「うーーーーーーん、」

「どっどうしたんですか?林檎先生」

きょとんと首を傾げながら私に問いかける名前ちゃん。私のクラスの子ではないけど、今は龍也の目を盗んで彼女に頼み事をしている最中だった。テキパキとこなす彼女には毎回本当に助かっていて、Sクラスからこっちに引き取りたいくらい。

「名前ちゃん」

「はい?」

「アタシのクラスに来ない?」

「えっ!?」

名前ちゃんにとっては相当衝撃的だったのか、抱えていた書類をバラバラと足元に落とす。あらあらと拾うのを手伝ってあげると、名前ちゃんは今だに焦った様な感じですいません、と一言呟く。

「わ、わたし……Sクラスじゃ、実力不足って事ですか…?」

「え?ああ、違う違う!名前ちゃん、すっごく可愛いからアタシのクラスに来てほしいなって思ったのよ」

「か、かわ……っそ、そんな事ないです!…でも、林檎先生のクラスになったら毎日が楽しそうだなって、そんな感じがします!」

えへへ、と笑顔を此方に向ける彼女に、クラクラと目眩の様な感覚がした。ああ、何て可愛いんだろう?実力で決められたクラスじゃなかったら、今すぐにでも龍也から奪い去るというのに。もし名前ちゃんが私のクラスに来たら……まず、彼女が苦手そうな問題を当てて困っている顔を見てみたい。でも、そこから少しずつヒントをあげて彼女が理解するまでゆっくりと教えてあげたい。……そんなことを思うのは、良いのだろうか?この学園の規則を教師で現役アイドルの自分が、一生徒にここまで好意を抱くだなんて。

「(いやいや、何を考えているの!名前ちゃんは可愛い生徒なんだから、暖かく見守ってあげなきゃ)」

「林檎先生?」

「何かしら?」

「林檎先生は、男性の格好はしないんですか?」

「え?……………え??」

突然問いかけられる内容は、予想外の言葉だった。え?ともう一度彼女に返答すると、名前ちゃんも、え?とお互いに疑問符が浮かび上がる。男性の格好だなんて、皆の中ではきっと暗黙のルールみたいなものがあったのだろう、今まで聞いてくる人はほぼいなかった。でも名前ちゃんは普通に思った事を私にぶつけてきて。はぐらかすべきか、ありのままを伝えるか。大きな天秤がそこにはあった。

「林檎先生、とっても綺麗だから………元々の格好も、凄く綺麗なんだろうなって思って。そ、想像したら気になっちゃって、聞いちゃいました…」

「………!そ、そうだったのね」

らしくない。いつもだったら笑顔で別の話題に切り替えたり出来るのに、柄にも無く素直すぎる彼女の言葉に惑わされている。今までだって、聞かれた事はゼロでは無かったけれど……適当に誤魔化せば何とかなった。自分が弱かったから、女装して新しい自分を見つけたなんて話したら、名前ちゃんはどんな反応をするんたろう?

「名前ちゃんは………」

「?」

「本当の俺、知りたい?」

「……え…………?」

彼女が聞き返した一瞬の隙に、華奢な身体を引き寄せる。案の定名前ちゃんは今の状況を全く理解出来ていなくて、ちょっとした優越を感じた。先生、と彼女から紡がれる自分の名前にまた胸の高鳴りを感じながら、壁に手を付く。

「ぁ、あの、せん、せい」

「何?名前」

「!?い、今、え……!?」

名前、と彼女を初めて呼び捨てにした側としては緊張さえした。名前ちゃんも大分動揺しているようで、いつもピンクの頬が濃く赤色になっている。ついでに彼女の頬を撫でてみるといつもより艶っぽい声を出されて、ヤバイと思ってしまった。このままじゃダメだと思うのに、止めようとする意思とは真逆で自分の身体はまるで操り人形かのように彼女に触れていく。項の辺りを撫でそのまま引き寄せれば、彼女の香りでいっぱいになる。俺と違う、花のような香りに酔いそうになった。

「名前は、俺の事どう思う?」

「う、うえ………どうって、素敵だなって、思います…っ」

「…………っはは!あーもー名前ちゃん可愛すぎよ!!」

「え………!?りっ林檎先生〜!!」

からかっている事が分かった安心からか、幾分か先程より強張りが解けていくのが分かる。……からかっていたのは本当は少しだけなんだけどね、とは言えず。静かに心の中に留めておく事にした。名前ちゃんはすっかりいつもの笑顔を取り戻して、俺にその無邪気な笑顔を見せる。何だか振り回されっぱなしだなあ、そう思った瞬間、校則とか何もかもがどうでも良くなった。今だけ、一瞬だけ。彼女に、本当の俺を見せよう。
「……名前、好きだよ」

「はい!………………はいっ!?」

案の定俺の言葉を理解してくれた名前ちゃんの顔は、林檎みたいに真っ赤だった。空気が抜けるみたいに床にへたり込む彼女は、本当に可愛すぎる。これだから奪いたくなるんだ、本当に龍也には勿体無いんだから。だから、いつの日か絶対にーーー。

「奪ってみせるわ、必ずね!」





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