「っはあ………ま、まだ来てないかな……?」

少し小走りに目的地に辿り着けば、そこは人が沢山いて。人混みに飲まれそうになるのを必死になりながら避けていく。

今日は私も彼もオフ。貴重な時間を二人で過ごせるからと、今日は出かける事になった。私は部屋でのんびり過ごすのも良いけど、彼はわざわざ場所を考えておいてくれたみたいで。こういう時、私の事を少しでも想ってくれているんだって感じるから、凄く好き。

「待ち合わせ時間まで、まだあるよね。でもそろそろ……あっここにいたらバレちゃう…!」

一人そんな事を呟きながらあまり一目につかない所に隠れる。うん、ここは日陰だから、良い感じに隠れられそう。そっと待ち合わせ場所を見ていれば、待ってましたと言わんばかりに彼が現れる。変装をしても、やっぱり彼の艶のある雰囲気は、全部隠しきれないんだなあ……。って、見惚れてる場合じゃないんだ……!

「あ……う…わ、私がドキドキしてきた……!」

彼がキョロキョロと視線を彷徨わせる。私を、探してくれているのかな……?でもまだ約束の時間じゃないからか、すぐに探すのを止めちゃった。……ああやって当たり前の様に約束の時間の前に来て待っている姿は、本当に恰好良いなって思う。ただ立っているだけだけど、それだけでも様になってるって言うか、私が好きすぎるだけなのかもしれないけど。

「えと、とりあえず…メール、してみようかな」

鞄から携帯を取り出してメールを作成する。もうすぐ着きます、と……送信のボタンを押せば、少しした後に彼が反応する。そしてまた辺りを見渡すのを見てなんだか少し微笑ましくなった。

「!返信、きた」

そこに書かれていた文は、まだ時間があるからね、急がずゆっくり来ておいで。と紳士な文がある。外見に劣らない彼の魅力は、留まる事を知らないんだなあ、とまた更に惚れ惚れしながら画面をそっと閉じて彼を見る。私が返信していないからか、たまに携帯を確認する姿がいつもより可愛く感じる。

「私の事、考えてくれてる……かな…?」

今だけは彼を独占出来る。たった数分、今日は一日、長い様で短い時間だけど、アイドルの彼を独占だなんて普通だったら出来ない。それを今だけはと思ってこんな事をしている訳だけど、どうやらこの私の思いきった行動は予想以上に私の心を満たしてくれていた。

彼は今どんな事を考えているんだろう?私の事を考えてくれていて、心配してくれてる?楽しみだなって思ってくれている?私は彼ではないから分からないけど、私と同じ気持ちだったら、嬉しい。そんな事を思いながら一歩一歩、ゆっくり彼へと歩み出す。少し控えめに彼を呼べば、振り返って微笑むその姿にまた心臓を掴まれたような甘い感覚がした。

「レン、遅くなってごめんね」

「いや、全然遅くなんかないよ。女の子は準備が沢山あるからね、待っているのもあっという間だったよ」

「………ふふっ」

「?どうしたんだい、名前?」

「ううん、何でもない!えっと、今日ね、凄く楽しみにしてたの。だから、嬉しいなー…なんて」

「ああ、俺もこの日が来るのを心待ちにしていたよ。……此処で立ち話は冷えるね。….名前、行こうか」

「うん!」

そんな彼の優しさが、私は大好きです。




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