ち と た ん


くらちと


「ちーとーせ」


名前を呼ばれ振り向けばドンっと突然目の前が真っ暗になった。
というか、顔が、痛い。
甘い香りが広がり、恐る恐る頬へ触れて確かめてみればそれは真っ白な生クリームだった。
足元には多分ケーキだったと思われる残骸が散らばり周囲は大惨事だ。
これは俗にいう"顔面ケーキ"という奴であろう。
以前ユウジくんの誕生日にやった事が、まさか自分にも回ってくるなんて夢にも思ってなくて驚きと呆れで硬直したまま動けない。
それに、このケーキを投げたのが予想外の人物で合ったのも原因だろう。
ケーキまみれな俺にいつもと違うニヤニヤとした笑いを浮かべ腕を組立っている彼は、我らが部長の白石蔵ノ介だ。
周囲には白石以外人影はなく、これはテレビでよく見るドッキリかとも浮かんだ。うちのメンバーなら有り得る。
いやでも、他のメンバーがいるならそろそろ笑いながら出てきても可笑しくはない。
にもかかわらず出てこないのは白石一人でやったことだから?
うーんと一人唸っていると、先程まで離れた場所にいた白石が真横にいて、更にクリームがついた頬を舐められた。

「ひ、っ…!!」

舌が頬をなぞる感触と、白石がクリームを飲み込む音。どちらもダイレクトに感じて思わず身体が竦み上がる。
俺の反応が予想より面白かったのか、驚いた後クスクスと笑い出す白石をじとっと睨み付ける。

それでも笑みを絶やさない白石に、身の危険を感じて逃げようとしたが、にこりと人受けしそうな綺麗な笑顔を見せて、ガッシリ腕を捕まれた。

「俺な、無駄嫌いやねん」
「…しっとおよ」
「せやから考えたんや。…生クリームプレイなら無駄なことあらへんよな?」
「どう考えても無駄ばい…!」
「千歳、…諦めや?」


にっこり、と擬音が付きそうな笑顔を浮かべ逃げられないと悟った誕生日。
結局白石が全部舐め終わるまで続きました。


( メッチャエクスタシーやったわ )
( …俺は最低な気分ばい… )
( あ、家にまだあるから続きせーへん? )
( いい加減にしなっせ…!! )



しょうもないくらちと^^


2011/12/28 (0)


ひかちと


俺は後輩の光くんに嫌われている。
いつも俺が近くに寄ると嫌な顔をしてそっと離れていくし、話し掛けて相手にされないこともある。
来るもの拒まず、去るもの追わず精神でいるとはいえここまであからさまだと流石に不快だ。
どこが嫌いなのか言ってくれればいいものの、何を言うでもない。

今日も今日とて、部活で練習が俺と一緒になって、眉をしかめ練習相手を決めた白石を恨みがましく睨み付けていた。
ここまで嫌われるような事をした覚えは無いのだが。
ハァ、と聞こえるようにため息溢す光くんに、ため息を吐きたいのはこちらだと、伝えたいが伝えたところで仲が回復するわけでもなく、寧ろ悪化の一途を辿るのは火を見るよりも明らかだったので、聞こえないフリをしてやった。

練習もそこそこ真剣にやっていると、一度休憩しようの声が辺りを飛び交った。どれくらい練習していたのかはわからないが案外時間が経っていたようだ。
みんなが地面に座り休憩をする中、その輪には入らず一人ベンチで休んでいる光くんを見つけた。
がさがさと鞄を漁り何かを探しているようだが見つからないみたいだ。
この状況からしてきっとタオルだろう。そう予想して、なんとなく近付き「洗ったばかりやけん使いなっせ」と、探しているであろうものを手渡した。
俺のその行動に相当驚いたのか、珍しくポーカーフェイスが崩れた。
嫌いな俺に年相応のあどけない表情を見せてくれるなんて。
もちろん、そんな表情も一瞬で、また眉をしかめ、有り難迷惑だと言わんばかりに視線を逸らされた。

「使わんと?」
「…別に大丈夫っす」

まさか問い掛けが返ってくるなんて思ってもいなくて、今度はこちらが驚く番だ。
しかし彼はそんなこと興味がないのか、再度視線を向けてくれることはなく、また鞄を漁り始めた。
この差し出したタオルをどうするべきか。彼はきっと受け取りはしないだろう。だって俺のこと嫌いだし。


「…あ、」

一人どうするかと思考を巡らせていると、彼が小さく声をあげ、がさがさとしていた音が止まった。

「……千歳先輩、これ、あげます」

先ほどとは真逆で今度はこちらが差し出されたものを受けとる番だ。
突っ返してやろうかとも思ったが、別にそこまでひねくれてもいないし、行為は素直に受け取っておくべきだ。何より光くんが何をくれるのかが興味深いし、きっともう何かをくれるなんて無いだろう。だから素直に手のひらを差し出しコロンとその上に落ちたものをまじまじと見つめた。

それは以前無理矢理連れていかれたゲームセンターで目にした可愛らしい黒猫のストラップ。
生意気そうな緑の目に、真っ黒な毛、そこに映える赤い首輪が光くんにそっくりだなあ、と思い見つめ続けただけだったのに。俺はそんなに物欲しそうな顔をしていたのだろうか。
それでも、光くんがくれる初めてのプレゼントが嬉しくない訳がなくて。
嫌われていることなんてすっかり頭から飛んでしまい、お礼と共に金ちゃんにやる癖でつい光くんの頭を撫でてしまった。


( ありがとお光くん )

( …別についでやったし。…ええ加減手ェ離してくれませんか? )

( はは…すまんばい。光くんには嫌われてると思ってたけん嬉かあ )

( ……、…俺、千歳先輩のこと嫌いやないですよ )

( …え、 )

( なんでもないです。はよ練習しましょ)

( …それと、誕生日おめでとうございます )



隠しきれていない光くんの赤い耳に、意外と嫌われてないことがわかって安心したと共に、このプレゼントより光くんが喋ってくれたことのが一番嬉しいプレゼントだと伝えるまで後数分。




特に続きません。光に嫌われてると思ってる千歳と、好きだけどどういう態度で接していいのかわかんない光。引退してるとか突っ込んだら負けです^^


2011/12/28 (0)


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