レクイエム*誓いの剣と返礼祭-04

……やっぱりもっと早くに俺が入ってればよかった。そしたら、レオも壊れずにセナも傷つかずに何とかやっていけてたのかもしれない。屋上の重たい扉を開けたら、青々とした空が見えた。自分の胸の高さほどの手すりを前にして、俺はへたり込んだ。レオはずっと抱えていた。何時から…今年の夏からだろう。…じゃあ、あの帰ってきた時の笑顔も全部何だったんだ。レオが楽譜を嬉しそうに作るのは、どうして?あんなに楽しく作っていたのに、レオは、どうして…?なんで…?思考は上手にまとまってくれない。あの周りの視線ならば、下手し俺が自殺でもしかねないと思われてるのだろうか。…ありかも…。でもなぁ。色々俺はコンクリートの床と見つめ合ってると、ポケットの携帯が震えた。出たくはないけれど、相手がりっちゃんだった。ので俺は一旦電話を受ける。

「はい。」

小さく声を出したけれど、返答はない。ただ遠くですーちゃんの声が聞こえたので、りっちゃんが転送するようにかけてくれたのだろう。俺は、それを聞きながら思考を纏めるために息を吐く。レオは何をそう思ってこうやりだしたのだろう。今までのもやもやを吐き出したのだろうか?レオの性格上、それならばずっと墓場まで持っていきそうだと思考する。今俺はたぶん正常な判断が取れないだろうけれど、俺は鼻を鳴らさない様に聞きながら、レオについて考える。
すーちゃんは、乱心の振りをして暴れまわって傷つけて、俺たちを逆上してジャッジメントに似て違う何かを催そうとしているのだと、言う。理解が及ばない。どういうことだというのだ。屋上の鉄柵に背を預けて、息をする。ぐずぐずに煮詰まった頭じゃ何も考える気も起きないけれど、今現在あのセナスタジオでは激流のような情報が流れている。あの流れに飛び込む気にも慣れない俺は、これ以上どうするべきなのか理解が及ばない。
この無力感は、あれだ。売れなかった頃に似ている。オーディションにも何にも旨い事行かなくなって、くすぶってた頃だ。ぼんやりと耳だけ働かしながら、ぼうっとしていると思考がマイナス方向に勝手に転ぶ。
俺は『Knights』でよかったのかな…。俺はここでみんなに必要とされてたのかな。
ぽつりと溢した音はマイクに乗って向こうに届いたかはわからない。たぶん、向こう側では手袋を投げつけると聞こえてるので、この声は拾われていなさそうだ。スマホをスピーカーに設定を変えて、地面に置く。遠くのすーちゃんの声が凛々しく聞こえてくるので、それを聞きながら俺は呆ける。すーちゃんはレオに決闘を申し込んでいるし、その対応するレオは呆れているが、その内心楽しそうに俺には聞こえた。

「でもまぁ、そんなおまえらだから愛してるよ。お前もな文哉!」

……どきりとした。その場にいないのに、どうして俺の名前が出てくるのかと思って振り返ったら、スタジオからここはよく見えたみたいでスタジオの窓から俺の方に手を振っていた。泣いた後なので、おれはそっちを向くことはできずに再度そっぽ向く形になってしまった。けれど、まぁ向こうの話は続いているようだ。

今の『Knights』には『王さま』を弾劾するための仕組みがない。

確かにそうだ。【デュエル】は対外のもの、【ジャッジメント】は対内の主張を収めるものであるが、今回のものは…ある意味【ジャッジメント】だけれども、そうではない。対等の数でもなければ戦争するにも何かが違う。この時期だからこそ、外部の数を呼んでくるにしても厳しいだろう。レオがこういっているんだから、俺はそこまでしっかり考える必要はないのだろうか。
あきらかに王より下のおれたちは、王に異議を唱えたことがないから、そういうシステムはない。軍事クーデター、および下剋上。その機会を作ろうとレオは言っているし、そのために転校生を呼んだという。後で誰かに聞こうと思って俺はその通話を切って、膝をうずめて昔をただただ思い出して自分の胸がえぐれていく。消費されてるっていう自覚はあの頃なかった、知るまでは。それでも、まぁ3年の付き合いだけしたら俺も自由になるって思ってたけれど、この一年で俺自身は大きく変わった気がする。それもこれもレオやセナのおかげでもあるんだけれど。まさか最後の最後でこれだけぐちゃぐちゃにされるとは思ってなかった。ずっと一人だった。横にいて楽に息ができて、肩肘張らずに話もできる人だった。

