やっとの思いでオフ日まで頑張ったかと思えば、風邪を引きました。それに気付いたのは今朝の話。昨日から熱特有のあの身体の怠さを感じてはいたものの、あまり風邪を引かないタイプだからかただの寝不足だと思い込んでいたのが昨日の夜中。朝になって益々酷くなっていた事により漸く私は体温計を引っ張り出した。熱は微熱ではなくしっかりと38の数字を表示しており、もう一回測ってみても変わりはなかった。オフということもあり何もせずにゆっくり出来るのは有難いけど、正直マスターコースの寮で1人ポツンと部屋にいるのは結構寂しさもある。だからと言って誰かに連絡するのも、他の皆は当然仕事が入っているのだから仕事に集中してほしい。

とりあえず治さなきゃ、と身体を無理矢理起こし着替えも済ませ病院に行った。診察結果はやはり風邪。流行りのウイルスとかそういった類に感染していた訳ではないので一安心し家に戻ると、ポケットに入れていた携帯が音を奏でた。

「お疲れマッチョッチョ!今日皆でご飯食べなーい??」

嶺ちゃんだ。私と蘭ちゃんと藍ちゃんとミューちゃんのグループに不意に届いたトークを見れば、数秒した後「僕は空いてるけど」と藍ちゃんから返事が返ってくる。うん、藍ちゃんはまだ誘いに乗ってくれそうだけど…………正直、蘭ちゃんとミューちゃんは来る気配をまるで感じない。そんな事を考えつつ、私も返信しなきゃと携帯を操作する。「ごめんね、今日はちょっと厳しいかも」と返事を返せば、すぐに嶺ちゃんが「えー!?お兄さんショック!!」と同時に泣き顔のスタンプが返ってきた。ほんと、直接会わなくても嶺ちゃんはそのまんまだなあと思う。特に言うつもりもなかったけど、「熱出しちゃった」と一文返せば、何故かすぐに既読が4人になった。

「えっ、電話だ。もしもし?」

「オイ、熱ってまじかよ?」

「うん、38度出しちゃった。でも大丈夫だよ、病院でただの風邪って分かったし今日はオフだから」

「お前1人で病院行ったのか?」

「うん?そうだよ?」

そう告げ少し話した後通話を終了すれば、立て続けにまた携帯が鳴り響く。えっまた?と思いながら急いで通話ボタンを押せば、先程よりも不機嫌な声が聞こえた。

「愚民が。体調管理をしてないからそうなるのだろう。貴様は危機感が足りん」

「みゅ、ミューちゃん病人にひどい…」

「当然だろう。………それで、今はどうなっている?」

「今は病院から帰ってきて……ベッドにいるよ」

寝転がりながら伝え、また少し話しをして通話を終了する。はあ、と零れる息はやはり熱を含んでいた。熱い、でも寒い、そんな矛盾を感じつつ布団で身体を包み込む。流れるままに眠気が訪れ、振り絞った指はトークに「ごめん、ねむい」と押し4人に送信された。




「………ぅ、う…熱い」

「うん、いつもより大分熱くなってるね。それに呼吸も少し荒いし汗もかいてる。一回着替えた方が良いよ」

「…………………あ、あい、ちゃん?」

「何?名前」

ガバッと勢いよく起きたら、少し頭痛がした。いやでもそんな事は今は置いておいて、目の前の人物を凝視する。当たり前かの如く私のベッドに座り私の状況を事細かに説明する人物は、紛れもなく藍ちゃんだ。どうして、と考えていると、奥から起きたのか、と蘭ちゃんがやってくる。蘭ちゃんまで!と思うより、周りをよく見てよく分かった。嶺ちゃんも、ミューちゃんもいる。

「ど、どうして此処にいるの…?」

「だって名前ちゃんが嶺二お兄さんと会ってくれないからさ、じゃあ僕が会いに行けばいっかなって!急にきてめんご?」

「まあ、名前1人にしてたら何もしなさそうだからね。また明日になれば仕事もあるんだし、迷惑かけられたら困るから」

「どうせお前の事だ、ろくに飯も食ってないんだろ。作ってやったから、食えよ」

「愚民の様子を見に来てやったんだ。礼くらいは無いのか?」

…………此処は、私の部屋だよね??それで、目の前にいるのはトップアイドルのカルテットナイト。言い方はそれぞれだけど、纏めると私の事を心配してくれた事が分かった。どうしよう、こんな時なのに嬉しいと思った私は思わず笑顔が零れてしまう。何だかんだ言って優しいんだからと身に沁みていると、藍ちゃんから早く着替えなよ、とお言葉が入る。男子群はリビングにいてもらい、洗面所で着替えを済ます。本当に、嬉しいなあ。私、こんなに愛されてるなんてとか思っちゃう辺り、やっぱり熱なんだなって。

「………嶺ちゃん、藍ちゃん、蘭ちゃん、ミューちゃん、ありがとう。なんか、熱も悪くないかもなんて思っちゃった……えへへ」

そう告げれば、4人は固まりながら何故か視線を逸らされた。そうだ、私は病人だから移さないようにしないとと慌ててマスクを取り出しつける。マスクを装備すれば、嶺ちゃんは私の乱れ気味の服を優しく直してくれた。

