SHORT | ナノ


▼ 僕らと夏とエトセトラ

「丸井せんぱーい! メシ食いましょ!」
「俺も居るんじゃけど」
「あっ仁王先輩、ちす」
「赤也お前……友達居ねーの?」
「ちっがいますよ!」

 だるい数学が終わった後の昼休み。興味無さそうに紙パックのジュースにストローを刺す仁王の隣の席、誰も座ってない椅子をガラガラと引いて赤也が座る。よく先輩のクラスにズカズカ入ってフツーに飯食えるな、コイツ。神経の図太さは三強よりも強えかも。
 俺は本日三個目の菓子パンの袋を開けて、クラスの女子にあれ切原くんじゃん、なんて掛けられた声をテキトーにあしらう赤也をデコピンした。特に理由はない。んで、何しに来たん? と聞けば、デコをさすりながら何故かニコニコと楽しそうに話し出した。エムかお前は。

「丸井先輩の彼女、今どこに居ると思います?」
「はァ?」
「彼女ってアレか、お前さんと同じクラスのなまえちゃんか」
「そーっす! ね、どこ居ると思いますゥ?」
「知らねーよ顔がムカつく」
「あだっ」

 ニヤニヤと語尾を伸ばす言い方に腹が立って今度は強めのデコピンをくらわすと、流石に痛そうな顔をした。おーよしよし、なんて仁王が赤也のデコをさするので俺はため息ついてもう一口パンを齧る。

「フツーに教室でメシだろい」
「ぶっぶー! 隣のクラスの奴に呼び出されていきましたあー!」
「……」
「ほー」

 面白そうじゃの、と頬杖ついた仁王が呟く。くつくつ笑いながらブラブラと揺らす足を机の下で蹴っ飛ばすと、とばっちりじゃ! と蹴り返された。
 そうやって机の下で激しい攻防を繰り広げている間、赤也は我関せずみたいな顔で弁当を頬張る。コイツ、俺にそれを言うためだけに来やがったな。仁王とは一時休戦して、赤也が多分楽しみにとっておいたであろう唐揚げを横からつまむと、クラス中にデカい声が響いた。

「ああー! 俺の唐揚げ!」
「えっウマ、これ冷凍じゃないやつ?」
「最後までとっといたんすよ?!」
「可哀想な赤也くんじゃ、かわりに飴玉やるぜよ」
「唐揚げのかわりにはなんないスよお……貰いますけど……」
「丸井ー! 後輩いじめんなよー!」
「今いじめられてんのは俺なの!」

 クラスの野次に返事して、一応なまえにそれとなくメッセージを送ってみる。返事は来ない。普段はそこまでせっかちじゃねえけど、二分経って返事がないから俺は赤也に向き直った。今は唐揚げなんてどうでもいいんだ、いや、美味かったけど。

「で? 呼び出されて? どーなった」
「え、知らねーっス」

 米粒つけた赤也の顔、今なら真田よりも強いビンタを出せる自信がある。

「おっまえホントに……」
「あっ、でも、中庭の方行ったハズなんで、そこの廊下からなら見えるかも?」
「それを早く言えよぃ、バカ!」
「バッ……!」
「まあまあ、イラついとるんじゃアイツ」

 半分食べ掛けのメロンパンを机に置いて、慌てて教室を出る。バカがバカに反応したらしいが気にしねえ。とりあえず廊下の窓から中庭の方を見てみたけど、昼休みだから生徒が多い。中学だけじゃなくて高等部の先輩達もよく居るし、視力には自信あるけど流石にこっから探すのは至難の業かも。
 仕方なく窓枠に肘ついてチラチラ中庭を見回してたら、いつの間にか後ろに赤也と仁王が来ていた。俺の背中に引っ付いて、アイツ背高いから見付けやすいと思うんスけどねえ、なんて呑気に話す赤也を引き剥がす。

「何、ソイツ、背高ぇの」
「俺よりちょいデカいんで……仁王先輩くらいっスかね」
「身長は負けじゃな」
「ウルセー!」
「ちなみにバスケ部なんで全国も行ってますよ!」
「お前が自慢げに喋んな! 全国なら俺らも行ってんだろーが!」
「てことは身長の分でやっぱ負けか」
「仁王テメェ……」
「プリッ」

