はなかご*続1



楼主さまの部屋で過ごす。
普通だったら姉さまに面倒を見てもらって、姉さまのお手伝いをして、姉さま達と過ごすはずなのに。

「お前はもう俺の女だ」
そう言われてからあまり触れてこなくなった。忙しそうで見世にいないことも多くなり、遊女ではなくなった***は仕事がなくなり、前のように見世の先の掃除をして朝餉を作って身の回りのことをする。そんな事しかすることがなくなっていた。
上手くいっていた姉達とは関わる機会がなくなり、ほとんどの時間を楼主の部屋で過ごす。憂鬱だった。
だから何となく本を読もうと思って、沢山ある本から一冊抜く。
楼主さまの春本。何となく、ぱらりとめくり一頁目から目を通す。春本という割には丁寧に男女の出会いが描かれていて気がついたら読み耽ってしまっていた。一冊読み終わって、また違うものを手に取る。だが、二冊目は淫蕩に耽る男の話ですぐに閉じた。
えっっっち…!!
一冊目とは趣の違う二冊目の内容に慌てて本棚に押し込む。
何をやってるんだ自分は。
ちょっとだけ。ほんのちょっとだけ、楼主さまの言葉の意味を知りたいと思った。楼主さまの好む本を読んだら気持ちが理解できるかな、なんて思った。
なのに二冊目に爆弾を落とされた気分だった。
ふぅ、と溜め息をついて立ち上がる。少し散歩でもしてこよう。ずっと部屋にいてばかりだと気も滅入る。
身支度をして見世の門を潜る。
ひとりで見世の外に出たことのなかった***は少し戸惑うも、見世の周りだけ。そう思って足を進めた。
姉とお客さんの待つ引手茶屋に向かう時に外に出た事しかなくて、その時には緊張で見えなかったものが今は見えてくる。
花街の外と同じように空が青くて空気が澄んでいる。ただそこにいる人が、どういう思惑でここにいるのか。それが違うだけ。
見世のまわりをくるりと周るとまた門をくぐって玄関から見世の中に戻った。

「なにしてた」

見世の玄関で仁王立ちする楼主の姿にびくりとしてしまう。

「俺がいない間に勝手に見世の外に出て何してた」

履物を足にひっかけ近づいてくる楼主に思わず一歩下がってしまう。

「逃げる算段でもつけてた?俺がいない間に」
「…!…ちがっ」
「どこの誰に手引きしてもらうつもり?」
「違います!」
「うん、分かってる。違うしか言えねェよな。そうですなんて言ったら折檻しないといけねェから。お前は遊女じゃなくなっても、俺が金で買った事実は変わらない。足抜けしようとしたらそれ相応の罰があるのは当然だろう」

折檻。その言葉に恐怖から立っていられなくて足から力が抜ける。ぺたりと玄関に座り込んでしまった。
一度足抜けをしようとした他所の見世の遊女を折檻する場面を楼主に見ることを強要されたことがある。裸で縛り上げられて男達に道具を使って酷く責め立てられるのだ。
女が止めてと泣いて叫んでも、そこの見世の楼主がいいと言うまでは何時間も責め苦が続き意識を飛ばすと冷水をかけられて叩き起される。しまいには丸裸のまま、見世先の木に磔にされて見世物にされていた。食事は抜き。水さえも与えられない。最悪死ぬこともあるような酷いもの。
目を背けようとしても楼主は逸らすことを許してはくれなかった。

「***は分かってるから大丈夫だよな。俺から逃げられないこと、身をもって知ってるからな」

目線を合わせるようにしゃがんで頭を撫でられる。
その行為が甘い恋人の手ならどれほど嬉しいだろうか。だが楼主の手が触れたところから心が凍りつくような感覚があった。
逃げられない。楼主さまの気持ちも分からない。苦しい。

「おいで。お前に見せたいものがある」

頭を撫でる手が肩に降りると放り出された手を取る。
震える体に力を入れて楼主の手に誘われるように立ち上がってついて歩いた。
楼主の自室に戻ると目に入ったのは白い物。皺にならないように衣桁に掛けられたそれが着物だと分かったのは少し間を置いてからだった。白い布地に薄らと色のついた花々が咲き、その花々は籠に入って布地を彩っていた。
傍らにこの見世の馴染みの呉服屋の店主がいて、見覚えのある針子の女性と座っていた。

