マジLOVE1000%から始まって、2000%まで上り詰めた一十木くんたち。私はそんな皆が頑張るのを遠くから見つめていた。彼らの近くには、七海春歌ちゃんがいる。あの輪に入りたいという訳では無いけれど、同じ学校で過ごしていたのにどうもこんなに差が生まれると焦ってしまう。スターリッシュの個々の才能も然り、春歌ちゃんはその曲で皆を輝かせる事が出来る。

そして、2000%の先が生まれた。まだ世間には公表されてないけれど、一応同じ場所で過ごしているからか情報が自然と流れてくる。彼らはあの有名なスーパースタースポーツ、略してSSSのオープニングアーティストを目指しているらしい。実際は先輩アイドルのカルテットナイトが有力らしく、カルテットナイトはもう既にエントリーが決まっている。スターリッシュはまずエントリー出来るように頑張っていたらしかった。その軌跡として、新しいユニットで、新しい曲で、人気を集めていく。ということは、それも全部春歌ちゃんの曲。なんであんなにポンポン良い曲が生まれるんだろう?良いなあ、そう思いながら私は、一体何をしてるんだろうと考える。目の前の五線譜は、真っ白だった。

カルテットナイトがSSSに向けて合宿に行ったと聞いた。その言伝は何故か早乙女さん直々にだ。よく理解出来てない私に我慢が出来なくなったのか、レボリューション!!!と勢いよく早乙女さんが叫ぶ。まるで彼の身体から炎が出てるのかと思うくらい熱い言葉にたじろぐと、Ms.名前も行って来なさい、と言われた。え、とまた理解する前に地図を渡され背中を押され、部屋の外に出る。勢いよく振り返った先に見えたのは、ただの扉しかなかった。命令には従わなきゃと地図を見ながら荷物を持って学園を出る。現地に到着すると、誰の別荘かと訳が分からないくらいに大きい建物に圧倒される。恐る恐る窓から中を覗くと、その景色に目を奪われた。

「…っ……す、ごい………」

テレビで見ているものよりも全然違う、迫力があった。汗を拭う姿さえ魅了されるようで、心臓が鷲掴みにされた気分。ただひたすらに練習をして、前に進む姿がとにかく格好良かった。トップアイドルの実力を、見せつけられた。そこに追い込みをかけるのは、また春歌ちゃんの曲。彼女の曲は、トップアイドルさえも容易く本気にさせる。

「!君、」

思考を遠くにやっていると、休憩中の寿先輩が外に出てきた。私が窓から先輩達を見ていた事に気付いたからだ。いつも皆に笑顔を振りまいている人は、今はとても真剣な表情を向けている。咄嗟に早乙女さんに言われて、と震える声で伝えると、何処か納得したのか表情が柔らかくなった。おいで、と手招きされ私も先輩と一緒に中に入ると、当然ながら他の先輩達が私を見る。こんな視線を浴びるなんて、どんな反応をすれば良いんだろう。春歌ちゃんは、どうやって先輩達の心に火をつけたんだろう。

「見てて、何かあったら言ってよ。見てくれる人がいる方が、やり甲斐あるしね」

「何だか知らねぇが、やるからには本気でやっからな」

「確かに彼女がどうして此処に来たのか理解は出来ないね。でも今は時間が足りない………役立つなら、そこにいて良いよ」

「精々、俺の足を引っ張るな。愚民」

「は………っはい!」

外で一連の流れは見ていたけれど、目の前で見るものはさっきより目が離せなかった。ファンサービス、と言うものだろうか、時折投げかけられる視線に胸が熱くなる。彼らを好きな人は、こんな気持ちになっているんだと痛感した。一頻り終わったと同時に、耐えられず拍手する。私の頭は、何かに弾かれるように様々なフレーズが浮かんだ。こんな曲がいい、こんな曲を、歌ってほしい。高ぶる衝動を抑え先輩達に此処が良かった、あの部分はこれが欲しい、と素直に感想を述べた。私の感想じゃあまり参考にならないかもしれないけれど、それでも寿先輩達は真剣に私の言葉に耳を傾けてくれた。……トップアイドルの人たちが、私と話してくれる。遠かったような存在が、近くにいることが嬉しかった。だから私も、先輩達と同じくらい、自分の仕事を頑張ろうって思った。先輩と同じ合宿先で、私も本気で曲を作った。誰かが私の曲を必要としてくれる、そう信じて。




