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「でもやっぱり解りません。そんな力が軍内で秘密りに存在したなんて・・・それにいったいどういった仕組みになっているのか・・・」
そう口を開いたのはマルクスだった。そんなマルクスに対して、ユーリックは冷ややかな眼を向けた。
「お前絶対理系人間だろ・・・。理屈でモノを考えんな、これはたぶんお前が生きてきた中で常に否定してきたことだろうが、あるもんはある。仕方のないことなんだよ」
それでもまだ煮えたぎらない表情を浮かべていたマルクスを見兼ねてか、沈黙を保っていた銀髪の麗人セリアが口を開いた。
「今では科学技術に押されて大分廃れてきてしまった学術があることを知っていますか?」
マルクスを含めジルもセリアが話しかけてきた事に少し戸惑いながらも、その問いに首をふった。
「まあ仕方ないことです。今となってはそれの正当な伝承の担い手はギルベルト家のみですから」
セリアは少し苦笑を浮かべながらそう言った。
「この国には昔は魔導師が存在したんです。それも数多く、先程話していた姫君も魔導師だったと言われています。今でもいくつか禁書としてそれについて記された物が残っているんですよ、その中には悪魔の力の事についても載っているらしく、それから学んで使えるものは使わせて頂いているんです」
「じゃあ誰でもそれを学べば出来るんですか?」
「そうですね...残念ながら誰でもという訳ではありません。血で選ぶんですよ、長年に渡って受け継がれてきた血を持っているものだけがその力を使う事が出来ます。帝軍ではその者を選ぶ選別もこっそり行っているんですよ。きっとあなたたち二人もそういう場面にいつか出くわすと思いますが、たとえ何があってもその事については同じ軍の者でも言ってはいけません。このことは同じく血が認められたものにしか言ってはならない。それがここのルールですから」
セリアはそういうと、自分の言う事は終わったとばかりに二人から視線を外した。
「で、でもじゃあ俺達にそんな話したらいけなかったんじゃ・・・」
ジルのその問いに答えたのはユーリックだった。
「お前等、入試の時一番最後の問題が解けただろ。あれはその血統がなきゃ読むことすらできねえ暗号文字だったんだよ。つまりあそこから既に選別は始まってたってわけだ」
「つまり私達はすでに力に認められていたと・・・」
マルクスは恐る恐る聞き返した。
「まあな。じゃなきゃ此処に呼んだりしねえよ」
そうこうしている内に給湯室から三人が戻ってきた。
「お待たせしました」
置かれた茶器はこれまた不思議な模様が彫り込まれていた。
何かのフレーバーティーだろうか、室内に先程までとは違った暖かい香りが立ち込めていた。
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