「吉祥文、花かご文にしたんだけど、どう」

どうとは何がどうなのか。分からなくて楼主の顔を見て、衣桁にかかる着物を見てを繰り返して戸惑った。

「着てみようか。着てみないことには分かんないもんな」

楼主の手が帯に伸びてきて簡単に外される。呉服屋の店主がそっと顔を逸らし、針子の女性が衝立を持ってきてくれると、わけが分からないまま、されるがままに着物を脱がされた。
襦袢姿に掛下を羽織ると肩にかけられる白い打掛に袖を通す。着付けを針子が慣れた手つきでしていった。
着付けが終わると呉服屋の店主が姿見の鏡を持ってきた。鏡に映り込む自分の白い姿。
まるで花嫁だと思った。拐われて物のように売り買いされた私には無縁のもの。
打掛に掛けられた赤い組紐を外して脱ぐ。針子が受け取ると衣桁に掛け直していく。

「気に入らない?」

楼主の言葉の意味が分からなくて首を傾げた。

「お前の白無垢なんだけど。違うのがいい?仕立て直させようか」
「……え、わたしの?」

なんで。
そう思うと脱ぐ手が止まる。

「言ったろ。お前は俺の女だ」

***は一体いつになったら客を取るんだ?
何度も姉の座敷に上がったことのある***を見初めた男達からそんな声が聞こえてきていた。

「外はどうか知らねェけど、はっきり線引きしねーとな」

ぎゅうっと白い着物の襟を掴んだ。
どうしよう。本当に取り返しがつかなくなる。
楼主さまのお嫁になったら、一生ここから出られなくなる。
なにより足抜けと同じくらい姦通罪には重い罰が下る。好いた男がいるわけではないが、花街では何が起こるか分からない。

「なあ、***」

びくっと体が跳ねる。楼主の腕が白無垢の上から腰に回って引き寄せられる。

「俺のお嫁さんになって」


* * *


その数日後だった。白無垢に袖を通して楼主さまのお嫁になったのは。
遊女の仕事をして、お金を返してしまって花街を出ていきたい。まだそう願っていた。楼主さまの所有物として生きたくない。

花街の中にある宿屋で祝言を挙げた。楼主の知人、見世と取り引きのあるお得意さまという少ない人数で酒宴を開いた。その間、食べ物は何も喉を通らなかった。気遣ってくれた方が少し飲み物をと渡してくれたが、それがどうやらお酒だったようで、三三九度のお酒でただでさえ酔っていたのに気持ち悪さを加速させた。
***の様子のおかしさに、酒宴はお開きになると着物の帯を緩め窓を楼主が開けて水を飲ませてくれる。

「気持ち悪いなら悪いって言え」
「…ごめんなさい。でも、みなさん楽しそうだったから」

知人や取り引き先のお得意さまと酒を飲み交わして笑う楼主の様子に驚いた。この人はこんな風に快活に笑う人だったのかと。
何も知らない。私は本当に楼主さまのことを知らない。
だって名前すら知らないんだから。

「少し落ち着いたら湯でも浸かってこい」
「……はい、そうします」

夜も更けて宿屋の室内を照らすのは枕元の技巧を凝らした洒落た行燈の火だけ。ゆらゆらと揺れては大きくなって、小さくなって。まるで***の今の気持ちのよう。先に湯をいただいて一人寝間着姿のまま敷かれたひとつの褥の前に座ると、ずっと燻っていた不安が大きくなる。
逃げたい。逃げてしまいたい。
だいたいなんでこんな事になっているのか。
拐われて、売られて、遊女になったのに。なんで楼主さまのお嫁になっているんだろう。
ぎゅうと手にした懐剣を強く握る。白無垢の小物の中に懐剣を見つけてからずっと迷っていた。喉を突こうか。でも死ぬのは怖い。だったら懐剣で楼主さまを脅して逃げようか。
なんで私なのか。楼主さまの見世には綺麗な姉さま達がたくさんいるのに。なんで。
ぎしっと床が鳴って部屋の入口が開く音がする。足音が近づいてくるのに慌てて懐に懐剣を押し込む。今から脱がされることを失念して。
部屋を遮る襖が開くと同じように寝間着姿の楼主の足元が見えた。これからしようとしていることを考えると顔が見られない。
目の前に来て同じように楼主が座る。と手が震えた。
今までの行為と違う。躾でもなんでもない。夫婦の当たり前の行為。
手が伸びてくるとびくりと身を縮こまらせてしまう。なのに楼主の手は下ろした髪を梳くうとふわりと毛先を口元に持っていく。そっと触れてくるくちびるに、髪に感覚なんてないはずなのに、くすぐったく感じて目をつぶる。
今ならまだ間に合う。胸元に隠した懐剣に手を伸ばして寝間着の上から掴む。と、髪を梳くう手とは反対の手が腕を掴んできた。

