スカウト スイーツパティシエと俺。-1

夜に事務所に台本を受け取りにいく。そんなミッションの空き時間を消化するために教室で書き物をしていると、名前を呼ばれた。顔をあげると鳴上くんや朱桜くんと後ろに不満顔したセナが居た。鳴上くんが手をひらひらさせたので俺もつられてヒラヒラさせる。文哉ちゃん、と呼ばれたので、なんだろう?と見ていると、朱桜くんが俺の机の前に立った。

「今日、練習日だったっけ?」
「いいえ、本日は通常練習ではなく『特別な活動』をすることに決まったので、保村先輩にもご同行いただけるようお誘いに来たのです。」

活動するなら構わないけど、夜に事務所に行く用事があるから連絡次第だけど、それまででいい?そう聞けば、勿論構いません。来ていただけるととてもありがたいです。行きましょう。と朱桜くんが、先頭を立つので俺は書類を纏めてそのまま殿を歩く。むすっとしたセナが俺の横を立つ。頭の中では読みかけの台本を思い出して移動中に読まなければ。なんて仕事のことを考える。

「【DDD】終わったら落ち着くって言ってなかった?」
「前の本が続編をって言い出してて、今書いてる。」
「ちゃんと寝てる?」

たぶん。と返事をすると、訝しげなめせんを送られるが俺はそのままのらりくらりとしておく。ストレスで読書量は増えてるのに、削れるのは睡眠ぐらいしかないのだから。それか食事。まぁ、いいんだけど。なんでも。ふっとため息をつくと、あら、ため息はよくないわよ。文哉ちゃん。ほら、早く行きましょう。と俺の腕をとって歩き出す。ほら、泉ちゃんも。と俺、鳴上くんセナと横並びになって歩く。こんなにたくさんの人と歩くのって、久しぶりかも。あのときは鳴上くんじゃなくてレオだったし、セナと二人で必死になってレオを引きずってた記憶はある。俺の霊感が!と喚いて、真夜中に警備員から逃げることもあった。懐かしいなあ。とか振り返ってると、セナはあぁだこうだと文句を言ってる。鳴上くんとセナの声を聞いて思いを過去に飛ばしてると、ほら文哉ちゃんも、と俺にも一枚紙が渡された。

「本日付けで、交付された求人情報なのですが。」
「はぁ、求人情報?『校内アルバイト』でもするのぉ?『Knights』、そんなにお金に困ってたっけ?たしかに【DDD】でやらかしたせいで、ペナルティとして予算を大幅に没収されたけどさ」

他人事見たいに言うわねェ。誰のせいで『Knights』の印象が最悪になってると思ってるのォ?、ちゃんと反省しないと『めっ』ってしちゃうわよ!ね、文哉ちゃん。
俺にふられても、困る。まぁすぐに俺の印税投入したらいくらでもなるから、気にしなくていいんじゃない?文哉ちゃん感覚狂ってるわよ、普通はそんなことしないのよ!普通は印税もないのよ。……あると邪魔なんだけどね。印税。半年後支払いとかだし、忘れた頃にやってくるというか。

「『Unit』の予算についてはご心配なく、我々はこれでも夢ノ咲学院でも有数の強豪『Unit』です。資金も潤沢にあります。」
「稼いだのレオだけど。」
「Penaltyによる支出も、微々たるものです。最悪資金が足りなくなれば私が個人的に融資することもかんがえますし。」
「あらやだ、今文哉ちゃんにも注意したところよ。、いくら『Knights』が利害関係だけで結び付いてる『ユニット』とは言っても、金の切れ目が縁の切れ目〜みたいなのは御免よ。。」

利害関係。そういわれて、俺はふと心に影が落ちた気がした。セナはあぁ言ったけど、彼らに関してはどうなのだろうか。そんなことは聞く気力も起きないので、黙っておこう。憧れで加入が決定した彼に悪いところはない。が、勝手に心が落ちてしまうのだから、嫌になる。隣にも気付かれないように、息を吐き出す。俺の利害ってなにだろうと、レオがいて、セナがいて。それだけでいい。レオが安心して帰ってこれる場所を作りたいだけなのだから。事故犠牲だろうと、なんだろうと勝手に言えばいいと思う。俺がやりたいからやってるだけなのだから。セナにも笑ってて欲しいけどね。レオとセナが笑ってれるならば、俺は札束で頬を殴り付けてもいいとはおもってるのは、黙ろう。最悪の場合ね。そう最悪。

「で、この校内アルバイトのチラシ確認したんだけど、なにこれ『お菓子作り?』」
「そうよ、これから学院際だのおちゃかいだのといった行事が続くでしょう?」

それにあわせて、夢ノ咲学院の『名物』になるようなお菓子の案が募集されてるの。鳴上くんの声を聞きながら、改めて紙に目を通す。彼らの会話に間違いもなさそうな感じだ。イメージを塗り替えるために、参加をしよう。という話らしい。イメージアップのために出る。という鳴上くんの話を聞きながら、片っ端から目を通す。活動制限があるからライブも厳しいので、校内アルバイト。という背景なのが見えてきた。

「まぁいいけど。料理は得意分野だし、でも、それなら俺だけ労働すればいいじゃん。あんたたちまで付き合う義理はないでしょ?文哉も。」
「義理ならあるわよ。水くさいわね、仲間でしょう?」

仲間。そんな言葉をきいて、最悪の問いを突きつけられた瞬間が頭をよぎった。ふと足を止めてしまった俺に、繋いでいた手がほどけた。あら?なんて言いながら、俺を伺うように見ている。どうしたの?怖い顔して、驚いた表情をされて、俺は一旦謝ってから仮面を被りなおす。ほら笑えと自分に言い聞かせてから、行こう。エプロンも着なきゃ。へらりと笑って、俺は取り繕うようにセナと鳴上くんの背中を押した。俺は人のよさそうな顔だけ取り繕うことにした。

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