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6-2


 脱衣所を出た後に土井さんにかけた声はその人ではなく、今目の前にいる…犬?から返事が返ってきた。

 そんな俺の様子には気付かないのか気にしないのか、そのまま握っていた手紙を差し出す。が、なんというかその、読めない。これは決して土井さんの字が下手だとかそういうことではなく、単純に字体が俺が知っている日本語の字体ではなかったということ。それでもどことなく知っている文字と形は似ているそれを時間をかけて読み解いていけば、土井さんはどうやら授業があるらしく、目の前のヘムヘム君(手紙に書いてあった。おそらく名前なのだろう)に案内を頼んだのだとか。
 そうして今、俺はヘムヘム君の後ろを歩いているのだった。ていうか二足歩行って!ヘムヘムって!!

「主、どうかなさいましたか?」
「や、何でもない。うん、ちょっと考え事。」
「ヘムヘム!」

 そんな事を思いながら歩いていると、鳴き声とともに歩みを止めたヘムヘム君にここはと問いかけると、手…いや前足?で上を指される。そこには花瓶をひっくり返したような形をした板に食堂の二文字。どこかいい香りがするのはそのせいか。それを確認した俺を見て、食堂内へとヘムヘム君が入っていく。あ、ちょ、待ってください。

「あら、貴方が学園長先生のおっしゃっていたお客様?」
「はい、昨晩からお世話になってます。 私はキース・ヌァザレ・ソフィアリ。彼はランサーです。暫くの間、よろしくお願いします。ええと…」

「あらごめんなさいね、私ここで皆のご飯を作っているの。おばちゃんって呼んでくれればいいわ。」
「おばちゃん?」
「ええ、そっちの方が呼ばれるのに慣れてるのよ。じゃあこれからよろしくね。さ、朝ごはんをどうぞ。」

 残ったもので悪いんだけどね、というおばちゃんからトレイを受け取る。そうして近くの椅子に座って悩む。どうしよう、美味しそうなご飯だけども!

「あら、どうしたの。…やっぱり和食はお気に召さないかしら?」
「いえあの、とてもおいしそうなのですが、その… 箸が上手く使えなくて…」

 ホテルにはナイフやフォーク等が置いてあった為に食事には困らなかったのだが、今はそれらは無く代わりにトレイに並べられているのは箸。
 使用したことの無いそれで、綺麗に一品づつ盛りつけられた朝食を食べる技術がない、それを聞くとおばちゃんとヘムヘムは少し笑って、それなら教えてあげると使い方を教えてくれた。食べれる頃には少し冷めてしまった朝食は、それでもとても美味しかった。

 朝食のあと、ヘムヘム君へと連れられたのは、昨晩大川老人と話した部屋だった。室内にはその人がおり、紫色をしたクッションに座っている。

「ヘム、ヘムヘム」
「おぉきたか、どれそちらに。」
「失礼します。」

 昨日とは変わり、隣同士に並べられたクッションに二人で腰を下ろす。座り終われば、目の前の人物が口を開く。

「昨日はよく眠れましたか。」
「はい、着替えも貸していただいてありがとうございます。」
「いやいや、こちらが無理を言って泊まっていただいたようなものですからな。 貴方の事は今朝方全生徒に伝達させていただきましたので、どうぞその時までゆっくり過ごしてくだされ。」
「ありがとうございます。」

「ところで、ソフィアリ殿」
「あ、その前に…ええと、大川さん。」
「なにかありましたか?」
「あぁ、その…あまりそう呼ばれ慣れてはいないので、よければ名前で呼んでください。」
「ふむ、ならばキース殿、ワシからも一つお願いがあるのだが」



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