「抜くなよ」

バレてる。なんで?
そう思うと体が強ばって息が詰まる。

「気がついてないと思った?お前がずっとそれ気にしてたの。慣れねェもんは怪我するから、渡して」

腕を掴んでくる手が離されると手に自分で乗せろとばかりに、楼主の手が差し出される。

「…、あ、っい、いや!わたし、やだ、花街から出たい」
「いいよ出ても。もうお前は俺の嫁だから。遊女じゃねェから。出ようと思えば出られる」

思いもよらなかった言葉に顔をあげれば髪を梳く手が頬を撫でてくる。

「でもちゃんと帰ってくること。あと、俺以外の男と姦通したら許さねェから。分かってるだろ。折檻」

ぶわりと若衆達に嬲られ、ひいひぃと泣く折檻をされるひとりの女の姿を思い出して震えた。

「嫌だろ」
「……ぅ、」
「懐剣。出して」

寝間着の上からぎゅうと掴んだまま、指が固まって動かない。

「大丈夫。今日からは躾じゃないから」

手が背中に周り、後ろの褥にころりと体を倒された。

「わたし、ほんとうに、…街から出られますか」
「あんまり遠くに行かないこと。それと日暮れまでには帰ること。1人では出かけないこと。あとな、昔のお前を知る人のいる場所には帰らないこと。それが守れるなら出ていい」

昔の自分を知る人のいる場所には行くことが出来ない。それに引っかかった。

「どうして?私のこと、心配させているかもしれません。ちゃんと謝りたい」
「お前にひとり若衆をつけるから、どこに出かけたか分かるから」

聞く気は全く無い楼主の様子に***は眉を寄せた。

「折檻くらいたい?どれだけ苦痛か見てたお前なら分かるだろう。男の俺には知りようがねェが、色事が好きな遊女も泣き叫ぶらしいよ。試しに張形今度入れてみるか?」

つう、とお腹を指が這う。
無機物が狭い体の中に入ってくる。そう考えるだけで怖かった。

「…いやですっ、」
「嫌ならどうしたらいいか分かるよな」
「、っ…ごめんなさい、昔の私を知る人がいるところには、行きません…っ」
「いい子。約束と節度を守れれば、花街の外に出かけていいから。だからそろそろその手の中のもの、出そうか」

お前が自ら懐剣を手放して嫁になることを選択して受け入れろ。そう言いたげな目に余計に苦しくなる。
いつものように無理やりされた方がどれほどいいか。まだお嫁になるのは受け入れ難い。

「……分かった。手放したくなったら言って」

覆いかぶさっていた体が退くと、行燈の火を消して隣で褥に横になった。
掛け布団を引っ張って体に掛けられると楼主の手が布団の上から軽くぽんぽんと触れる。

「おやすみ」

寝息が横から聞こえてくると天井を向いたまま詰まった息を吐き出す。
なんで、どうして?
楼主の行動が信じられなくて、そんな疑問が頭の中をぐるぐると回る。
受け入れなくても無理やりされるものだと思っていた。口に出さずとも、夫婦の初夜を拒んだ私が思うのはお門違いだと思うも初夜がこれでいいのか。

「ろ、楼主さま…?」

首だけ楼主の方を向いて眠っているのか確認をすると、薄らとした月明かりに浮かぶ瞼を閉じた顔がこちらを向いていた。

「…なに?」

目を開くことも無く音だけが暗闇を揺らす。さらりと銀髪が重力に従って流れた。

「あの、しないんですか?」
「していいの?懐剣、渡してくれるか」

そっと開いた瞼の奥の瞳が真っ直ぐに見つめてくる。

「それは、」
「そう。これなら頷くかと思ったんだけどな」
「え…?」

言葉の意味が分からなくて戸惑った。

「俺の春本、勝手に読んだろ」

ぶわっ!顔に熱が集まってきて楼主の目を見ていられなくなって顔を背ける。
え、それもばれてたの?本を読んだことすらも。
どんな女だと思われたのだろうか。春本を一冊読み切って、淫蕩に耽る男の話もちょこっと目を通してしまった。

