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6-3


 大川さんからのお願いは俺の国の事を教えてくれというものだった。

 世界すら異なるかもしれないこの場所で、俺の知っている事を話しても良いのかどうか悩んだのだが、目の前に座る大川さんの瞳はまるで少年のように煌めいていて。誰もこの世界での自国について知る手立てなど無いだろう。そう思って一つを教えればこの地には無いものに興味が湧いたのか、他には他にはと聞いてくる大川さんに苦笑を浮かべながらも教えていると、どこからか鐘の音が聞こえてきた。

「おお、もうこんな時間か。いやすまん、長く付き合わせてしまった。」
「いいえ、する事もありませんでしたから助かりました。」
「そう言って貰えると助かる。さて、キース殿、ランサー殿。よかったら一緒に食堂へいかんか。」
「えぇ、是非。」

 部屋を出ると、知らない内に部屋から出て行っていたヘムヘム君がそこにはいて、四人で一緒に食堂へと向かう。
 近づいてきたのか、朝と同じような良い香りが鼻をくすぐった。そして次にたくさんの人の気配、ざわざわとした話し声や食器のなる音も耳に届きはじめる。

 大川さんの後を続いて食堂へと一歩踏み出せば瞬間、静まる食堂内。そして注がれる視線。それに居心地の悪さを感じていると聞き覚えのある声が聞こえた。

「キースさん!」

 声変わりのしていない高い声。その方向へと顔を向ける。が、辺りは色こそ違えど同じような服を着た人達ばかりで。どこにいるのかわからずきょろきょろと首を動かしていると、ここここ!と手を振っている、きりちゃんと思われる子の姿を捉えた。大川さんには一言断りをいれてからそちらへと向かう。

「…きりちゃ、ん?」
「酷いっすよ!昨日会ったばっかなのに、もう忘れたんですか?」
「いやいや、だってなんか全然雰囲気違うし…あぁ、そうだ。足、問題ないようで良かった。女の子なんだから、体には気をつけないといけないよ。」
「あ、あー…それなんスけど、」

 気まずそうに頬をかくきりちゃんに首を傾けていると、ランサーが衝撃の一言を発した。
「主、その心配には及びません。」
「ランサー?」
「その者は男子です。ですので傷を作ったところで如何ほども問題などありません。そうだろう?」
「……おとこ、の子?」
「あー…はい。」
「え、だって昨日女の子の格好してたよね?」
「女装した方が売り上げがかさむもんで…黙っててすみません。」
「お、おお…なんかよく解らないけど、うん、大丈夫。じゃあ本当の名前は?」
「きり丸。摂津のきり丸です!」

 よろしくお願いします、と笑ってそう言ったきりちゃん改めきり丸くんに、こちらもよろしくと返すときり丸くんから再度声が上がる。

「あ、ところで、キースさん。もうご飯食べたんすか?」
「いや、これからだけど、」
「じゃあじゃあ、俺たちと一緒に食べましょうよ!」
「ちょ、ちょっときり丸!」

 提案をしてきたきりちゃんに待ったをかけるのは、同じテーブルへと腰かけていた眼鏡をかけた男の子だった。
 複雑そうな顔をしている男の子はどうやら合い席になる事をためらっているようで、きりちゃんと話し始める。その奥では、ふくよかな男の子がご飯を次から次へと口に入れていた。美味しそうに頬張るその姿に空腹感を覚えた。
 ちらり、目線を戻すがまだ小さな声で話している二人に声をかけた。

「あー…せっかくのお誘いだけど、大川さんと一緒に取ることになっているから…ごめんね。」
「えぇー。」
「まぁほら、俺がここを出るのはきり丸君の足が治ってからだから、その内機会もあるよ。」
「じゃあ、その時は必ずっすよ!」
「うん。それじゃあ足、お大事にね。」

 それじゃあと一声かけ、大川さんのもとへと戻れば遅い!と怒られてしまった。
 それに一言謝って、共にトレイを席へと運び漸く昼食へとありつくのだった。

 あ…ヘムヘム君って、箸も使えるのね。器用。



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(2013,0918)






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