奔走、就中の暁闇ライブ。-12

曲が終わる直前ぐらいに女装姿でステージ袖にたどり着く。ステージの向こう側で輝いてる彼らを見て俺はそこに目を奪われた。キラキラ輝いている彼らはとてもまばゆく見えた。俺もあそこに立っていいのか?芸能界なんて汚い所だ。そんなところに身を投じてる俺が一番汚いのかもな。ずっと大人の世界を見てきた。雑誌よりも人の目に触れるメディアは映像、続いて雑誌、それから本。どこにも俺はいた時期があった。お茶の間で見ない日なんてない、だとか言われて俺はずっと遊ぶように働いてた。客席に向かって笑顔を振りまいていたすーちゃんと目線が合って驚かれた。…泉の乙女役はどうもセナとレオが考えてたらしい。末っ子だけ情報を流さなかったの間違いなのかはわからないが、それでも、末っ子はすねるぞ。なんて俺は思う。と同時に、この姿はアルバムで初めて撮影してネットで噂になったとは聞いたのがふと頭をよぎった。雑誌の企画だとかで二度目の女装。今回で三回目だ。毎回やるたびに二度とやらないと声高に叫んでいるのだが、毎回なんだかんだとなだめこまれている気がするんだけれど。すーちゃんがこちらに来いと手招きをしているので、俺はそっちによる。ステージに上がると同時に歓声が沸いた、そんな音に驚きつつ、インカムに音を投げる。

「わぁ…すっごい歓声…みんな元気だねぇ」
「保村先輩…?」
「なぁに?」
「なぜ、そのような姿をされてるのですか?」

それは、俺が聞きたい。なんで、こういう姿させられてるの?しかも毎回転校生のかなり力の入った衣装。毎回ちょっとフォルムが違う具合だから、ビビる。くるりと回ってねえねえ見てみて、とりっちゃんにすり寄っていけば、はいはい。かわいい。なんて投げられた。うん雑。きみ意外と雑だよね。知ってるけど。

「こうじゃないと大義名分を得れないもんねぇ。スーちゃんはそういうのは鈍いから」
「凛月先輩!」
「そうだねぇ。すーちゃん察しが悪いよね。」
「保村先輩まで!」

ほら、むきになんないの。なんてすーちゃんがセナにたしなめられる。そのまま俺はレオのほうに似合うと思ってるのねえ?とつめよれば、客席からかわいいー!なんて声が飛んだ。いや、俺そこからその声がほしいわけじゃないんだけど。それでも声をもらうのはうれしいので、ありがと!って笑っておく。

「よかったねぇ文哉。これでネットの噂全否定できるよぉ」
「え?もしかしてそのために俺着替えさせられたの?」
「そうだぞ」

あっけらかんと言う姿に俺はがっくりと肩を落とす。とナルくんが慰めるように肩をたたいた。いいもんしょげてやる。とか言いつつステージ前方で体育座りしてファンとねーなんてうなずきつつ、あいつあいつといわんばかりにレオを指さしておく。恨めしげな眼をしつつ行動するからかしてか、あぁあ文ちゃんすねちゃったよ。セッちゃんなんとかしてよ。俺なの?この場合バカ殿でしょ。お前らも意外とひどいよな?

「ったく、文哉。最後はあんたの好きな曲だよ」
「あ!そうだった。やったね!」
「機嫌直るのはやくない?」
「飼い主に構われて機嫌がなおるところは、本当に従順な番犬よね。」
「ほらほらナルくんも、りっちゃんもやるよー。」

俺ヒールだからよろけたらごめんね!なんて言ってると音楽が流れ出したので、俺も所定の位置につく。一回試しにぐるりと回るとスカートがひらりと浮いた。もしかして、女の子ってちょっと楽しい?とか考えだしたら振り一個抜けた。隣につつかれた。うるしゃい。噛んだけど気にしないでください。はい。そう。足元のヒールに気を取られたことにしてください。はい。そして踊り歌ってやってると、あっという間に曲が終わってしまった。ふと客席をみるとさっきまで見えてたはずの新しいマネージャーがいなくなってた。ちょっと気になってたけれど、いないのは気にしたらだめだ。ライブが終わると同時にみんなでステージからはけて舞台そでから控室としてあてがわれた場所に帰って着替えてると、マネージャーが立っていた。あ。むっちゃんじゃなくて新しいほうね。

「保村くん、探したよ!」
「司ちゃん睦弥さん呼んできてちょうだい。」
「…マネージャーさん、ちょっと外で話ししましょう。ここはみんな着替えるから。すーちゃん、べつに呼ばなくていいよ。決着はつける。」

ナルくんが俺を呼ぶけど、俺は比較的冷静だよ?閉じ込めぐらいじゃ別にへこたれるつもりではないけれど。みんなに手を出そうって言うなら俺はガツンと行くよ?せめて、アタシか泉ちゃんが同席するわよ?とまで言われるので、セナかナルくんなら大丈夫だろうと判断して俺も了承する。難しい顔してるナルくんだけれど、俺はナルくんと新しいマネージャーと近くの空き教室に入り込むと、あの。と申し訳なさそうにマネージャーが口を開いた。