「えっちなシーン読みながら、自分で慰めた?」

慌てて楼主の顔を見て首を横に振った。
一冊目は感情に訴えてきて、その中に男女の惹かれ合いや駆け引きがあって、最終的には体と心で繋がった。すごくよく出来たお話だと思った。えっちな内容も含めて。すごく充足感に包まれた男女の感情が伝わってきたのだ。

「あの、読んだの、すごく好きでした」
「わかってる。あれだろ、本棚にちゃんと入ってなかったから。ああいうのがやっぱり好きなんだな。ああいった、なに、気持ち?が同じ方向向いてないと進んで足開きたくねェの?」
「……っ、」
「俺はお前のこと誰にも渡すつもりがないんだけど、お前は違うもんな。俺が他の女抱いても何とも思わねェんだろ」

楼主の言葉に気持ちはざわついた。
私以外の女の人の看病をして口付けをして、他の女性と体の奥で繋がる。もやっとして、なんでか少しだけ悲しくなった。
これは嫌なのか。でもそれを言葉にすることは躊躇われて黙りこんだ。
だって所詮私は物だから。お金で買われた楼主さまの所有物だから。

「気に食わねェんだよ」

もぞりと布団の中で動いた楼主の手が寝間着の衿から入ってくると懐剣を掴んだ。


* * *


白無垢に袖を通して赤い紅を引いた***は綺麗だった。
もう誰の目にも触れさせない。俺だけの女。
なのに***の顔は晴れることはなく、いつもと変わらない。どころか、三三九度を終えたあとから顔色が悪くなっていった。ぎゅうと胸元の懐剣を掴んでは黙ったまま酒宴の料理も口に運ばない。小間物屋の店主がそんな***を気にかけ陽気に話しかけ、酒を勧めて更にそれは悪化した。
なのに俺には頼ろうとしない。もう夫婦なのに。楼主と遊女の関係では無い。関係性の名前だけを変えても***の気持ちがすぐに変わることはないだろう事は分かっていたが、もどかしく感じた。
酒宴を早めに切り上げて、苦しそうにする***を抱き上げ今夜宿泊する手筈になっている部屋へと引っ込む。
***を先に入浴させると部屋に戻ってくるのと入れ替わりに入浴した。
どうしたら***は俺を真っ直ぐに見てくれる。花街から出て自由になりたいとは思わなくなってくれるのか。
湯に浸かっていると、ふと本棚から少し飛び出ていた2冊の春本を思い出す。ひとつは淫蕩に耽る男の話。もうひとつは理解に苦しむ男女の恋の駆け引きの話。
***が読むとしたら後者だろう。
そういうのを好むのだとしたら演じてみようか。そんな考えが浮かんだ。

だから花街から出かけることを許可して、夫婦の初夜に応じようとしない態度にも一度引いてみせた。

「渡せ」

なのに***は折れない。やっぱり駆け引きなんて面倒な事はせずにいつも通りに事を運べばよかった。

「渡さねェと出かけるの禁止にするよ」

向こうを向いていた顔が慌てたようにこちらを向く。

「俺の嫁になるの受け入れられない?まだ遊女の仕事して借金返して花街出ていきたい?」

言葉にして***の気持ちを表現したら、月明かりにぽろりと涙が光る。
そんなに俺が嫌か。
聞こうとして言葉を呑み込んだ。分かりきっていることだ。

「……めんどくせェ。もういいわ。やめだ」

体にかかる布団をどけると***の手から懐剣を奪い取って部屋の隅へと投げた。床に落ちてガシャンという音を立てる懐剣に身を縮こまらせる***の体に跨ると帯を解いていく。

「いつも通りでいい?それともちょっと趣向を変えてみる?」

慌てたよう震える***の手が帯を解く手を邪魔してくる。それを片手で両腕を掴んで抑え込むとしゅるりと帯を解く。

「楼主さまっ、!…や、いやです」
「なんで。結婚したら初夜は当たり前だろ」

腕を掴んだまま上半身を倒すとちゅっと触れるだけの口づけをした。
躾の間にはした事のないもの。

「外の女って初夜まで婚前交渉はしないんだっけ。初めての時の気持ち、思い出してみるか」

楼主は体を起こすと自分の帯も外し前をくつろげて少し勃ち上がった熱を扱きはじめる。
じわりじわりと角度をつけて大きくなると、どろりと先走りが溢れて手の滑りが加速する。
それを***が食い入るように見つめていた。

