-ゆめうつつ。

執筆に集中力がいる時があるから、ESビルの一室を俺のポケットマネーで借り切ってる。書き物が多かったりレポートをやるために人の往来が少ない低めのフロアにある隅の部屋なのでとても静かで、時折Knightsのみんなも俺の様子を見るためかよく来ることがある。
徹夜して仕上げたレポートに安堵して、そこで寝ていたらちょっと昔の夢を見た。心が死んでいくような過去の夢。どこまでも落ちて行ってアイドルなんてやめていいや。と思っていたころを救われた夢だった。
最後まで見ることもなく、地獄の煮凝りど真ん中で目が覚めた。夢を見たせいか、気分がよろしくないし、どこかまだ頭がはっきり回らない。しばらくしたら起きるだろうし、隣の部屋にお茶を冷蔵庫に冷やしてたはずだ。仮眠用のソファーから降りてドアを一つ潜り抜けると、セナとナルくんとレオが何かをやっている様子が見えた。こちらには背中を向けて長椅子に腰を下ろして並んでいるから、何をしてるのかよくはわからない。
けれど、無性に甘えたい気分だった。さっきの夢もだし、寒くなってきたから人肌が恋しいのもある。一年前は抱き着いたりしてることも多かったし、最近忙しかったのもあって、体はすぐに動いた。スリッパも履いてないし、そのまま冷たい床を歩いて、後ろからナルくんに抱き着く。
巻き付けた腕から伝わるぬくもりが、今が現実だと教えてくれる。

「あらあら文哉ちゃん、今配信中よ。カメラにご挨拶して。」
「んー。おはよー。」
「良く寝てたな!おはよう!文哉」
「あ。寝起きの顔!髪の毛ボサボサ!ちょっと!」
「んー。はい、みんなぎゅー。」

三人まとめて抱きしめたら、ちょっとこら!カメラ動いちゃうじゃない!とナルくんが耳元で言うけど。ナルくんのことだからスマホ離さないだろうし。きっちり誰かは画角に入る距離だから大丈夫だろう。ナルくんちゃっかりしてるし。

「どうした、文哉。おねむか?」
「今起きたところ。人肌恋しいだけだからちょっとの間こうさせて。レオでもセナでもナルくんでもいい。」
「じゃあちょっと泉ちゃんに任せておくとして、次にいくわよぉ!」

ちょっと置いていかないでよ。とセナが文句を言うので、離れようとしたら離れかけた手はお腹のところで結び直された。姿勢的に立ってるのも辛いのでそのまま腰を下ろすと、ちょうどいい位置にある背中にべったりと頬を引っ付け、そのまままた夢の世界へと開いた。幸せそうに寝てるからってセナはずっとそのままにしてくれたようで、日を改めてすーちゃんに怒られた。ひどい。

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