俺が言えば。はい絶対嘘。朔間の弟くん。わかってるなら放っておいてよ。そう吐き捨てるように言えば、面白そうだからついていくけどセッちゃんご愁傷様だねぇ。ってぼそっとつぶやくのが聞こえた。大丈夫殺しはしない。セナからどういう思考をしているか聞きに行くだけだから。うん、俺怒ってないよ。怒ってないってば。…まぁ、怒ってます風は装うけれどもそれぐらい俺からしたら甘噛みだって。第一に俺がセナにもレオにも八つ当たりはあったかもしれないけど、基本しません。俺の全部で大事な人たちだからね。しないってば。俺の性格読み違えてない?策士さん。じとりと朔間の弟くんを見てから歩き出せば、俺の隣に並んで歩き出す。喧騒と人であふれる廊下を歩きながら隣の朔間の弟くんはぽつりとつぶやいた。

「ごめん……」

俺に謝られることなんてない。そもそも俺は不参加だったし【DDD】の始まるしばらく前から長期撮影で居なかった身分だ、何もできてないのにそんな言われることなんてないのだ。口出す権利はあれど、参加してないので義務は果たしてないのだ。義務があっての権利だと思っているし、言うつもりはさらさらない。元来俺の世界はレオとセナだけが居ればいいと思っているので、ほかに関してはとやかく言うつもりはない。

「謝られる覚えはない。俺は、朔間くんのために動いてるわけじゃないし。」

また蹴散らせばいい。それだけだよ。全員でかかって食い掛かったら簡単に散らせるだろうし、俺はどんな状態であろうと王の帰りをただ整えておくだけだ。そう告げれば、ほーんとふ〜ちゃんは犬気質だよねー。蹴っても踏んでも最終的に飼い主に尻尾を振ってるんだから。と呆れられるが、まず第一に君に呆れられる覚えはない。

「でも。やられたままじゃあ癪だし、やりかえしてやるつもりではいるけど。」

そういうところがほんと、ただの尻尾振ってる犬っていうかどっちかっていうと番犬だねぇ。と朔間の弟くんがクスクス笑う。…番犬上等、犬だなんて言われても、俺はまたレオとセナが幸せそうにしてるあの光景が見たいだけだ。そのために俺は動いてる。誰かになんて邪魔させるつもりはない。そうだ、俺が俺らしくいるために動いてるんだ。ほかの奴は全部食い散らかして、レオがまた王さまとして動ける環境を俺は守り続けるために動いてる。そのために必要ならば『Knights』を下した『Trickstar』だって再度戦争だってしてやるつもりでいる。

「案外ふ〜ちゃんって思ったより好戦的だよね。」
「さぁね、飼い主に牙立ててくるなら俺は全部食ってやるっていうだけだよ。」

たまには飼い主の手も噛むけどさ。そうやって吐き出してやると3年のクラスがあるフロア。もうすぐでセナに会える。とか思っているのだから俺ってほんとはちょろいのかもしれない。とりあえず会ったらセナ成分補給とか思ってるから、甘噛みも難しいかもしれない。
そして2か月後ぐらいに戦争が起きるのだから、思ったより再戦が早くて俺は嬉しいんだけど、それをもぎとってきたのが新入りだっていうんだから腹立たしい。と思うのは俺だけなのか?

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