「なに、そんな見つめて。いやいや言いながらほんとは欲しいの?」

慌てたように顔を逸らした***の両手を離すと下着を引き抜いて足を掴んで大きく開いて胸へと押し上げる。

「ひっ、!なに、…あっ!」

ぐりっと硬くなった熱を***の秘所に押し付ける。

「濡れてないここに押し込んだら、処女の痛み思い出せるかもな。やってみようか」

秘裂に狙いを定めるとぐっと体重をかける。ぐぷりと先っぽが少しだけ***の体に埋まった。

「あ、ぁ…や、やめて、痛いのいやっ!」
「優しくしてやろうとした俺を拒んだの誰だ」
「ごめ、なさい…!でも、痛いのは…っああ!」

さらに腰を進める。食んでくる***のうち側が熱くて気遣ってゆっくり進める事が億劫に感じるも、怪我をさせるわけにはいかない。
少し抜いては押し込んで。引き攣れる感覚が少しあったが、それを繰り返して奥にまで辿り着く。
肩で息をしてぽろぽろと涙を溢す***の髪を撫でた。

「痛ェ?」
「……っ、少しだけ。突っかかる感じがして、」
「そう、俺はこのまま動くつもりだけど、痛いの嫌なら自分で濡らせ」
「…え、」
「ここ、自分でいじってなか濡らせって言ってんの」

布団の敷布を握って耐えていた手を取ると女芯へと導く。指を捕まえて***の指の腹で、くにっとそこを押し潰した。

「あ、っ…!や、!やっ、はなしてっ」

押し付けたまま上下に動かしてすりすりと擦っていく。なかが悦ぶようにうねってとろりと濡れてきた。

「自分で出来るか?やらないと苦しいのはお前だからな」

手を離せば***の指がおずおずと女芯に触れる。足を広げて男を受け入れ、自分の指で慰める姿はとても扇情的だった。
しっかりと濡れるのを待とうと思ったが、さっきの刺激で少しは滑りがいい。

「い…っ、!楼主さま、っ、あっ…く!まってぇ…ああっ」

ずるずると欲をゆっくりと引き抜いていく。襞がいつもより絡みついてくる。ぐぽっと張り出した先端が抜けると同時にとろりと蜜が溢れて欲を伝う。

「ほら、次は一気に突き入れるからちゃんと準備しろ」
「いっ、き?」
「そう、一気に奥まで入れる。しっかり濡らして。俺あんま、待つ気ないから。そこだけじゃなくて反対の手で指をなかに入れてみたら」

泣きそうになりながらも太腿を抱えるように手を持ってくると片手は女芯を擦り、もう片手が怖々とにゅるんと秘裂の中に吸い込まれた。
くちゅん、ちゅん、ぱちゃっと水音がして***が自分で指を出し入れして、くるりと赤く腫れた女芯を指で押し潰しながら撫でる。段々と気持ちいいのが体を満たしてきたのか、目を閉じて声をはしたなく上げてふるふると体を震わせはじめる。

「イきそう?」
「あっ、んっっ、きもち、はぁ…ぁ、イきそ、です…、、んっ」

最初の怖がっていた姿はどこにいったのか。耽るように、ちゃぷぷちゅ、ぷっちゅと音を立てて指が出入りしているそこに狙いを定めて、ばちゅっっん!!

