あの女は昔からやたらに正義感が強く快活な女だった。女のくせに汗と土にまみれておれたちに負けず劣らず傷だらけで鍛練バカで。女らしくないくせに人一倍心優しくて涙もろかった。伊作よりも忍者に向いていない奴だと思っていたし、実際にくのいち内での実習はひどいものだったようだ。座学も体術も優れていたがあいつはバカ正直だったのだ。

「やあ、久しぶりだね文次郎」

気付けば学園を卒業してから季節が一巡りを終えていた。久しぶりに会った女は眼下で煌々と燃え上がる村を横目に笑っていた。

「おまえがやったのか」
「ああ、これ。殿のご命令でね、我ながら見事な仕事っぷりだと思うよ」

からからと笑う女に昔の輝きは感じない。あの頃は太陽の光ばかりを一心に受けているような、眩しく健康的な笑い顔をしていたのに。女の顔はひどく淀んでいる。

「…何故こんなことを」
「何故って、これが仕事なんだから」
「だからといって、あの村は、」
「ふふ、文次郎らしくない」

学園一ギンギンに忍者してたくせに。笑う女からはあの頃のように考えを読み取ることが出来ない。

「文次郎、わたしはたった一年で忍の小隊を任されるようになったよ。小頭なんて呼ばれてさ」
「…随分、偉くなったもんだな」
「そうだろう?このわたしがたった一年で小頭だ。うちの城は出来高制でね、結果を残せば残すほど昇進出来るんだから面白くて仕方ないよ」

女の仕事は完璧だった。村の外側に隙間なく火薬を仕込み村人の退路を封じ、内側に向かって徐々に焼き尽くすよう絶妙な仕掛けを施していた。
頭もよく体術も優れていたが女はこんな惨たらしいことが出来る奴ではなかった。嘘も下手だった。いつだって腹が立つほどに清く正しい正義を引っ提げて人助けばかりしていた英雄気取りのバカタレ。おまえは、何処に行ったんだ。

「わたしは変わったのさ。立派な忍になっただろう?」
「…?」
「小頭の次は組頭かな?はは、城へ帰るのが楽しみだ」

卑しく上がる高笑いに紛れて、ふと微かに別の音が聞こえた。神経を研ぎ澄ませると聞こえてくるのは、かつて同じ学舎で過ごした仲間だけが知る矢羽音の音。

「じゃあね、文次郎。いずれまた会おう」

こちらを一度しっかりと見据えると女は部下を引き連れ消え去った。聞こえた矢羽音は、あまりにも悲しい。
あの村はおまえの生まれ故郷だろう。父も母も、お隣さんも団子屋の店主も、おまえはみんな大好きだったんだろう。

「 たすけて、もんじろう、わたしを、ころして 」



中途半端でやめます続きます。


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