ち と た ん ![](//img.mobilerz.net/sozai/1530_w.gif)
![](//img.mobilerz.net/sozai/41_w.gif)
![](//static.nanos.jp/upload/tmpimg/25030/8.gif)
▽謙ちと
まだ日も出でいない明け方。朝の気温は低くて、吐く息が白い。
それでもテンションが下がることはなくて、寧ろ上がる一方だ。なぜなら今から好きで好きで堪らない千歳を迎えにいくから。
冷たい風を受けながら自転車を漕げば見えて来る待ち合わせ場所。マイペースな千歳のことだから遅れて来ると思っていたが予想外にいつもと変わらない薄着で待っていた。
自転車を停め、ツカツカと千歳に寄り自分がしているマフラーを巻く。挨拶も無しにしたからか、それとも俺の剣幕に驚いたのか、されるがままだ。
「ん、出来た」
「ありがとお」
綺麗に巻けて、満足げに頷けば千歳も笑顔とお礼を言ってくれた。
「おう!おはよーさん」
「ふふ、おはよお。今日もたいぎゃ寒かねぇ」
「ホンマやで!ちゅーかその格好寒すぎやろ」
「寒かばってん謙也くんにくっつけば暖かくなる思ったい」
不意打ちな千歳の言葉に思わず頬が赤くなる。当の本人は何も気付いていないのか不思議そうに首をかしげられた。そんな仕草も可愛い。
「それにしてもあれやね、こんマフラー謙也くんの匂いしかしないけん、ちゅーされてるみたいで嬉しかぁ」
改めてマフラーに鼻を埋め爆弾発言をする千歳。先程の言葉も相俟って今度は耳まで真っ赤だろう。
そんなこと言われて耐えられる訳がなくて無防備なその顔にキスをした。
( っ、は、千歳誕生日おめでとう。好きやで )
( ふぁ、っ、…ありがとお。俺もいっちゃん謙也くんのこと好いとお )
( 〜っ…!…もっぺんちゅーしてもええ? )
( ん、よかよ )
( おおきに!ん、 )
このまま青姦おっ始めそうな謙ちと\^∀^/
▽におちと
気持ちよく眠りについていると壊れかけたインターホンが押された。
ピンポーンと鳴るインターホンに朝かと思い、しかめっ面しながら時計を見れば時刻は23時55分。
半分寝惚けている頭でも、こんな真夜中に来る知り合いはいないわかって、気付かないフリを決め込むことにした。
暖かい布団を被り直しすぐに眠りにつける、そう思いうとうととし始めたころ今度はインターホンを頼らず扉をノックされた。
コンコンから、段々とドンドンに変わりまた妨げられた眠りにイライラしつつも、もしかしてこれは人間ではなく幽霊かもしれないと頭を過った。
一度でも考えてしまうと急激に怖くなってしまって、思い出すのは夏にみんなで見たホラー映画。
一人で部屋にいるとチャイムが鳴り扉を開けた主人公はどこかに連れていかれてしまうのだ。
どうしようか焦っていると、急にノックが止み何事も無かったかのように静寂が戻った。
「……ハァ…怖かったばい…」
中学三年生にもなって情けなくて仕方がないが怖いものは怖いのだ。ホッとしたのも束の間、気を抜いた瞬間ピピピピと、どこからか電子音が鳴り響く。
驚きでヒィと声が出てしまい、急いで口許に手をあてる。
もしかしたらまだ外にいて、今のでバレてしまったかもしれない。慌てて布団に潜り込みこれからどうしようか、とりあえず電子音を止めるべきか、それとも震えながらでも無理矢理眠るべきか。
どれにしろ恐怖が付きまとってきて平常心ではいられそうにない。
すると不意に電子音が止み、また扉をノックされ「ちぃいるんじゃろ?仁王ナリ」と聞こえた。
仁王は今神奈川に住んでいる。今俺がいるのは大阪。つまり外にいるのは幽霊。
またあがりそうになる悲鳴を抑え聞こえないフリをする。