「〜〜っああああ!!」

指ごと押し込むと背中を反らせてびくんっと褥の上で体が跳ねる。

「あっ、あ、…、かはっ、あ…ぁ、う、ふぇ…ろうしゅさま、ひど、ぃ」
「誰が酷いって?、突っ込まれて絶頂してる奴が言う言葉じゃねェな」

手淫でどろどろにぬかるんだ秘裂の奥が、ひくんひくんと震えて締め付けてくる。

「嬉しそうに食んで」

腰を前後に軽く揺らしてぱちゅり、とちゅんとゆっくりと突き上げる。

「あぁ、あ、まっ、…てぇ、やすませてっ」
「休むな。ほらここ、こうやって刺激して、中に入れてた指は乳首いじっていいから」

ずるりと入っていた指を腕を掴んで引き抜くと、蜜を纏ったままの指を胸の頂きに擦り付ける。

「だめぇ、いまさわったら、っ!あっ、またいっちゃうぅ!」
「いいよ、いくらでもいって。でも乳首と陰核ちゃんと触れよ」

ぱちゅ、ぱちゅっん、互いの粘膜が擦れあって泡立った空気が弾けて卑猥な音を立てる。

「ひぃっ…!あっ、あっ、だめぇ、ああっん」

きゅぅんと奥が締まって甘イキしたのが分かる。
ずるりと抜ける手前まで引き抜いては奥まではめる。

「っ、ろしゅさま、ぁあ…あ、あっ」

泣きながら呼ばれると堪らなくなって、腰を振る速度が早くなる。
ぎゅっと目をつぶって、だらしなく開いた口から唾液を垂らしながら喘いでふうふうと息をする***の指が動いていないことを咎めるように、指を掴むと敏感な場所を軽く爪を立てさせて引っ掻いた。

「〜〜っあ゛ああっ!!、っ!はっ…ああっ、あ、だめぇっ、だ、めっ!ひぃ」

そしてあいたままのもうひとつの乳首を舌でざりっと数度舐ってじゅうっと吸う。

「ーーーっひああ!」

びくりと体が震えて***の両手が逃げると、髪をくしゃりと少し痛いくらい掴んでくる。
赤く腫れた頂から口を離すと、唾液でつやりとしたそこをまた舐める。ぷっくりとしていて舌で押して舐ると、くにくにと逃げては食べてとばかりに赤く熟れた果実のような部分を捕まえるように肌に噛み付いて再び先端を吸った。

「ん゛んっ、あぁん!、ああああ!」

ひんくひんくと絶え間なく繋がった奥がつよく締め付けてくる。それを長引かせるように膨れた女芯に指をつるりと滑らせた。
片手で腰を引き寄せて繋がりを深くすると前戯なしであまり馴らさず繋がったとは思えないくらいに濡れ、ほぐれていて奥の奥まで入っていく。

「く、…はぁ、***…っ」

顔を顰めて欲を吐き出す。びしゃりと***の中を満たして汚していく感覚に背筋に痺れが走る。

「あっ、ああああっ!」

体が逃げようと布団に震える手で敷布に指を引っ掛けてずり上がっていこうとするのを、指を絡めて押しとどめる。ぎゅうと掴まれて爪が軽く刺さった。

「やああっ、!、ふえ、ああっんん」

喘ぐくちびるを合わせると貪るように噛み付く。
欲を全て出し切ると、未だ萎えずに硬さを保つ剛直で緩く突く。

「んんっ、ふ…、あ、んんっん」

絡んだままの指が抗議をするようにぎりっと更に爪を立ててくる。それを無視して手を離すと、膝裏に手を入れて足を布団に押し付け上から押さえつけるようにして抽挿を速めていく。
ぐぶっじゅぼっと出したものを掻き出しながら熱い泥濘の中を行き来するのはたまらなかった。襞が蠢いて扱いては、ちゅぽりと先っぽをはんでくる子宮の入口。
何度も絶頂して強ばると泣き喚くように喘ぐ。
気持ちよくて腰が止まらなかった。
もう何も気にする必要は無い。好きなだけ***を抱いて汚して、この花の甘い蜜を好きなだけ啜ることが出来る。俺だけの花。

