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※現代パロ


-親子の日常?-



いつも朝は走る。
一時間くらいだけど、朝走るのは気持ちが良い。
少しずつ起きていく街と涼やかな風は気分を晴れ晴れとさせてくれる。
家に戻ってくるときはちらほら人も出ていて、朝だなあと感じた。
玄関を開けようと鍵を開けた…はずだけど。

「…あれ?閉まってる…?」

ということは出るときに鍵をかけ忘れたか、もしくは誰かが開けたままか。
クールダウンした心臓がまた激しく動きそうなのを深呼吸して抑える。
いやいやいや、まさかあ。
今は遠征中だし、そもそも朝帰ってくるなんて。

「ないない、うん。かけ忘れたんだな。無用心だ気をつけよう」

口から出た言葉は棒読みだったがそんなことは気にしない気にしちゃ負けだ。誰に負けるんだとか思ったがその思考を隅に追いやってもう一度鍵を差し込む。
恐る恐る開けたドアの先には見慣れた家の廊下。人の気配はない。
やっぱり。
浮き立っていた気持ちが落胆する。
ん?これじゃ帰ってきてほしいみたいじゃんか。

「誰が、」

思わず声が出て慌てて飲み込む。
最近独り言が増えた気がする。気をつけないとな。
靴を脱ぎ捨て携帯を開く。

「…あれ、今日学校休みじゃん!」

また独り言を言っていたがもうそんなことはどうでもよくて、今日は祝日で月曜日なのに休みらしかった。
携帯のカレンダーの今日の日付が赤く塗られている。
なんだよ、昨日早く寝て損した。
ふあ、と欠伸がもれる。
休みだとわかった途端眠気が押し寄せてきた。
目をこすり、眠気に負けそうになりながらも汗を流すためにシャワーを浴びた。



汗を流してすっきりしたところで、替えの服を持って来るのを忘れていた。仕方ない、誰もいないけど一応タオルを腰に巻いて脱衣所を出る。
そのまま冷蔵庫から牛乳を取り出して腰に手を当て飲み干す。
やっぱり風呂上がりは牛乳だな。
テレビを付ける。時刻は帰ってきてから30分たっていた。

「−−ブリッツボール選手の−」
「お」

丁度スポーツのニュースでしかもブリッツボール特集だ。
もう殆ど全裸のままテレビを凝視する。
ブラウン管の向こうでは、海外遠征中の親父が試合をしていた。圧勝だったらしい。
誇らしくもあり歯痒くもありなんかこう、なんとも言い表せられない感情が渦巻く。

「勝ったのか、うん。まあ、負けるよりは…」

今日は独り言が激しい。
テレビを今だ見つめていると、空港が映った。いつもより早く帰還…とアナウンサーが言っている。
本当に好調だったんだな。
つーか、こっちに帰ってきてんだったら家にも帰れっつーの。
いやべつに帰ってきて欲しいわけじゃないけど、あんたの居ない家は…広すぎる。
でかい図体してムカつくくらい存在感あるんだから、いたらいたで狭く感じるが、いなかったらいなかったで広く感じる。
居ても居なくても迷惑だ。

…早く帰ってこいよ、ばか。
あんたの家はここだろ。

ぶるっと身震いして、今だこの格好なのはさすがに寒すぎると気づく。

開けっ放しの自分の部屋のドアから寒さに震えながら入ると、見慣れないものが。

「……………はあ?」

俺の部屋の俺のベッドに、何故か先程までブラウン管の向こうにいた親父が盛大に寝転んでいた。
しかも上は着ていない。いつものことだけど。
…それ、俺のベッド。
至極最もなことを考えて頭を振る。

「…帰ってきてたのかよ」

ちょっと、いや本当にムカつくけど、安心している自分がいた。
くそ、ムカつく。

とりあえず親父を起こそう。俺も眠い。
流石に二人で寝るわけにはいかないし窮屈にもほどがある。この歳で父親と寝るのもどうかと思う。
自分が他の場所に寝るという考えは破棄した。自分のベッドがいいに決まってる。

親父を動かすには…俺には無理だ。筋肉だるまめ。親父に起きてもらうしかない。

「おーやーじー、おーい、起きろー」

揺すっても多分起きないから背中をぺちぺち叩きながら耳元で叫ぶ。
親父の目が開いた。

「あんた、自分の部屋で寝ろよな」
「…ああん?」
「ここ俺のベッド。」
「どこで寝ようが一緒だろうが…」
「俺が寝れないだろ、俺のベッドなのに」

あんたが良くてもこっちが良くない。
話ながらそういえば親父を見たのは(テレビはカウントしない)もう一ヶ月ぶりだ。
帰ってきてもすぐどっか行くからな、親父は。
そんなことを考えていたら腕を捕まれた。

「えっ…何、」
「お前も寝ればいいじゃねぇか」
「だからそこが俺の、うわあっ!」

腕を離したと思ったら今度は腰を捕まれてベッドに放り込まれた。
寝たまんま息子を持ち上げるなんてなんつー馬鹿力だ。

起きあがろうとしたら後ろから抱きしめられて動けなくなった。

「ちょ、親父、離せよ!」

多分いや絶対顔が赤い。つーか俺殆ど裸な上に服も着てない。
親父も上を着てないから直接肌と肌が…もう本当何してんだばか親父!
人に見られたらちょっとどころかかなり大問題になる。
自分の家に誰かが無断で入るわけがないので見られる心配はないが恥ずかしいには変わりない。
腰に回されてる腕を躍起になって剥がそうとしている俺の首もとに親父の息を感じて、ひぁっ、と情けない声が口からでた。

「も、親父ぃ、離せって」
「…さっき」
「え?」
「なんでさっき家に居なかった」

腕の力が強まった。そろそろ本気で痛い。
「なんでって…いつものことだし」
「………」
「は、走りに行ってんだよ、悪いか!」

なんだか盛大に恥ずかしい。告白でもしてるみたいだ。
もういい加減離して欲しい。
久しぶりに会ったのに顔見れないし。

「…んだよ、びっくりしただろうが」

後ろでボソッと呟く声が聞こえた。
どうやら帰ってきたときに俺が居なかったことが驚きだったらしい。
心配されたことにこちらも驚きつつもちょっと嬉しかった。あくまでちょっとだからな!
と誰にでもなく自分に言い訳した。

「…親父?」

静かになった後ろの人物に話かけたが、…え、もしかして寝てる?

ぐおーといびきが耳元で聞こえ、驚きで体が跳ねた。
び、びっくりするだろ。

「…寝るなよ」

俺まだ裸だし、腕の力はそのままだし。
そんな状態でも眠気のピークが来ていた俺はそのまま逆らうことなく目を閉じた。
ちょっと耳元がうるさいけど、それもまあ、久しぶりだし、たまには我慢してやる。

そのまま俺は意識を手放した。
背中に懐かしい温もりを感じながら。






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