「ちぃー?…ハァ。はよう開けんとちぃの恥ずかしい秘密を四天宝寺の奴らにバラす」
「(うう…怖かぁ…!!…恥ずかしい?まさか、あの時の?あれはマサしか知らんこつやけど)」
「…ピヨッ。…ちぃがお風呂で、」
「(本物!?)っ、マサ!居ったい!だから言うんじゃなかと…!」
「プリッ。最初からはよう出てきんしゃい」
布団から飛び起き秘密を言われないよう大声でいることをアピールし、ドタドタと短い廊下を駆けて行く。
もう恐怖よりも羞恥心の方が上回ってしまい急いで扉を開ける。
そこには眉を寄せ、肩を竦めて寒そうにしているマサがいた。
幽霊じゃなかったとホッとしていると、ドアノブに置いていた手を掴まれそのまま抱きすくめられた。
ずっと外に居たからか、いつも以上に冷たいマサの身体。元々低体温なのは知っていたがこれは少し冷たすぎである。
部屋に入るよう促すため、口を開いたその瞬間唇にキスされた。そして、耳元に口許を寄せ「ハッピーバースデー」と囁かれた。
にこりと笑っているマサに今の時間を聞けば、時刻は12月31日の0時01分。まさか、自分の誕生日を祝ってくれるためにこんなことをしに来たなんて。
気分屋で、嘘つきで、だけど俺のことをこんなに大事にしてくれるマサが好きだ。だから返事の変わりに抱きしめ返した。
( …いつまで抱きしめとるんじゃ。いい加減部屋に入れんしゃい )
( …布団一つしかないけん一緒やけどよか? )
( 最初っからそのつもりナリ )
ぺろりと出された赤い舌に欲情して、そのまま布団に潜り込んだ。誕生日は始まったばかりだ。
即興で作ったの丸わかりw酷くてすみません…。仁王=ただのコロ助
▽ユウちと
「ほれ誕生日プレゼントや」
ずいっと差し出された紙袋。紙袋を開けていいと了承をもらい、ゆっくりと開けば俺のために作ってくれたのであろう、大好きなキャラクターの着ぐるみが入っていた。
フリース生地で作られているそれは着心地も良さそうで、売り物並みに作りが綺麗。流石ユウジくんである。
いつも通りお礼にキスをしようとしたが、フイっと顔を背けられ差し出した手は行く場所がなくなった。いつもなら素直に、寧ろユウジくんの方から求められるのに。
再チャレンジとばかりに頬に手をかければまた顔を背けられた。
もしかして嫌われた?それとも飽きられた?頭に浮かぶのはマイナスなことばかり。
せっかくここまで仲良くなれたのに。キス出来るまでの関係になれたのに。
出てきそうになる涙をグッと堪え、頬から手を離す。もう、体温高い癖に寒がりな彼に触れられないなんて。
「…ありがとお、今まで俺みたいのに付き合わせてすまんばい。…楽しかったたい」
ぎゅっと貰ったプレゼントを抱きしめて別れの言葉を告げる。
するとユウジくんの、元々悪い目付きがさらに吊り上がり睨み付けられた。
「はあ!?」
急に怒鳴られ思わず怯む。確かにいつも怒られてはいるが、ここまで怒らせたことはないだろう。だからこそ怖い。
「俺んこつ嫌いになったんじゃなかと?」
怒鳴られて小さく呟くようになった言葉。そんな言葉をユウジくんはしっかりと聞いてくれてて深いため息を吐いている。
「…ハァ、ちゃうわアホ。お前今日誕生日やろ?せやから俺が返してもらったら意味ないやん」
「…じゃあ、俺んこつ嫌いじゃなかと?」
「…っ、…あーもー好きや千歳!これで納得しろや!」
目をぱちくりとして、言われたことを何度も頭の中で繰り返す。
そして、それが嬉しすぎて強くユウジくんを抱きしめた。
( 千歳痛いわ! )
( あっ、すまんばい… )
( もーええわ。せやから謝罪の変わりにキスしろや )
( っ!ユウジくん…!!! )
男前ツンデレ一氏×乙女千歳。
▽謙ちと
