スカウト!ブルーフィラメント-1


教室でぼんやりと本を読んでたら、思い出したかのようにレオが顔を上げて俺のところにやってきた。俺の名前を呼ぶからゆるゆる返事をしたら、大きな音を立てて机をたたいた。

「文哉、ソラって知ってるか?」
「よく解らないから、順番を立てて話をしてよ。」

どのソラです?よくわからないんだけど。俺の言葉にあぁそうだな。と思い出してレオが順番立てて、思い出すように言葉を選んでいく。海で出会った夢ノ咲の子らしいけど。『Knights』だけが世界の俺に何をもとめているんだか。悔しいけれど俺より別に頼る先があるのではないのか、と逡巡する。

「見覚えがないから、3年ではないだろうし。1年じゃねえの?すーちゃんに聞いてみてもいいんじゃない?俺よか知ってんでしょ。…っていうか、青葉なら知ってんじゃないの?」
「そっか…そうだな!」

にっかりとレオが笑う。ほら、もう俺で解決できないので必殺のほかに投げる。を繰り出そうと思ったら、文哉も行くぞ!と俺の本を取り上げた。おいこら!!せめてしおりを入れさせろ!!おいこら、レオ走っていくな!!本を返せ!しおりを入れる前に閉じるなコラ!!!!!
脱兎のごとく逃げ出すレオを俺が怒鳴りながら追いかける。あいつ俺と似たような背格好の癖に逃げ足が速い。おいこらレオ!!!幼少から鍛えた腹式呼吸でレオを呼べば、文哉は音がぶれないよなー!と笑ってる。違うそうじゃない!俺は本を帰してほしいだけだ。
廊下をぐるりと追いかけっこして、そのまま一年のフロアに入る。ごたごたする人ごみを掻き分けて、レオを追いかけるとB組の教室に入ってった。そしてものの数秒で赤い塊を掴んで出てきた。…え?なにあの塊…?驚いて走る足が緩む。なにだ?と考えると同時に赤い塊が人だと分かった。え?なになの?っていうか、レオ?何浚ってるの?昨日か一昨日の復讐かなにかなの?っていうか、人さらいはやめなさい!!!慌てて止めようと思ったらくぐもった絶叫が俺の耳に届いた。え?その声すーちゃんなの?レオ!?驚きすぎて俺の足が一瞬止まる。…いやいや。
レオストップしなさい!!!!!!俺も慌てて一気に駆けだした。あれは止めるべきだ、王がどうであれ俺の首がぶっ飛んだって人道じゃない。奇人よりのレオだけれども、あれは駄目だ止まれレオ!!!消えようとするレオと声をかけつつ走るが、暴走したレオを止めれたのは自分の教室に帰ってからだった。青葉とレオが二人で話をしている。

「レオ!お前は。すーちゃんに無茶させて!!」
「保村くん、どうしたんですか?」
「青葉お前は黙ってろ、レオお前なんですーちゃんを引っ張ってきた。」

ちらりとすーちゃんを見ると、縄でグルグル巻きにされてるし、ガムテープで口を押えられてる。鼻を押さえられてなくてよかったな。と思いつつ、生きてるかー、なんて声をかけつつガムテープを外す。レオがぎゃんすか言うから、ロープはごめんな俺じゃ外せなくなったわ。そんなぁ、とちょっと涙目で悲嘆を告げてくるが、ごめんな、俺は王さまに絶対忠誠なんだよ。

「この程度で済ませてやったのにむしろ感謝しろよ『新入り』〜っ、次にまた同じことをしたら首飛ばすぞ!」
「レオ、物騒なこと言わないの。」
「保村先輩〜!このご恩は一生忘れません」
「保村くんが他人のために動いてるなんて珍しいですね〜」
「うっせぇ。」
「それよりもLeader!いったいこれは何のつもりですか?このような凌辱的な扱い…絶対に許しませんからね!」
「許すとか許さないとか言える立場か、下っ端?」

がるがると吠えるようなレオを抑えることはできないので、俺はそのまま二人の間で視線を動かす。あれやこれやと言ってるのを見ながら、すーちゃんが無事ならとりあえずそれでいっかと俺は一人思う。俺はイエスもノーも言えないまま、青葉が仲裁に入って仲よくしろといい、すーちゃんは青葉に縄をほどいてと訴えている。