「***、…はぁ、***…っ」
「あああっ、あっ、…はっ、…も、やっあん!」
「嫌じゃなくて、なんて言うって俺教えたっけ」

快楽で滲んで涙を溢す***の目が揺れた。

「あ、っ、ごめんなさ…っ、」

もう男に媚びる必要はないのにいつもの躾を思い出したのか酷くされることを恐れた***が強請る為に口を開いた。

「っ…あ、もっと、もっとしてっ…くださっ!あぁんっ!もっと、ああ、〜〜ッそこっ、すきっ、…!すきぃ…!ああっ」

好き。その言葉がどうしてか心の内を満たしていく。

「ろぅしゅさまぁ、あっ、あんんっ、!」
「お前が好きなのはここだからな。角度つけて抉られんのたまんねェんだろ」

***の感じる部分を狙って熱を押付け擦り上げると、びくびくと腰が反って達する。

「あ゛あぁあ〜!…っひああん」

腰が反ったせいで***が自分で繋がった部分を押し付けてくる形になると、深くなる繋がりに感じ入ったように顎をそらせる。

「っあ゛、ああ…ぁ、だぇ、あ、…っふかぃ」
「深く奥で繋がるのも、好きだろ」
「すき、あ、ろうしゅさまっ、すきぃ」

瞼がとろりと溶けたように下がると飲み下せなかった唾液を零す口を必死に開いて甘えたように言う姿にぞくりと肌が泡立つと欲を放っていた。
叩きつける勢いにぎゅうと目を閉じてぼろりと涙を零す***の眦を指で拭うと口唇を重ねる。
怒りとは違う。言葉では形容し難い感情が胸の内を占めていることを感じていた。


泣き腫らした目を閉じてすやりと布団にくるまって眠る***を横に、同じ布団に入った楼主はその顔を眺めていた。
好き。遊女が客を引き止めるために言う言葉だと思っていた。何度も聞いてきたし、当たり前に飛び交う言葉。珍しくもなんともなくて、そこに意味なんてなくて重みも感じない。筈だったのに。
言わせた言葉で、それもたまたま呼ぶ言葉と好きが繋がっただけなのに異様に充足感が心を満たす。

「すき、か」

いつも当たり前にある何の重みもない言葉で、紙の中の言葉になると理解し難い言葉。
***に向ける感情はただの物珍しさから来る執着のようなもので、そういう男女の醜く理解し難いものとは違うものだと思ってきた。
なのに、「すき」そう言われた時の満たされる感覚。

「***、すき」

言葉にしたら何か分かるだろうか。そう思って眠る***に向かって言ってみた。
だが、***に言われた時のような満たされる感覚はない。寧ろ返事が分かっている分だけ虚しさが募る。返ってくるのはきっとすきではなくて、きらいの方だから。
***が俺の事をどう思っていようが構わないと思っていた。ここ花街では女は売り買いされる商品で、正真正銘***も女衒から楼主が金で買ったものだ。所有者は誰がなんと言おうと俺で、好きにできるのも俺だけ。なのに、どうしても***の心だけは掴めない。俺のものにはならない。
譲歩をして花街から出ることも許可をしたが、***の本来いるべき場所に帰してやるだけの心の広さも持てない。きっとその場所に帰ったら***ではない、本当の名前で呼ばれ自由に満たされて俺の元には帰っては来ないだろうから。
これではまるで何度も見てきた花街の女に本気で恋をして、手に入らない高嶺の花に肩を落とす男そのものではないか。
それも妖艶に笑んでその下に感情を隠すだけの手練手管もない女になんて。馬鹿げた話だと自分でも思う。
でも心は正直で、立場を変えてもついてこない***の心に苛立ち、「すき」の言葉で満たされる。
離し難くて、触れていたくて、他の目に触れさせたくない。すごく面倒で複雑な想い。でも言葉で簡単に表すと「好き」なんだろうと腑に落ちた。
なんて独りよがりで不毛な感情だろうか。***にはそういう感情は今日の様子からしてきっとない。褥の中でまで懐剣を握り締め自らお嫁になる事を、懐剣を渡す事を最後まで拒んだのだ。
だから口にしないでおこう。返ってくる言葉は分かりきっているから。分かりきっていて口にするのは惨めだ。
その代わり婚姻で***を縛ろう。
男が女に三行半を突きつけるのは簡単だが、女からの離縁は難しい。なにより姦通したら女は殆どの場合が死罪だ。
懐剣で喉を突いても良かったはずなのに、そうしなかった***にとって死は忌むべきもののはず。
死ぬ事を厭うのであれば、まだいくらでも縛り付ける手はあるから。

自覚をすると眠る***の顔をじっと見つめてしまう。こんなに凛々しい眉毛をして、目蓋の落ちたまつ毛は長かったろうか。鼻も程よく高く、閉じられた口許はふわりと上下を合わせられている。血色の良い赤いくちびるに指を伸ばした。指の背でなぞるとふにっとしていて柔い。
何度も口づけてきたのにその柔さを確認するとむずりとして、眠る体を少し強引に引き寄せると腕の中に閉じ込めた。
***は眠ると些細な事では目を覚まさないから、顔にかかる髪を指で梳くとそっと口唇で額に、頬に触れた。そして最後に口づける。
言葉にできない気持ちを***の体に吹き込む様に。



♭2024/03/19(火)


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