Main

Start++


※前サイトの



手足が冷え、息を吐くと白い。そんな時期。
空には、蒼い空を覆い隠すような灰色の雲が広がっている。地面は、綺麗な白が積もっている。人にまだ汚されていない純白を保って。
日も落ち、大学院の周りは暗く、静けさがそこを支配している。
外は、こんなにも綺麗で静かだ。
それなのに。

「けんれーん!こっちにきて一緒に呑もうぜぇ!」
「あはははは、何それウケるー」
「ちょ、寒くね?温度上げていいか?」

中は煩すぎる 。外の静けさが恋しい程に。
今日は、世の恋人達のための聖なる日。クリスマスイブだ。
そんな日に、この大学院は、一年から四年生まで、つまり生徒の全員が半ば強制的に、毎年行われるクリスマスパーティーに参加する事になっている。
恋人達の予定も、この大学院では虚しくも皆無だ。
俺だってこんな日くらいは恋人の天蓬と一緒にいたい。なので今回こそはどうにかして抜けようと思っていたのだが、その相手がこれまた強制的にこのパーティーの実行委員をやらされているわけで。
俺と天蓬の関係は皆には言っていない。俺と天蓬の弟は流石に俺らの血が流れてるので聡い奴らだからばれているが、この大学院では俺らの関係を知っているのは天蓬の幼なじみの金蝉くらいだろう。
大学院全体を巻き込むこのパーティーそれなりに、いや、かなり豪華だ。
女性はドレス、男性はタキシードが原則という徹底ぶりだ。
恋人のいる奴にははた迷惑なパーティーだが、そんなパートナーのいない輩にとっては絶好のチャンスだったりするわけで。

ここの先生達はこういう時はかなり緩いので、泥酔や暴走さえしなければまぁいいんじゃね?みたいな感じだ。
俺だって皆でわいわいするのは好きなのだが、やはり今日くらいは天蓬と一緒に居たいわけで。

その天蓬は、実行委員で忙しいのか先程から姿が見えない。
それかどっかでサボってるか。
いないのは仕方ないので、取り合えず端っこで不機嫌そうに立っていた金蝉を、無理矢理連れて来て無駄に豪華な料理を食べることにした。

「…なんだ。」
「あっらまー、不機嫌そうね。全身から不機嫌オーラが出てんぞ。」
「あたり前だろ。なんで俺がこんな…」
「はいはい。わかったから。呑もうぜ。」「毎年毎年、こんな騒がしいパーティーがよく開催されるもんだ。」
「まぁ、一応この大学院唯一の盛大なパーティーだしな。赤ワインでいいか?」
「ん。…今年こそは逃げようと思ったのに…。」

金蝉が不機嫌な理由は、人混みが嫌いだとか、煩いのが嫌だとか、いつも不機嫌とか、まぁ多々あるが一番の理由はあれだろ。 金蝉は色恋事にビックリするほど興味がないから、そういうんじゃない。
こいつにも弟がいて、実はちょっとブラコンの気がある。だから両親が海外にいる今、出来るだけあのおっきな家に一人だけにはしたくないんだろ。

因みに、俺の弟の悟浄と、天蓬の弟の八戒。そして金蝉の弟の三蔵は、同級生らしい。
とんだ腐れ縁だ。

金蝉は酒に酔うと大人しくなるが、かなり弱いため事前に三蔵に電話してある。
流石にそうなると家に帰してくれから金蝉にとっては願ったり叶ったりだろう。二日酔いを除けば。

「ほらほら、この酒ウメェぞ。」
「…あぁ。…今、何時、だ?」

そうこうしてるうちに金蝉の顔が既に赤くなっている。
口数も少なくなってきた。

「今は…11時30分…、うわ、もうこんな時間かよ。」
「…帰る。帰らせろ!いつまで俺ぁここにいなきゃなんねぇんだ!ひっく。…三蔵に、お土産持っていく。」

三蔵の名前が出てきた時点で相当酔ってる。一応言っておくが三蔵は高校生だ。あの広すぎる家でも三蔵なら大丈夫だと俺は思うんだが。
そろそろ三蔵がこっちに着くだろ。

「はいはい。何持っていくんだ?」
「三蔵は…、あんこが好きだ。」

まじか。初耳だ。

「あんこ…あんこねぇ。」

和菓子っつーことか?あんのか?…有りそうだな。
………そういえば。

皆が準備してた時に和菓子の入ってる小さい箱をくすねたんだった。あれでいいだろ。

「ほい。これでいいか?」
「…ん。」

あんこかは分からんが。

「捲簾。」
「おぅ。いいとこに来た三蔵。もう連れてっちゃって。」
「はぁ、またお前が飲ましたんだろ。ったく。ほら、金蝉行くぞ。」

外を見ると、雪が降っている。ホワイトクリスマスだな、なんて思っていたら会場の舞台の方でざわめきが聞こえた。

「きゃー!超ウケる!キモい!」
「あっははは、ヤバイ、お腹いてぇ!」

爆笑の声と女子の悲鳴が飛び交ってる。
何事かと思っていると

「あ、おーい、捲簾!んな端っこにいねぇでこっち来いよ!」
「捲簾さん、こっち面白いですよー!」

知り合いに見つかった。今は酔っ払いの相手は嫌だから見付からないようにしてたんだが。
だけど向こうで起こっている何かが、何なのか気になるので、手に持っていたワイングラスを置いてざわめきのしる方へ向かった。