「あっごめんね、服適当に着ちゃった」

「ううん、お兄さん的にはラッキーハッピーかな!襟、立ってるから直すよ。マイガール?」

「ふふっ、私は嶺ちゃんのマイガールじゃないよ?」

服を直して貰い、蘭ちゃんが作ってくれた料理の前に座り込む。食べる時だけとマスクは一先ず下に降ろせば、料理から漂う香りが私のお腹を誘う。美味しそう、と思わず声に出すと、私の向かいに蘭ちゃんが座った。そして徐にスプーンを手に取ると、何故か、蘭ちゃんが私にご飯を差し出してきた。え、と思うよりも早く、食えよ、と声がかかり抵抗が出来ない。いつになく格好良く見えてしまった、熱が増した様な気がした。

「ちょっと、何してるの」

「んだよ……病人なんだから飯溢したりしたら面倒だろ」

「貴様の行動はそれが理由ではないだろう」

「はあ?とにかく黙っとけ。……おい、食べねえのか」

「…………えっ、あ、た…たべ、たい」

「おう」

恐る恐る口を開け勧められるままに食べると、蘭ちゃんの作るご飯はさすがと言うべきか、やっぱり美味しかった。熱のせいで味覚が少しふわふわしてるけど、この美味しさはどんな時でも美味しく感じる。素直に美味しい、と伝えれば蘭ちゃんはそうか、と満足そうに微笑む。それをぼうっと眺めていれば、横から突然頭を撫でられた。何事かと思い其方の方向を見ると藍ちゃんが無表情のまま私の頭を撫でているのが分かる。

「藍ちゃん、どうしたの?」

「名前はこうやって撫でられるのが好きなんでしょ。僕には分からないけど、名前はこうすると心拍数が上がるのが分かるから。どう?」

「ど、どうって聞かれても分かんない……けど、好き、だよ」

「………!そ、そうなんだ」

好き、と言う言葉は撫でられるのが好きと言う意味で言ったけど………言った後に自分で何だか恥ずかしくなってしまった。藍ちゃんも無表情だったのに少しだけいつもと違う表情になってて、焦る。思わずミューちゃんの後ろに隠れれば、愚民が俺の後ろに立つな、と怒られてしまった。愚民愚民って、そんな愚民とお友達なのは何処の誰!………なんて事は口が裂けても言えない。

「全く………これだから貴様は」

「じゃあミューちゃんが何とかして、この熱」

「……ほう?まさかお前から誘ってくるとはな」

「さそ……ってなんかない!ミューちゃんのばか、っ!?」

背中を向けていたはずの彼が、私と向かい合う形になる。気付いた時には蘭ちゃん達の声が向こうで聞こえて、肝心の私はミューちゃんに抱き締められている為かミューちゃんしか見えない。熱を下げてほしいって言ったのにどうして熱を上げるような事をするのか私には全然分からなくて、でもぎゅってされるのは嫌いじゃない、寧ろ好き。流される様に顔を上げると、思った以上に顔が近くて吃驚した。勢いで離れようとすると、腰に手を回され身動きが取れない。ミューちゃん、そう告げた声は緊張して掠れてしまった。

「ひっ…ぃ…!?」

「……ふん、お前も女ということか」

「やっお、女じゃなかったら何になるのばかー!誰がたすけてー!!」

「オイッさっさと離れろ!」

首筋に口付けられた時、思わず変な声が出てしまった。上がり続ける熱に周りに助けを求めると凄い勢いで蘭ちゃん達が助けてくれた。離れた後でもミューちゃんは何処か満足そうで、何もなかったかのようにソファーに座り寛ぎ始める。それを見たら、何だか自然と溜め息が零れた。騒いでしまった分疲れが溜まって、薬の効果もあって眠気がまた訪れる。

「うぅ………、ねむい……」

「………流石に疲れさせたかな。明日の事も考えて、僕らは退室するよ」

「か、帰っちゃうの………?」

「名前ちゃんが此処にいてほしいなら、嶺二お兄さんは今日こっちで寝ちゃおっかな〜!」

「はあっ!?嶺二テメー何言ってんだ!勝手に決めて言い訳ねえだろ!」

「………私、別にいいよ」

ポツリと零れた言葉に、自分自身何言ってるんだろうって思った。でも、やっぱり体調が悪い時はどうも心寂しく感じるし、いてくれると言ってるならいてほしい。案の定皆固まってるのを見て、どうしようと考える。そんな思考をかき消すのは、嶺ちゃんの声。

「じゃあ泊まるね」

「あっ、う、うん」

「マジかよ………」

「それなら僕も泊まるから」

「っはあ!?」

蘭ちゃんのツッコミが追いつかないくらいトントン拍子で話は進んでいく。こういう事に関与しなさそうなミューちゃんでさえ、仕方ないから泊まってやろうと言ったものだから蘭ちゃんも最後は折れて皆で私の部屋に泊まる事になった。部屋自体は狭くないからと、別部屋から布団などを運んできて、折角だからと私も床に敷いた布団に潜り込む。マスクは勿論つけてるから、多分移らない……はず。お風呂やら何やら全部終わらせて電気を消したあとは、何だか小学校とかで体感したお泊まり会みたいで楽しかった。




(……………っふふ、)

(どうしたの名前ちゃん?)

(笑ってんじゃねえ。さっさと寝ろ)

(ちょっと、五月蝿いんだけど)

(愚民共が…………一々喋るな)

(ごめんごめん。なんか嬉しくて……皆、ありがとう。もうだーいすき!おやすみ!)




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