ボーンと0時を知らせる鐘が鳴った。昔から実家にあるこの時計は未だなお狂うことはなく時刻を教えてくれる。
そしてその鐘がなると同時に携帯電話が鳴った。使い方がわからず、初期設定のままの携帯からは黒電話の懐かしい音が鳴り響いてる。
二つ折りの携帯を開けば、画面には"忍足 謙也"の文字。自然と綻んでしまう頬をそのままに、電話を取る。
「もしもし?」
『千歳?…誕生日おめでとう』
「…ありがとお」
電話越しでも明るい謙也くんの声は、よく耳に響く。開口一番お祝いの言葉を言ってくれた。
誕生日は帰省することを伝えたときにしょげていたなんて微塵も感じさせない変わらずの声。
『俺がいっちゃん最初やった?』
「謙也くんが一番たい」
『よかった…!まぁ浪速のスピードスターやからな!』
きっと0時になるまで部屋で携帯を片手にうろうろそわそわしてくれたのだろう。付き合ってからまだ数ヶ月しか経っていないが、謙也くんはそういう人物だ。
何事にも全力で、底無しに明るくて、自分の事より他人に気を使う優しい人。だからこそこんなにも惹かれたんだと思う。
今日あったことを楽しそうに言う謙也くんの話を頷きながら聞く。今頃身振り手振りをしながら説明してくれてるんだろうな。そう思ったら、その場に一緒に居れなかった自分が寂しくなった。
『でなーって、千歳…?』
「…。…謙也くん、会いたかぁ…」
意を決して溢した言葉。言ってどうなる訳でもないし、寧ろ謙也くんを困らせるだけだとわかっていたが、溢さずにはいられなかった。
謙也くんの息を呑む音が聞こえ、案の定困っているのか返答はなく、電話越しに無言の時間が続く。
『…俺やって会いたいっちゅー話や…!千歳、好きや』
言わなければ困らせなかったかと後悔したが、考えていたことを吹き飛ばすくらい謙也くんからの返答が嬉しかった。
目を一、二度瞬かせてまた顔が綻んだのがわかる。
「俺も謙也くんのこと好いとお」
ふふっと笑い声を出しながら伝える。今頃向こうでは顔を真っ赤にした謙也くんがいるのだろう。確認は出来ないけどきっとそう。
( 早く会いたかねぇ )
( ホンマやで!帰って来たら駅まで迎え行くなー! )
( 楽しみにしとるったい )
相思相愛謙ちと!
▽金ちと
なんだかわからないが千歳から甘い香りがする。
いつもはお日様のぽかぽかとした香りなのに今日に限ってすごくすごく甘い。
ふんふんと鼻を鳴らしながら千歳の周りを嗅ぎ回っていると、不思議そうな顔して頭を撫でられた。
「なーなー千歳!メッチャ甘い匂いするんやけど!」
撫でてる手はそのままに、何か考える仕草を見せた後、思い出したようにバッグを開けて、「もしかしてこれ?」と、ラッピングされた箱を取り出された。
何を取り出したのか、身を乗り出さんばかりに見つめていると、そっとリボンをほどいて中身を渡してくれた。
そこにあったのは、白い生クリームの上にピンク色のチョコレートが乗せてあって、誕生日おめでとうと書かれている美味しそうなケーキだった。
「ユウジくんと小春ちゃんからもらったばい」
「メッチャ旨そうやん!なあなあちとせぇ…」
「しょんなかねぇ」
千歳がこの目に弱いのを知っているからわざと上目遣いし、お願いしてみる。案の定困った表情をしてはいるが口では了承の言葉をくれて、生クリームがついた真っ赤なイチゴを差し出された。
躊躇いなくかじりつくと、満足げな顔をしてまた頭を撫でられた。子供扱いはやめてほしい。
ムッとして、ケーキに乗っているイチゴを一つ拝借し、唇に含みそのまま千歳にキスをした。
イチゴのように赤い千歳の顔と、口内に広がる甘い味。
甘くて、幸せな時間。
( 誕生日おめでとさん! )
無謀なことした自覚は有ります。
prev top next