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創と打ち合わせに指定された教室の扉を開けるとそこには誰もいなかった。創ととりとめない話をするが登良の頭の中では、ドッキリだったりしたらどうしようと思考が迷子になっていた。
どんな人がくるかな。と創が楽しみにするのと比例して胃がひっくり返るような気持ちになっていくのを感じていると遠くからパタパタ足音がやってきてドアの前で止まった。一呼吸の後大きくドアが開いた。ガン!!と開きいっぱいまでにたどりつくまでに勢いついてしまったためかなりの大きな音が鳴り登良は大きく飛び上がった。

「あっかーん!遅れてもう…た?」大きな声を出しながらドアを開けたポーズのまま影片みかが首を傾けながら姿を現した。創はみかをみてまだ全員集まってないので大丈夫ですよ。なんて声をかける。みかは周りを見て登良と創の二人だったのを見て胸をなでおろした。

「二人だけなん?」
「あと一人か二人は来ると思うんですけど。転校生の先輩次第ですかね。」

さすがに三人は些か心もとないような。考えながら残りの人数に思考を巡らせていたら、足音が2つ遠くから聞こえた。上履きをペタペタ鳴らしながら、そんな音に加えて少しの水の音が聞こえるような気がして登良は首を傾けた。

「…かみさま?」
「なにか言いましたか?登良くん。」
「なんでもないよ。気のせいかな?」

今『かみさま』の声を聴いたような。気のせいだったのかもしれないと思っていると、すりガラスの向こうで青が見えた。浅い海のような色は見覚えのある色だった。思っていた人物だったこともあって心臓が一瞬毒りと動いた。カラカラ鳴ってドアが開くと奏汰とあんずが立っていた。

「『流星隊』のほかの子にもお願いして探してたら遅れました!ごめんなさい!」
「大丈夫ですよ。僕たちも今来たところなので。」
「今回はこの4人なん?」
「登良くん、創くん、みかくんと深海先輩の四人で今回の企画を動かします。」

奏汰が部屋に入ったのを確認して、あんずは扉を閉めてみんなで輪になって会話を始めた。
繁華街で行われるアカペライベントのゲストとして学院に打診があったので、3年生に歌の上手な人とアンケートをとって招集しました。企画書を配布するので確認してください。とあんずから資料が配られるので受け取って目を通す。起源はおよそ二週間。まだ歌詞の入っていないの楽曲が届いているので全員で行うといわれて、登良は考えた。

「深海先輩が中心になるのが座りがええんかなぁ。」
「3年生の先輩ですしその方がいいんじゃないんでしょうか?」
「ぼくよりもてきにんはいますよ〜ねえとら。」
「えぇ!?俺ですかっ!?」

思いもよらぬ提案に登良は驚いて声を上げた。驚く登良をよそに、創もみかも好反応で登良なら問題ないという。断るといいかけると、奏汰はれいもほめてましたから。というから登良はいやいや待ってくださいよ。俺になんてそんな…、1年ですし。古豪の『流星隊』やトップもとったことのある『Valkyrie』を差し置いて俺なんて。
そう言葉を濁すのだが、そんな登良の心を知らずか奏汰は頷きながら口を開いた。

「だいじょうぶですよ。きみならできますよ。なんならぼくがねがいましょうか?」
「い、いえ……それは、だ、ダイジョウブデス……」
「登良くん?大丈夫なん?顔色真っ青やで。」
「あぁ…大丈夫です。はい。不束者ですが、精一杯がんばります……。はい。」

『かみさま』に願って『かみさま』の願いをかなえてきた登良にとって、この場合を考えると規模が大きくなりそうな気がして、丁寧にご遠慮して『かみさま』が願わない方向として今回のリーダーをやることを承諾した。
今回の騒動をきっかけに兄と宿題の交渉をしなければならないと考える。やることがだんだんと積み重なってはいるが、手元に楽曲もあるし、今回は繁華街のライブなので照明もひつようないことは救いかもしれないとひっそり思った。

「よし、今回のリーダーは登良くんで決定して、じゃあ最初のお仕事ね。チームの名前を決めてください。」
「名前…あぁ、『臨時ユニット』だからですか?」

何がええんやろうね。とみかが考えるので、登良も、なにがいいんだろうかと頭を悩ませる。何かトークをして浮かんだものをテーマにするのはどうかと提案した。

「おさかなかんれんがいいですね〜」
「魚ですか……?」
「魚というと鮭だとか鯖とか親しみは有りますね。家でもたまに使いますし。」
「う〜ん…。魚…なぁ…魚なんてそんなないで。」