「こいつは放っとけオバちゃん、正当な罰を与えてるだけだから。こいつさぁ、自分の家の使用人に銘じておれを拉致したんだよ昨日」

そういえば、そんなことがあった気がする。昨日グルグル巻きにされて、セナがぷりぷりしてたのは、記憶に新しい。あぁ、まぁなんとなく想像ができる。どうせと言えばあれだが、時間を忘れて楽譜を書いてたのだろうか、それを見つけて。とまぁ、簡単に想えるのは二人の性格がそれなりに読み取れるようになってるからだろうか、比較的読みやすい性格であるのがありがたいとは思うが。

「そのような強行手段を執らざる得ないぐらい、あなたが不真面目なのがそもそもの問題なんでしょうが〜っ!?」
「落ち着け、すーちゃん。」

とびかからん勢いのすーちゃんの首根っこを掴んで落ち着けと促す。俺にその手を離せとすーちゃんが叫ぶ。残念俺はレオの犬なのでレオの命令がないと解きませーん。

「それよりもオバちゃん、おまえ今『fine』じゃなくて、なんだっけ?文哉」
「俺に聞かないでくれる?俺、レオとセナ以外興味ないから」
「…保村くんは本当に身内以外に興味を持たないんですね。」

俺の話はどうでもいい。さっさと本題に戻れ。そういうと、青葉は思い出したように手を叩いた。『五奇人』だった逆先と一緒にどこかのユニットに入ったらしい。お前『fine』じゃなかったっけ?しらないけど。ナツメ?あの中身すかすかの小生意気なガキんちょか?…ってレオも結構酷いな。なんて考えてるとレオと青葉がどうして組んでいるんだ?とか『Switch』はそろそろ表舞台で活動をし始めようと思ってて。だとか会話を繰り広げている。

「あぁ仕事じゃないよ。個人的な話。その『Switch』とやらにソラっていう子がいるよな?おれ、あいつと喋りたいんだけど!」
「宙くんですか?たしかに『Switch』に所属してますけど…あの子、また何かやらかしてご迷惑をかけたんでしょうか?」

逆逆、おれが迷惑をかけたっていうか、不用意な発言で傷つけちゃった気がしてさ?せめて謝りたいんだけど、どこを探しても見つからないんだよ〜!文哉に頼もうと思ったけど。外の奴だし、そうレオが言うから、俺はそこに興味を持った。結構俺が思うにレオもずけずけやっちゃう節はあると思ってるので、そんな人間が傷つけたというのだから何したんだと思うと同時に、浮かんだのは一年前の話だ。当時の俺はレオとおんなじユニットに属してなかったからよくは知らないが、憔悴して壊れていくという話はセナから聞いている。再度そんなことになられたら今度こそ俺のメンタルも『Knights』もたまったもんじゃない。

「文哉に聞いたら一年ぽいからっていうから『新入り』に聞いてみたらこいつソラと同じクラスみたいでさ。詳しく話を聞いたらオバちゃんと同じ『ユニット』だっていうから、こおうして会いに来たわけだ。わかる?ごめんね、おれ説明とか苦手で!」
「そのために俺の本ブン捕ったの、レオ?」
「保村くんも苦労しますね。まぁなんとなく理解しました。宙くんと話したいんですね?だったら普通に、俺が仲介しますよ。」

困ったことがあったら言ってくれ。と言うが、俺がそんなことさせません。優秀な番犬はかゆいところに手が届く前に掻いてしまうのだよ。どや。とか思いつつ、レオにどういう経緯だったの?と問いかければレオは順番に話をしてくれた。昨日、思考のトレースで、海の方から風が吹いてたから海とか言ったが。俺のトレースもなかなか捨てたもんじゃない。青葉がまとめた一言を言うがそれに対してレオが不服そうだ。

「延々と愚痴を吐くだけでも楽になったりしますけど、月永くんが求めてるのは解決でしょう?じゃあ手早く状況を把握して行動しないといけません。」

些細な認識の齟齬が。だとかなんとかいうのを聞き流しながら。しくしくないているすーちゃんをなだめつつ近くの椅子に座りこむ。はいはい。今度一緒に甘いのでも食べようなー。とか色々話しかけつつも耳は青葉たちに傾ける。ドヤ顔してたりするので俺がげんなりしてるとレオが気持ち悪いとかいうのでこっそりよしもっとやれ、だなんて思うあたりホント俺は番犬だと思う。

