スカウト たまゆら-おまけ


朱桜司は教室へ向かう最中、とんでもない絵面を見てしまった。自分の先輩が生ける屍のような体裁で地を這う姿であった。たまたま行きあったのか誰かが保健室に運ぼうとしていた。唸るように、言葉を出していく文哉の姿は、見たことのない姿だった。異質な光景だとも言えるだろう。
冷静で遠くを見つめているような人だという認識であったが、死ぬ場所は『Knights』がいいと朦朧としながら言う姿は、狂気が滲み出ていた。

「保村先輩?」

司の声に視線が2つ反応した。立ち上がった姿を見て、彼らが以前ジャッジメントで戦った仁兎なずなと鬼龍紅郎だと察した。

「レオちんとこの子だな!」
「これは、何があったのですか?」
「俺達が廊下を歩いてたら、保村が倒れたんだよ。」

たわごとみたいに呻くんだが、触った感じ熱が出てるみたいで朦朧としているから、保健室に連れて行こうとしたんだが、ずっとこの調子でな。魘されるように月永と瀬名に謝りながら、お前たちのもとで死なせてくれって見ているのが気の毒だよ。去年の話をなんとなくできいてたけど。これは俺達が勝手にいうべき話じゃねえしな。聴きたかったら本人から聞けと、経緯をあらかた説明し終えた鬼龍は保村文哉の意識を落とした。もとい、保村文哉がすべてのエネルギーを使い果たして落ちたとも言えるが、動かなくなったのを確認して、背負いあげた。

「保健室に連れて行くが、お前も来るか?」
「あの、ここならば。私達『Knights』がよく使うスタジオが近いですから、そちらはどうでしょう?恐らく、この様子の保村先輩を保健室に連れて行くと錯乱してそうです。」

司がそういうと、なずなも紅郎も確かにそうだ。と笑った。おれ、熱冷ましのものもらってくる。そうなずなは声をかけて、保健室へ走り出した。おう、後でな。と鬼龍も返事をして、ほらいくぞと司を促す。

「入学当初は教室の端っこで人に囲まれながら、よく笑ってるのを見たんだけどな。いつの間にか笑わなくなって、気づいたらクラスにも顔出さなくなってたんだけどよ。『Knights』に入って嬉しそうにしてたりするときを見ると、安心するよ。」

保村先輩が?司は首をかしげる。司から見た保村文哉という人物は、初めはよくはわからない人だった。一線を引いた立ち位置で面倒見のよい人物。何に怒りを感じるかもわからないけれど、どこか違う世界をも見ているのか立っているのか、自分とは気がした。
個性の強い先輩方よりもまともだと思っていた。察して動いて、優しいけど厳しいところは厳しくて、騎士を体現してると思っていた。そうじゃないと今この時気付かされた。こんな過去をもって歩いていたなんて。

「私は知りませんでした。ただ先輩で、我々をよく見て先導する人だと思っていました。」

自らを番犬として、先頭に立つというのですからその言葉に掛け合わせてだと思ってました。ですが、そういう話を聞くと、私はこの人がわからなくなりました。まるで、瀬名先輩やLeaderに捨てられるのを怖がってるようにも思えます。どうしてなのかはわかりません。ですから、余計にこの人がわからないのです。

「まぁそういう話は本人と腹を割って話をつけてくれや。そろそろ仁兎が帰ってくるだろ。お前はほかに連絡しなくていいのか?」
「そうでした、瀬名先輩に連絡しておかないと、放課後に打ち合わせが…。」
「なら、今しとけ。起きねえだろうけど、見といてやるよ」
「ありがとうございます、すみませんがお願いします。」

司はそう言って、席を立った。これは彼が意識を失って、しばらくするまでの話。

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