SSS当日ーーー。
私は、様々な仕事を颯爽と終わらせこの日に備えていた。最初は普通に観客として行こうと思っていたのに、何故かまた早乙女さんに関係者入口から入れられ、焦りながら中を歩く。色んな人の待機室を横目に歩き続けていると、カルテットナイト様と書かれた部屋が目に入り思わず足を止めた。この中に、先輩達がいる。

「あれ、名前ちゃん?」

「えっ!?あ、お、おつかれさま、です……!」

「おい嶺二何やってんだ。早く歩けよ………って、お前」

丁度待機室から移動なのか、偶然開いた扉に益々動けなくなってしまった。寿先輩から声がかかり咄嗟に返事を返すと、黒崎先輩、美風先輩、カミュ先輩が順々に出てくる。それから他愛ない話をして、何とか声を振り絞って頑張って下さい、と告げた。スターリッシュもいるけど、何故だか、私は先輩達を応援してしまった。

「僕達は、革命より上をいく進化を遂げた。だから絶対勝つよ」

「お前はただ黙って、俺達を見ていればそれでいい」

去り際、ポンと頭を撫でられ私の横を通り過ぎる背中を見つめた。握り締めた手は、確実にカルテットナイトの勝利を願っている。私は、あの先輩達の合宿を見てから、おかしくなってしまったのかもしれない。あの日を境に、私にも色んなチャンスが舞い降りた。普段来ないような仕事は、私が丁度あの時浮かんだ曲ばかり。それ程までに、先輩の本気は私の心に火をつけてくれたんだ。

エボリューション・イヴ。
革命のその先を行く進化は、見ていてとてもキラキラしていた。途中、私がこれが欲しいと言った要望が実現されていることに気付いた時、身体が熱くなったのが嫌なくらい分かる。これは私に向けられたものじゃないって分かってるのに、何故か錯覚してしまうくらい、心に刺された。

「…………あっ」

「名前ちゃん、見てくれた?」

「はい…っ!あの、皆さん、お疲れ様でした。凄くその……格好良かった…です…!」

「!…………っそうかよ。まあ、本気出したからな」

「君が良いって言ったなら、合宿より良かったって事だよね」

「ふん、当然だな」

やりきった、そんな想いが伝わって嬉しくなった。先輩達の表情は凄く満足そうで、やっぱりそうさせる春歌ちゃんは凄いって思う。でも、今回は早乙女さんのおかげで、私も陰ながら関わる事が出来た。私の要望が採用されたということは、必要とされたことのようで本当に嬉しかった。そんな事を考えていると、階段下からスターリッシュが登ってくる。

「俺達は、進化を超える革命を起こしてみせる!!」

「どうかな。僕たちには、君たちが持ってないものが傍にいるからね。……勝利の女神が」

「俺らを越せるもんなら、越してみろよ。受けて立ってやるぜ」

「………え……………?」

先輩達の後ろにいた私は、スターリッシュの皆からは見えないだろう。そんな状況に、黒崎先輩は私の肩を抱き寄せる。寿先輩は私の目の前に立って、カミュ先輩は私の横でスターリッシュから私を隠す。美風先輩は、優しい視線を私に一瞬向けた後、寿先輩の隣に立った。まるで守られているような体制に、鼓動はどんどん高まっていく。スターリッシュが通り過ぎようとした瞬間、黒崎先輩は私を抱き締めるように自分の腕の中に閉じ込めた。ハッと息を呑んだ瞬間には、スターリッシュは背中を向けている。どうしてこうなったんだっけ、そう考えた時には先輩達は私を見つめていた。

「曲は彼女が作ったけど、僕はそれだけで買てると確信した訳じゃないから」

「ど、ゆう……ことですか…?」

「……………………何の為に、勝利の女神とやらを明かさなかったのか分からないのか」

「だ、だって私、あんまり皆さんにお手伝い出来てないです…!それなのに、」

「良いから。君はそう思っても、僕らは違う。………今度は、君の曲を頂戴」

「お前があの合宿所で作ってた曲、歌わせろ」

「……………っ!!ありがとう、ございます…っ」

こんな私でも、目の前でこうして必要としてくれる人達がいる。春歌ちゃん、やっと貴女に近付けたような気がするよ。我慢出来ずに零れた涙を、先輩は優しく拭ってくれる。今までただ与えられた曲を歌っていた先輩が、私の曲を求めてくれること。それはいつしか、私も先輩達を求めていた。ただの先輩が、私の中で大きな存在に変わっていく。ああ、これが恋という感情なのかと理解するのに、時間はかからなかった。




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