ぼやきに近い感想を漏らすのを聞きながら、改めて企画書に視線を動かしてみた。本来の趣旨などを鑑みて、あぁでもないこうでもないと脳内で思い浮かべていたが、ふと思ったことを口に乗せた。

「魚。っていうよりも海とかどうでしょう。音の海、だとか人の始まりもこの地球の始まりはすべて海だという説もありますし。お客さんと一緒に音の海に飛び込むように、そんな名前が付けれたらいいなって今思いました。」
「すっごくええね。海。音の海。命の海。神様の名前とかもええね。」
「『ワタツミ』とかどうでしょう。海そのものを指す言語でもありますよね。ねえ登良くん。」
「…えっと…確か『ワタツミ』の『ミ』が神のとかそういうのだった気はするね。神でもないから…んーと。」

言いながら登良はちらりと奏汰を見た。ゆっくり上体を揺らしながら嬉しそうにしている姿が見えた。どうやら、こちらはなにも思っていないようで、登良は視線を手元に落として、息を吸った。
『ワタツミ』という単語よりも、音の海にお客さんと溶ける…『ワタ(海)』と混ざり『カル(合う)』。『ワタカル』とかのほうが耳馴染みがいいような気がします。楽曲も和風っぽいならこういうのがいいな。って『ユニット名』と楽曲が似た系統ならそれでいいと思うんです。
言葉尻がしぼんでいく、周りの反応を見るのが怖くて視線は手元のままで、手はずっと不安で指を絡ませては解いてを繰り返している。

「いい響きだと思います。ね、深海先輩」
「すごいいろいろ考えるんやね、登良くん。」
「俺は、そんなに一杯考えれませんよ。」
「とらはたくさんかんがえるこ、なんですよ。ぼくのじまんのこのひとりです。」
「深海先輩?」

俺は『流星隊』じゃないですよ?と口にでかけたが、奏汰が指を立てて口元に寄せて顔を澄ました。登良はそれが何を意味するかは理解できなかったが、これは『ワタカル』がいい。ということに捉えても問題ないそうだ。

「深海先輩もこの案で大丈夫ですか?」
「もんだいないですよ
「では、海に出会いに…もとい、『ワタカル』を始めましょうか。」

俺が引っ張りますけど、歌に関しては深海先輩を中心にして動きますからね。それは譲りません。と宣言してもらったばかりの楽譜パートを分けていく。四人で、あれやこれやと決めて試しにメトロノームを使って歌ってみることにした。カチカチなるメトロノームに合わせて声を乗せていくとどこか首をかしげているようにも見える。聞こえる歌については上手いのはうまいがどうもしっくり来なくてみんなで首をかしげた。

「登良くんはどうして一番低いパートを持つんですか?」
「低い音創が不得意なの知ってるから?」
「いやいや、なんでそこ疑問系なん?」
「もともとメタルやロックを聞いたりするから?」
「関係ないと思いますけど。」

三人で雁首揃えて相談をしていると、奏汰がみかと創の楽譜を入れ替え奏汰と登良の楽譜を交換させた。

「ためしに、これではどうですか?」
「え?全く逆の感じですけど。」
「やりますよ〜」

強引に奏汰が決めるので、それでと試しにやってみると先ほどよりもしっくり来て、響きもよくなった気がする。どこか難しそうに歌う創も穏やかに歌えてる気がしている。そっとみかのほうを盗み見ると先ほどよりも歌いやすく構えてるようにもうかがえる。そのままそっと奏汰を見ると嬉しそうに変わらず歌っていて、なるほど。と自分の置かれた状況をよく理解した。
幼馴染であり実働隊として動いていたからか、合わせにくい『かみさま』にある種の同調のように沿うようにすることにより緩和剤として登良が立って今のおさまりの良い状態になっているのではないかと判断する。
歌い終わると同時に、創とみかが嬉しそうに声を上げた。そっと奏汰に目線を向けるとぱちりとアイコンタクトを受け取ったので、どうやら奏汰の思うがままであると思って、登良はそっと息を吐き出した。



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