そこには。

サンタクロースの格好をした男が数人。
クリスマスなんだからこういうのがあってもおかしくはない。

何が問題ってそりゃあ。

「みんなに、プレゼントを用意したわよん(はぁと)」

サンタクロースの女の方の格好。つまりはミニスカだ。
金蝉を帰らせておいて、本当に良かった。一時期男性不信になるとこだった。

どっから出してんのかと聞きてぇ高い声(気持ち悪いとも言う)を出しながら腰なんかを振ってる面子を見てみると、このでっけぇパーティーの男性実行委員達だった。 あらかた女子達の仕業だろ。
どうせなら女が着た方が目の保養になるのに。

…まてよ。この実行委員達の中で天蓬の姿が見えない。
逃げたのか?でもそれだったら連絡くらい寄越すだろ。
じゃあまだ準備中か?
キョロキョロと辺りを見回してみてみると、不意に会場に聞き覚えのある声が響き渡った。

「あー、ぁー。聞こえます?これ。会場の皆さんにお知らせでーす。
えー、会場内の皆さんに、このパーティーの実行委員をやらされた僕達からクリスマスプレゼントがあります。この台から僕が投げます。
数には多分限りがあるので早めに取っちゃった方がいいですよ。」

会場の舞台の上に、これまた他の実行委員達と同じようにサンタクロースのミニスカバージョンの天蓬がいた。
他の奴らよりはどことなく豪華な衣装で。
いや、そんなことより何でわざわざ舞台の上にいるんだ天蓬!ミニスカで舞台の上をちょろちょろ動き回るもんだから、中が見えそうで内心ハラハラする。

天蓬を見る男達の目が危なっかしい。それもそうだ。天蓬は身長こそ高いが、そこら辺の女よりも顔が綺麗で肌が白い。男で力も結構ある癖に腰とか腕とかも細い。
後輩達からは高嶺の花という感じらしい。因みに男も女も同じことを言っていた。

外見だけを見れば線の細い美人なので、こりゃ目の保養過ぎて逆に毒だ。
中身は予想に反して男気のある奴だが。油断したら引っ掛かれるくらいの。
短かな、本物のサンタなら着ないであろうスカートから伸びる艶めかしい程の長い足。
天蓬の肌の白さが、真っ赤な衣装のせいか際立っていて。
いつもは無造作な髪が、後ろで結ばれていて色っぽいうなじが見えている。

こりゃ、並の奴ならイチコロだろう。

「えーっと、これでいいんですか?はい、いいみたいです。投げますよ〜。準備はいいですかぁ?」
「「「おー!!!!」」」」
「あ、因みに割れ物込みの様なので、落とさないで下さいね。いきますよー!」

天蓬が投げはじめると、あっちこっちから叫び声やら悲鳴やら歓声やらで飛び交っている。
割れ物て。んなモン投げんなよ。
でも、苦笑している場合じゃない。天蓬が投げる度に激しい動きをするもんだからスカートの中が危ない。見えそうで見えない感じが。
魔性の笑みで男も女も悩殺するくせに、こういう所は天然だから恐ろしい。
ぽんぽん両手で投げていくので、プレゼントの詰められている白い袋が萎んできた。
そろそろ終わるだろう。てか、終わってくれ。

「おや、これが最後の一個みたいですね。実は相当余分にプレゼントがあったので、取ってない方はいない計算なんですよ。
酔っ払って潰れてたり、最初からプレゼントはいらないって人だったり、参加する気がなかったり、トイレ行ってて取れなかったって人以外は。
だから二個以上持ってる人もいたりするわけですよねっ!」

台詞の最後に不意打ちで天蓬が投げた。
なんと言うか、天蓬らしいというか。

「皆さん取りましたか?」

イエーイとか、おー!とかの声が飛び交う。

「結構疲れるんですよこれ。…ん?」

キョロキョロを見回す天蓬は、俺を見たとたん動きを止めた。
ん、何だ?

「…捲簾、あなた、そんなに前にいて取らなかったんですか?それとも取れなかったんですか。」

マイクで喋ってないから、かろうじて聞き取れたが、俺が欲しいのは、こんなモノじゃなくて。

「残念だが前者だ。俺はもっとでかくて、綺麗なモン欲しいから。」

周りが煩いので、聞こえないかと思ったが、どうやら届いたようだ。
天蓬は頭の上にはてなマークを浮かべて首を傾げている。
ちょ、可愛いからそれ。うっかり可愛いからやめてくれ。
大声をあげるのは億劫なので、少し前に出た。

「わかんねぇ?」
「わかんないですねぇ。残念ながら。先に言っときますけど、高いのはないですよ。量が量なので。」

プレゼントを受け取った人々が、見せ合ったり、交換をしたりしてるのを止めて、なんだ何だと視線をこっちに向けているのを背後に感じる。その視線が心地良い。

「じゃぁもちっと細かく。びっくりするくらい綺麗で、肌が白くてすべすべで、黒い髪がめっちゃさらさらしてて、すっげぇ気高い俺の恋人。」
「………っ。けんれ…、」

やっとわかったみたいだ。
天蓬の顔が、ほんのり朱い。

俺の恋人、という言葉に皆が反応する。

「おいで、天蓬。」

両手を広げてそう言うと、天蓬は少し戸惑い、後ろにいる実行委員を見た。
後ろにいる実行委員は、盛り上げらればなんでもいいのか、OKサインをだしている。 天蓬はそれを見ると、意を決したのか、

「ちゃんと受け止めて下さいね!」

そう言って俺の腕の中に舞台の上から飛び込んできた。

俺は、天蓬をお姫様抱っこすると、天蓬が持っていたマイクを手に取った。

「俺達はもう帰るが、皆、今日は楽しんで帰れよ!Merry christmas!!!!」


後ろ側から、盛大な歓声と、大量のシャンパンを空ける音がした。




おまけ



(110610)
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -