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▼ 愛縁機縁は見てわからず

「すみません。アポイントを取っていないのですが、職員の方との面会は可能でしょうか?」

 はっきりとした話し方とは対照的に、やや幼い顔つきの女性がバベルの受付に訪ねてきた。ダブルフェイスの二人はすぐさま彼女の確認をする。特に怪しい物は持っていなかったようで、常盤奈津子は野分ほたるに目配せをするが、ほたるは彼女の思考があまり読み取れないことが少し気がかりだった。

「かしこまりました。確認致しますので、お名前と面会希望される職員の名前もあわせてお願い致します」

 とはいえ、どうやら反エスパー組織でも、ましてやパンドラの仲間でもないような普通人である。無下に帰すわけにはいかないので、彼女の用件を聞くことにする。

「ありがとうございます。わたしはみょうじなまえです、職員は、賢木修二か皆本光一をお願いしたいのですが……」

 バベルでも屈指のイケメン、そして片方はダブルフェイスの二人が密かに狙っている名前である。ぴしり、二人のかたまる音が聞こえる気がした。



 同時刻、賢木修二と皆本光一は食堂に居た。
 予知課や柏木一尉からの連絡もなく、チルドレンは学校。ここ最近の忙しなさもあって、珍しく自分の昼食を作っていなかった皆本を、午前の診療が終わった賢木が連れ出したのである。

「……電話? 賢木か?」
「いや、お前のも鳴ってるぞ」

 突然、同時に鳴り出したそれぞれの携帯を、二人は訝しげに見つめる。が、表示された相手を見て、皆本はひとまず胸をなでおろした。

「バベルの受付からだ」
「二人同時にってどういうことだ?」
「とりあえず僕が出よう。もしもし、皆本です」

 お疲れ様です、野分です。
 まだ腑に落ちない顔をしている賢木の耳にも、ほたるの声が届く。皆本と賢木が一緒に居ることが確認されて、賢木の携帯の着信は止まった。

「実は、お二人に面会希望されているお客様がいらっしゃるのですが」
「僕ら二人に?」
「はい。どちらかをお願いしたいと仰っていましたが、お二人共いらっしゃるならその方が良いと……」

 思い当たる節はねえな。肩に置かれた賢木の手から伝わる言葉に、皆本は頷いた。二人の共通の知り合いなど、今この国に居る人物であればたかが知れている。居るとすれば、一緒に現場で任務に立ち合った者か、あとは――

「みょうじなまえさんという方なのですが……」

 コメリカ時代の学友である。



 ちょうど空いているので会議用の部屋へ、と通された彼女は、ドアの前でひとつ深呼吸をしてからノックをする。二人に会うのは何年ぶりだろう。

「失礼しま――」

 緊張しつつも扉を開けると、そこには彼女が会いたかった二人の他にも数人が一緒に待っていた、ようだった。

「皆本さんの不潔! まさかキャロライン以外にも女が居ったやなんて!」
「男の風上にも置けないわ」
「どんな女だ?! 乳は? でかい?」

 上から野上葵、三宮紫穂、明石薫の順番で、何故か皆本一人を問い詰めているところだった。問い詰めているというよりは、薫の超能力で壁にめり込まされているように見える。
 二人を呼んだのが女である、とダブルフェイスから聞いたザ・チルドレンの三人は、彼女より先に部屋に入るなり早速口を割りそうな方を問い詰めることにした。紫穂に任せてしまえば早いものを、わざわざこんなやり方をするのは、三人がまだ子どもである証拠か、薫のやきもちか。
 ともかく、目の前に広がるとんでもない光景をぽかん、と口を開けて数秒眺めた後、彼女は慌てて今にも死にそうな皆本の名前を呼んだ。

「こ、光一くん?! 大丈夫?!」

 ばっ、とチルドレンの視線がドアの方に向く。光一くん。下の名前を親しげに呼ぶ女。薫だけは何故かその視線を真っ先に胸の辺りに向け、意識が逸れたのか皆本は壁への押し付けから開放された。
 床に落ちた皆本に向かって駆け寄る彼女を、先程から一言も発していない賢木が見つめる。高レベルのサイコメトラー同士である賢木を、紫穂はイマイチ掴めないでいた。勿論本気を出せばそれなりの情報は何でも読み取れるのだろうが、みょうじなまえという女性に向けられた視線は、どうにも勝手に読み取っていいものでは無さそうに思えた。

「久しぶりだなあ、なまえ」
「ほんとに! 光一くん、……なんか老けた?」
「お前、ほんといつでもズバズバ言うね……」

 皆本が彼女をなまえ、と下の名前で呼ぶので、チルドレンはまたしてもそちらを凝視する。何者だ、あの女。
 そんな視線を背中に受けたからか、皆本から目線を外して彼女がそっと振り返る。それを見て皆本もゆっくりとその目線を追って、そして、賢木と彼女の目線が重なったのを見て懐かしくもあたたかい気持ちになった。

「修二くん!」

 勢いよくそう呼んで賢木に飛び込んで行った彼女を、笑って見つめる皆本と、目を見開いてガン見するチルドレン。賢木はといえば、その彼女を全身で受け止めて子どもたちの目の前で堂々と久しぶりだな、とキスをした。
 えー! と大声をあげて見つめる薫と、目を手で覆いながらもちらりと隙間から覗き見する葵。そして、サイコメトラーなのにあんなに軽々と抱きつくんだなあ、と全く違うことを考える紫穂。三者三様の反応をする三人の元に皆本が歩み寄る。

「なまえはコメリカ時代、同じ講義を受けていてね。賢木の恋人なんだ」

 衝撃の事実に今度はチルドレンがぽかん、と口を開ける番だった。幸せそうに再会を喜ぶ二人を見つめながら、皆本はちいさく笑った。

・・・・・・・・・・

つづく、かもしれない。

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