「前から気遣いが足りないというか。ちっちゃい子みたいな感じではありましたけど。」
「ん〜。おれが言っちゃいけないことを言ったら横で逐一『こら』って叱ってくれるやつが昔はいたんだけど。文哉はおれやセナには何でも首を縦に振るしなぁ。」
「最低限の人道さえ踏み外さなかったら怒らないことにしてるからね。」
「保村先輩。」

はいはい。フリーダム放し飼いの飼い主レオの仕事に関しては今後ちゃんと俺も見ておくから。心配しなくてもいいよ、すーちゃん。そういうところ、業界人の俺を信用してないの?と詰め寄るとすーちゃんは言葉を濁した。こいつ忘れてたな。

「今回月永くんが頭を抱えてるのも、宙くんに対して不用意な発言をしちゃったからでしょう?一人で生きてるんじゃないんですから、ちゃんと周りの人の気持ちとかも考えなくちゃいけませんよ人と人の、自分と他人の関係性を読み解くのは重要なことです。ねぇ、保村くん」
「関係性を把握したって改善できることもないよ。」
「お前のは別。わかってるけど、やっぱ煩わしく感じちゃうなぁ。特に作曲していると楽しくなっちゃってそのへんに気が回らなくなるし。」

あのう、それよりもそろそろ私の縄を解いていただけませんか?なんておずおず言うが、レオは駄目っていうから俺に権利はないので、どうする?なんて促せば暴走しないって約束できるならな。なんて条件が付く。お前が言うな、とは言えないので黙ったが。俺の腹筋はちょっと痛い。レオの条件にいささか不服そうでブツブツ言っているし、条件は飲む様子で、レオが縄を解いた。ゆるめに縛ってたし自力で抜けれるはずだぞ?とかいうが、騎士道の子がそんなことするはずねえだろうに。りっちゃんじゃあるまいし、根っこからまっすぐな子だよ。今年の新人は。

「自力で無理に抜け出しても、何の解決にもなりません。同じことの繰り返しですから。私にも何か落ち度があったのかと縛られたまま考えてました。」
「多分ないと思うけどね。すーちゃんに問題なんて、しいて言うなら暴走僻だけど。それに助けられてる部分もあるから俺は何も言うつもりないけど。」
「真面目か、そういうやつ大好きだけど大嫌いだなぁ?」
「お二人とも、理解できる言葉でしゃべってください。まったく、縛られるなんて生まれて初めてです。これも良い経験だったと思うことにしましょう」

たぶんそれ間違った経験だぞ。なんて言う分けにもいかないので、まぁもう。好きにさせることにした。時世の王と次世代の推測王に呆れを覚えつつ、二人を見てため息を吐く。

「おおしかも前向きだ!お前やっぱり誰かに似てるなぁ?セナかな?おれかな?どう思う文哉?」
「…え?…んー…りっちゃんよりのレオ…かな…?なんか違う気もするけれど。」
「いや、文哉にも似てるな。」
「そう?」
「ちょっぴり興味深く思えてきた〜まだまだ物足りないけどな」

レオが嬉しそうに言うから、俺もつられて嬉しくなるのは言わずもがな。俺もニコニコしていれば、すーちゃんが好きにさせていただきますからね、今後も。なんて言うから、俺はレオよりもセナなのかもね。と考えてしまう。放課後からの仕事のための打ち合わせがあるからそろそろ行きます。保村先輩、くれぐれもLeaderから目を離さない様に。だとかお小言を俺にも言ってすーちゃんは部屋から出ていった。お疲れ様すーちゃん。ひらひら手を振って見送った。

「というか、保村先輩も招集かかってますよ。」
「え?まじ?やべっ。レオはどうする?っていかないわな。ほら、すーちゃん一緒に怒られよ。あとでフィードバックするからね。」

んで、まぁ打ち合わせ出たくなかったら出たくないでいいけど。俺はレオとセナが笑ってる世界を作りたいから、俺はそのためにならどんだけ苦しく立って動くから、ちゃんと俺の後を走ってきてよね。飼い主。言いたいことだけ言い切ってから、青葉、レオよろしく。と言葉を残して俺はすーちゃんと一緒に集合場所に向かう。っていうか、集合場所どこだっけ?と思ったらどうやら俺は今回お呼びじゃなかったみたいで、到着した瞬間に驚かれた。居ると思わなかったって。…いや、俺だって常に仕事してないからね?


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