-転校生とナルくんと俺。

「保村先輩!」

ナルくんに合流しようと移動してたら、転校生が俺を探していた。『Knights』以外には塩対応の俺は、なに?と聞けば、ちょっとあたふたして、俺に企画書を手渡してきた。俺に読めって?そう問えば、転校生がぶんぶん首を縦に振る保村先輩に合いそうなお仕事なんですけど。大正ロマンとかって感じのイメージしたやつらしいが。

「これ、脚本書いてほしいんですけど」
「ふーん。企画書を作る腕はいいのに、他のことはまた全然下手くそ」

こういうのって、先に俺のスケジュール押さえてからやるもんだよ。俺この企画書の締め切りに近い日程の連載四つほどあるんだけど。そこまでのことを考えてる?と聞けばそこまで気が回らなかったらしく、転校生の顔が固まった。

「もう、文哉ちゃん。意地悪しないの。昨日のオフで粗方片付けてるって言ったじゃない」
「ナルくん?なに勝手に喋ってるのさ」
「大丈夫よーあんずちゃん。文哉ちゃん仕事だけは泉ちゃんと一緒で完璧に仕上げちゃうから」
「そして、なに勝手に引き受けてるのさ。俺やるとは言ってないよ?」

まぁ頼まれたらやるけどさ。そう付け足せば、しょんぼり顔だった転校生がパァッと花開くように笑顔に変わった。いや、あんたの為じゃないし、と突っぱねてふと気づく。歌劇と書いてるなら俺の仕事じゃない。話は作れても歌は作れないからな。と念を押しレオに話を持ち直しにいけ。と暗に伝えると曲はレオに話がついているので大まかなストーリーを作って、レオに曲を頼むと言う。

「ふーん。そ。なら、文字は俺の世界だからいいよ。今度からもっと前もって言って」
「安心してねあんずちゃん。文哉ちゃん、身内に絡むことについては、かなり甘めにつけてくれるから。」
「ナルくん?」
「あら、なぁに?」

なぁに、じゃない。図書室で本返しに行ってくるから先行ってて。と俺はさっさと来た道を引き返す。後ろで「ほら、文哉ちゃん。資料探しに飛び出してったわ。ほーんと、身内以外には素直じゃないんだから。文字のお仕事にかなりウキウキしてるから。図書室の本なんてなんも持ってなかったのに本の返却だなんて嘘ついちゃって。そういうところ可愛いわよね。」とナルくんの柔らかい声が廊下の端まで聞こえて、俺の心を片っ端から当ててるので、いっそ殺してくれ。と居もしない誰かに願うのだった。

「歌劇なぁ。オペレッタ、大正ロマン。紅月にそんな歌なかったっけなぁ。」

なにモチーフにしようかな?と考え出してるのだから、ちょっとあとでお説教しなきゃなぁ。と思いつつ、原稿用紙を取りに俺は浮き足立ってるのだからほんと単純な奴。

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