「あんな場所からカーテンを切り裂いて逃げ出すとは思わなかったけれど、やっぱり学院にいたんですね」
「あら、今こんなところにいて大丈夫なのかしら?今情報じゃ文哉ちゃんの事務所家宅捜索されてるらしいじゃない?」
「え?」

労働基準がどうこうって聞いたけれど、大丈夫なのかしら?おかしいわねえ?なんて言いながら首をかしげてるのだが、これたぶんむっちゃんの差し金だ。俺はそう思った。何十年もこの業界にいるかしてかある程度雑多なことにむっちゃんが詳しいということだ。所属商品の少ないうちの事務所がそういうのに巻き込まれたら俺たちもバッシングを食らったりするのだが、おそらくむっちゃんのことだそういうことはしっかりしているのだろう。たぶんむっちゃんなら徹底的にやるだろうから、倒産間違いないだろう。

「マネージャー、携帯にいっぱい連絡入ってないの?」
「…!」

俺の声どおりにマネージャーが携帯を開くと表情を崩した。あ、ほんとうだこれ、なんて俺が思ってるとマネージャーがそそくさと話を切って事務所に戻ろうとするので俺は、呼びとめる。保村くん、僕も戻らないといけないんですよ。じゃあ俺戻りたくないから、これ出しといて。そういって渡したのは俺の書いた退所届だ。来月末で退職します。そういうやつ。明後日にでも処理聞きに行くから。それだけ伝えると、マネージャーがそそくさと逃げるように消えてった。

「……ねえナルくん。もしかしてここまで計算されてる感じ?」
「あら?計算なんてしてないわよ。」
「…じゃありっちゃん?。もう、みんなして俺を何だと思ってるんだよ。」
「それだけ、文哉ちゃんが好きなのよ」
「また、別個でお礼参りするから、覚悟してね?」
「あらやだ。文哉ちゃん激しいわよ」
「とりあえず、ナルくんとは今度一緒にご飯行こうね。それじゃ、戻ろうか。」

こういうときは素直にありがとうの一言でいいのよ!とか言われたけど、俺はお願いした訳じゃないんだけど!なんて伝えれば、でも、助かったのは事実じゃないねぇ?みんな。とか言う。ナルくんの一言に違和感をもって振り向けばそこに、レオたちと転校生がいて、俺をニヤニヤ笑うように見てた。おいこら部屋に引っ込んでろったろ!なんて俺の怒りもまーったく問題ないみたいな顔して笑ってる。なんだよ、俺の苦労が全部無駄みたいじゃんかね。もう!ぷんすか怒ったら、俺の『Knights』は強いんだぞ!とかいいつつ俺を構い倒すからただただ俺はされるがままになるのでした。はい、ちゃんちゃん。終わり!転校生俺のこの姿の写真を取るんじゃねぇ!!

「ってかなんなの、いつから見てたのさ!」
「最初から?」
「おいこら!!」
「ふ〜ちゃんの吠えるのって俺たちにそこまで効果無いって知ってた?」
「くまくん、煽らないの。」

くそぅ…完全になめられてる気がする。今度から俺の問題に絶対噛ましてやんないの。転校生おろおろすんな、気が散る。吠えはしないけど、呆れてると俺のとなりにすーちゃんがやってきて、難しい顔をしているのでどうしたの?と声をかければ「私は今まで先輩に助けられてきましたから、微力ではあるかもしれません。ですが、私も『Knights』の一員として共に轡を並べさせてください。」だとか言い出すから、俺の胸がきゅっと閉まった。右も左もわかんないような子だったのになぁ。とか思ってしまう。大きくなったな、とも思いながら俺はほんの少し口角をあげ一人こっそり笑う。来年はもう大丈夫だろうて思うし、俺たち三人が居なくなってからの玉座は彼だろうと思案する。きっとそうだ、確証に近い確信を抱いてれば、「ほら、スオ〜だってそう言ってるんだ。たまにぐらいのなら、甘えろ。」とレオが俺の頭をぐちゃぐちゃにかき回す。レオとこうしてはしゃぐのも久々で、嬉しくて仕方ないのだ。

「もう、疲れたからみんなで打ち上げがてらにご飯いこ!」
「楽しそうですね。」
「お前もこい、転校生。」
「保村先輩?熱でもありますか?大丈夫ですか?レッスン室で寝泊まりしたから、体調崩されました?」

俺の額にピタリと手を当てて転校生が熱を確かめる。いや、俺メンタルは壊しかけてたけど、体調は崩してないっての。転校生の手をぺしりと払いのけて、ほら着替えるからお前は出てけ。って言ったけど、ここが控え室外だったわ。


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