 他人事だからって面白がりやがって。もう仁王がサボった授業のノート見せてやんねえ。
 だいたい何でそんなモテそうなスポーツマンがなまえを呼び出すんだ。アイツのクラスに行ったこともあるし、彼女だって割とみんなに言ってるし。てか、自慢じゃねえけど俺もそこそこモテるスポーツマンだし。顔も名前も知らねえけど、テメーの入る隙なんてこれっぽっちもねーんだっつうの!
 なあんて、口に出してもしょうがないから心の中で悪態つく。俺は呼び出されても行かねえようにしてんのになまえの奴……、とかも思うけど今は我慢。一つ先輩の余裕を見せてやんねえと――

「あ! アレっぽい、奥のベンチんとこ!」

 と、思ってたけど、赤也の声でベンチの方に目を向けて、なまえが男の隣に座ってんのを見たら、自分でもびっくりするくらい腹から声が出た。

「なまえー!」
「ウルサッ」
「ここ二階なんじゃけど」

 後ろからの小言をガン無視してなまえを呼ぶと、肩をびくつかせたなまえがキョロキョロ辺りを見回して、やがて上を向いてベンチから立ち上がった。

「せんぱーい! どーしたんですかー!」

 校舎の近くまで来てビックリしたような顔でそう返してくるので、俺は内心不貞腐れる。ブン太くんっていつもは呼ぶくせに。

「なまえのこと探してた!」
「わたし? なんでですかー」
「お前が告られてるってコイツが」
「ちょ、告られてるとまでは言ってないっスよ!」
「げっ切原!」

 ここからでも分かる、あからさまに嫌そうな顔をしたなまえ。わりーわりー、なんて謝る気のない赤也と会話してるとこを見ながら、同級生とはそんな顔もすんのか、と考える。俺の前ではいつもニコニコしてっから、なんか、意外と知らないなまえのことを一気に突き付けられたような気分になって複雑だ。
 そんな風に窓から話していたら、ベンチから例の男が近寄ってくるのが見えた。別になまえを信用してないとか、俺が振られるんじゃないかとか、そんなことはないけれど。ただ何となく、感じたことのないムカつきがあって、ソイツがなまえに話し掛ける前に俺は窓からもう少し身を乗り出した。

「なまえ!」
「えっ、はい!」
「今日一緒に帰るからな!」
「えっ」
「あと、明日の昼メシ一緒に食おうぜい」
「え、あ……うん! わかった!」
「おーおー、嬉しそうな顔しとるのう」

 ズズ、とジュースを飲み終わった仁王が教室に戻っていく。うん、俺もそう思う。そんな仁王を見て何か思い出したのか、赤也も身を乗り出してなまえに話し掛けた。

「ヤベ! 俺ら次体育じゃね?」
「うわ、着替える時間なくなっちゃう! ブン太くん、またあとでね!」
「おー、あとでなー」

 パタパタ駆けていくなまえをぽかんと見送る男。チラッとこっちを見たので、渾身のドヤ顔で見下ろして廊下の窓を閉めた。
 はー、なんか満足した。残りのメロンパンさっさと食っちまおう。
 そう思って急いで弁当箱を片付ける赤也に声を掛けようと思ったら、またニヤニヤした顔で俺を見ていた。

「丸井せんぱあい、俺たち、次の体育はプールなんスよね」
「……ア?」
「じゃ、お疲れっスー! また部活で!」

 勢いよくドアを閉めた赤也の足音に続いて、どこからか真田の、廊下を走るな! という怒号が聞こえる。
 すっかり机の上を五限の準備に切り替えた仁王にメロンパンを手渡され、無言のまま受け取って椅子に座った。
 プール。そういえばそんな時期だもんな。

「なあ仁王」
「何じゃ」
「俺、留年しよっかなあ……」
「ピヨ」

 今年の目標は、プールでデートにしよう。

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