「俺。どうしたらいいんだろう。よく解らなくなってきたよ。」

俺が皆を勝手に仲間だって思ってたのだろうか、友達だと思ってたけれど、実際は違うのだろうか。十何年も人の人生を被って、俳優だとか演劇をやってきたくせに。そういうの一番わかってないと思う。人ってなかなか出来上がらないよな。って思考を飛ばしていると、慌ててやってきたセナとすーちゃんが俺を捕まえてスタジオに連れ戻した。
連行する間の内容を聞くと、…どうも俺が自殺すると勘違いしたらしい。…そんなメンタルしてたから否定はしないけどさ。ずるずる引きずられてスタジオに戻れば、机の上に紙が置かれていた。セナにむりやり席に座らされて、腰を落ち着けると、俺の向かいにレオが立つ。難しい顔をしてから、話をし出した。っていうか命令一つ。
契約書作って。…はい。わかりました。そう返事をして、鞄から筆記具を取り出すと、ナルくんがちょっと怒ってる。それを聞くと、あんだけぼろぼろに言われたのになんで頷いてるのよ。だって、そりゃあ。俺が犬だからじゃない?と思いながらも、レオから契約書の中身を聞く。っていうか、なんで俺怒られながら契約書作ってんの???とか思ってたけれど、怒ってるナルくんはいい。あとでも対処できる。多分。
契約の中身は。王の首をはねるための儀式を【レクイエム】と称して、返礼祭を行う。その内容は前半の部で10回下級生3人はそれぞれ3回ずつそして、通常版を一つ。その舞台の全権を持つ王となる。同氏に他の面々は王の指示に必ず従う。らしい。その契約書を作れと言うのだ。話を聞きながら俺はいつもどおりのフォーマットに内容を落とし込んでいく最中でレオは何がしたいのかと俺はぼんやりずっと考えていた。

「……ね、レオ……。その【レクイエム】俺もかませて。」
「お?、ついにおまえもその気になったのか!」
「……俺は基本的に戦うつもりはない。ただ、無いと思う予防線だよ。」

三人が倒れても、俺が残ってるなら、『Knights』は残す。それだけ、その時点で俺はただの犬だからね。王は俺が指名する。それでもいい?そう問いかけるとレオは笑った。いつか、できなかったことだけだよ。あの【ジャッジメント】では結果なかったけれど、これは予防線で最悪の終わりを阻止するために入れておきたい。

「予防?予防なら駄目だ。そうやって言うんだ。自分の首ぐらいかけてみろよ。」
「…そうだね……そういうならば、戦うよ。」

…実際は、予防だけれどね。ごまかしなら何とかなる。少なくとも俺は文字である程度食べてる人間だもんな。なんとかなるよ。とりあえず、むっちゃんに相談なのかな。大丈夫、予想はある程度立てれるよ。レオは常識の域からはみ出してるから最近よく解ってないけれど、普通の人ならある程度対策は取れるし、何とかやっていけると思う。

「ただし、付き合いのそれなりに長そうなお前は余った一回だけだ!」
「ねじ込むぐらいなのそこしかないよね。あと午後のか。」
「おまえは最年長だからな!ある程度条件を付けていくぞ。」
「受けて立つよ。ご希望は?」

ゆったりとした表情で問いだせば、レオは、俺を含めたソロのパートの要請。時間の指定、りっちゃんナルくんすーちゃんと被らない楽曲をすること。俺は全員の相談役も務めること。トップをとらない限り俺の免職も決定する、俺がトップで他のが生き残ってたらそっちは次期王さまになるという。…本気でやらねばならないことは確定した。いや、本気のつもりですけど。諸々条件を付けられたけれど、それでもまだ軽いしいくらでも対策は打てる。

「文哉、無理してない?」
「俺が無理だって言ったら『Knights』がなくなるかもしれないならば、俺は無理するよ。首だって命だって何処でもかけてやる。」

俺の大事な場所。心臓みたいな場所だからね。そういってのけて、全員分の契約書が出来上がる。さぁ。俺たちの最後の青春が始まるんだ。そう思うと、嬉しい半分悲しい半分混ざって複雑な気持ちだった。…もしかして、俺レオに初めてレオにひるがえしてるんじゃない?って思ったら顔中の血の気が引いたし、一気に具合が悪くなってセナに呆れられた。

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